ゼンレスゾーンゼロ 零落者のゆく先   作:柿本人麻呂

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ルビの振り方覚えてご満悦


【老爺と若者、そして柊】その3

「答えてください」

 

 柳が言い放つ。

 

 ピンクの髪にタイトスカート。H.A.N.D.の刺繍が入った上着。堂に入っている。そして、麗しい。

 

 そんな彼女に詰められると、何か人生に関わる重大な過ちをしたと勘違いしそうになる。

 

 ならず者を詰め終えた二人はすでに車に入っていた。

 

 老爺は運転席、若者はラゲージルームの開け放たれた後部ドアから身を出して視線を相手に向けている。

 

「動いたら……わかっていますね?」

「攻撃しようってんなら逃げるさ。なあ?」

 

 彼の視線が柊に移る。自分の意思は固まっていた。

 

「ああ」

 

「──柊隊員?」

 

 既に脱退していると知りながら、『柊隊員』と彼女は呼んだ。脱退の旨を彼女に伝えた時のことを、柊は覚えている。

『何か大きな目標があるんですね』

 全てお見通しだった。

 

「彼女との関係は?」静かに、訊く。

「仲間だ」男が平然と、答える。

 

「そうなのですか?」

 

「……そうだ」

 

 柊は柳と視線を交える。一つの言葉も交わさない。

 

 目だけで、訴える。

 

 ──わかってくれ。柳。

 

 柳の視線が、少し緩んだ気がした。

 

 彼女は思う。

 

 柊隊員はH.A.N.D.で多大なる貢献をした。ホロウ災害から人を守るという意思は、揺るぎのないものだった。

 

 ──信じます。あなたの心。

 

『役目』を、果たしてください。

 

 若者が手を差し伸べた。バンは既に発進している。

 

「来い! 柊!」

 

 跳び上がると彼の手を掴む。車内に転がり込む。

 

「待って待ってー!」蒼角の声。

 

「待って、蒼角」

 

 そんな彼女を制す柳。

 

 未だ開いているバックドアから、銃口が覗いている。

 

「蒼角ちゃん隠れて!」

 

 悠真が抱きかかえて物陰に潜る。

 

 柊が体を起こす。

 柊は最後に、柳と目が合った気がした。

 

 お願いします。そう言っている気がした。

 

 ──わかった。柊が心で返事をする。

 

 危険が去ったと知ると、そのまま拳銃を柊に向けた。額に押し付ける。

 

 キッと、彼女が睨む。

 

「引けよ」そのトリガー。

 

「いいね。その表情」

 

 男は自分の腹元を意識した。ナイフが突き立てられている。自分が使っていたナイフだ。

 

「あーあ、少しも油断しねーのな」

義父(ちち)にいつも言われていた。『一時も、油断するな』」

 

「わかったわかった。これ、エアガンだから」扉を閉めながら『参りました』の吐息をつく。

 

 ほら、と自分の手のひらに銃口を向けると、引き金を引く。

 

 ポン! と音がした。

 

「痛ッッッたええ何これ?」

 

 痛みに耐えかねて手を振ると、皮膚にめりこんだビービー弾がぽろっ、と落下する。車内を転がって、やがて見えなくなった。

 

 少し空気が柔らかくなる。だが、若者はすぐに顔を固くして、

 

「お前は何が目的で、こいつらを狙ったんだ?」

 

 床に寝転ぶチンピラを顎で示す。

 

 答える前に、車内を見回す。

 

 乗る前に見えたバンの外見はH.A.N.D.のものに近かった。現金輸送車や配達業者の小口配送車を思わせる。

 

 中には両脇に長椅子が向かい合って設置されている。

 奥へ進むと四人が正方形に並ぶように席があった。左奥で老爺が運転をしている。

 

「彼ら自体に用があるわけじゃない。彼らの所属している組織に用がある」

 

「ローズグループ」彼が眉間を寄せた。

「そうだ」

 

「ヘプタ。どうだ」

「嘘じゃない」

 

 老爺が言い返した。

 

「お前、ローズグループにどんな用があるんだ?

 ──もしかして、メームか?」

 

 ぴくっと、柊が反応する。

 

 メーム。HIA研究トップで、TOPSにも顔がきく折り紙つきのエリートだ。歴史の偉人として遜色はない。

 

 柊が執行官をやめてローズグループを追求していくうち、彼の名前が浮上した。

 

 ローズグループの技術指導として。

 

 彼を、排除しなければならない。ここ最近の柊は、それを胸中に抱いて行動している。

 

「どういうことだ」目を逸らすことなく、相手に質問を返す。

 

 警戒を怠ることはできない。メームが既に柊を嗅ぎつけていて、彼らがその刺客なのかもしれないからだ。彼らがローズグループを攫ったのは、柊の警戒を解かせるため、という可能性がある。

 

 TOPSや執行官時代の仲間にメームの行為を訴えなかったのはそのためだ。

 

 絶対に、口封じをしてくる。そうすれば、彼を打ち倒すものはいなくなる。

 

「そいつを殺す依頼を受けたんだ。俺たちは。

 お前もそうなんだろ?」

 

 うなずきはしない。依頼を受けて動いているわけじゃない。

 すると男は銃を長椅子に投げ捨てて、前方に向かう。

 

「もっと速く運転してくれ!」

 

「法定速度を守らねば」

 

「んなこと言ってる場合か? 雅ってのは身体能力がイカれてるって話だ。少なくとも50キロで走れるね」

 

 雅が50キロなど遥かに凌駕するスピードで走れることは、黙っておいた。

 

「わしゃ認知症なんじゃ。あまり荒い運転はできまいね」

「認知症だと?」柊が聞く。

 

「ああそうだ。79歳にもなればな」若者が返す。

 

彼の年齢にも驚いたが、この際どうでもいい。

「運転を任せていいのか?」

 

「免許は返納したから大丈夫だ」

 

 返納して運転をするなど、道理に反しているにも程があるが、若者の顔は至って真面目だったので、口が出せない。

 

 殺しの依頼を受けるあたり殺し屋なのだろう。それだけあって、倫理観が壊れている。

 

「名前を教えとく。協力してくれそうだからな。

 俺は(ぼく)だ」

 

 答えは決まっている。彼らが敵か味方かは関係ない。メームに近づくチャンスだ。

 

「柊司だ」

 

「──よろしく頼む」




5000文字書ける人すごすぎる
70代だから7、ヘプタはギリシャ語で7、だからヘプタです
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