ゼンレスゾーンゼロ 零落者のゆく先   作:柿本人麻呂

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前回:明日の早朝に1人で来るよう言われた柊。そして、苗刀を受け取った柊は帰り道に安日に襲われ、突然湧いた海を割る大きな力で対応するが、何もかもわからずじまいで生き残った

※地の文では橘福福はフーフー、潘引壺はパンと呼称します


雲霄の型

 柊は事の顛末を儀玄に説明する。

 

安日(あんび)……聞いたことの無い名だ」

「そうか。やはり明日に我を呼び出した輩の差し金だと考えるのが妥当か」

「……今考えても無駄なことだ。

 ──して、その輩との戦いでお前さんが海を割ったという『力』だが、何か変わったことはなかったか」

 

 柊はじっと眉を寄せる。

 

「あの『力』を使った時、1つの感覚が我にあった。それはあのライブ会場でのそれと同じ感覚だったな」

「……そうか。もしかすると、お前さんの中にあの刀の力が未だ残存しているのかもしれん。──そろそろ、あの術法を教える時か

 

 儀玄は独り言のように小さく呟く。

 

「ん?」柊はそれに反応した。「何か新しい術が?」

「……そうだな。ちと難しいが、今から少し時間をもらうぞ」

 

 

 

 

「お師匠さま、こんな夜中に呼び出して何をするんですかっ!」

 

 この夜にそぐわない明るい声で、雲嶽山の門下生、フーフーは言った。

 今、柊と儀玄、フーフー、パンは雲嶽山の頂へ至る険しい道中だ。眼下にはぽつぽつと衛非地区の光が見え、その他にはホロウの禍々しい球の淵が見えるだけだ。

 こんな中でもフーフーは軽やかに上って行く。

 

「修行だ」

「こんな夜中に修行か〜? 飯ぐらい食わせる時間をくれたっていいだろぉに〜」

 

 短い足を皆よりいくぶんか緩慢な動きで、パンも登っていく。彼は二足歩行のパンダの姿をしており、歩くたびにその大きな体がふりふりと揺れる。同じく雲嶽山の門下生だ。

 そう言ったパンの顔には少しの疲れが浮いていた。

 

「飯はさっき食べたろうが」

「儀玄、なんの修行をするんだ」

「新しい術法を今から覚える。ちと集中力がいるから、この上でやるのがいいと思ってな」

「なんでこのタイミングなんだ? お弟子ちゃんは早朝に悪者に呼び出されてるんだろ? 早く寝かせてやるのが吉ってもんだ」

 

 パンが言った。

 

「私もそうさせるつもりだったんだが、事態が変わってな。司の中に残留しているらしいエーテリアスの力が悪さをするかも知れないから、今やることにした。その修行にお前さんたちもいい助けになってくれると思ってな」

 

 頂上にほど近い平らな地形にたどり着く。前に来たように岩肌が露出していて、歩くたび擦るような音がする。

 大きな懐中電灯を設置、すぐさま修行に入る。

 

「まずお前さんの状況を見たいな」

 

 儀玄は柊を前に連れてきて、彼女のつむじを手のひらで押さえる。

 

「ちと痛むぞ──はっ!」

 

 ぱっと墨の色をした術が柊の頭を貫通する。

 痛みはあったが、柊にとってはどうと言うこともない。

 

 が──

 

「なに」

 

 儀玄が咄嗟に声を漏らす。続いて儀玄の術が壊れた電灯のように火花を起こした。

 柊はそこで迫る大きな鈍痛に思わず「ぐっ」と声を発した。

 なんだ──これは──!

 柊は頭を押さえてもがき苦しむ。

 

「術が──閉じない──!」

 

 儀玄は強く足を踏ん張る。火花のように見えた気配はやがてぐるぐると赤黒くとぐろを巻き、儀玄の手を包もうとしていた。が、すぐに判断する。

 

「お師匠さま!」

「フーフー、パン! 私の体を精一杯叩け!」

「えっでもっ」

「構うな!」

 

 素早く判断したパンはすぐに突進して儀玄にドロップキックを入れる。

 それをくらった儀玄は吹き飛んで、同時にとぐろは消える。

 

「師匠、大丈夫か⁉︎」

 

 儀玄は腰あたりを手で払いて返事をする。

 

「──ふぅ、なんともない。それより司は」

 

 柊も今のもがき様とは、まるで違って平気だった。

 

「儀玄、何があったんだ」

 

 そんな柊が聞いた。

 

「あの刀だ。ここまでエーテリアスの力が残っていたか。このままだと少し危ういかもしれんな……よし、修行を始めるぞ。これを覚えればエーテリアスの力も消滅するだろう

 フーフー、パン、この的を組み立ててくれ」

「お安い御用で」

 

 その間、儀玄は柊に修行方法を教える。

 

「アレを出してみろ」

 

 柊は手を出して、術法の黒い粘液のようなものを出す。墨汁のような黒さををしていて、これが全ての礎となるものだ。

 

「今回はこれの精度が試される。この術はこんなふうに」

 

 儀玄も術を出し、手をひょいと動かしてみせた。

 風切り音と共に、黒い粘液は塊として射出され、岩肌を小さく砕いた。

 

「強い力として動かせる。『 雲霄(うんしょう)(かた)』というんだが、まずはこれを覚えるんだな」

 

 的が完成して柊は早速、試す。

 

「はっ!」

 

 が、墨汁は言うことを聞かず、小さくその場で震えただけで終わる。

 

「?」

「やはり地を這わせることができても、射出は難しいか。司、コツを教える。

 まずはなんとなくチカラが使えそうな手の形を作れ」

「なんとなく……か?」

 

 柊は手を開いたり閉じたりして、最後に手の平を的に向けるシンプルな形をとる。

 

「それでいいか。では、脳から脊髄、そこからその手までに通った神経を強く意識しろ。本当は神経を使ってる訳ではないが、心構えとしてはそれで十分だ」

「ふむ」

 

 柊は言われた通りにする。術を解かないように気をつけながらも、脳から脊椎を介して、手までの運動神経の繋がりを強く意識する。

 

「目をつぶっても構わないぞ、今の段階ではな」

 

 彼女は目をつぶり、視覚情報を絶った上でさらに集中する。

 暗い。分かるのはまぶたを通して目に入る懐中電灯の薄い光だけだった。

 その内に、どことなく「イケる」という感覚が湧いた。

 

 ──これか。

 

 その瞬間に、集中は高まる。

 

「……! 身体が……熱い……!」

 

 儀玄はにやっとして腕を組む。

 

「それだ! 後は手の神経への集中を離してみろ。『脱魂(だっこん)』という」

「こうか……はっ!」

 

 黒い粘液が柊の手のひらをしたたっていた。それが今度は、黄金色に光り輝き──

 

「おおっ!」

「おぉ!」

 

 フーフーとパンが眉を上げて声を漏らす。

 彼女らの前を通った烈風が、前髪をふわりと浮かせ、パンの毛並みを潰す。

 

「は──っ、こうか」

「よくやった。と言っても……」

 

 儀玄は柊の前方を向いて、ふっと笑う。

 

「的を壊せとまでは言ってないぞ」

「……すまない」

 

 雲嶽山の帰り道で、パンは聞いた。

 

「これ、俺たち必要だったのか?」

「すまんな。的を壊さなければお前さんたちにも出番はあった」

「……すまない」

「まあ、加減をしろと言わなかった私も悪いか」

 

 フーフーは軽やかに動き回り、柊の肩をぽんと叩く。

 

「それにしてもお弟子ちゃん、短時間でここまで習得するなんてすごいですよ!」

「儀玄の教授のおかげだ」

「猫のエサにもならん謙遜はよせ。この短時間で術を覚えるのは、お前さんの経験か、才能か──お前さんの資質のおかげだ」

 

 経験と聞いて、柊は義父との修行を真っ先に思い浮かべる。

 ──やはり、あの修行は力になっているか。

 

「だが、凝雲の術を覚えるのはまだまだ先だな。ここまで来れば、この門を出ることを許可してやる」

「え〜お弟子ちゃん、そんなすぐに皆伝ですか〜」

 

 フーフーが唇をトガらせて言う。

 

阿呆(あほう)、雲嶽山の道程はそう易いものではないぞ。司が術を学ぶ目的が、自己崩壊の阻止だけだということを伝えておいたろうが」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

「〇〇ビルと……〇〇ビル……これか」

 

 柊は太陽の昇らない朝3時、2つのビルの前に来ていた。

 ビルといっても少し上を向けば上端の見渡せる、陳腐なビルと言った風だ。

 壁面を見渡し、それに沿って静かに進む。朝の鼻を通る寒気が体を少し冷やす。ビルの狭間はすぐそこだった。

 柊は黒いローブをしている。胸に1つだけボタンのついた、飾り気のないものだ。

 彼女はこれを執行官時代から便利なモノとして愛用しているが、元同僚に見られれば身元が発覚するはずなので、そろそろ変えねばと思っている……。

 歩くたびにローブが揺れて、地面の近くをひらひらと舞う。柊に尻尾がついたようにローブが突起しているのは、彼女の持つ苗刀だ。

 柊はそのフードをかぶる。

 彼女はその時、出発前に儀玄が話したことを反芻する。

『路地裏で戦いになったとしてだ。お前さんがもし、()()()()を得たとしても、絶対にそれに構うでないぞ。あれはおそらくお前さんに残ったエーテリアスの力の残滓(ざんし)……濫用してしまえば、どうなるかは想像できるだろうな?』

 路地裏に入った。コンクリートの上にある細かな石が、ザリザリと音を鳴らしていく。

 

「どうも……」

「レイヴンロック家も全く堕ちたものだ……」

 

 柊は彼の下にのびている女子供を見遣って言った。

 

「お褒めに預かり光栄だ……まあ、聞け。俺の用件を聞き入れてくれれば、こいつらを殺さないで済む」

「…………その『用件』というのは、我の後ろにいるこのゲスたちのことか」

「……!」

 

 レイヴンロックはそれを聞き、拳を握る。

 

「知ってたか……まあ、そういうこったな。動いたらこいつらを殺す」

 

 レイヴンロックは拳銃をチラつかせている。

 

「──じゃあ、やれ」

 

 彼は言った。

 暴漢たちが動き出す。

 ──わかりやすい動きだ。

 柊は振り返りもせずに術法を解いて、それらの足を抑える。

 

「なんだぁっ⁉︎」

 

 刀を抜く。シャッと素早い音。

 姿勢を低く、後ろを見る。黒いローブが取り残される。

 ──そのまま横に斬った。

 足を失った男たちが、転げ落ちる音。

 

「……何をしてるっ‼︎ 動いたらこいつらを──」

()()()()の話を、いつまでするつもりだ」

「なに──? はっ、なんだ──!」

 

 同じく術法が、レイヴンロックの指先を止めている。

 柊は首だけを動かして後ろを見、それを確認する。

 

「斬らせてもらう」

 

 柊が動いた。

 そのとき、レイヴンロックが懐に入れたスイッチを取り出した。

 

「やめろッ! 俺には爆弾がある‼︎」

「……!」

 

 柊は目を小さく見開き、立ち止まった。

 レイヴンロックの行動に驚いたのではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その時、柊には赤い豪炎が見えていた。

 

「が……あ…………」

 

 彼女の体を、瞬時に冷や汗が伝う。

 

「主は……!」

 

 

 

 

   雲霄の型・了──




術法はロマン満載なのに本家からの深掘りが全くないので、儀玄やパエトーンがゼンゼロプレイ中に使ってる必殺技とかを見て想像してます↓(◯マークは名前がオリジナル)

雲霄の型:儀玄の通常攻撃の名前。儀玄の通常攻撃を見ると体術+墨汁攻撃みたいな感じなので、そこから近-中距離技のように説明した

◯脱魂:儀玄がよく本家で出してる墨汁を、射出するときの操作(雲霄の型の一部)。一般に、「集中→脱集中」の操作で説明される。その時の手の形は自由

凝雲の術:儀玄が、通常攻撃を長押しして使う、強化特殊スキルの名前。柊が最終的に覚えたい技で、エネルギーボールを前方に出現させ、攻撃。術の極限の制御が必要で、これにより柊はエーテリアスの力を克服できる……はず
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