ゼンレスゾーンゼロ 零落者のゆく先   作:柿本人麻呂

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零落者のゆく先 【殺し屋と式典】
【お祭りごとの、ちゃんちゃら騒ぎ】


「なぜ彼らを攫う?」

 

 柊は今車内の長椅子に座って、拘束されて眠っている彼らを見ている。

 

 ふとフロントガラスを覗くと、ここがどこだかわかる。コーヒー店やラーメン屋、『Random Play』と書かれたビデオ屋、カスタムショップが見える。六分街だ。

 

 新エリー都の喧騒とは違ったこぢんまりとした町は、あたたかみを感じさせる。セミとコアラぐらいの差がある。

 

「具体的には、こいつらが大事な役に着いていることと、メームの居場所を知ってるかもしれないからだな」

 

「大事な役?」

 

「メームの護衛だ。そっちの強そうな方が護衛なんだが、もう片っぽはちょうどいいから持ってきた。ローズグループの制服欲しかったし」

 

「どうやって聞き出す」

 

「自白剤でもいいし、拷問でもいい。ヘプタは嘘を見抜けるし、心配はない」

 

「おい、タマキンはだめだぞ」ヘプタが横槍を入れてきた。

 

「わかってる」

 

「金玉?」またしても彼ら特有の言動に、質問せずにいられない。

 

「前はタマキンを片方ずつ撃ち抜いて拷問してたんだ。だが、やめた。ヘプタの目下の目標は天国行きだからな。善行をするんだ」

 

「殺し屋が善行か」

 

「ああ。70代まで人を金のために殺しまくったから、その分悪人を殺して相殺するんだとよ。

 やんちゃ小僧どもを去勢するのも、また善行だと思うんだがなあ」

 

「地獄行きはごめんじゃわい」

 

 言葉を失う。頭が理性のある人間のそれじゃない。

 

「それで、メーム殺しのでかい任務を請け負ったわけだ」木が締めくくる。

 

 バンは六分街を遥かに抜けていた。薄暗い街に出る。なにかとギャングの噂が絶えない街だ。

 

 街自体は古風で趣深いのに、陰気な街と捉えてしまうのは噂のせいか。

 

 二人の殺し屋は少しも動きを止めない。

 

 縛られた二人を担ぐと、古そうな和風の建物に運び込んだ。

 

 

 

 

 その家は和室が多かったが、一つフローリングの部屋があって、そこの椅子に二人が縛り付けられている。

 

 気を失ってから時間が経っているのにも関わらず未だ目を覚さない。

 

 室内には長テーブルが一つあって、その上に注射器と消音器(サプレッサー)付きの拳銃がある。そのすぐ下には冷水の入ったバケツ。

 

「柊、そいつらの服を脱がせ」

 

 言われるがままにする。ヘプタと木を信用はできないので、十分に警戒したまま。

 

 捕縛を解くと、起こさないように服を脱がしていく。一回だけ、気絶したままぴくっと動くが、手を放してじっと見つめていると、起きたわけではないことがわかった。

 

 二人の脱衣に取り掛かったところだ。さっき柊が戦った強い方。

 

 ボタンを外してがばっと胸元を開く。

 

「……女じゃねーか。こりゃ驚いた。

 やりにきーんだよな。女は。タマキンが無いから」

 

 胸にはサラシが巻かれていて、強く胸が締め付けられている。

 

 後ろに回ってみると、髪が短く結えられていることに気づいた。ほどくと、肩ぐらいまでの長さだとわかる。

 

「こんな髪長かったんだ」木が、興味もなさげに呟く。

 

 下を脱がすと、白く女性的な太ももが見えた。腰にはくびれがある。

 

「終わったぞ」捕縛もし直したところで後ろを振り向く。

 

 衣服を渡すと、木は手慣れた手つきで服を畳んでテーブルに置いた。

 

 おもむろにバケツを掴んで、半分ずつ冷水を浴びせる。

 

 目が覚めたようで、苦しそうな呼吸音が静かな室内をうるさく響く。冷水をかけられると呼吸しにくくなるのだ。

 

「喋ってもらおうか」

 

 呼吸が落ち着いてきたところで、木が冷たく言い放つ。

 

「何をだ」

 

 落ち着き払った様子で彼、否、彼女が突っぱねた。

 

 隣の男は一瞬だけ怯えた様子を見せたが、隣に仲間がいると気づいて胸を張った。

 

「ひとまずお前の護衛IDから訊こうか。数字4ケタ、覚えてねえはずがねえ」

 

 木から聞いた話によると、護衛IDとはメームがその護衛に与えた数字なのだそうだ。護衛につく時に、この4ケタで本人を認証する。

 

 はっ! と、女が唾棄する。

 

「4ケタ? 知らないな。

 ──と言っても拷問はするんだろうが。慣れてるぜ、んなもん。お前らが拷問に時間を割いてる間に、助けがここに来るだろうね」

 

「そりゃいいね」

 

 拳銃を取り上げる。隣の男の股に向かってそれを突き立てた。

 

「こいつのタマキンを一つずつ潰していく。嫌だったら教えることだな」

 

 ここでやっと自分の窮地を理解したようで、男ら張った胸を引っ込めた。股間に向けられた銃をうっすら眺めて、わなわな震えている。

 

「私が情に流されるとでも?」

 

「それもそうか」

 

 せっかくだから、とビンタを打ち込むと、男は椅子ごと倒れ込んだ。頬が赤くリンゴみたいに腫れた。

 

「これをやるか」注射器を手に取った。「知ってるか? これ」それを、ゆらゆらと揺らす。

 

 女に聞くというよりかは、ヘプタと柊に見せびらかすのに近い。

 

「……」女は沈黙している。

 

「苦しみながら死ねるおクスリだよ」それは嘘で、ただの自白剤だ。「『ハリーポッター』にクルーシオとアバダケダブラって呪文あっただろ。あれらを合わせた感じだよ。

 ──苦しみと、確実な死だ」

 

「クルーシオは()()()()ぞ」

 

 ヘプタがそう言って手を打ち鳴らして笑った。

 

 針を刺して、注入。やがて木が問いかける。

 

「護衛IDは?」

 

「4545です」

「嘘をつくなボケがあっ!」

「うっ!」すかさず横の男の金玉を蹴りぬく。

 

「なんでぇ……俺がぁ……」

 

 リンゴのような頬が今度は青ざめた。吐きそうに口を開いてぱくぱくしている。

 

「本当です」

「シコシコがか?」

「本当です」

 

 彼女の声は、何故か柔らかい女性的なものに変わっていた。自白剤の効果なのだろうか。

 

 長身の男が、いきなりこちらを振り向いたので、柊はぎょっとした。森の中のメタセコイアがいきなり自由歩行を始めたのかと思った。

 

「本当なのか」

「そうみたいじゃの」ヘプタが答える。

 

 メタセコイアがもう一度振り返って、青くなった男を見下ろす。

 彼は訴えるような表情で木の目を見つめ返した。

 

「次だ。お前は普段どんな口調だ」

「ほとんどの場合、普通の女性の話し方をしています。口調が男らしくなるのは、人と争う時だけです」

 

「メームは普段どこにいる?」

 

 

 

 

 木がパスタを茹でている。

 

 熱湯からザルで分けとったらすぐに、

 

「完成だ」

 

 というので、柊は耳を疑った。

 

「パスタだけか」

「塩パスタだ上等だろ」

 

 三人分盛りつけたところで、二人がフォークを取る。

 

 フォークでくるくると巻き取って口へ運んでいく二人。随分と口に大量に運んではせわしなく噛み続ける姿は、柊を空腹にもだえさせた。

 

 毒を盛る暇はなかった。フォークをとる。一口食うと止まらなくなった。そういえば昨夜も今朝も、何も口にしていなかった。

 

 テレビからアナウンサーの低い声がしている。

 

 場面は切り替わり、二人の男が映る。マイクを差し出されて、何やら喋っている。

 

『研究結果は良好だ』『この技術はこのホロウ災害の世に、一石を投じるものになる』『新しい未来はそこにある』

 

「こいつがメームだな。標的」

 

 木がフォークをテレビの中の男に差し向ける。画面の向こう側を串刺しにするかのように、空気を掬い上げてみせた。

 

 テレビにはメームと懇意にしているTOPS幹事長の男が映っている。木が示しているのは彼では無い。その横のメームだ。

 

 すらっとした賢明そうな男だ。髪を7-3に立ち上げ、ネイビーのスーツを着こなしている。

 

 下に、

『ホロウ臨床学者兼HIA研究指導』

 とある。

 

「1週間後に『ジャンル不問特別総合授賞式』があるのは知っているな」

 

 木の問いにうなずく。

 

 この授賞式は4年に一度開催される、特に優秀な治安官、執行官、防衛軍隊員、研究員、芸術家、文芸家、発明家などの中で偉業を成し遂げた人間に賞を与えるものだ。また、スポーツやサブカルチャーに含まれるアニメ、漫画なども含み、ジャンルは一切問わない。

 

 今回は有名なところだと対ホロウ6課、スターズ・オブ・リラなどが出場することが知られている。メームもその一人だ。

 

「そこで、メームを殺す。メームは厳重に自分のボディガードを置くつもりだ。

 そこでだ柊。お前もその護衛に混ざってもらう」

 

 なるほど。先ほど尋問した女隊員の替え玉として動くということだ。

 

「そんな大役を我に任せていいのか?」

 

「別、お前が裏切ったところでヘプタがいるからな。お前の役目は随時メームの位置を伝えることと、機会があったらお前が殺して逃げること。それだけ」

 

「あと、お前にして欲しいことがある。これからメームを殺すまで口調は一般的な女性のものにして、髪は肩ぐらいまで切って、白髪染めして、袴を着るのも辞めて、帯刀も基本的にするな。お前は全てが目立つんだよ」

 

「……わかった」

 

「──最後にひとつ聞こう。

 裏切りは怖くないと言ったが、裏切られるのはできるだけ避けたいところだからな。お前の心意気を知りたい。

 お前はなぜ、メームを狙う?」

 

 彼の質問に、柊は古い、そして決して忘れ去ることはできない記憶を呼び覚ます──。




ゼンゼロ世界にハリポタはあります(断言)
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