ゼンレスゾーンゼロ 零落者のゆく先   作:柿本人麻呂

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【お祭りごとの、ちゃんちゃら騒ぎ】その2

 一週間経った。

 

 新進気鋭の犯罪者、柊司はばかに大きな会場の外、丁寧に整備された芝生の上に居た。

 

 隣の、アスファルトの道を通る人々はどこを見ても金持ちばかりだ。白のスーツにサングラス、金色の指輪をつけて闊歩している。

 彼らは私たちに気づくと、関心したように見つめる。

 

 それもそうだ。芝生に集まる人々は治安官や雇われの護衛など、武装した人々だからだ。

 

 柊もまたその一人である。メームの護衛の一員だ。

 

 メーム護衛隊は十人いる。五人はそれこそ軍人のように完全武装だが、残りの五人はSPであり、スーツを着ている。

 

 何故スーツ姿なのかというと、その五人は特にメームの近くで行動するからだ。壮大な式の景観を潰すことなく、また観客に紛れられるので有事の際に敵に捕捉されづらい。

 

 柊はSP隊の五人の一人で、例に違わずスーツを着用している。

 

 ワイシャツの上には背中から肩に巻くようなショルダーホルスターがある。左の脇下にホルスター本体があって、右手で拳銃を掴んで使う。胸が締め付けられるが、我慢した。

 

 首にかかっているパステルの水色無地ネクタイは、柊も好みだ。

 

 丈の随分短いタイトスカートを着用しており、太ももに巻いたナイフホルダーからはナイフとフラッシュライトを取り出せる。

 

 上着は黒が基調で、内ポケットには手錠がある。

 

 このタイトスカートは誘拐した女の趣味かと思ったが、SP隊のもう一人も同じものだったので、メームの趣味かもしれない。

 

 三日前に、顔を見られて発覚するのではないかと考えたが、木によるとこうだ。

 

『メーム護衛隊は入れ替わりが激しいんだ。お前のなりすます女は欠員の補填のための存在だ。

 その上ひとつひとつ別々の信用できる筋から雇っているらしいから、それぞれに面識はない。──ローズグループから抜擢されるのは珍しいことらしいが、メームは下っ端の顔なんて知らんだろ』

 

『護衛隊の顔写真ぐらいは提出するのではないか?』

 

『お前の顔写真を盗撮してすり替えたから大丈夫だ』

 

 隊長格のSP隊員が先に述べたもう一人の女なのだが、彼女が寄ってきて、

「護衛IDを言え」と言った。

 

『覚えてるよな』耳のごく小さな無線機から、木の声がする。

 

 忘れはしない。木に口調を変えろと言われたので、できるだけ柔らかい声で返事をした。

 

「シコシコです」

「は?」

 

「あ」

 

 あまりのことに、声を漏らす。無線機から笑い転げるような声がにわかに聞こえてきて、奥歯を噛み締めた。

 

「ん……よんごーよんごーです」

 

「あのさあ……今日はこれ以上ない大事な任務なんだからさあ……ふざけてる暇ある? もう少し気を引き締めないとさ」

 

 鼻の穴を膨らませながら叱責してくる。

 

「はい……すいません」

 

「もういいわ。五分後に会場に入るから、しっかりして」

 

 上品さや優美さはさることながら、驚いたのはその強かさだ。

 柊にはある程度相手をはかることができるのだが、彼女には男でさえも服従してしまいそうな一種の恐ろしさがあった。

 

 未だ木が『アホらしー』と大笑いしているので、柊は両眉を寄せる。彼のせいで、自分の発言に後悔が大きくなった。

 

 彼女の背中をじっと見つめる。華奢ではないが、大きいとも言えない。だが、他のどんな男にも増して経験がありそうだ。

 

 護衛隊のメンバーを、それぞれ見定めるように眺めていく。どちらかというと、一般人を思わせる容貌の者ばかりだ。それでいて、その顔の奥に秘めたる何かがあるのは、柊にわかった。

 

 道を通り抜けてくる金持ちたちの中に、それから逆行していく者がいるのに気づく。

 

 彼を見て、柊は臓物が締まるような感覚を憶えた。実際、胸は締め付けられているのだが。

 

 自分たちが狙う標的、メームだ。彼が一瞬こっちを見て、目を細めた感じがしたが、何も言ってはこなかった。

 

「やあ、君たち。式典は四十分後にスタートだ。さっそくだが護衛についてもらう。

 SP隊は皆私についてきてくれたまえ。また武装隊は言われた通りに配置につくことだ」

 

 初老の男だ。白髪混じりの髪をしきりにかきあげている。テレビで見るスーツより色は幾分鮮やかで、ネクタイも白っぽい。何本かの毛束が額にかかって、それがまた上品さを醸し出す。

 

 三人がメームに1メートル程度の距離を保ちながら、前方だけをあけて着いていく。

 

 数メートル離れたところに残り2人(柊と隊長)が周囲を見渡すようにして動いている。

 

 メームの左側に柊が一人。

 

『本当笑わせてくれるよな「シコシコ」だなんてよ』

 

「自白させたときに主が大声で喚いたのが悪い。そのせいで、無駄に記憶に刻みこまれ──」

 

『にしても美人だなあ』

 

 急に、無線から恍惚とした声が聞こえた。木の声じゃない。おそらく、木のマイクがたまたま拾ってしまったのだろう。

 

『おお、確かに美人だ』今度は木の声。

 

 木は一般の観客、つまり金持ちとして侵入するので、ふと芝生の奥を覗いた。

 

 そこには台風のように人々がとぐろを巻いて進む光景が広がっていた。

 

 台風の目にあたるところには、かのスターズ・オブ・リラのアストラが居た。護衛らしき女も一人ついている。

 

『確かに、アストラは美人と言われておるの』無線からヘプタの声。彼らバーテンダーとしてもう中に入っている。

 

『ちげーよ。確かにアストラもすごいけど、手が届かねーだろ。護衛だよ俺が言ってんのは』

 

 木が言うのは、護衛の女のことらしい。

 

 ぴちぴちのスーツの上にだぼっと上着を羽織った様子は、確かにアストラに相応しく優美な影として存在していた。

 

『あーいうのが狙い目なんだよ』

 

 どうしても簡単に男に口説かれる存在には感じなかったが、木のなかではそうらしい。

 

「主も恋愛感情とか感じるんだな」

 

 殺し屋の人間性について気になったので、柊が問うた。

 

『いや、そういう感情が誰にも湧かないのが悔しくていつも「付き合うなら」の妄想をしてるだけだ。

 

 ──で』

 

 急に口調が真面目らしくなったので、柊も気を引き締め直す。

 

『そいつは殺せそうか?』

 

 柊はゆっくりと、答える。

 

「今は無理だ。

 ……だが、おそらく人気のないところに行くだろうから、そこでならあるいはな」

 

『──何か起きるのお、これは』出し抜けに、ヘプタが不穏なことを言った。

 

 ヘプタの緩慢な口調が、彼女の脳内で長くこだました。




スーツで戦うってかっこいい!
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