ゼンレスゾーンゼロ 零落者のゆく先   作:柿本人麻呂

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メインキャラに出番を作りたくて描きました
エレン&カリンは次回まで続きます


エレン&カリンの相棒捜査

「なんなの、あいつ」

 

 階段を降りていくSPの姿が見えなくなると、エレンが毒づいた。

 

「若い方々をこのようなことに巻き込みたくないという気持ちは、誰にだって芽生えるものです」

 

 オオカミ男が目をつぶってごほん、と咳払いした。

 エレンはなんだか面倒くさくなって、彼女の人間性の追求はやめた。

 

「ひとまず、リナとカリンを呼びましょう」

 

 連絡すると、やがて二人が連れ立って現れた。

 

 その片方、アレクサンドリナ・セバスチャンは宙に浮いたまま動くことが一番に目につく女性で、手を胸の前でぶらりと下げて歩むその姿は、さながら幽霊だ。

 階段を上ってくるというよりか、上昇してくるといった方がわかりやすいだろう。

 温かみのある芦毛が空気を含んで、メイド服の上ではためいている。

 

 幽霊とは言ったものの、どこかに教会のシスターのような雰囲気もあった。

 

 もう一方、カリンは伏し目がちな控えめの少女で、暗い抹茶のような髪色が二つに分かれて結えられている。

 手をスカートの反りに合わせて開きながらペンギンのように揺らし、てくてくと階段を上る。

 

 ライカンは二人に事情を話した。

 

「あらあら、そのような方が潜んでいるとは」リナが頬に手の平を当てながら言った。

 

(わたくし)共は彼らを見つけ出し、お客様に連絡する必要があります」

 

 色々と話し合った結果、二手に分かれて行動することになった。リナ、ライカンとエレン、カリンだ。

 

「もし怪しい者を見つけても、決して刺激しないように。接触は私共の役目ではありません」

 

「で、でももし相手から接触してきたら……」

 

「その時は冷静に、家政としてのいつもの役目を果たしてください。ですが──」ここで語気を強めて、「万が一攻撃してくるようでしたら、その時はそればかりではない、と」

 

「ぶっ倒せってことね」言葉を濁すライカンの代わりに、エレンが続きを言った。

 

「その通りです」

 

 強い言葉に珍しく『その通り』と肯定され、彼女は少し面食らう。

 

 階段を降りたエレンとカリンは、最初にVIPバーに向かうことにした。ヴィクトリア家政は元々この式典の召使いとして依頼されているので、VIPの場所にも入り込める。

 

 この依頼の上で依頼を受けたのだから、バーで仕事をしながら捜査する必要がある。

 

 趣ある廊下を抜けていく。わざわざこの式に侵入するからにはVIPルームに行きたくなるだろうという魂胆で、扉に手をかけた。

 

 開くとそこには、倒れてナイフが突き刺さった大男が! なんて期待もしたが、案の定何もない。上品で近寄りがたい偉方たちがそれぞれ二、三人のグループを作って談笑している。

 

「……んーいないかあ」

「なんで残念そうなんですか」

 まだ居るかも判明していない侵入者であるのに、ため息をつくエレンに言う。

 

「だって、居るんだったらさっさと片付けたいじゃん。居るかも居ないかもわからないのを追って神経使うのは面倒くさいし」

「あの、片付けちゃダメですからね。報告するだけですよ」

 

 バーを見た。

「えっ? 誰もいないですよ」

 バーテンダーが居ない。そこにあるはずの建物が綺麗さっぱりなくなっているみたいに、ただの空っぽの空間がカウンターに広がっていた。バックヤードを遠くから覗いてみても、人の気配が少しもしない。

 

 幸い今は誰もドリンクを欲していないようだったが、少しすれば苦情が入るだろう。

 

「あ、いいこと思いついた。私たちでバーテンダーやろう」

 

 突飛な発想に、カリンが彼女の顔を見上げた。

「え、どういうことですか?」

 

「そのまま。私たち・バーテンダー・やる」

 

「え、え?」

 

 エレンは何も言わずにカウンターに入り込むと、立ち尽くすカリンを手招きした。

 

「ここからなら、怪しい人がいてもすぐに見つかる」

 

「で、でもっ、カクテルの作り方なんて分かりませんよ」

 

「インターノットがあるでしょ」

 

 そうこうしているうちに、一人目の来客があった。

 

 小太りながらも高貴さを感じさせる男で、二人もテレビで見たことがある。確か、治安局の支援を行なっている会社の社長だったか。

 

「ドライ・マティーニを一つくれ」

 

「仰せのままに〜」

 

 男がカウンターに肘をのせたまま背後を向いた。アンティークな装飾に見惚れている。

 

(今だ……!)

 

「カリン」

 すかさずカリンに目配せ。『は、はい』と唇を不安にもごもごさせながらスマホを操作。

 

「み、みきしんぐぐらすにこおりをいれて、べるもっととびたーずをすてあして、すとれなーをつかってなかのえきたいを──」

 

「え? ちょちょちょ」

 

   〜〜〜

 

「待たせすぎだよ。まだか?」

 

 カウンターを指で叩きながら男が催促する。

 

「はい、どうぞ」

 

 そこには、逆三角形のグラスがあった。グリーンオリーブが添えられていて、透明な液体がダイヤモンドのように反射して美しい。

 

「全く、VIPのバーテンダーたる者が、こんな簡単なカクテルすら作れないのか──」

 

 彼の背中が離れていく。元いたグループへ談笑しに戻った。カクテルの味が気に入られるものか気になって、二人は目が離せない。

 

 若いバーテンダーの悪口を垂れているのは明白だった。

 

 その中で、彼がカクテルを動かす。綺麗に整えられた口髭までグラスを持ち上げ、コクッ。

 

「……ブフォッ!!」

 

 口に含んだカクテルが噴霧器のように舞い上がるのを見て、カリンは青ざめた。

 

「あれ、なんで? 言った通りに作ったんだけど。スマホ見せて」

 

 カリンからスマホを受け取って、レシピを見る。

 

 

 

 

美味しいカクテルの作り方wwww

 

0001 名無しの星見雅 ****/5/27(金)3:24:1

ミキシンググラスに氷を入れ、ベルモットとビターズをステア

 

ストレナーを使って中の液体を冷やし、

()()9()()()──

 

 

 

 

「これ、掲示板じゃん」

 

「え、なんですか?」

 

「インターノットでも有数の信用ならないところ」

 

「え、えぇ⁉︎」

 

「おかしいと思ったんだよなあ、胡椒9振りって」

 

 顔を上げると、鼻の穴を大きく広げながら、歩み寄ってくる男の姿があった。

 

 ぽっこりと出た腹をだぶだぶ動かして、かかとで床を叩くようにどしどし進んでくる。ぽっこり、だぶだぶ、どしどしだ。

 

「す、すみません! すみません! ごめんなさいぃい!」

 

 カウンターに来るなり、歩く勢いに任せて手に持ったカクテルをバッと振った。

 

 表面張力は金魚掬いのポイに蹴りを見舞うようにいとも容易く突破され、蜘蛛の巣のように張り巡らされた胡椒液がエレンを襲う。

 

 上体をひょいと捻ると、簡単に避けられた。

 

 蜘蛛の巣は背後の酒瓶にぶち当たり、ぐらぐら揺れる。エレンが素早く手を突っ込んで抑えると、瓶の落下も避けられた。

 

「ふざけてんじゃねえぞこのクソガキども!」

 

 上品な顔を醜く歪ませ、大きく怒鳴りつける。

 

 その後もやかましく叫びに近い罵詈雑言を口にした。

 

 こっち側がけっこう悪いので言い返しはしない。エレンは右耳から左耳に雑音が抜けていくのを待った。

 

 大衆の視線が三人に向く。それを察知して、カリンが顔を真っ赤にした。同時に、エレンに恥をかかせている罪悪感を感じる。

 

「まあまあ、少女たちをそう追い詰めることはないじゃないか」

 

 別の男の優しい声がして、顔を上げる。

 

 白髪混じりの、優しげな顔があった。

 

 二人も彼の名前を知っている。大物だ。

 

「あ、メームさん……」少し萎縮した様子で、「で、でもこいつら、この高貴な場で私に変なカクテルを──」

 

「人間、小さな失敗はいくらでもするものだ」

 

 胡椒を9回振ったカクテルを提供する『小さな失敗』を、メームは優しく擁護する。

 

 色々あって、小太り男爵は去っていく。誰も口を利かない場に、拍手が打ち鳴らされた。胡椒を9回盛られた男から、少女を救った勇姿を讃えるものだ。

 

「すまないね。みなの御前でこんな恥をかかせてしまって。私がもっとはやく動いていれば。彼のと同じのをちょうだい。同じ作り方でいい」

 

 同じ作り方なんかするわけがない。

「カリン」

 と呼んで、今度こそ正しい作り方を調べされる。

 

 提供されたカクテルを手に取ると、これまた上品に──言い方を変えればキザに──口に通した。

 

「ん……」と彼が口ごもったので、カリンが不安に思う。

 

「うまいじゃないか! これに対して彼は文句を言ったのか? とんだ」馬鹿舌じゃねーか、と言いそうになったところで、言葉遣いが荒くなっていることに気づいて抑えた。

 いつもの癖が出てしまいそうになる自分に苛立つ。

 

「いや、さっき胡椒9回盛ったから」

「は? 胡椒を? 9回も⁉︎」

「そう」

「そんなのほぼ毒」殺だろ、と言いかける。

 

 エレンがふと、さっきの小太りの偉方を見やった。ソファに腰掛けて一人でいる。不満気に顎の髭をいじくり回していた。

 

 その後ろを、素早く駆け抜ける者がいた。それに気づいた小太りが立ち上がって、後ろを着いていく。すぐに、姿が見えなくなった。

 

 ──やばい。そんな直感が、エレンの脳を貫いた。

 

「カリン、行くよ」

「えっえ? どこにですか?」

 

 返事どころか振り返ることもなく、カウンターのしきりを吹き飛ばす勢いで飛び出した。

 

「どこに、行くんだい──?」メームの低い声は、二人に届くことはなかった。

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