TS転生魔法少女マギア★あいり 作:お前も魔法少女になれ
裏路地を抜け出した俺は、近くにあった店の屋根上から混乱する商店街を見下ろしていた。
惨状——という言葉がよく似合う光景だった。
砕け散ったガラス、倒れた商品棚、路上に転がる看板。
逃げ惑う人々の悲鳴が耳を刺し、シャドウがそこら中で蠢いている。
だが、何かがおかしい。
シャドウは無差別に人を襲っているわけではなかった。
若い女性を狙い、一か所に集めようとしている。
一方で、それ以外の人々には積極的な攻撃を加えていない。
だが、それは“無事”というわけじゃなかった。
店の中に閉じ込められている者、瓦礫に挟まれて動けない者。
通行を妨害するように破壊された街並みが、彼らの避難を阻んでいる。
そして、それを利用するようにシャドウは“選別”を続けていた。
「あいつら、何を企んでいるんだ……」
俺は歯を食いしばりながら呟く。
「あいり、今は皆を助けるのが最優先だよ!」
フェルクスの声は冷静だったが、僅かに焦りも混じっていた。
確かに、そんなことを考えている場合じゃない。今は、目の前の人たちを助けることが最優先だ。
俺は屋根の端まで駆け、シャドウの群れに狙いを定める。
ユニコーン・ナイトメアと戦った時を思い出し、あいつの様に足に力を籠め、屋根を思い切り蹴り飛ばした。
――瞬間、俺の体は流星の様に弾け飛んだ。周囲の景色が滲み、まるで重力を振り切ったような加速。
そのままの勢いで、シャドウのど真ん中に突っ込む。
「——ッ!」
流れる視界の中でシャドウに近づいた俺は、その内の一体に拳を叩き込んだ。
スピードの乗った拳がシャドウを叩き、音を立てて、シャドウの黒い身体が弾ける。そして霧散し、風に溶けるように消えていった。
(……速い、強い。これがユニコーンの力か!)
着地と同時に、その勢いを流すように回転し、回し蹴りを放つ。
「どけぇ!!」
回転の勢いを乗せた蹴りが、別のシャドウを吹き飛ばす。 黒い影が弾け、霧のように消えていく。
俺は振り向きざまに裏拳を叩き込み、さらに一体を粉砕する。
スピードの乗った攻撃の破壊力は、想像以上だった。
拳や脚を振るうたびに黒い影が弾け飛び、霧散していく。
(いける、これなら——!)
俺はさらに駆け、周囲のシャドウをなぎ倒していき、捉えられている人たちを解放した。
「逃げろ! 早く!」
助け出された女性たちが、動揺しながらも走り出していく。
そしてその中に、見覚えのある顔があった。
(……えっ!?)
同じクラスの女子だった。
だが、彼女は俺を一瞬見たものの、すぐに視線を逸らして逃げていく。
(やばい、俺だってバレたか……?)
一瞬、動揺して動きを止めてしまう。
『あいり、どうしたんだい?!何かあったのかい?!』
フェルクスの声が、少し焦った様子で響く。
『い、いや。何でもない……ただ、クラスメイトがいただけだ。顔を見られたから、俺だって気づかれたかもしれないけど……』
『じゃあ、大丈夫だよ。変身中を見られていなければ認識は阻害される仕組みになっているからね』
フェルクスの念話が頭に響く。
(そうなのか、助かった……すみれみたいなイレギュラーじゃない限りバレる心配はないのか……)
俺は胸を撫で下ろし、残るシャドウを見据え、拳を握りしめた。
ユニコーンの力が乗ったこの体は、まだ余力を残している。
(……このまま一気に片付ける!)
俺は地を蹴り、風を切るように駆け出した。
「おらぁッ!」
俺は正面のシャドウに拳を叩き込み、そのままの勢いで振り返り、肘打ち。
回転しながら蹴りを放ち、連鎖するように黒い影が霧散していく。
数秒後、静寂が訪れた。
「……片付いたか?」
俺は周囲を見渡し、最後の一体が消えたことを確認する。
『あいり、油断しちゃダメだよ! まだナイトメア・グリフォンがいるはずだ!』
フェルクスの念話が響く。
(そうだ、まだグリフォンがいた……どこだ?!)
俺は周囲を見渡した。
シャドウはすべて消えたし、商店街の中には目立った異変もない。
と、その時。
『あいりさん、上ですわ!』
「——なにっ!?」
上空から、突風とともに、巨大な黒影が一気に迫る。
その巨体が空を裂きながら急降下してくるのが、視界に映った。
俺は反射的に地を蹴る。直後、轟音とともに何かが地面を抉った。
「……っぶねえ!!」
土煙が舞い、吹き飛ばされた破片が周囲に飛び散る。
視界が晴れたとき、そこに立っていたのは――
漆黒の翼を広げた巨大な獣。
獅子のように逞しい前脚が地面を抉り、鋭い鉤爪が煌めく。
その瞳には、獲物を見定める冷徹な光が宿っていた。
口元からは瘴気が漏れ、周囲の空気を重く、濁らせる。
『ナイトメア・グリフォン……厄介な相手だよ』
『見た目通り、高い飛行能力を持っているみたいですわ!』
『地上での戦いに慣れ始めたところだったのに、次は空中戦かよ……!』
(飛ばれたら俺が不利、なら……地上にいる内に倒す!)
俺は地面を蹴り、加速力を全開にする。視界が流れ、風が肌を切る。
直線的な疾走、そのまま飛び上がり、グリフォンへと拳を突き出した!
しかし――。
グリフォンが翼を大きく羽ばたかせた瞬間、衝撃波のような突風が周囲を薙いだ。
地面の瓦礫が宙に舞い、商店街の窓ガラスが悲鳴のように軋む。
「うわっ!?」
空中で体勢を崩し、地面の上に転がる。
急いで立ち上がるが、その瞬間——
グリフォンの翼がしなり、黒光りする羽が一斉に射出された。
その速さはまるで銃弾。空気を裂く鋭い音が耳を打つ。
「……やばっ——!」
咄嗟に身を翻し、ギリギリで回避する。しかし、数本の羽が体をかすめ裂傷を作る。
『あいり、大丈夫かい!?』
『クソッ……! 近づけねぇ!』
近づけば突風で吹き飛ばされ、遠距離からは羽の射撃で牽制される。
横に回り込もうとするも、グリフォンはすぐに旋回。
俺の動きを読むかのように、羽の弾幕を展開する。
(このままじゃ、ジリ貧だ……!)
俺は歯を食いしばった。
だが、その時——
『あいり、能力を試してみるといい!』
フェルクスの念話が響いた。
『能力?』
『そうだよ、戦った時のユニコーンを思い出してみて!鋭い角と言う武器や、角から発射されるビームを使っていたはずだよ!』
確かに、ヤツはそういったこともしていた。
それに、このまま拳だけで戦っていても、埒が明かない。
『……やるしかねぇか!』
俺は右手をかざし、意識を集中する——
掌から薄ピンクの光が溢れ、螺旋を描くように収束していく。
まるで空間そのものを捻じ曲げるように、エネルギーが凝縮され——
「これは……!」
光が形を成し、次の瞬間——長大な槍が手の中に現れた。
「これは……槍?」
白銀の槍身に、鋭い穂先。ユニコーンの角を模した装飾が施されたそれは、威厳と力を感じさせる武器だった。
俺は槍を構え、試しに軽く振るってみる……が。
「っ、重っ……!?」
予想以上の重量に、バランスを崩しそうになる。
槍の長さもあって、取り回しが難しい。拳ならば本能的に戦えるが、こんな長物は扱ったことがない。
『あいり!槍のリーチを活かして戦うんだ!』
『言われなくても分かってる!……けど、槍なんか使ったことねぇから勝手が分かんねぇよ!』
俺は思い切って地を蹴り、グリフォンへと踏み込む。
リーチを活かせば、距離を取られても届くはずだ。
「うおおおっ!」
突きを放つ!——だが。
グリフォンは翼をはためかせ、簡単に身を翻した。
槍の穂先は空を裂き、虚しく通り過ぎる。
「チッ……!」
すぐに槍を振り回し、横薙ぎに叩きつける!
だが、グリフォンはまたも軽々と舞い上がり、俺の攻撃をかわしてしまう。
(……ダメだ、全然当たらねぇ!)
武器のリーチは確かに長いが、そのぶん攻撃の隙が大きい。
そして何より——
(遅い!)
攻撃するたびに、槍の重さに振り回されている感覚がある。
これじゃあ、俺のスタイルに合わねぇ!
「くそっ、もう一回……!」
俺は槍を構え直し、突進を仕掛ける。
脚に力を込め、加速を全開にする。今度こそ確実に当てるつもりで——
「ぐっ……!?」
しかし、その瞬間。
グリフォンが大きく羽ばたき、突風が俺を吹き飛ばした!
「っのヤロ……!」
槍が仇になった。
リーチがある分、踏ん張ることができず、重心を崩される。
バランスを失い、大きく後方に吹き飛ばされた。
体勢を立て直しながらも、違和感を覚える。
槍の重さに引っ張られ、うまく身動きが取れないのだ。
(……ダメだ、使いこなせねぇ!)
俺は舌打ちし、槍を地面に叩きつけるように投げ捨てた。
そして、己の拳を強く握り直す。
『えぇ!? せっかく手に入れた武器を!?』
『無理して使って隙を作るくらいなら、素手で戦った方がマシだ!』
俺は鋭くグリフォンを睨みつける。
しかし、奴は空中で悠々と旋回し、あざ笑うかのようにこちらを見下ろしている。
(……どうする? このままじゃジリ貧だ)
槍がダメなら、他の方法を考えなければならない。
その時、脳裏に蘇るのは ユニコーンとの戦い 。
アイツはただの突進だけじゃなかった。
もうひとつ、決定的な攻撃手段があった……圧倒的な火力を持ったビーム。
(……そうか! 俺にも、アレが使えるんじゃねぇのか!?)
俺は拳を握りしめ、意識を集中する。
左手を引き、右拳に全神経を集中させる。
すると、拳の奥から熱く脈打つような感覚が湧き上がった。
(これが……ユニコーンの力……!)
まるで血管を逆流するかのように、未知のエネルギーが全身を駆け巡る。
それは熱く、鋭く、そして……暴れ出しそうなほど強大だった。
「……いける!」
集中を研ぎ澄ませ、俺は迷わず力を解放する。
「はぁぁぁぁっ!!」
俺の拳が まばゆいピンク色の光を帯びる。
それは一瞬で収束し、槍の穂先のような 鋭い光の塊へと変わっていく。
「くらえぇぇぇっ!!」
拳から放たれた光の槍が、一直線にグリフォンへと突き進む!
轟音とともに、ピンク色の閃光が空間を引き裂いた。
だが——。
グリフォンは咄嗟に翼をはためかせ、光の槍を紙一重で回避した。
ビームは虚しく空を切り、はるか後方の空へと消えていった。
「っ、外した……!」
拳を握る手が微かに痺れている。
一撃を放っただけで、体から何かがごっそり抜けた感じもある。
『魔力を多く消費するみたいだ!魔力切れしないように気を付けて!』
『魔力ぅ?!初めて聞いたぞ、オイ!』
確かに威力は十分だったはずだ。だが、当たらなければ意味がない。
しかも、今ので魔力をかなり消費したらしい。
(……連発は無理か。なら——)
俺は深く息を吸い、拳を握り直し、もう一度ビームを撃つべきか考える。
しかし、さっきの攻撃は簡単に回避された……このまま闇雲に撃っても、当たるとは思えない。
かと言って加速で突っ込んでも突風攻撃で飛ばされるだけだ。
突風……そうだ、ヤツは突風を撃つときに……!!
俺は右手に意識を集中すると再び手にユニコーンの槍を召喚する。
さっきは重くて使えないと投げ捨てたユニコーンランス——
だが、こいつが今、俺の命綱になる!!
槍を強く握りしめ、加速する。
『あいり、突風が来るよ!』
『わかってる!』
次の瞬間——グリフォンの翼が大きくはためく!
轟音とともに、強烈な突風が吹き荒れる!
まともに食らえば、吹き飛ばされてしまう……だが!!
俺はユニコーンランスを地面に突き立て、両手でしがみつく!
強烈な風が肌を切り裂くように襲いかかるが、俺は絶対に離さない!!
(これで……耐えられる!)
そして、俺の予想通り、グリフォンが一瞬、空中で動きを止めた!
突風を起こした直後、羽の弾丸を撃つまでの一瞬の硬直——それが隙になる!!
「今だッ!!」
俺は槍を手放し、拳に魔力を込める!
ピンク色の閃光が拳の先に集まり、鋭い光を形作る――
同時に、グリフォンも羽の弾丸を展開しようとしていた。
——だが、俺の方が速い!!
「喰らいやがれぇぇぇッ!!」
拳から放たれたビームが、一条の閃光となってグリフォンへと突き進む!!
直撃!!
グリフォンの巨大な翼が痙攣し、黒い羽が舞い散る。
そして重力に引かれるように、真っ逆さまに落下していく!!
「ここで決めるッ!!」
俺は地を蹴り、落下するグリフォンに向かって跳躍!
勢いのまま、体を捻り、全身の力を込めた後ろ回し蹴りを放つ!!
「とどめだぁぁぁッ!!」
俺のかかとがグリフォンの胴体に炸裂し、そのまま地面に叩きつけた!!
コンクリートが砕け、轟音とともに衝撃波が広がる。
やがて、舞い上がった砂埃の中、ピクリとも動かないグリフォンの姿が現れた。
「……終わった、か?」
次の瞬間、グリフォンの体が黒い影となって霧散していく。
そして、その場にはグリフォンの紋章が刻まれたマギアエンブレムが残された。
『やったね!あいり!』
『あいりさん!最高でしたわ!!』
俺は拳を握り、ガッツポーズを作る。
「俺の……勝ちだ!!」
ナイトメアグリフォン、討伐完了!!
戦闘シーンは駆け足で終わらせる