TS転生魔法少女マギア★あいり   作:お前も魔法少女になれ

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第三話 持ってたりしないよな……?

 遠ざかるサイレンの音を背に、俺は人目につかない路地裏へと足を踏み入れた。

 

 戦闘の余韻が、じわじわと全身を支配していく。

 拳を握ると、まだ微かに熱を帯びた感触が残っていた。

 

 壁にもたれかかり、荒い息を整える。

 疲労は確かにある。でも、それ以上に胸の奥が妙に高鳴っていた。

 

 心の奥でくすぶっていた何かが、燃え上がるような感覚。

 ずっと退屈だと思っていた世界が、今は違って見える。

 

 ふぅ、と息を吐き、ようやく少し落ち着いたところで——

 

「ここなら大丈夫かな」

 

 隣にいた銀の狐が、そう言った。

 月明かりの下、静かに佇むその姿は、戦闘中に見たときよりも神秘的に映る。

 

 思えば、戦いの最中は深く考えている余裕なんてなかった。

 だけど、改めてこうして向き合うと、まるで物語の中から飛び出してきたかのような存在感がある。

 それと同時に、俺の胸に浮かぶ疑問。

 

「そうだ……お前、結局何者なんだよ?」

 

「じゃあ、改めて自己紹介をしよう。まずは君について教えてくれないかい?」

 

「俺は……天宮あいり、普通の中学生だよ、どこにでもいる」

 

 俺の言葉に、銀の狐は尻尾をゆらりと揺らしながら、どこか楽しそうに微笑んだ。

 

「普通の中学生ねえ。でも、少なくとも今の君は、もう“普通”じゃないよ」

 

「……それはまぁ、うすうす気づいてるけどさ」

 

 拳を開いたり握ったりする。

 もう狐火は消えているはずなのに、まだ指先には微かな熱が残っている気がした。

 

「それで、お前は? しゃべる狐なんて、どう考えても普通じゃないだろ」

 

「僕はフェルクス。魔法少女を導く存在だよ」

 

 俺の問いに、フェルクスは軽く胸を張って答える。

 

「魔法少女を導く……?」

 

「うん。さっきも言ったけれど、実は君に頼みたいことがあるんだ」

 

「頼みたいこと?」

 

「そう!でもその前に、まずは君にもちゃんと説明しないとね」

 

 フェルクスは少しだけ表情を引き締めると、俺の目をまっすぐに見て話し始めた。

 

「さっき君が戦ったあの化け物——あれは“ネザード”と呼ばれる存在の一部だよ」

 

「ネザード……?」

 

「あの怪物はね、かつて世界を支配しようとした存在の名残なんだ。僕たちとかつての魔法少女たちは、彼らを封印することで世界を守った。でも……」

 

「でも?」

 

「封印が、解けてしまった」

 

 フェルクスの声が少し沈む。

 

「原因はわからない。けれど、封印が解けて、ネザードがこの世界に侵食を始めている。そして、それと同時に、封印の要だった“マギアエンブレム”も世界中に飛び散ってしまったんだ」

 

「……マギアエンブレム?」

 

「うん。簡単に言うと、魔法少女の力の源になるものだよ。君が今使っているフォックスエンブレムも、そのひとつさ」

 

 俺は思わず、先ほど戦ったときに腰のベルトに輝いていたエンブレムに触れる。

 確かに、戦闘の最中、この紋章から力が湧き上がるのを感じた。

 

「つまり、お前の頼みっていうのは……」

 

「ネザードを倒し、そして散らばったマギアエンブレムを回収すること」

 

 フェルクスは頷き、真剣な目で俺を見る。

 

「今、君が魔法少女として覚醒し、ネザードの怪物を倒したことで、君の存在は向こうに知られてしまった。強いマギアの反応を感知したネザードたちが、この町に集まってくる可能性が高い」

 

「……マジかよ」

 

 戦ったばかりだというのに、もう次の敵が来るかもしれないのか?

 さっきの怪物だけでも大変だったのに、それより格上のやつらが来るとしたら——

 

 でも、不思議と怖さよりも……胸の奥に燃え上がるもののほうが強かった。

 

「まぁ、今すぐにどうこうってわけじゃないけどね。とはいえ、君が魔法少女になった以上、無関係ではいられない」

 

「……はぁ、もう後戻りはできないってわけか」

 

「そんなに悪い話じゃないと思うけどな。だって君、戦ってるとき、すごく楽しそうだったよ?」

 

「うっ……!」

 

 図星を突かれたようで、言葉が詰まる。

 確かに、俺は戦いの中で興奮していた。

 

「……まぁ、考える時間くらいはくれるんだろ?」

 

「もちろん! 無理やり戦わせるつもりはないさ」

 

 フェルクスはにこっと笑い、尻尾をふわりと揺らす。

 

「でも、どうするにしても、この世界のこと、ネザードのこと、魔法少女のことを君にはもっと知ってもらわないとね」

 

「……だな」

 

 俺は夜空を見上げ、深く息を吐いた。

 この日を境に、俺の世界はもう“普通”ではなくなった。

 

「これから、よろしく頼むよ。あいり」

 

 そう言って、フェルクスは前足をスッと差し出す。

 なるほど、握手ってことか。

 

「ま、悪くないな。よろしくな、フェルクス」

 

 俺も軽く笑いながら、握手しようとフェルクスの前足を取ろうとして、ふと手が止まる。

 

「……?」

 

「? どうしたんだい? あいり」

 

 俺はじっとフェルクスの足元を見つめ、少しだけ眉をひそめる。

 

「お前……エキノコックスとか持ってたりしないよな……?」

 

「ぶっ!? いやいや、僕はそんな普通の狐じゃないからね!?」

 

「でも見た目は完全に狐だしなぁ……」

 

「失礼な! 僕はこう見えても高位の魔法生物だよ!? そんな寄生虫とは無縁さ! 大体魔法少女がエキノコックス気にしてどうするのさ!」

 

「そりゃ気にするだろ! 魔法の力に目覚めても、感染症対策は大事だ!」

 

 夜風が吹き抜ける中、俺とフェルクスは、路地裏でしばらくどうでもいい言い合いを続けた。

 

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