TS転生魔法少女マギア★あいり 作:お前も魔法少女になれ
夕焼けに染まる街を歩きながら、俺はフェルクスと共にマギアエンブレムを探していた。
フェルクスの耳がピクピクと動き、時折立ち止まっては辺りを見渡している。
「で、どうやってエンブレムを見つけるんだ?」
俺の問いに、フェルクスは胸を張るようにして答えた。
「僕には近くにあるマギアをある程度は感知できてね。強い気配があればすぐに分かるよ」
「……お前、そんな便利能力持ってたのかよ、じゃあすぐ見つかるのか?」
「いや、残念ながら僕の探知能力は広範囲を探れるわけじゃないんだ。近くにあれば気付けるけど、遠くにあるのは無理だね」
「結局、地道な作業ってわけか……」
ため息をつきながら、俺は周囲を見回した。マギアを感知できない俺にはいつもと変わらない町が見える。
「そういえば、昨日俺が倒したネザードとか言う怪物って、どのくらいの強さだったんだ? どいつもあんな感じなのか?」
「ネザードの中じゃ一番下の強さかな。いわゆる一般兵とかザコ敵だね。 僕たちはアレをシャドウって呼んでいたよ」
「あれで、ザコ敵かよ……」
正直、初めての実戦で襲いかかってきたあいつは、全然“ザコ”なんて印象じゃなかった。
スピードはあったし、戦い慣れてない俺が少しでも判断を間違えたら、怪我どころか……やられてた可能性すらある。
俺の反応に、フェルクスは少し笑いながら続けた。
「まぁ、魔法少女になりたての君からすれば、十分厄介だったかもしれないね。でも、本当にヤバいのはその上からさ」
「……その上?」
「ナイトメア。シャドウよりも強くて、何かしらの力を与えられていたり、取り込んでいたりする奴もいるね。こいつらは特殊な力を持っている場合が多いから、注意が必要だよ」
「特殊な力、ねぇ……例えば?」
「そうだね……再生能力を持つ個体とか、分身する奴、幻を見せる奴、遠距離攻撃が得意な奴もいるね。とにかく、シャドウと違って“ただの怪物”じゃなくなるんだ」
「……めんどくせぇな」
俺は頭をかきながら、面倒な相手が増えることにげんなりした。
とはいえ、避けられるわけもない。俺が戦わなければ一般人が巻き込まれる可能性が高い。
「で、そのナイトメアってのは、もうこの町にいるのか?」
「君が力に目覚めたのが昨日だし、まだナイトメアクラスが集まってくることはないと思うよ」
「……どういうことだ?」
「ネザードは魔法少女の存在……いや、マギアを敏感に察知するんだ。でも、君の力が発現してからまだ時間が経っていないし、奴らが集まって来るにはもう少し時間がかかるはずさ」
「つまり、まだ強い敵が来る段階じゃないってことか」
「うん。今この町にいるのは、おそらくシャドウだけじゃないかな。でも、君が戦い続ければ、いずれナイトメアも現れるだろうね」
「……フラグみたいなこと言うなよ」
その後、しばらく街を歩き回ったが、結局それらしいものは見つからなかった。
そろそろ諦めるかと考え、俺はフェルクスを見て言った。
「おい、帰るぞ」
すると、フェルクスは意外そうな顔をする。
「今日はここまでにするのかい?」
「ちがう、門限が近い」
俺はスマホを見ながら答える。
「18時までに帰らないと心配されるからな。……続きは夜だ」
フェルクスは一瞬驚いたが、すぐに納得したように頷いた。
「そういえば君はまだ中学生だったね」
俺はため息をつきながら、来た道を引き返し始めた。
(まったく……エンブレム探しってのも簡単じゃないな)
このまま手ぶらで帰るのは少し悔しいが、焦っても仕方ない。
そう自分に言い聞かせながら、俺は家へと向かった。
***
家に帰り、夕飯や宿題、入浴済ませ……時計を見る。
(……23時か)
「そろそろ行くか」
「行動再開かい?」
「ああ、この時間まで待てばバレないだろ」
俺はそっと部屋の窓を開けた。夜風が静かに吹き込み、カーテンを揺らす。
家を出るとなると、玄関は使えない。親に見つかるリスクが高いし、何より「ちょっと外出てくる」なんて言って出られる時間でもない。
(こういうとき、1階の部屋でよかったな……)
音を立てないように慎重に窓枠をまたぎ、外へと降りる。
足音を忍ばせながら家の敷地を抜ける。
「やれやれ、まるで忍者みたいだね」
「バレたら面倒だからな……」
俺はそのまま人通りが少なくなった住宅街を抜け、公園へと足を踏み入れる。
昼間とは違い、夜の公園は静まり返っていた。街灯の明かりがぼんやりと周囲を照らしているが、暗がりの中に何かが潜んでいてもおかしくない雰囲気だった。
そのとき──
「……あいり、こっちだ」
フェルクスが急に耳をピンと立てる。
「どうした?」
「マギアエンブレムの反応がある。すぐ近くだ」
「マジか!」
俺はフェルクスが示した方向へと駆け出した。
——と、同時に。
「……ん?」
フェルクスの耳がピクリと動いた。
「どうした?」
「ネザードの反応もある……でも、大したことはないかな。シャドウクラスだ」
「大したことはないって……昨日のヤツと同じくらいってことだろ? 結構キツイって……」
俺は走りながらフォックスエンブレムを取り出し、変身の準備をする。
しかし——
「!!」
突然、フェルクスの表情が変わった。
「——!? 反応が……急に跳ね上がった!?」
「は……? なんだそれ」
「反応がシャドウからナイトメアに変わったんだ!」
「おいおい、ナイトメアはまだ居ないんじゃなかったのかよ!」
「違う……この感じ……あいつ、エンブレムを取り込んだんだ!」
「……はぁ!? エンブレムを取り込んだって……それって……」
——刹那、地面が揺れた。
俺は慌てて足を止め、周囲を警戒する。
すると、公園の奥、街灯の明かりが届かない暗がりの中で何かがうごめく気配がした。
視線を向けた瞬間——何かが飛び掛かってきた。
砂利が舞い、衝撃で地面が抉れる。
俺は思わず一歩後ずさる。
街灯の下、姿を現したのは──
「……馬?」
だが、普通の馬じゃない。
全身が漆黒の影のような質感を持ち、その体からは黒い霧のようなものが立ち上っている。
瞳は真紅に染まり、頭には鋭く長い角が一本生えていた。
「……違う。黒い……ユニコーン……か?」
「間違いない。ユニコーンエンブレムを取り込んだシャドウ……いや、ナイトメアだよ」
フェルクスが低く呟く。
ユニコーンのナイトメアは、荒々しく鼻息を吐き、鋭い前脚を地面に打ち付けた。その動き一つ一つが、昨日のシャドウとは比べ物にならない威圧感を放っている。
(……くそ、こっちはまだ殆ど戦ったことすらねぇってのに)
でも——
(やるしかねぇ……!)
俺は深く息を吸い込み、フォックスエンブレムを強く握った。
エンブレムが淡く光を帯び、腰に銀のベルトが現れ──俺は迷いなく、叫ぶ。
「——行くぞ、
——光が、爆ぜた。
次回戦闘です