転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る 作:ソロモンは燃えている
45日目の補給を終えて、いよいよ北部の攻略に取り掛かった。
巨大な廃墟を前にして、刺激しないよう慎重に防壁を建設していく。
一度、廃墟の中の感染者を刺激してしまえば空になるまで際限なく感染者を吐き出し続けることになってしまう。
こちらの準備が終わるまでは、決して悟られてはならない。
廃墟攻略の準備が終わろうするころに偵察部隊から恐れていた報告が入った。
「周辺にいた感染者の群れが一斉に動き出しました。
全ての方向から向かって来ています!」
くっ、間に合わなかったか。
こうなる前に廃墟を攻略しておきたかった。
さらに前線からも報告が入る。
「廃墟から感染者の出現を確認!」
一切手を出していないにも関わらず、廃墟が感染者を吐き出し始めた。
偶然とは思えない。
明らかに何らかの意思が働いている。
…総攻撃
そんな言葉が頭に浮かぶ。
いや、余計なことを考えている暇はない。
とにかく目の前の危機に対処しなければ。
奴らに先手を取られてしまったが、想定していなかったわけではない。
周辺に感染者の群れが点在していると報告を受けた時からこんな事態もあり得ると思っていた。
出来れば外れてほしかったが…
問題は、戦力をどう振り分けるか。
東と南には、それぞれ防壁とバリスタを2基配備しているが、それだけで群れの襲撃に耐えることはできない。
しかし、群れと廃墟の感染者が合流する北部方面が最も厳しい戦場になるのは明らか。
東と南に十分な戦力を送れば、ここの防衛が難しくなる。
厳しい、あまりにも厳しい。
3つの防衛線、全てで勝たなければならない。
1つでも崩壊してしまえば、居住区は滅んでしまう。
「司令官、東と南の防衛は我々と新兵達に任せてくれませんか?」
頭を悩ませる私に部下のレンジャーが提案してきた。
「新兵達に?」
40日目と45日目の補給時に40人のレンジャー部隊が着任している。
「はい、我々ベテラン部隊が20名の新人部隊を率いて東と南に向かいます」
ベテラン1部隊、新人5部隊の計24人で一方面を受け持つと言う。
「馬鹿な、それでは少なすぎる。
北よりマシとは言え、群れはかなりの規模なのだぞ」
「何の考えもなく言っているのではありません。
一つでも防衛線が抜かれれば終わりであることは理解しています。
必ず守り抜いて見せますよ」
男達の顔を見れば、伊達や酔狂で行っているのではないことは分かる。
何か考えがあることは本当なのだろう。
「分かった……お前達に任せよう」
「「はっ!」」
「ただし!
決して命を粗末にするな。
この戦争はまだまだ続く。
お前達には、これからも働いてもらわなくては困る」
「「…最善を尽くします」」
東部と南部に向かうレンジャー部隊を送り出し、北部戦線の指揮を取るために前線に出る。
すでにこちらに向かってくる感染者の群れが見えている。
相変わらず凄まじい数だな。
地面が見えない。
こちらは虎の子のバリスタが4基。
サムライが20人。
サムライの育成は難しいらしく、失った人員の補充しか出来ていない。
それとレンジャー40人がこの戦線に投入できる戦力の全てだ。
敵の数を考えれば絶望的状況だ。
中心部の廃墟を攻めた時よりも戦力差が開いてしまった。
だが、泣き言など言ってられない。
他方面も同じようなものだ。
こちらの兵士達が全てベテランで構成されていることを考えれば、むしろ向こうのほうが厳しいかもしれない。
それでも、自ら志願し、任せてくれと言ったのだ。
彼らを信じて、私はここを守るために全力を尽くそう。
そう思ったが、やはり精神力で物量には勝てない。
開戦して、すぐに壁に取りつかれてしまった。
サムライ達も頑張ってくれているが、外側から回り込まれてしまっている。
防壁の上に配置したレンジャーもサムライ達の退路を守るだけで精一杯だ。
やはり、無理なのか?
物量で勝る感染者に先手を取られた時点でこの状況は避けられなかった。
勝つためには、常に先手を取り続ける必要があったのだ。
もっと早く前線を押し上げていれば…
だが、それは居住区壊滅のリスクと引き換えになる。
十分な戦力が揃ってない状況で多数の感染者が反応してしまえば、なす術なく滅ぼされてしまう。
内政と進軍のバランス。
常にギリギリを見極めて、こちらの戦力が感染者の戦力を上回るまで攻め続けなければならない。
次はもっと上手くやれる。
だが、ここで負けてしまえば、その次は永遠にやってこない。
たった一度の負けで全てを失う。
分かっていたつもりだったが、いざ敗北が目の前に迫ると受け入れ難いものだ。
後方に作らせている防壁も未完成。
ここで時間を稼がなければ撤退戦すら出来ない。
だが、戦い続けていれば兵士達が死んでいく。
防壁が完成しても、敵を押し返す戦力がなくなっては意味がない。
時間が足りない。
時間さえ稼げれば体勢を立て直せるのに。
「うおおおおおおお!
ここだ、感染者ども!
新鮮な餌がここにいるぞ!」
必死に指揮を取っている私の耳に、そんな叫び声が聞こえてきた。
視線を向けると右から回り込んでいたレンジャーが一人、群れに向けて叫んでいる。
川のように連なって向かって来ていた感染者達。
この流れが……変わった。
その声に引き寄せられるように群れが進行方向を変えたのだ。
それにより、防壁前に押し寄せていた感染者が途切れた。
圧力が減じたことで防壁前の感染者を駆逐して、一時的にだがクリアになる。
レンジャーが群れの前を左右に走り回っているお陰で群れはその場に釘付けにされていた。
群れの規模が大きいため、全てを誘導することは出来ず、一部はこちらに向かって来ている。
だが、それが返って都合が良かった。
これくらいの数なら無理なく殲滅できる。
レンジャー部隊が前線を押し上げる時によく使っていた戦術だ。
まさか、大規模な群れに対しても使えるとは…
いや、今回は地形に恵まれただけだ。
北部は開けていて、あれだけの数の感染者の前でも走り回れるだけの広さがある。
狭く、入り組んだ場所なら、感染者に埋め尽くされて走り抜ける隙間すらなくなる。
それに…これは、簡単なことではない。
これだけの群れを誘導するためにはかなり近づかなければならない。
その上、全力で走り回っているのだ。
「ハァ………ハァハァ……」
囮となったレンジャーは、荒い息を吐いている。
「もういい!戻れ!
体力も限界だろう!」
私の声に呼応するように、再び一人のレンジャーが駆け出した。
「次は俺が行く!」
駆け出したレンジャーは、そのまま群れの前に躍り出て誘導を開始する。
それまで囮をしていたレンジャーが入れ替わるように後退してきた。
感染者の一部は、後退するレンジャーを追いかけてきたが、これくらいならサムライが殲滅してくれる。
「よくやってくれた。
しばらく休んでいろ」
サムライの横を通り抜けて、壁の後ろまで下がったレンジャーに声を掛ける。
「いえ、息を整えれば弓を引くくらい出来ます」
そう言って水を少し飲み、弓を手に隊列に戻っていく。
ここ最近、サムライにばかり注目していたが、彼らだって同じ志を持った仲間だったな。
前を向けば、交代したレンジャーが群れの注意を引いていた。
彼のお陰で無理なく、かなりのペースで削ることが出来ている。
いける!
このままいけば勝てる。
だが、アクシデントはいきなり訪れた。
「うわ!」
群れの前を走っていたレンジャーがいきなり倒れたのだ。
古代に敷き詰められたアスファルト。
それは、長い年月によって劣化し、所々に深いひび割れが生じていた。
その割れ目に引っかかり、足を取られたのだ。
群れの至近距離で倒れ、動きを止めてしまった。
あっという間に囲まれて、姿が見えなくなる。
軽装甲のレンジャーがどうなったかなど語るまでもないだろう。
そうだ。
何を軽く考えていたんだ、私は!
あれだけの群れを誘導するのが簡単なわけがない。
ほんの少しの不運で命が失われてしまう。
部下にそんな綱渡りをさせてしまっていた。
「私が行くわ!」
レンジャーがやられたことで再びこちらに向かい始めた感染者達を誘導するために、新たなレンジャーが進み出る。
今回は、女性レンジャーのようだ。
「女だと!女を囮にしろと言うのか!」
サムライから声が上がるが。
「舐めないで!
私だって兵士の端くれよ。
筋力では男に敵わなくても、持久力なら負けないわ!」
啖呵を切り、群れの誘導を始めた。
確かに、その走りは力強く、よく鍛えられていることが伺える。
地面が荒れている部分には近づかないようにもしているようだ。
だが、気を付けていても思い通りにならないのが戦場だ。
感染者が彼女と防壁の間を塞いでしまった。
まずい、これでは帰還できない。
「切り込んで彼女の退路を作るぞ!」
サムライ隊が彼女の救出に動こうとする。
「ダメよ!
あなた達が持ち場を離れたら、誰が後ろの市民を守るのよ!」
彼女の言う通りだ。
サムライは、この場を守るための要。
救出のために突っ込めば、大きな被害を受けてしまう。
理性では、彼女を見捨てるしかないと理解している。
司令官として決断を下さなければならない。
だが、舌が凍りついたように動かない。
彼女と視線が合ったような気がした。
彼女は、なぜか嬉しそうに微笑んだ。
その直後。
「さあ、こっちに来なさい!」
彼女は北に走り始めた。
「なっ、やめるんだ!」
北は感染者達の領域。
周りには敵しかいない。
体力が尽き、足が止まった時が最後。
たった一人、敵地で死を迎えることになる。
それでも、彼女は振り向くことなく走り去っていった。
「あいつの意志を無駄にするな!
今度は俺がやる!」
再びレンジャーが誘導を行う。
彼女の献身も一時凌ぎにしかならない。
だからこそ、後に続くのだ。
そうして、レンジャー達が命懸けの鬼ごっこを続け、バトンを繋いだ果てに…
感染者を全滅させることに成功した。
東と南でも同じようにレンジャーが群れを誘導することで防衛を成功させていた。
地面の割れ目に足を取られたり、誘導中に囲まれてしまい命を落としながらも、決して誰も任務を投げ出したりしなかった。
彼らが命を捧げてくれたから、私達はこれからも戦える。
彼らの死を無意味にしないために……
ラストウェーブを乗り切り、マップクリアです。
序盤の山場を乗り越えました。