転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る 作:ソロモンは燃えている
王国から外の世界に出るためには、封鎖した東の道に20メートルの断崖絶壁からロープで降りるしかない。
過去の遠征隊も、ここから外の世界に旅立っていった。
そして、一度外に出ればいかなる理由があっても再び王国に戻ることは許されない。
正しく一方通行なのだ。
今回の遠征隊には、およそ800人が選ばれた。
もちろん、全員が一度に出発するような真似はしない。
まずは鍛えたレンジャー部隊から4人一組で部隊を編成し、2部隊を偵察に出す。
感染者に見つからないように隠密行動が可能な少人数で編成された部隊だ。
先行偵察を任されるほど練度の高い部隊が互いに連携できる距離を保ちながら前進していった。
彼らの任務は、過去の遠征隊が使ったベースキャンプ跡地の状況の確認。
道中に感染者が多く存在し、近づけないなら無理せず撤退することになっている。
もし、そんな事態になってしまったら全てのレンジャー部隊を投入して感染者を殲滅しながら少しずつ前進していくしかない。
4日後、偵察部隊が無事に帰還した。
彼らから報告を聞くために私も崖から降りた。
これでもう後戻りはできない。
「司令官殿、ベースキャンプ跡地までの道には感染者がほとんどいませんでした。
そのため、我々は発見した感染者を排除しながらでも2日で目的地に到達。
情報通り、川沿いの開けた場所にベースキャンプが建設されていました。
感染者の襲撃によって完全に破壊されてましたが、それなりの量の物資が残されているようです」
「了解した。
前回の遠征隊が残した物資が使えるのはありがたいな」
なにより、ベースキャンプ周辺には感染者の姿がほとんど見られなかったことが大きい。
おそらく、ベースキャンプを崩壊させた感染者達は10年の間に各地へ散っていったのだろう。
偵察結果は、幸先の良いものだった。
計画を速やかに次の段階に進めよう。
私と共に2部隊が崖を降りているが、今回はそれだけではない。
兵士の訓練を受けていない者達も20人ほど降りてもらった。
彼らには拠点構築のための物資を運搬してもらう。
彼らと物資を護衛しながらベースキャンプへ進出する。
そのために偵察部隊に感染者を殲滅させて道中の安全を確保させたのだ。
今なら、これくらいの人数であれば安全に移動できるはず。
護衛部隊に偵察させ、近づいてくる感染者を排除しながら進み、無事ベースキャンプに到着。
さっそく、持ってきた物資で司令部を建てる。
まあ、司令部などと言っても大きめのテントでしかないが。
司令部の周辺に寝泊まりするためのテントも建てていく。
並行して、レンジャー部隊には交代で周辺のクリアリングを進めてもらう。
ここを拠点に居住区を広げていくために安全なエリアは少しでも広くしておきたい。
もちろん無理は禁物。
あまり森の奥には行かないように指示しておく。
司令部や寝泊まりするためのテントを建て終えた頃には日が沈み始めていた。
夜間に森に入り、感染者を探すのはリスクが大きすぎる。
一旦、部隊を拠点に引き上げさせて今夜は休むことにする。
感染者の接近に対する警戒として部隊に交代で見張りをさせる。
感染者は水を異様に恐れるため対岸に人間がいても近づいてくることはないらしく、川が流れている北側を警戒する必要はない。
幸い、夜の闇に紛れて感染者が近づいてくることはなかった。
こうして、拠点を構築した第1日目は何事もなく終わった。
2日目
日が上り、明るくなったことでレンジャー部隊に拠点周辺のクリアリングを再開させる。
非戦闘員の20名も仕事は山積みだ。
残されていた物資から使えそうなものを集めさせる。
その後はバリケードを作っていく。
先を尖らせただけの木の槍を組んで作った即席の罠だが、罠を避ける知能のない感染者には有効だろう。
何より移動させることが可能で簡易な防壁にもなる。
昼頃に王国からの第2陣が到着した。
編成は第1陣と同じく、4部隊に護衛された20人。
人手が増えたことで作業は加速した。
追加のテントを建て、完成したバリケードで居住区を囲っていく。
2日目にして拠点が形になってきた。
ここまでは順調に進んでいる。
レンジャー部隊からも周辺のクリアリングは順調だと報告を受けた。
今のところ確認された感染者は、ゆっくり近づいてくる『ウォーカー』のみ。
だが、油断はできない。
いわゆる走るゾンビ『ランナー』が出現した時に対処できるかどうか。
こんな山奥にはいないと思うが、ランナー以上に強力な変異感染者が現れれば確実に全滅してしまう。
不安は尽きないが、指揮官としてそれを表に出すわけにはいかない。
2日目も無事に乗り越えたんだ。
大丈夫、私達ならやれる。
今夜は先発の4部隊を休ませ、合流した部隊に見張りを任せることにする。
3日目
今日も周辺のクリアリングを行っていく。
8部隊に増えたことで周辺の感染者の排除は順調に進んでいるようだ。
第3陣も合流し、レンジャーは12部隊48人となった。
残り2名のレンジャーには別の仕事があるため、この居住区で運用できる戦力はこれで全て揃ったことになる。
レンジャー部隊に周辺を巡回させ、安全地帯を確保したことで住民たちに森から木材の切り出しを始めさせる。
切り出した木材を使って、レンジャーが使う矢の補充やバリケードの増産を進める。
これで取り敢えずの防衛体制は整った。
引き続きレンジャー部隊でクリアリングを進め、少しずつ安全地帯を広げていく。
4日目
残り2名のレンジャーが拠点に到着した。
彼らが率いているのは補給部隊。
リアカーで隊列を組み、王国からの補給物資を運ぶ役割を担う。
その最大の特徴は、クロスボウが配備されていることだった。
私が準備期間の間に研究・開発させていたものの一つだ。
構造が複雑で難航したが、将来的に必ず必要となる技術だと確信していたため、職人に無理を言って完成させた。
弓に比べて射程や威力、速射性も劣るが狙いを定めるのが容易で訓練に必要な時間が大幅に短い。
レンジャー2名とクロスボウ部隊10名に護衛されたキャラバン。
それがこの居住区の生命線である補給を担う部隊の全貌だった。
これで居住区の基本形は完成した。
後は、レンジャー部隊で前線を押し上げていき、この辺り一帯を人類の領土とするだけだ。
10日目
計画は順調に推移していたが、ここで不測の事態が発生する。
南方を偵察していた部隊から緊急の報告が入ったのだ。
「南に大量の感染者がいただと?」
「はい、山地に面した場所で袋小路のような地形になっていました。
その奥に数十体の感染者の群れを確認。
ただ、奴らは全てウォーカーでした。
ランナーではなかっただけ、最悪ではありません」
ここ数日のクリアリングでランナーと遭遇することが増えてきている。
いずれも単独で行動していたランナーだったので犠牲者を出すことなく対処できた。
しかし、走って近づいてくるランナーの圧力はウォーカーとは桁違いで、かなり接近を許してしまった。
もし、なんの準備もなく複数のランナーに遭遇してしまったら犠牲は避けられないだろう。
今回の報告を上げてきた部隊もランナーとの戦闘を経験していたため、群れがウォーカーであったことに安堵している。
「だが、脅威には変わりない。
今は大人しくしているがこちらに気づけば大挙して押し寄せてくるだろう」
「袋小路の入り口をバリケードで封鎖しますか?」
「その場所はかなり離れているのだろう?
バリケードを運ぶのに人手と時間が掛かる。
何より群れにこちらが気づかれるリスクが高くなってしまう」
もし、気づかれて群れが一斉に動き始めれば簡易的なバリケードなどどれだけ保つか分からない。
仮に首尾よく封鎖できたとしても、群れがいつまでも大人しくしている保証はなく、いつ突破されるか分からない。
それだけの数の感染者に不意を突かれれば居住区が崩壊してしまう。
どちらにせよ放置はできない問題だった。
「では、部隊を集結させて一気に殲滅してはどうでしょう?」
「まだ、周辺のクリアリングが完了していない。
居住区の守りを疎かにはできない」
南で戦闘中に別の方角から感染者が流れてきて居住区を襲う可能性がある。
「……では、我々の部隊だけで群れを監視。
他の方面のクリアリングが終わるまで少しずつ間引いておきます」
「できるのか?」
「手前の方から少しずつ釣っていけば不可能ではありません」
「ならば、頼めるか?
いや…違うな。
西方、補給路のクリアリングが完了しだい応援に向かわせる。
それまで南の群れへの対処を命じる」
私は司令官だ。
部下にお願いなんてしてはいけない。
全ての責任を背負って命令を下さなければならない立場なのだから。
「了解しました!」
私の覚悟を理解したのだろう。
彼らも自らの責務を果たすために再び南へと出撃していった。
「東への警戒は緩めれない。
西のクリアリングが終わるまでどうにか凌いでくれ」
たとえウォーカーでも、何十体もの群れが一度に向かってくれば脅威となる。
頭にでも当たらない限り、殺すには何発か必要なのだ。
そして、感染者は痛みで怯むことはない。
その命尽きるまで前進を続ける。
そんな感染者の群れが移動を開始してしまえば居住区が襲われてしまう。
今の居住区には100人以上の人間が生活している。
こちらの存在に気づかれるのは時間の問題だ。
群れが動き出す前に少しでも削る必要があった。
静かに……少しずつ……