転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る 作:ソロモンは燃えている
王国が電力を手にしたことで変わったことは多くあるが、これもその一つだろう。
「所長、ワスプの量産は出来そうですか?」
拠点の司令部に運び込まれた通信機によって、王国との通話が可能になった。
今は、技術研究所の所長と話している。
先日の駐屯地探索で手に入れた技術資料と現物を引き渡してから10日、進捗状況の確認を行なっているのだ。
「結論から言うと可能じゃ。
解析は完了し、工場の生産ラインも確保してある」
「おお!では、ワスプを前線に送られてくるのはいつ頃になりそうですか!?」
「司令官殿……残念ながら、ことはそう単純ではないのです」
そこで、所長の顔が明るくないことに気付いた。
「なにか問題があったのですか?」
「うむ、量産は可能じゃ。
しかし、運用は難しい」
所長が口惜しげに説明を続ける。
「問題は、弾薬の確保です。
より正確に言うなら、火薬の生産量ですな」
その言葉で全てを察した。
ワスプは凄まじい火力を誇る。
それは、1基でサムライ数人分にも及ぶだろう。
それと引き換えに弾薬の消耗も激しい。
探索中に大量の感染者に襲われて、やむを得ず使用したことで装填されていた弾薬は枯渇していた。
運用するワスプの数が増えれば、必然として弾薬の確保が問題になるではないか。
「火薬の増産は出来ないのですか?」
「難しいですね……火薬の生産自体はできる。
我々に足りないのは大量生産するためのノウハウです。
こればかりは技術書から得られません」
王国でも火薬の生産は可能。
だが、それには多くの人手と労力を要する。
領土を拡張し、開拓地が増えたことで王国はどこも人手不足だ。
火薬の生産のために人手を投入すれば、他に皺寄せがいってしまう。
その上、効率が悪いため人手を投入しても大きな成果は期待できない。
「すまぬな、司令官殿。
なんとか試行錯誤して生産量を上げる努力は続けるが、こればかりは一朝一夕ではどうにもならぬ」
「いえ、所長達はよくやってくれています。
これほど早くワスプを生産可能にしてくれたのですから。
運用の方は、こちらでも考えておきます」
通信を終えた私は、新たな問題に考え込んでしまう。
ワスプを運用できれば、道を塞ぐ2万のウォーカーを排除することは容易いと思っていた。
弾薬の確保か…
前世の日本も大昔の戦争で補給に苦労していたと聞いた。
多数の敵を倒すためには、それだけ多くの物資が必要になる。
そう考えると、サムライは凄くコスパが良いのだなと改めて思い知った。
彼らは、刀一本で多くの感染者を倒してくれる。
「それでも、いつまでも彼らに頼り切りと言うわけにもいかない」
王国も努力してくれている。
いつか、多数のワスプを運用できる体制を整えてくれるだろう。
だが、そんな時間を感染者達が与えてくれるとは思えない。
運用面でどうにか出来ないものか…
しばらく頭を悩ませることになった。
数日後、この状況を打開できる機会が訪れるまで…
「なに、生存者と接触しただと!」
駐屯地に武器はなかったが、携帯無線機はいくつか手に入れていた。
無線機を持たせた偵察部隊の一つから緊急の報告が入ったのだ。
件の生存者は、こちらの責任者との会談を要求しているそうだ。
まさか、我々以外に生き残っている者がいたとは…
信じられないと思いながらも、私は生存者と会うことにした。
安全のため、銃と思しきものを預かり、司令部に来てもらう。
生存者は、私より年上の精悍な男だった。
「私がここの責任者で司令官をしています」
「…思ったよりも若いな」
その言葉に私が侮られたと感じ、いきり立つ部下達を手で抑える。
「すまない、無礼な行いをするつもりはなかったのだが、つい、思ったことを口にしてしまった」
「こちらこそ部下がすまない」
「いえ、おかげで貴方がとても信頼されていることが分かった。返って良かったと思いますよ」
「では、この話はここまでにしよう。
さっそく本題に入りたいのだが…私との会談を求めたからには何か話があるのでしょう?」
「…はい、どうか私の里を救うのに助力を願いたい」
男の話によると、男が住んでいた里は、戦国時代の傭兵集団雑賀衆(さいかしゅう)を租とする鉄砲衆を中心として、山奥に作られた集落のようだ。
普段は猟師として生活していたらしい。
感染者との戦争時も山奥に篭っていたため、攻め込まれることはなかった。
だが近年、里の近くに鬼が棲みついたと言う。
「鬼とは?」
「身の丈3メートルを超える変異感染者です。
鋭い聴覚で遠くの物音にも反応し、驚異的な身体能力で襲いかかってくる。
なにより…その咆哮は周辺の感染者を呼び寄せてしまう」
聞いただけで厄介な感染者であることが分かる。
鬼そのものの戦闘力も驚異だが、なにより周辺の感染者を集めてしまうのが問題だ。
感染者を集めて襲いかかってくる前線指揮官のようなものか。
「鬼1匹くらいなら仕留めればよいと向かった鉄砲衆は感染者の群れに飲み込まれて全滅。
以降、里は鬼に見つからないように息を潜めることしか出来なかった」
「つまり、貴方が我々に協力してもらいたいのは…」
「はい、鬼討伐です」
その言葉に私は再び黙り込んでしまう。
男の頼みは、話を聞いているうちに予想できた。
鬼か…
このまま領土を広げていけば、そういう強力な感染者と対峙することは避けられない。
だが、それは今でなければならないか?
自分達以外に生き残っていたコミニュティがあったことは、喜ばしいことだ。
だが、彼らのために部下達を死地に送り込むだけの理由はない。
心情的には助けたいが、鬼討伐には相当な危険が付きまとう。
「里の人達を王国に避難させるのでは駄目ですか?」
「正直、私はそれでも良いと思っています。
まさか、これほどの規模の国がまだ存在していたとは…」
少しホッとした。
これなら、部下を危険な作戦に投入しなくてすむ。
「ですが、対価として提供できるものがなくなってしまうのです」
「…対価ですか?」
その話を聞いて、私は男の里の価値を急上昇させた。
鉄砲集団として長年受け継がれてきた火薬の量産技術。
王国が今、最も必要としている技術だった。
そして、それは里を救わなければ手に入らない。
里にある施設が必要なのだ。
長い年月の中で、いくつもの工夫が積み重ねられてきた。
王国に移住してもらい、一から施設を作るとなれば、どれほど時間が掛かってしまうのか分からない。
王国にとって何よりも貴重な時間。
それが鬼を倒せば手に入る。
レンジャー、サムライ両隊長とも相談し、鬼の棲む森を攻略することが決まった。