転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る 作:ソロモンは燃えている
鬼を討伐するため、男の里へと赴いたが、すんなり攻略に取り掛かることは出来なかった。
里の長老達が鬼の討伐に反対したのだ。
王国に移住できるなら、それで良いではないか。
里を壊滅の危険にさらす気かと。
結局、作戦は王国の軍のみで行うことになった。
出来れば、前線への補給中継地として協力してもらいたかった。
「すまない、まさか長老達があれほど弱気になっているとは…」
今回の作戦に里から唯一参加することになった鉄砲衆の男は、自分から鬼討伐を頼んだのに里が非協力的だったことに申し訳なさそうな顔をしている。
「貴方が気にすることではありませんよ。
鬼討伐を決めたのは、結局は王国の都合なのですから。
それに…長老達の気持ちも分からないではありませんから」
男が鬼をどうにかする術を求めて里を出た後、里に残った鉄砲衆は里のために命を捧げ続けた。
鬼の動きは気まぐれで、どんなに息を潜めていても里に近づいて来てしまう。
その度に鉄砲衆が遠くで発砲し、鬼を里から引き離していたのだ。
発砲音と鬼の咆哮、しばらくすると発砲音が途絶え鉄砲衆の死を教える。
ずっと、それを繰り返してきたのだ。
今の里には鉄砲衆は、もういない。
銃の取扱いや構え方を教わった若者達はいるが、誰も実際に撃ったことはない。
発砲音を聞かれ、里の位置が知られてしまえば終わりだからだ。
彼らは、鬼を里から引き離すために銃の取扱いを教えられているのだ。
実際に銃を撃つときは、鬼を引きつけて殺される時。
言わば、生贄だった。
そんな彼らに、今回の作戦への参加を望むのは酷というもの。
もはや里に戦える戦力はないのだ。
協力は得られなかったが、それでも作戦は進めなければならない。
里から少し離れた場所に拠点を構築する。
今回の作戦では、いつも以上にレンジャーの働きが重要になる。
鬼がこちらに気づく前に、可能な限り感染者の数を減らしておく。
鬼が周辺の感染者を呼び寄せても、近場の感染者を殲滅しておけば、それだけ楽になる。
今回の作戦実行を決めた理由がもう一つある。
「センサーに感あり。
鬼は北方向、かなり離れた場所にいるようです。
しばらくは大丈夫でしょう」
ワスプに取り付けられていた感染者のみを感知するセンサー。
それを調整して、強力な感染者を反応だけを検出するようにしたのだ。
これのおかげで鬼の動きがある程度わかる。
少なくとも奇襲を受ける心配はない。
これがなければ、どれほど火薬の量産技術が欲しくても作戦を実行に移すことはなかっただろう。
いつも通り、司令部の周辺にテントを立てていく。
レンジャー部隊は周辺のクリアリングだ。
いつも以上に慎重に音を立てずに感染者を間引いていく。
まだ距離があるとは言え、鋭い聴覚を持つなら油断は出来ない。
ある程度スペースを確保したら、テントの増設と並行して農地の整備、製材所を建てて木材の加工を始める。
鬼討伐は、鬼が呼び寄せた感染者達との戦いも避けられない。
防衛施設を作る後方支援のための住民達も必要だ。
今回の作戦は、今までで最も危険度の高いものだ。
それでも移住を決断してくれた住民達には感謝しかない。
鬼が予想外の動きをしない限り、しばらく大きな動きはない。
静かにクリアリングを進め、領土を拡張しながら防衛戦に備える。
見張り台を作り、地形を把握する事で防衛に向いた場所を探す。
10日目
拠点から少し北上した辺りにちょうど良い場所を見つけた。
ここに防衛施設を建設して、鬼を迎え撃つ。
少しでも防衛力を強化するために南部の制圧を進めていく。
その過程で石場を発見できたことは幸運だった。
二重、三重に補強しても、やはり木の壁では心許ない。
これで石の壁にアップデート出来ると安堵した。
15日目
これまでレンジャーのみを増員してきたが、ここでサムライを呼び寄せた。
10人のサムライ達。
彼らは、サムライの中で最も腕の立つ者達で構成されている。
鬼に対抗するための最精鋭だ。
鬼は少しずつこちらに近づいている。
そろそろ、鬼に対抗する戦力が必要になってきたのだ。
ただ、感染者を減らすためにレンジャーの増強を最優先していたため、サムライの戦力は本当に最低限になってしまった。
もう少しサムライを増やしたいところだが、レンジャーを減らすことになってしまう。
食料の生産、資源の採取、防衛施設の建設と人手はギリギリで回している。
現段階では、これが精一杯の備えだった。
20日目
ようやく南部の制圧が終わった。
テントや農地、製材所、採石場などを建てていく。
投入できる戦力を少しでも増やすために、住民には多少無理をしてでも建設を急いでもらった。
これから北部の間引きを始める。
鬼もかなり近づいている。
いつ反応してもおかしくない状況だ。
石の壁へのアップデート、バリスタの設置を進めていく。
間引きのため北部エリアに侵入しているレンジャー達は、鬼が反応したらすぐに撤退するよう厳命している。
26日目
ついに鬼が反応してしまった。
センサーが捉えている反応がすごい速さで移動し始めた。
森の中のため真っ直ぐではないが、確実にこちらに向かっている。
サムライは20名が待機している。
ギリギリで増強が間に合った。
だが、これでも足りるという確信はない。
撤退してきたレンジャーが防壁の後ろに下がる。
最後尾のレンジャーの後ろに鬼が迫っていた。
その姿は、まさしく鬼だった。
3メートルを超える巨体、浅黒い肌、凶暴性しか感じさせない形相。
手には太い枝を握り、棍棒のように振り回している。
「来たぞ、バリスタ、鬼を狙え!
レンジャーに当てるなよ」
射程に入ったことでバリスタが矢を放った。
これで終わってくれれば…そう思ったがこの世界はそんなに優しくはない。
鬼が手にした枝でバリスタの矢を打ち落としてしまった。
二度、三度と矢を射るがことごとく打ち払われてしまう。
「ぐおおおおおおおおおおおっっっ!!」
鬼が咆哮を上げる。
その声に反応して、後方から大量の感染者が押し寄せてきた。
「まずい、感染者の中にデブが混じってます!」
「くっ、今までも少数ならいたが、今回はかなりの数がいるな。
仕方ない、最後尾のレンジャーは鬼をサムライのところまで引っ張って行け!
鬼はサムライに任せる。
バリスタはデブを狙え!
レンジャーは、他の感染者だ!」
兵士達が命令を受けて動き出す。
どんなに厳しい戦場でも私を信じて任務を遂行してくれる。
だからこそ、私もその信頼に応えなければ!
「来たぞ、司令官が我らに任せてくれたのだ。
鬼如きに遅れを取るなよ!」
「「「「応!」」」」
誘導してきたレンジャーと入れ替わるように鬼の前に立つ。
「うおおおお!」
渾身の力で刀を振る。
…だが、ことごとく棍棒で対応されてしまう。
な、なんで奴だ。
剣術の心得も技術もない。
なのに、腕力と反応速度だけで技術の差を埋めている。
いや、埋めるどころではない。
サムライ隊長が弾かれ、吹き飛ばされてしまった。
くそ、想定以上だ。
ただの木の枝なのに、正面から受けてしまえば折れず曲がらずの刀がへし折られてしまう。
事実、受け流し損ねた部下が派手に吹き飛ばされていた。
木に叩きつけられた部下はぴくりとも動かない。
ひしゃげた鎧を見れば、息はあるまい。
再び前に出て、切り結ぼうとするが受け流すので精一杯だ。
次々と部下が打ち倒されていく。
息のあるものもいるようだが、立ち上がることは出来そうにない。
防壁では、集まってきた感染者を相手に必死に防戦している。
この化け物を倒さなければ確実に全滅してしまう。
なのに、我らは手傷を負わせることすら出来ず、逆に少しずつ削られてしまっている。
歴戦のサムライ隊長も全滅が避けられない状況に焦りが出た。
ほんのわずかだが、判断が遅れてしまったのだ。
棍棒が振り下ろされる。
しまった、受け流しが間に合わない!
ドオオオン!!
轟音が辺りに響いた。