転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る 作:ソロモンは燃えている
南に感染者の群れを確認してから3日、西方のクリアリングはまだ終わらない。
この地は、けして広いわけではないが森林地帯が多く、見通しが悪い。
そのため、感染者から奇襲を受けないために視界を確保しながら少しずつ進んでいかなければならない。
クリアリング自体も慎重かつ確実に実施する必要がある。
西方を4部隊のレンジャーでクリアリングしているが、各部隊の間をすり抜けた感染者が一体でも居住区に到達してしまえば住民に壊滅的被害が出てしまうからだ。
このウイルスは、人類との戦争で異常な変異を遂げてしまった。
たいていのウイルスは、パンデミックが発生した場合、多くの被害を出しながらも時間とともにその毒性を弱めていく。
強すぎる毒性が宿主を殺してしまい、自身の増殖を阻害してしまうから、自らそういう方向に進化していくのだと言われている。
だが、その通説は今回のウイルスには該当しなかった。
ゾンビウイルスは、宿主を殺さない。
正直、ゾンビウイルスと呼ぶのも語弊があるな。
彼らは、動く死体ではない。
ウイルスによって人を襲う化け物に変異した存在。
彼らが人を襲い、感染させることによってウイルスは増殖していく。
故に、このウイルスは毒性を弱める方向には進まなかった。
逆に、より毒性を強める方向に進化してしまった。
より強力な変異感染者を生み出したこともその証左だが、なにより感染から発症までの間隔がどんどん短くなっていった。
初期の頃は数ヶ月の潜伏期間があったが、やがて数日となり、数時間となり、最終的には数秒にまでなってしまった。
レンジャーが出払い、碌な防衛施設も揃ってない居住区で感染が発生してしまったら、あっという間に感染が拡大していき、止める術はない。
だからこそ、一体の見逃しも許されないのだ。
南方の感染者の群れの間引きも遅々として進んでいない。
手前の方の感染者だけを釣って、引きつけてから排除する。
言葉にすれば簡単そうに聞こえるが容易なことではない。
まず、群れ全体を刺激することは絶対に許されない。
そして、感染者は視界に入っている他の感染者の動きに反応する習性があるのか一体が動き出すと周囲の感染者もそれに連動して動き出してしまう。
釣った感染者の数が多すぎると一度引いて、感染者が落ち着くのを待たねばならない。
南方面のクリアリングも疎かにできないので、たった1部隊4人しか投入できていないのだから無理もない。
彼らは極限まで神経を集中させて任務に従事している。
間引きのペースが遅いなどと言えるわけもなかった。
彼らは、すでに10体以上の感染者を殺すことに成功している。
それ以上を望むのは酷というものだ。
さらに2日が経ち、拠点を築いてから15日目、ようやく西方のクリアリングが終わり、補給路の安全を確保できた。
同時に南のクリアリングも群れのいる袋小路以外は終了した。
他の3部隊が頑張ってくれた。
彼らも群れの対処をしている部隊の負担を理解していたのだろう。
これで東方を除けば、この付近の脅威は群れだけになった。
明日から西方と南方のクリアリング部隊を全て投入して、本格的な群れへの対処を行うことができる。
なんとか間に合ったか。
群れは、いつ反応してもおかしくない状態だった。
間引きのために突いていたからではない。
感染者達は、袋小路の北に密集しつつある。
居住区がある方向だ。
これ以上進めないとなれば、群れはやがて迂回を始める。
袋小路の出口まで来てしまえば、居住区まで一直線に向かってくるだろう。
そうなる前に準備が整って良かった。
だが、安心するのはまだ早い。
群れへの対処はこれからだし、この群れを全滅させても東の脅威は残っている。
集中を途切れさせるな。
まずは一つ一つ問題を解決していくんだ。
16日目
ついにウォーカーの群れに本格的な攻撃を開始する。
これまでに15体ほど間引いていたが、それでも群れの規模は50体をゆうに超えていた。
こちらのレンジャーの総数を軽く超えている。
ここに来たばかりの頃のレンジャー達なら対処は難しかっただろう。
しかし、彼らはクリアリングを通して感染者と対峙し続けてきた。
今の彼らなら、必ず対処できる。
そう信じて送り出した。
8部隊32名のレンジャーが群れへの攻撃を開始する。
まずは4部隊が先行し、群れの端にいる感染者に一斉射を浴びせた。
一度の斉射で殺せる感染者は多くて4体。
これまでの経験からウォーカーを仕留めるためには平均4発、当たりどころが良くても3発は必要だと判明している。
そして、直接攻撃されているためか、あるいは矢の風切り音に反応しているのか、かなりの数のウォーカーが反応してレンジャーに向かって歩き始めた。
レンジャー達は、落ち着いて距離の近いウォーカーから狙い、斉射を続けるが早々に矢が尽きてしまった。
動きを阻害せずに持ち運べる矢の本数には限界があるためだ。
だが、そんなことは想定内。
レンジャー達は、焦ることなく後退を始める。
後退するレンジャー達と入れ替わるように後方で待機していた4部隊が前に出て、斉射を開始した。
最初から全部隊で攻撃を仕掛けなかったのは、横幅が広くない地形的な制約で射線を確保できないこともあったが、矢が尽きた部隊の後退を援護できるようにする意味もあった。
後退した部隊も後方に用意してあった矢を補給して、再び前進し、矢の尽きた部隊の後退を援護する。
こうして何度も押し引きを繰り返して、少しずつウォーカーの数を減らしていく。
その行動に迷いはなく、無駄のない動きで矢を放っている。
その姿は、ベテランの風格すら感じさせた。
数に対抗するために必要なのはやはり数。
8部隊を集結させて投入したことで日が落ちる前にウォーカーの群れを殲滅することができた。
これで残る脅威は東側のみ。
数日前から東のクリアリング部隊はほとんど前進できていない。
彼らの技量が低いわけではない。
やはり、東に進むにつれて感染者の数が増え、質も上がっていったのだ。
複数のランナーを同時に対処しなければならないことが増えた。
そのため1部隊だけでは対処できず、他の部隊の援護を必要とする状況が頻発。
結果、部隊を分散させることができないためクリアリングの範囲も狭くなってしまう。
明日からは残りの部隊も全て投入して東のクリアリングに当てるため多少の改善は望めるだろうが、この問題の根本的な解決策はない。
基本的に東に進めば進むほど感染者の脅威が増大するのは事前に予想されていたことだ。
こちらの戦力は、簡単には増やせない。
対して、あちらは後方に数えきれないほどの感染者が控えている。
しかも、居住区まで侵入されてしまえば爆発的な速さで数を増やされ、我々は崩壊してしまう。
こちらが圧倒的に不利な戦争。
そんなことは、始める前から分かっていた。
それでも進まなければならない。
私達に帰る場所などないのだから……
希望もないわけではない。
クリアリングの過程で石切場として使えそうな場所も見つけている。
石材は、王国ですでに枯渇している資源の一つだ。
この地を確保できれば、できることが格段に増える。
すでに準備も進めている。
今までクリアリングしかしていなかったわけではない。
内政も並行して行なっていた。
初めは出来ることが少なかった。
安全な領域が狭いうちは、可能な限り感染者に見つからないことを優先させねばならなかったからだ。
川で魚を釣ったり、森の入り口に罠を仕掛けて小動物が掛かるのを待つくらいだった。
当然、そんなもので全員の胃袋を満たすことなどできない。
王国からの補給がなければ、食料の確保にすら事欠いていたはずだ。
やがて、森での伐採を始め、バリケードや矢の量産が軌道に乗ってからは、木材の貯蓄を始めた。
木の防壁や見張りのための櫓などを建設するための資材だ。
東にクリアリングを進め、防衛に適した場所に防衛ラインを築くための準備を今から進めている。
理想は、天然の防壁である山地によって狭くなっている場所。
資材を集中させて、より強固な防衛ラインを構築できる地形がいい。
東に向かって伸びる道の先に良さそうな場所が見える。
どれほど難しくとも、あそこまでクリアリングを進めなければならない。
その成否によって、防衛に必要な労力が天と地ほど変わってくるのだ。
キャンペーンモードのチュートリアル的なマップで西と南の端まで到達しました。