転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る 作:ソロモンは燃えている
感染者の群れが塞いでいた道の先に送り出した偵察部隊が帰還した。
彼らが発見したのは、自然豊かな湖畔の地。
平地が少なく、水資源が豊富なこの地では、漁業が有力な食糧確保の手段となるだろう。
今後、王国の領土拡張を考えれば、この地に前線を支えるための豊かな開拓地を建設する必要がある。
報告を聞いた私は、すぐにこの地への進出を決めた。
油断や慢心があったとは思わない……が、楽観はあったと思う。
作戦地域は恵まれた土地で食料の確保に困ることはない。
感染者と戦うノウハウも蓄積してきており、新たな技術も次々に確立されている。
もう、遠征を始めた時とは違うのだ。
上位感染者の姿も確認されておらず、作戦は順当に進むと思っていた。
感染者との戦いは、いつだってこんな筈じゃなかったことばかりだったと言うのに……
湖に臨む開けた場所に司令部を設置。
司令部を囲むように住民のためのテントを建てていく。
食糧を得るための漁師小屋と木材を得るための製材所も建設する。
これらを周辺の感染者の排除と並行して進めている。
この辺りは慣れたもの。
何度も繰り返してきた作業であり、入り組んでいて土地が狭いという制約はあるものの、いまさら手間取るようなことはない。
イレギュラーな事態が起きない限り、開拓地が崩壊する危険などない筈だった。
そのイレギュラーが起きたのは、わずか3日後だった。
「東から多数の感染者の接近を確認。
ランナーが含まれています!」
「なんだと!こんなに早くランナーが来たのか!?」
「落ち着け、まずは事態の対処に当たらなければ。
西から戦力を抽出して、東に向かわせろ!」
作戦の序盤は、いつもと同じように限られた人数のレンジャーで静かに感染者の間引きを行なっていた。
決して大きな音を立てていたわけではない。
にも関わらず、ランナーを含む多数の感染者に迫られていた。
なぜ、こんなにも早く司令部が狙われている?
今までなら、群れの第一波を凌いだ後から始まっていたはずだ。
いや、そもそも、これは小規模襲撃なのか?
数はそれ程でもない。
戦力を集中させれば、現状でもどうにか凌げるレベルだ。
だが、手薄になった西側でも同じことが起きれば、もうどうしようもない。
西の部隊は、間引きが出来るほどの人数は残っていないため、感染者を刺激しないよう前線を下げさせて、監視のみに徹させている。
この判断が吉と出るか、凶と出るか?
二日後、最初の補給が到着する頃に東の襲撃は落ち着きを見せ始めた。
だが、事態が好転したわけではない。
東では、勢いは落ちたものの感染者の接近は絶え間なく続いている。
まるで後ろから押し出されているかのように……
そして、西でも感染者の前線は確実に居住区へとにじり寄っていた。
「補給部隊は到着したが、この状況でサムライは使えない。
当面の戦力増強は、レンジャーのみとするしかありませんな」
「いや、感染者の接近を阻止するのに精一杯で領土の確保がまったく進んでいません。
増強と言っても、養えるのは僅かですよ」
「その僅かなリソースを軍事に割り振ってしまえば内政が止まってしまう。
このままではジリ貧か……」
東は既に戦闘状態、西の感染者も怪しい動きを見せている。
静粛性に優れたレンジャーですらこの状況だ。
サムライが戦闘を行えば、一気に激化してしまうだろう。
ならばレンジャーに頼るしかないのだが、彼らの火力は防衛戦力としては心許ない。
近づかれる前に、静かに、少しずつ削っていくのが本来の使い方なのだ。
このまま無策でいれば、この居住区は崩壊してしまう。
それだけは確かだ。
なぜ、これ程までに感染者に押し込まれているのか?
考えろ、他の土地と何が違う?
この土地だけが特別、感染者の流入が多いという報告はなかった。
地形も入り組んでいて、使える土地が狭いくらいで、これと言って……いや、まて。
それか!?
流入する感染者の数は他と変わらなくても、湖や森で平地が少ない分、感染者の密度が高くなってしまう。
奴らにパーソナル・スペースなんて考えはないだろうから、快適な環境を求めて他に行くこともない。
そこに我々が入り込んできて、間引きを行ったことでスペースが出来た。
接近してきている感染者は、文字通り押し出されて来ているのだ。
この圧力に逆らって前線を押し上げるには、かなりの戦力が必要になる。
その戦力を養うために内政を充実させなければならない。
内政を充実させるには、広い土地がいる。
そして………その土地を手に入れるためには戦力が必要。
まさに堂々巡り。
現状は、八方塞がりの状況だ。
打開するためには、考え方を根本から変える必要がある。
今こそ、前世の経験を活かす時だ。
「まず、可能な限りレンジャーを増強する」
「司令官、それでは内政が…」
「わかっている。
だが、 まずは居住区の安全確保が先だ。
認めよう…我々はこの地を甘く見ていた。
その上で仕切り直すのだ」
「仕切り直し……ですか?」
「ああ、まずはレンジャーで防衛線を構築し、その内側で居住区を作り直す」
「なんと!?」
この地は入り組んでいるため、テント一つ取ってもきれいに並べれば良いわけではない。
コンパクト・シティー構想を用いて、最高効率の居住区に作り直す。
これなら、この狭い土地でも軍事と内政の両立が可能になるはずだ。
自身の考えを説明すると、部下の顔に希望が戻った。
手詰まりの状況を打開できる可能性が示され、士気が高まったようだ。
やる気があるのは良いことだ。
なにせ、これからは時間との戦いになる。
報告では、周辺に感染者の群れが確認されている。
これは、いずれ群れの襲撃が発生することを意味する。
それまでに十分な防衛体制を整えることが出来なければ負け。
なんだ、いつも通りじゃないか。
楽な作戦ではなかった。
そんな当たり前のことがわかっただけ。
そう考えると気持ちも少し落ち着いた。
その後、レンジャーに防衛を任せて、引きこもった。
作成した地図にグリット線を引いて、どこに何の施設を建設すれば効率が良いかを検討し再開発計画を立案する。
もちろん、兵士が移動するための進軍路を塞がないよう注意する。
効率を求めるあまり、道を途切れてしまい必要な場所に戦力を送れなくて居住区が滅びましたなんて笑い話にもならない。
そうやって出来た計画を基にテントを張り替え、施設を移動させていく。
こうする事で余剰なスペースが生まれる。
そのスペースに新たな施設を作ることで内政が回り始め、さらに多くの兵士を養うことが可能になる。
10日目
やれる事はやった。
現在、我々が確保している土地では、これ以上の発展は望めない。
これからは、増強した戦力で感染者から土地を少しずつ削り取っていかなければならない段階だ。
これで駄目なら、そもそもこの土地は攻略不可能ということになってしまう。
前線のすぐ後ろ、ギリギリまで開拓し、市民を住まわせている。
かつてないほどに感染の危険と隣り合わせの作戦となってしまったが、それでも文句も言わずに労働者として移住してきてくれる。
そんな市民の信頼に応えるために兵士たちが進軍を開始する。
その歩みは遅々としたものだった。
進軍という言葉から何百メートルも一気に進むような光景を想像しがちだが、実際はまったく違う。
激しい戦闘の末に、やっと数メートル前進できる。
それが戦争の現実だ。
そうやって進んでいく前線を追いかけるように居住区も拡大させる。
だから、すぐそこに感染者がいる状況は変わらない。
いつまで経っても崩壊と隣り合わせで、安全になんてならない。
それだけシビアな居住区運営が求められていた。
16日目
「偵察部隊から報告。
群れの一つが動き出しました!
その数、数十体。
この地に到達するのは、24時間後と予想されます」
ついに恐れていた報告が入った。
群れとの戦闘音で周辺の感染者も集まってしまうため、もう少し間引いておきたかった。
いや、愚痴を言っても仕方がない。
今できる最善を尽くすしかないのだから。
戦力は出来る限り強化してきた。
防壁は一重しか用意できていないが木の杭を使えば、今回の規模なら問題なく殲滅できるだろう。
この襲撃を乗り越えれば、この辺りも少しは安全になる。
サムライを運用できるようにもなるだろう。
ここが正念場だ。
誘導に向いているとは言い難い地形でレンジャーには負担を掛けてしまうが、乗り越えられなければ全てが終わってしまう。
覚悟して命令を下しているが、これだけは慣れないな。
慣れてはいけないとも思っている。
兵士や市民の死が単なる数字になってしまえば、私は凡百の司令官に堕ちてしまうだろうから。
後半戦、一つ目のマップです。
ゲームでも屈指の難所『ローランド』に相当するマップになります。
マップが狭いことが難易度に直結することを教えてくれるステージでした。