転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る 作:ソロモンは燃えている
中央棟に足を進めた彼らが目にしたものは、ガラスで出来た巨大な水槽であった。
緑色の薬液で満たされた水槽の中で眠る人…いや、人であったものの姿。
研究用のサンプルとして保存されていたのか、長い時の中で劣化し、身体が崩れかけている。
手前にあるボードの説明文を読んでみる。
ハルピュイア(ハーピー)
アメリカで開発されたワクチンを投与した患者が変異したことで生まれた種。
女性、特に妊婦は高い確率で変異することが判明している。
腕は翼のように変化しており、鋭いかぎ爪を持つ。
その姿から神話にちなんでハルピュイアと命名された。
「これがハーピーか…」
「感染を抑止するために開発されたワクチンが、新種の感染者を生み出す結果になったようですね」
「皮肉なことだ。
ワクチンが未完成だったのか……それともウイルスがワクチンに対応して変化してしまったのか」
「いずれにしても、古代人は自らの手で新たな脅威を生み出してしまったようです」
「朗報ではある。
ここでハーピーの研究が行われていたことが確定したのだ。
こいつの生態や弱点について記された資料があるかもしれない」
「ええ、探索を続けましょう」
彼らは希望を胸に探索を続行したが、その先で古代人の闇を目にすることになる。
中央棟を探索した結果、研究者や施設管理者のメモや手記を発見。
そこに記されていた内容が、おぞましいものだったのだ。
センター長の手記
今日も大量のワクチンが届いた。
碌に治験もせず、安全性が確認できていない薬剤が認可されるとは…我が国の指導者たちは、どれほどのマージンを受け取ったのやら。
なんとも羨ましい話だ。
だが、いずれ私の下にも莫大な金が転がり込んでくることになる。
部下の話では、このウイルスの解析に成功すれば不老不死すら夢ではないらしい。
世界中の権力者たちが、どれほど金を積んででも欲しがるだろう。
偉そうにしていた奴らが私に頭を下げる姿を見るのが待ち遠しい。
今回のワクチンも、せいぜい利用させてもらうことにしよう。
ワクチンを使用した患者が次々に変異を起こしている。
すでに各地で騒ぎが起きているようだ。
欠陥品でも掴まされたか。
同時に部下から興味深い報告も上がってきた。
ワクチンの投与は妊婦を優先して行われていたが、胎児は変異に耐えきれず流産となってしまう。
変異した母体は、その胎児の遺体に特別な反応を示すらしい。
ある程度、変異前の記憶や感情が残っているのかもしれない。
研究が進み、感染しても自我を保っていられるようになれば、あの生命力を我が物にできる。
とは言え、検体の確保は困難だ。
各地で暴れているハーピーと名付けられた新種は俊敏かつ凶暴で、生きたまま捕えるのはほぼ不可能だという。
例え成功したとしても肉体の損傷が酷く、長くは持たない。
なんとか新鮮な検体を確保できないものか。
部下から素晴らしい提案があった。
外部から検体を入手する必要などなかった。
手に入らないのなら、自前で用意すれば良かったのだ。
避難民の中にも妊婦は大勢いる。
彼女たちを使えば、新鮮な検体が得られる。
医学の発展のため、人類の未来のための貢献できるのだから彼女たちも本望だろう。
研究者のメモ
このウイルスは、なんて興味深いんだ!
アメリカで開発されたワクチンで新種が誕生した。
肉体をこれほど変化させるウイルスなど他では聞いたことがない。
ああ、もっと研究したい。
サンプルだ。
サンプルが足りない。
今日、診察に来た妊婦に栄養剤と偽りワクチンを投与した。
成果さえ出せばよいとセンター長も許可してくれた。
これで変異の過程を詳しく観察できる。
楽しみだなぁ。
きっと良い研究材料になってくれる。
入院させた妊婦たちが順調に変異している。
やる事は山積みだ。
サンプルを保存するためのカプセルや培養液を用意しなければ。
変異過程の記録、細胞組織の分析。
日々、新しいデータが得られている。
素晴らしい職場だ。
ここに就職して良かっ…
メモはここで終わっている。
最後のページは血で汚れていた。
おそらく書いている時に感染者に襲われたのだろう。
「なんてことを…古代人がこんな所業をしていたなんて…」
「上層部が腐っていたのか…上がこれでは感染者との戦争に勝てなかったのも道理だな。
自分で自分の首を絞めるようなことをしているのだから」
「こんなのが我々の先祖だなんて…」
「同じ轍を踏まぬよう、これを教訓にしなければならないな。
幸いなことに我が国の上層部は腐敗とは無縁だったが、そんな余裕がなかっただけとも言える。
開拓が順調に進んでいる今こそ、気を引き締めなければならない。
前線で戦っている司令官の足を引っ張ることだけは許されないのだから」
中央棟の探索では、様々な物が得られた。
医療に関する技術的な資料や器具など。
だが、なによりも人類の愚かさというものを知ることが出来た。
高い技術を持っていた古代人が、なぜ滅びたのか?
その理由の一端に触れた気がした。
探索チームは、続いて西棟に侵入する。
西棟はどうやら隔離病棟として機能していたらしく、多くの病室が並んでいた。
当然、感染者も多数いたが手慣れた様子で排除していく。
順調に進んでいく中、病室の一つにそれはいた。
その病室は、他とは様子が違っていた。
感染者の姿がないのだ。
代わりに病室の奥に白い影がうずくまっている。
探索チームがその白い影に気付いた時、白い影もこちらを認識していた。
弾かれたように白い影がこちらに向かってくる。
鉄砲衆が迎撃しようと試みるが…
「速すぎて照準が間に合わない!?」
白い影は、翼のように変化した腕を使って滑空し、地面を滑るようにして接近してきていた。
そのスピードは、目にも止まらぬと形容しても良いほどのものだった。
鉄砲衆が使う狙撃銃は、威力こそ高いものの取り回しが良いとは言えず、狙いを付ける前に接近を許してしまった。
間合いを詰めた白い影が、その鋭いかぎ爪を鉄砲衆に振るう。
まずい、回避を…速っ!…間に合わ…
鉄砲衆は、迫るかぎ爪を前にその身を引き裂かれることを覚悟した。
ガギィィィン!!
間一髪で身体を割り込ませたサムライの刀がかぎ爪を受け止めていた。
「こいつがハーピーか!
くっ、レンジャーと鉄砲衆は下がれ!」
襲いかかってきた白い影の正体はハーピーだった。
かぎ爪による一撃はサムライに止められたが、それで止まることなく次々に連撃を繰り出してくる。
目の前にいる人間を殺すこと以外眼中にないかのような姿は、まるで尽きることのない人に対する憎悪に突き動かされているように見える。
その勢いのまま、サムライと激しい接近戦を展開する。
刀や甲冑で受け止めることで膠着状態に持ち込めているのは、ハーピーが速さに特化しているが故に一撃の重さが軽いからだ。
だからと言って殺傷力が低い訳ではない。
その鋭いかぎ爪は、人間などあっという間にバラバラに切り裂いてしまうだろう。
重装甲のサムライだからこそ受け止めていられるのだ。
「駄目だ、サムライが近すぎて援護できない」
レンジャーも鉄砲衆も誤射を恐れて、この戦いに介入できずに見守ることしか出来ない。
離れろとも言えない。
ハーピーが見せた速さの前では、ただ隙を晒すだけの結果になってしまうと想像がついてしまうからだ。
サムライが2人掛かりで接近戦を行っているが、なかなか致命傷を与えることが出来ない。
華奢な外見でありながら、下手すればデブよりも体力があるかもしれない。
何度も何度も斬りつけて、ようやくハーピーが動かなくなった。
「…仕留めたようだな」
「ああ、そのようだ。
厄介な奴だったが、ここでハーピーとの戦闘を経験できたことは大きい」
この戦闘でハーピーの特性や危険度をある程度は知ることが出来た。
脅威ではあるが対処できない程でもない。
だが、巣に攻め入るなら多数のハーピーを同時に相手取ることになる。
感染者は種類を問わず、その物量こそが真の脅威なのだ。
無策で挑んでは、ただ蹂躙されるだけで終わる。
今回の経験は必ず役に立つ。
「そういえば、奴はうずくまって何かを抱え込んでいるような態勢だったな」
病室の奥、ハーピーがいた場所に足を進める。
そこにあったものは……古ぼけた小さな人形だった。
探索チームの面々の脳裏に中央棟で見つけたメモの内容が浮かぶ。
古代人は、妊婦を変異させていた。
あのハーピーは、この人形に失ってしまった我が子を投影していたのかもしれない。
そして、戦闘で見せた人間への憎しみも正当なものだったのではないか?
そんな風に思ってしまう。
「…それでも、負けるわけにはいかない。
この戦いに勝って、未来を手にするのは我々だ」
「そうですね…ですが、全てが終わった後に冥福を祈るくらいはしても良いのではないでしょうか」
「ああ…そうだな」
先ほど殺したハーピーの姿を思い描く。
ほんの僅かな時間だが、彼らは彼女のために祈りを捧げた。
「さて、もうここで得られるものはないだろう。
回収した物資をまとめて撤収するぞ」
いつまでも感傷に浸っている余裕はない。
軍人として気持ちを切り替えて、やるべき事を進めていくのだった。
日本疾病対策センターの探索……完了
リザルト
高度医療技術:怪我した兵士の前線復帰が早くなる。
兵士の体力も増強され、耐久値20%アップ。
ハーピーについての詳細情報(習性や戦闘方法など)
読切新聞
首相の英断!ワクチン、即時認可される
先日、アメリカでワクチンが開発されたことは記憶に新しいことでしょう。
この度、そのワクチンが我が国でも認可され、接種が開始される運びとなりました。
書類審査や臨床試験などを免除した異例のスピード認可に厚生労働省は反発を示していますが、我が社は首相の決断を支持します。
むしろ厚生労働省こそ悪しき前例踏襲主義に陥っていると批判せざるを得ない。
市民は、今も感染症の恐怖に晒され続けているのです。
そんな状況で、アメリカで既に使用されている薬を認可するための手続きに時間を掛けるなど無駄でしかありません。
我が社は市民を守るため、厚生労働省が余計なことをしないように声を上げ続け、メディアとしての使命を果たしていきます。
ゲームで近くに人間ユニットがいると防衛施設をガン無視して襲いかかってくるハーピーの人間に対する殺意の高さに色々想像した結果、こんな話になりました。