転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る 作:ソロモンは燃えている
探索において医療技術のみならず、ハーピーとの戦闘経験を得られたことは王国にとって僥倖であった。
ハーピーの巣が軍首脳の頭を悩ませる位置にあり、楽園開拓における最大の不確定要素となっていたからだ。
今回の件でハーピーに対して相性の良い兵種がサムライであると判明した。
レンジャーは、体力の高い上位感染者が相手ではどうしても火力不足になってしまう。
鉄砲衆は、火力は十分だがハーピーの動きが速すぎて照準が付けられない。
隊列を組んで弾幕を張れば弾を当てることは可能だろうが次弾装填の隙に距離を詰められてしまうだろう。
なによりサムライとの激しい接近戦が始まってしまえば、誤射を恐れておいそれと手出しできなくなる。
ハーピーには、サムライが正面から受け止めるしかないという結論だった。
こうして王国は向後の憂いを断ち、さらなる飛躍のためにハーピーの巣を攻略することを決定した。
1ヶ月後、ハーピーの巣攻略作戦が開始された。
いつも通り司令部を設置する。
ハーピーの巣は北東に位置しているが、間に山地があり、距離もあるためしばらくは接敵しない予定だ。
北上するためには西から回り込んで行くしかないが、まずはレンジャー部隊で東に領土を伸ばしていく。
レーダーに映る反応から、ハーピーの数は予想以上に多い。
対抗するためにはサムライの大部隊が要る。
群れの襲撃に対処するためにも軍備増強は必須。
それだけの人数を支えられる居住区を造る土地を確保するため、ハーピーとの戦闘を考慮しなくて済む司令部東側から開拓を始めたのだ。
開拓は順調に進み、十分な土地の確保に成功。
途中、東から群れの襲撃を受けるも問題なく対処に成功。
防衛施設も完成し、東の侵入路に対する備えも万全になったことで、いよいよハーピーの巣に向けて進軍を開始しようとした頃にソレはやってきた。
西側防壁
木の塔に配備されたレンジャーが接近してくる感染者を迎撃している。
「感染者の排除完了、周辺に敵影なし」
「想像していたより感染者が少ないですね…退屈なくらいだ」
「おいおい、気を抜くなよ。
地獄ってのは、いつも突然やってくるものだからな」
「まあまあ、新兵にはよくあることさ。
東側は順調だって話だからな。
そう遠くないうちに俺たちの出番が来る。
退屈なのは今だけってね」
「そうだな、覚悟しておけよ。
この先、嫌ってほど地獄を見ることになる」
「はっ、はい」
「ん?」
「どうした?」
「いや、向こうで何か動いたような…」
レンジャーの視線の先から、白い影が凄まじい速さで滑るように接近してきた。
「敵接近!
この速さ…ハーピーか!?」
「なんだと、もう来やがったのか!?
ええい、迎撃開始!
司令部にも報告しろ」
接近してくる白い影、ハーピーに矢を射かけるが、あまりの速さにほとんど当たらない。
「当たりません!」
「落ち着け、奴が壁を破壊するために止まったところを狙うんだ」
ハーピーは、すでに防壁の眼と鼻の先にまで到達している。
今回は誤射を気にする必要はない。
司令部からの援軍が来るまでに手傷くらいは与えられるだろう。
壁の破壊音に釣られて集まってくる感染者にも対応しなければならないのだ。
ハーピーは、できるだけ早く仕留めたい。
そんなレンジャーの思惑は、最悪の形で裏切られた。
ハーピーは、壁を破壊しなかったのだ。
壁の前まで来たハーピーは、そのまま両手を羽ばたかせながら飛び上がり、あっさりと防壁を飛び越えてしまった。
壁の内側に侵入したハーピーは、レンジャーたちがいる木の塔に見向きもせずテントへと向かってしまった。
「まずい、居住区が襲われる!」
レンジャーも木の塔から出て、ハーピーを追うが手遅れだった。
ハーピーはあまりに速く、テントはあまりに脆かった。
「………それで、どれくらいやられた?」
「はっ、テント6張りが汚染され、当時中にいた住民19名が感染。
急行した部隊が感染を封じ込めるまでにレンジャーが8名、サムライが1名戦死しました」
「やられたな…まさか防壁を飛び越えただけでなく、兵士を無視して住民が狙われるとは…」
汚染されたテントは、たまたま地形的な制約から他のテントから少し離れた場所に建てられていた。
そして、木の塔に配備されていたレンジャーたちが、さらに奥にあるテントが狙われないようにハーピーと感染者をその身を犠牲に部隊到着まで引き付けていてくれたからこそ感染拡大は阻止できた。
どちらかが欠けていれば、居住区は壊滅していたはずだ。
犠牲に囚われるな、司令官としての責務を全うしろ!
情報をアップデートするんだ。
ハーピーは、生半可な壁では飛び越えられてしまう。
そして…人の気配が強い方を優先して襲う。
木の塔にいた兵士たちを無視して、人数の多いテントに向かったこと。
その後、塔から出た兵士たちを狙い、奥のテントに向かわなかったことから考えて、おそらく間違っていないだろう。
二度と居住区への攻撃は許さない。
必ずハーピーの巣を撃滅してみせる。
強い決意を持って進軍を開始した。
先に進むほどハーピーによる散発的な襲撃が増えていった。
サムライを前線に展開させて迎え撃っているが、巣までまだかなりの距離があるのにこれか…
耳も良いということか。
遠く離れた場所で発生した僅かな音にも反応して襲いかかってくる。
厄介な特性だが、悪いことばかりでもない。
知ってさえいれば作戦に組み込める。
頭の中で巣攻略作戦が形作られつつあった。
巣の手前で陣地を構築した。
巣までは、まだ少し距離があるが十分だと判断していた。
これ以上時間を掛けられない事情もある。
ここに到達するまで度重なる襲撃を受けてきた。
襲撃の規模は、その都度増大してきた。
次の襲撃を許せば、ハーピーの相手をする余裕がなくなってしまうところまできていた。
これ以上、巣への攻撃を遅らせることは出来なかった。
厳しい状況に追い込まれているように見えるが、私に悲観はない。
必要な準備は、すでに終わっている。
後は実行するだけ。
兵士たちがやり遂げてくれる。
そう確信が持てるほどの信頼があった。
「攻撃………開始!」
ドォォォォォォン!!
号令と同時に1発の銃声が響く。
それは開戦を告げる号砲。
音に敏感なハーピーが巣から飛び出してくる。
迎え撃つは、50名のサムライ。
その後方に作られた木の塔から鉄砲衆50名が銃を構えている。
ハーピーの群れが射程距離に入った瞬間…
「撃てぇぇぇー!」
ドドドドドオオオン!!
鉄砲衆による斉射が行われた。
形成された弾幕がハーピーの群れを捉え、バタバタと倒れていく。
それだけではない。
ワスプを左右に配備し、十字砲火を浴びせる。
予想通り……ハーピーは、ワスプに向かうことなく一直線にサムライを目指している。
これほどの弾幕に晒されておきながら、サムライのところまでたどり着くハーピーの機動力は大したものだ。
だが、数を減らし、手傷を負った状態で勝てるほどサムライは弱くはないぞ。
サムライがハーピーの鋭いかぎ爪を刀や甲冑で受け止め、返す刀で斬りつけていく。
たちまち激しい接近戦が開始される。
サムライがいる限り、後方の塔にいる鉄砲衆は狙われない。
それ故に鉄砲衆は落ち着いて弾を込め、一定の間隔で銃撃を繰り返すことが出来る。
ワスプと鉄砲衆の銃撃によって、サムライのところまで到達するハーピーを減らす。
サムライが対処できる数の範囲に抑え込めれば私たちの勝ちだ。
そして、作戦は理想的な形で展開された。
巣の出口は狭くなっていたため、一度に大群が出てくることが出来ないようになっていたのだ。
剣戟と銃声の音によって、誘き出さなくても次々と巣から出てきてくれる。
我々は、ただ迎撃することに集中すれば良い。
何度も銃声が響き、剣戟と怒号が飛び交う戦場に静寂が訪れた。
巣からハーピーの出現が止まり、戦闘が終結したのだ。
ハーピーとの接近戦はサムライと言えど容易なものではなく、戦闘終結までに9人が命を落としていた。
その命を無駄にしないためにも、ここで止まるわけにはいかない。
生き残ったサムライが巣に突入し、残敵の掃討に入る。
鉄砲衆も塔から出て、サムライの援護にあたる。
懸念していた罠もなく、巣の奥に残っていたハーピーを駆逐したことで作戦は完了した。
ハーピーが全滅したことで、外部からの襲撃がピタリと止んだ。
ハーピーへの援軍だったのかもしれない。
だとすれば、全体の指揮を取る総司令官のような個体が存在する可能性も考えなければならないな。
作戦がはまり、優位を取れたにも関わらず無傷とはいかなかった。
敵は強大にして狡猾。
道の険しさは増すばかり。
それでも足を止めるわけにはいかない。
前世では半ば定型文と化していた安心安全な未来という言葉。
この世界では、どんな犠牲を払ってでも手に入れたいと皆が願っている。
人類の渇望と言っても良い。
そして、私自身の渇望でもある。
前世も、転生も関係ない。
この世界に産まれた一人の人間として、戦って、戦って、戦い抜いてやる。
まだ見ぬ感染者を指揮する存在に向かって、必勝を違うのだった。
ゲームのハーピーの巣とほぼ同じマップになります。
序盤でハーピーにテントを殴られた時は、展開の速さにえってなりました。
ベヘモスと並んで序盤に反応されたら壊滅してしまう厄介な敵ですね。