転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る 作:ソロモンは燃えている
西と南の安全を確保し、部隊をすべて東のクリアリングに投入したことで前線は少しずつ押し上げられてはいる。
しかし、東に進むほど感染者の圧力も強まり、前進のペースは鈍化していった。
それでも無理に前線を押し上げる指示は出せない。
居住区の住民は300人に達している。
ここで無理をして敗走することは許されない。
感染者の一部でも抜かれてしまえば、後ろにはほとんど無防備な居住区しかない。
バリケードもランナー相手には一時凌ぎにしかならないだろう。
計画的にテントを並べ、可能な限り居住区をコンパクトにしているが人口を増やすためには領土を拡張していかなければならない。
戦力を強化するにも防衛ラインを構築するのにも労働力が必要になる。
人口を増やさなければ始まらないのだ。
前線を押し上げる必要性は、レンジャー達も理解している。
一度、前線に赴き、レンジャー達の戦いをこの目で見た。
彼らの戦いぶりは初期の頃とは大きく異なっていた。
当初は少しずつ前進し、こちらに気づいて近づいてくる感染者に矢を射かけるだけだった。
だが、今は一人が囮となり感染者の注意を引き、他の者が後方から狙い射っている。
感染者は攻撃を受けても怯むことなく襲いかかってくる。
その習性をレンジャー達は逆手に取っていた。
どれほど攻撃を受けても、囮のレンジャーが距離を開けすぎなければ攻撃役に標的が移ることはない。
結果、攻撃役は安全かつ集中して感染者を射ることが可能になっていた。
ランナーと言っても、実際に見てみれば陸上選手のようなフォームで全力ダッシュしてくるわけではなかった。
身軽なレンジャーならば距離を取ることは難しくない。
ジグザグに動けば、感染者は一度立ち止まり、標的に向き直ってから再び走り始める。
森の中を走り回る訓練を積んだレンジャーであればランナーをその場に釘付けにすることも可能だった。
この新たな戦術は、部隊全体で共有されていた。
複数の部隊が囮役を交代しながら、一度に多くのランナーが反応しても安全に撃破できるように立ち回っている。
私は勘違いしていたのかもしれない。
前世の記憶を持ち、この世界の人々にはない知識や発想を持つ私がやらなければならないと思っていた。
そんな思い上がっていた頭をぶん殴られたような衝撃だった。
彼らは自ら新しい戦術を生み出していた。
人類の未来を切り開くために戦っているのは自分だけではなかった。
いや、前線で命懸けで感染者と戦っている彼らこそ本物の英雄なのだ。
彼らの戦術は洗練されていき、日を追うごとに前進速度は上がっていった。
30日目
全ての部隊を東側のクリアリングに投入してから2週間。
ついに目標としていた地点まで前進することに成功した。
ここに蓋をすれば、この辺り一帯の安全は確保される。
そうなれば居住区の開発も一気に進めることができる。
そう安堵する私を嘲笑うかのように悲報がもたらされた。
「東に伸びる道の向こうから走ってくる一団の姿が確認されただと?」
「はい、距離があったため正確な数は分かりませんが数十体はいると思われます」
私も報告に来たレンジャーも接近する一団が生存者だとは思っていない。
この世界で集団で走って移動するなど自殺行為でしかない。
ならば、これは感染者の群れ。
それもランナーで構築された群れだ。
南にいたウォーカーの群れなど比較にならない脅威がこちらに向かってきている。
「奴らがここに到達するまでどのくらいだ?」
「おそらく24時間といったところです」
それでは東の出口に防衛施設を建設する時間的猶予はないな。
今ある防衛施設に手を加えるだけで精一杯か…
後方の脅威がなくなってからはバリケードは東に集中させている。
住民を総動員すれば、戦闘準備は間に合うはず。
「司令官殿。
出口付近で迎え撃ち、後退しながら少しでも数を減らしますか?」
「いや、すでにこちらに向けて走っている群れに効果は低いだろう。
バリケードを利用した防衛戦を行う」
撤退しながらの攻撃は困難を極める上に効果も限定的だ。
本格的な防衛施設を建設する時間がない以上、バリケードを上手く使って切り抜けるしかない。
くそっ、なぜこうなった!?
こちらの存在に気づいたのか?
いや、周辺にいたウォーカーやランナーは近づかなければ反応しなかった。
はるか遠くから向かってきたのだからこちらを察知しての行動ではないはず。
たまたま、走り回っている群れの進行ルートだっただけか?
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
生き延びることだけを考えよう。
31日目
ランナーの群れはすぐそこまで迫っている。
やはり、群れの規模は数十体。
南にいたウォーカーの群れと同程度はありそうだ。
できる限りの準備はした。
後は信じるだけだ。
あの群れを殺し尽くせると…
バリケードの後ろで第1防衛部隊30名のレンジャーが弓を引き絞る。
群れが射程に入りしだい射撃を開始する。
狙いを付ける必要はない。
群れの密度は高く、隙間がないほど固まっている。
射てば当たる。
とにかく群れにダメージを与えることだけを考え、射ち続ける。
…やはり感染者は怯まない。
致命傷を与えた感染者は倒れているが、その屍を乗り越えて後続が次々と前に出てくる。
これがランナーの群れ。
ウォーカーとこれほど違うのか。
迫り来るランナー達の圧力を前に全てをかなぐり捨てて逃げ出したくなってしまう。
私は指揮官だ。
そんなことは許されない。
恐怖に負けそうになる心を叱咤し、戦況を見つめ続ける。
タイミングが全てだ。
早過ぎれば群れを削り切れない。
遅過ぎれば自軍に被害が出る。
どちらにせよ後の戦いに響いてしまう。
落ち着け、目を逸らすな。
先頭のランナーがバリケードに接触。
体に木の杭が突き刺さるが、やはり前進を止めようとしない。
後続に押され、その圧力でバリケードが軋みを上げている。
長くは持たない。
バリケードは何重にも並べられているが突破されるのは時間の問題だ。
「後退する!
全員、第2防衛ラインまで下がれ!」
ここで指示を出す。
30メートルほど後ろにもバリケードが並べられている。
中央は、後退してきたレンジャー部隊が通れるように空けてあるが、部隊が通過した後にバリケードをずらして塞ぐことになっている。
そして、第2防衛ラインに配置されている第2防衛部隊20名のレンジャーが第1防衛部隊の後退に合わせて攻撃を開始する。
バリケードに引っかかっている群れに矢の雨を降らせる。
バリケードによる足止めもかなり効果を上げているが、殲滅速度よりも群れの前進が早い。
ついにバリケードが突破された。
第1防衛部隊を後方の第3防衛ラインに向かわせる。
そこが最終防衛ラインだ。
そこより後ろには居住区がある。
これ以上は下がれないのだ。
まだ群れは半分も削れていない。
ここでもう少し粘るか?
いや、計画を急に変更すれば混乱が起きる。
皆を信じろ。
第2防衛ラインのバリケードに取りつかれたところで第2防衛部隊を後退させる。
第1防衛部隊からの援護射撃が始まる。
後退が完了し、部隊が合流する。
後は射ちまくるだけだ。
レンジャー達が指よ千切れよという勢いで射撃を続ける。
ほどなく第3防衛ラインのバリケードにも取りつかれた。
かなり数を減らすことに成功しているが、まだ多い。
ここで予備戦力を投入する。
補給部隊を護衛していたボウガン隊を中心とする志願した武装住民達だ。
王国からの補給でボウガンは30丁まで増えていた。
彼らはボウガンを射つ以外の訓練を受けていないため、後退を繰り返す撤退戦には投入できなかった。
そのため、この最終防衛ラインでの投入となった。
ランナーは目に見えるほど数を減らしている。
行けるか!
群れの殲滅が見えたことで気が緩んでしまったのか、3体のランナーにバリケードを突破されてしまった時、とっさに命令を出せなかった。
ランナーが武装住民に向かって走り始める。
ボウガンは装填中ですぐには対応できない状態だった。
レンジャーの射撃も間に合いそうにない。
感染が広がる絶体絶命のピンチだった。
「うおおおおぉぉぉぉ!!!」
そのピンチを救ったのは、使うことがないように祈りながら用意していた最終手段だった。
ボウガン隊の前に出た住民がランナーに木の槍を突き出した。
そう、木の槍で武装しただけの住民。
彼らがこの最終局面において壊滅の危機を救う働きをして見せたのだ。
「うーー、アーー」
感染者は槍で刺されたくらいでは止まらない。
槍がさらに深く食い込むのも気にせずに住民へと手を伸ばし、足を進ませようとする。
しかし、それ以上前には進めなかった。
彼らが手にした槍は、先を尖らせただけの簡素な物だったが、一つだけ手を加えられていた。
尖った切先から少し手前に短い木材を十字になるように取り付けている。
そのため、突き刺した後は刺股のように相手の動きを制限することができるようになっていた。
とはいえ、感染者は力任せに接近しようと動き続けている。
いつまで槍が保つか分からない。
「早く止めを!」
私の命令に残りの槍部隊が動く。
「うわあああぁぁぁ!!!」
複数の槍に貫かれたことでさすがに絶命し、動きを止める感染者達。
辺りに静寂が流れる。
動く感染者は……もういない。
「……勝ったのか?」
「…そう……だよな」
「勝った、俺たちが勝ったんだ!」
「「「「わあああああああ!!」」」」
レンジャーや住民達から歓声が上がる。
まだ最初の危機を切り抜けただけ。
私自身、自分の至らなさを何度も突きつけられた戦いだった。
だけど……今、それを言うのは野暮というものだ。
束の間だけど、今だけはこの勝利の余韻に浸ってもいいだろう。
この戦争はまだまだ続くのだから…
ウェーブを乗り切り、最初のマップをクリアです。