転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る 作:ソロモンは燃えている
東京方面への進出を決めた我々の前に立ち塞がったものは、巨大な廃墟群だった。
これまでとは比較にならない規模のそれは、まさに死者の街と呼ぶに相応しい。
さらに、廃墟群を前にして拠点を設置できる土地が狭く、十分な戦力を確保する前に廃墟との戦争を強いられることになる。
攻略など不可能ではないかと思ってしまうほど条件は悪いが避けては通れない。
アルファが潜む東京の中心部に向かうためには、ここを攻略して橋頭堡となる居住区を築かなければならないのだから。
かつてなら無謀と言われていただろう。
だが、勝算もなく挑むわけではない。
少し前に王国で新たな施設が稼働していた。
これまでの戦いで蓄積された戦訓を基に最適化された高度な訓練を行える訓練所。
そこを卒業した兵士は、新兵でありながらベテランにも負けない実力を持つと言う。
曰く、
兵士たちの質は、かつてないほどにまで高まっていた。
寡兵で廃墟と戦わなくてはならなくとも、今ならやり様があるのだ。
全ての準備が整い、死者の街へと足を踏み入れた。
視線の先には、どこまで続いているのか分からないほど立ち並んだ廃墟がある。
直接目にして、改めて桁違いの規模だと実感する。
それでも…ここで勝てないようでは、到底アルファには届かない。
勝たねばならない戦いか…
思えば、そうではない戦いなど一度もなかった。
人類は常に崖っぷちだ。
なにせ、奴らは何十億もいるのだから。
なにも変わらないのだから、いつも通り始めよう。
司令部を設置し、レンジャーに周辺の感染者の殲滅を命じる。
テントで確保した労働者を用いて製材所や狩猟小屋を建設し、木材と食料の自給自足体制を作っていくが、それもすぐに頭打ちになる。
なにせ、使える土地が少ないのだ。
前線は、すでに廃墟を刺激しないギリギリの所まで来ている。
この貧弱な後方支援で廃墟と正面から殴り合わなければならない。
だからこそ最高効率が求められる。
防壁を造り、その後方にバリスタを組み立てていく。
4基のバリスタと20人のレンジャー部隊、これが現状で支えられるギリギリの戦力だった。
目の前の廃墟を潰さなければ、これ以上の居住区の発展はない。
故に廃墟との開戦を決意した。
バリスタで一番手前の廃墟に攻撃を仕掛ける。
瞬時に反応して、廃墟から大量の感染者が飛び出してきた。
ここで焦ってはいけない。
細心の注意を払って、直接攻撃する廃墟を一つに絞らなければならないのだ。
周りの廃墟も戦闘音に反応して感染者を吐き出し始めるが、直接攻撃を受けている廃墟ほど激しい反応ではない。
誤って同時に複数の廃墟を攻撃してしまうと、今の戦力では耐え切れない数の感染者に襲われることになる。
戦力の乏しい作戦序盤は、特に慎重に進めなければならない。
防壁に群がる感染者たちをバリスタとレンジャーの矢で駆逐していく。
やがて新たな感染者を吐き出さなくなり、廃墟そのものも度重なる攻撃を受けて崩れ落ちた。
ようやく一つ、廃墟の攻略が終わったのだ。
だが、まだまだ数えるのも億劫なほど廃墟が残っている。
戦闘中に備蓄しておいた資源を用い、前線の少し前に新たに2基のバリスタを配備した。
そして、一つ奥の廃墟に攻撃を行う。
バリスタの数が増えたことで感染者の殲滅ペースが上がる。
程なく2個目の廃墟の破壊に成功。
後方のバリスタを順次解体し、前線に移動させる。
バリスタを解体したことで空いたスペースに、テントなどの施設を建設し、内政も進めていく。
内政に使える土地が広くなれば、前線に投入できる戦力も増やせる。
こうやって、少しずつ前線を押し上げるペースを速めていくのだ。
前線を押し上げるほど複数の廃墟を同時に相手にしなければならない場面が増えてきた。
だが、投入できる戦力もまた増えているため、進軍ペースはむしろ上がっていた。
前進して戦い、勝利したらまた前進する。
なぜ、それほど先を急ぐのか?
それは、時間が経つほど状況が悪化していくからだ。
16日目
「周辺の群れの一つが進路を変えました。
襲撃です!」
死者の街の向こうから、新たな死者の軍勢が迫っていると報告が上がる。
時間は、我々の味方ではない。
これから先、敵の攻撃は苛烈になるばかりなのだから…
「今の廃墟との戦闘が終わり次第、進軍を停止。
群れを迎え撃つ態勢を整える」
戦闘が落ち着いたタイミングを見計らって、矢継ぎ早に指示を出していく。
防壁の修復、群れの予想到達地点を中心に杭の罠を設置。
レンジャー部隊も集結させておく。
廃墟群が入り組んでおり、どんな経路を取るか不明確だったが予想からあまり外れていない地点に群れは到達した。
廃墟と廃墟の間から次々と姿を見せる感染者たち。
たちまち防壁の前で激しい戦闘が展開される。
廃墟をチクチクと突いていた時とは桁違いの圧力だ。
それでも、負けるわけにはいかないと必死で群れに抗う。
木の杭が壊れ、防壁はボロボロになり、いくつかのバリスタが機能を停止してしまった頃、ようやく群れの襲撃が終わった。
その総数、実に500を超えていたのではないか?
一度目の襲撃でこれか。
おそらく進路上の感染者を取り込んでいたのだろうが、それでも多い。
奴らもこれまでとは違うと言うことか。
廃墟の攻略を急がなければ…
廃墟を残した状態で総攻撃が始まってしまえば、どこまで数が膨れ上がるか分からない。
損傷したバリスタを修復し、廃墟攻略を再開する。
心に僅かな不安を抱えつつも、攻略は順調に進んだ。
前線を押し上げるほど後方も充実し、鉄砲衆を投入できる程になり前線での戦いはさらに安定した。
27日目に起きた2度目の襲撃では、1000に近い感染者が襲来したが、火焔砲塔が間に合ったこともあり、無事に殲滅することが出来た。
何もかもが順調で、このまま押し切れるのではないかと思ってしまった。
この世界がそんなに生易しいはずがないと言うのに…
36日目
「王国から緊急電!
アルファの信号が検出されました」
「ついに来たか。
偵察部隊、周辺の群れに動きはないか?」
「こちら偵察部隊、群れの動きに特にこれと言った変化は……こ、これは!?」
「どうした!?」
「複数の強力な反応が接近中。
この反応は……鬼です!」
「鬼だと!数は!?」
「反応の数は………10体です」
「…10体の鬼」
目の前が暗くなる。
絶望的な戦力だ。
一体の鬼にすら、あれほど手古摺ったと言うのに。
いや、鬼単体ならそこまでの脅威ではないのだ。
問題は、ここには大量の廃墟があること。
鬼は、周辺の感染者を呼び集めてしまう。
鬼を仕留めない限り、感染者が無尽蔵に増え続けていくことになる。
「鬼の位置はどうなっている?
一塊となって、一度に来てしまうのか?」
もしそうなら、完全に勝ち目は消える。
「いえ、反応はばらけていて、到達時間にはズレが出ると思われます」
「…そうか」
最悪ではない。
前線に到達した鬼を素早く各個撃破していくことが出来れば、切り抜けられるかもしれない。
無茶を言っている自覚はある。
成功させるためには、一体幾つ奇跡が必要だろうか。
だが、逃げることは出来ない。
逃げても、鬼の速度を考えれば、撤退中に追いつかれて壊滅的な被害が出てしまうだろう。
どれほど絶望的でも、ここで踏みとどまって戦わなければ未来はないのだ。
「来ました、鬼です」
鬼の侵攻速度は速く、対策を取る時間も碌に取れなかった。
「鬼を最優先目標に……全ての火力を集中させるんだ!」
この程度のことしか出来ることがないのが実情だ。
バリスタや鉄砲衆が必死に撃ち込んでいるが、なかなか決定打にならない。
ほとんど効果はないが、少しでも目眩しになればとレンジャーまで攻撃に参加している。
その甲斐あってか、咆哮だけは防げている状況だ。
このまま仕留めることが出来れば…
「2体目、来ます」
「そんな、速すぎる!」
ぐおおおおおおおおおおお!!!
2体目に咆哮を許してしまった。
周辺の廃墟から、感染者が大挙して押し寄せてくる。
ここまでか…
感染者によって防壁が破壊されるのは時間の問題。
感染者の迎撃に集中すれば、今度は鬼が野放しになってしまう。
鬼を倒さない限り、この状況は悪化し続ける。
そして、鬼を倒せても、後続がまだまだいるのだ。
実際、視線の先に3体目の姿が見えた。
鬼の速さなら、すぐに到達してしまう。
最早、滅びを見届けるしか出来ることはない。
私は絶望で崩れ落ち、膝を付いていた。