転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る 作:ソロモンは燃えている
防壁の前には大地を埋め尽くすほどの感染者の群れ。
それに加えて鬼までが防壁に迫りつつある。
駄目だ、打開策が浮かばない。
今ある防衛施設は大量の感染者を相手にする想定で用意したもの。
鬼のような強力な個体を相手にするための瞬間的な火力には乏しい。
「諦めるな!」
膝から崩れ落ち、絶望の沼に沈みかけた私の耳に、この場にいるはずのない男の声が届いた。
この声は、サムライ隊長?
何故、彼がここに?
今回の作戦は、廃墟と正面からの殴り合いになるため、接近戦はあまりに危険と判断してレンジャーと鉄砲衆を主力とした。
何より、彼は王国で次の作戦『アルファ討伐作戦』のために軍の再編をしているはずだ。
顔を上げ、戦場に視線を戻した時、信じ難き光景を見ることになった。
そこには、身の丈3メートルに達する巨躯の男たちがいた。
武者鎧に身を包み、手に握っているのは大太刀か…
彼らが持てば、長大な大太刀が普通の刀のようだ。
「使ったと言うのか……あれを」
疑う余地もない。
彼らは、鬼人化薬を使用してしまったのだ。
「鬼は、我らに任せろ!」
防壁から飛び出し、戦場へと降り立ったサムライ隊長たち3人は、迷うことなく鬼へと向かった。
鬼もまた、自分と同等の力を持つ存在だと感じ取ったのか、その場でサムライ隊長たちを迎え撃つ。
彼らが激突し、たちまち激しい剣戟の応酬が始まる。
サムライ隊長は、戦いの中で敵である鬼に哀れみを感じていた。
鬼は圧倒的な身体能力と反応速度を持っている。
だが、それだけなのだ。
繰り出す攻撃に技と呼べるようなものはなかった。
かつて相対した時は、その力に抗しきれず飲み込まれて重症を負った。
今は違う。
鬼人と化したこの身には、鬼と同等の身体能力と反応速度がある。
「力なき一般人だったお前たちとは違うのだ。
サムライとして剣術を磨き続けてきた。
我らは鬼人にあらず……鬼武者なり!」
戦いの天秤は、あっという間にサムライ隊長…いや、鬼武者に傾いた。
攻撃が届くのは常に鬼武者の方。
肉体的な能力は互角。
故に磨き上げてきた武が勝負を分ける。
一対一の状況では、鬼武者が圧倒していた。
サムライ隊長だった男に言いたいことはある。
だが、今は全て棚上げする。
やるべき事をするのだ。
勝たねば、問い詰めることも出来ないのだから…
「鬼は、鬼武者に任せる!
標的を感染者に戻せ。
彼らが鬼の対処に集中できるよう、感染者は我らが討つ!」
「「「「了解!」」」」
目の前で人間であることを捨てた男たちが最も危険な場所で最も危険な敵を相手に戦っている。
これで奮い立てない兵士など、ここにはいない。
後続の鬼たちが到着しつつあるが、鬼武者たちは武と連携を持って各個撃破に成功している。
勝ち筋はもう見えている。
それをもたらしてくれた鬼武者たちの負担を少しでも軽くしようと兵士たちも奮闘する。
感染者の殲滅速度が上がっていった。
数時間にわたる激戦の末、鬼と感染者は殲滅された。
被害は驚くほど軽微だった。
鬼の襲来を聞いた時には、敗走の末に市民も含めて壊滅を覚悟したと言うのに…
潰えかけた人類の灯火を守った男たちが目の前にいる。
彼らの献身がなければ、私も死んでいた。
こんな事を言えた立場でないのは理解している。
それでも言わずにはいれなかった。
「なぜ鬼人化薬を使った?
あれは…」
「まず自分が使うはずだった…か?」
サムライ隊長だった男の静かな言葉に遮られた。
「ああ、そのために封印したのに…
その大太刀も鎧も、すぐに手配しなければ間に合わなかったはず。
どうして、そんな事を…」
「ふっ、鬼人化薬を最大限に活用するには、最強のサムライである我らが使うのが最善。
お前は司令官として優秀ではあるが、前線で戦う兵士としての才能はない」
そんな事は分かっている。
身体を鍛え、戦闘訓練もした。
兵士としては不適格で、返って足手纏いになると評価された。
「お前には家族が…子供がいるのではなかったのか!
なのに…人間ではないものになるなんて」
サムライ隊長だった男は、優しい笑みを浮かべた。
「息子がな…サムライになりたいと言いだした。
私に憧れて、私のように人類を守る切先になるのだと」
その言葉を聞いて何も言えなくなった。
彼が何を思って鬼武者になったのかを察してしまったのだ。
「アルファのことは聞いている。
この作戦が終われば、次はアルファ討伐に乗り出すことも…」
アルファの存在は機密事項であり、王国でも限られた者にしか知らされていない。
軍の中枢にいた彼は、その一人だった。
「アルファ討伐が成れば、息子がサムライになる頃の戦場は今とは様変わりしているだろう。
作戦を成功させるためなら何だってする。
自然とそう考えるようになっていた。
他の二人も似たような理由だ」
感染者の数が膨大なため、この戦争は簡単には終わらない。
それでも、感染者が戦術的行動を取らなくなれば戦場の危険度は格段に低下する。
頭では理解できる。
これが最善だったと。
「そんな顔をするな。
妻も息子も、変わってしまった私を受け入れてくれた。
どんなに姿が変わっても、家族であることは変わらないと。
私は何も失ってなどない」
強いな。
彼だけでなく、彼の家族も…
これが人間の強さか。
人間であることを辞めさせてしまった?
違う!
彼は人間だ。
どれほど姿が変わろうと人間以外の何者でもない。
鬼武者たちの顔に一片の後悔もない。
自分達の力を存分に使えと語っていた。
その後、最大の危機を乗り越えたことで攻略は順調に進み、廃墟も残り2割を残すまでになった。
「大規模な群れが接近!
残りの廃墟からも一斉に感染者の出現が始まりました。
総攻撃です」
そろそろ来ると思っていた。
出来れば総攻撃の前に廃墟を全て攻略しておきたかったところだが、そう上手くはいかないか。
「全兵力を前線に配置。
防衛戦に備えろ!」
後方地域を確保するほど前線の設備を充実させることが出来る。
廃墟の8割を攻略したことでかなりの領土を得ている。
強固な石の壁を3重にして、バリスタだけでなく火焔砲塔も配置することが可能になった。
出来る限りの準備は整えた。
後は、アルファがこの地にどれ程の戦力を用意しているかだ。
感染者の群れが防壁に到達し、防衛戦力をフル稼働させて戦闘を行っている中で…
持たないな。
感染者と長く戦ってきた経験から感覚で分かる。
感染者の圧力が強く、このままでは防衛線が抜かれる。
だが、鬼の襲来の時のような絶望はない。
「防衛線に近い外縁部の施設を撤去、第2防衛線の建設を始める。
軍は後退しながら遅滞戦闘に努めよ」
第1防衛線は、十分な時間をかけて構築した分、かなり強固な造りになっている。
いずれ抜かれるだろうがかなり時間を稼げるはずだ。
それに比べて、第2防衛線は時間がないため急造のものになってしまう。
木の壁とバリスタが中心になる。
第1防衛線ほどの防御力はない。
だから…
「第2防衛線の目処が立ったなら、更に後方の施設を撤去して第3防衛線の建設に着手するんだ」
施設を撤去すると言うことは、生産力の低下を意味する。
生産力をギリギリまで維持するために段階的に撤去を進めていく。
同時に住民も後方に避難させる。
防衛線を突破された時の被害を抑える意味もあるが、住民が寝泊まりするテントなどの施設が物理的になくなったからでもある。
防衛線の建造と後退を繰り返していると…
「圧力が消えた…」
あれほどいた感染者の密度が低下して、防壁に取り付く前に殲滅できるようになっていた。
最終的に第4防壁まで侵攻されてしまったが、そこで感染者は打ち止めになった。
「良し、反転攻勢に出る。
戦線を一気に押し戻すのだ!」
すでに廃墟は空になっている。
守りを気にする必要はない。
「感染者の排除が終わったところから防衛施設を撤去。
民間施設を再建する。
退避させた住民も呼び戻せ」
今回の作戦は、廃墟群の攻略だけではない。
アルファ討伐作戦のための橋頭堡となる大規模な開拓地の建設だ。
総攻撃を耐え抜いたことで、この付近は一時的に空白地帯となっている。
この機を逃さず一気に開拓地を完成させる。
10日後
軍事に割いていたリソースも残らず内政に注ぎ込んだことで十分な規模の開拓地が完成した。
今回の作戦でアルファの存在も確定した。
次の作戦が人類にとっての天王山となる。
無論、懸念もある。
アルファは、今までにない動きを見せた。
本格的に動き出す前に奴の喉笛に刃を突き立てなければ。
そんな焦燥が心を焦がす。
どれほど気が急いても、出来ることをするしかない。
王国は、総力を上げて作戦準備に邁進している。
私に出来ることは最悪の事態に備えて作戦を考えること。
アルファよ、我々は古代人とは違う。
未来を掴むのは人類だと教えてやる。
鬼武者は、ゲームでのミュータントに相当するユニットです。
活躍の場が少なかったミュータントなので、この作品では存分に活躍してもらいます。