転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る   作:ソロモンは燃えている

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転生した私と天空の塔 その2

 

 

 

 南へと広がる未開の地は、軍拡するための莫大な富をもたらす約束の地であると同時に、底なしの泥沼でもあった。

 レンジャーたちが一歩一歩、泥を掻き分けるように戦線を押し上げるごとに、その後を追うようにテントを張り、生産施設を建設していく。

 途中、石場を発見し、資源の回収量は劇的に向上したが、それに比例して守るべき防衛線の長さは伸びていった。

 

 

 20日目

 

「偵察部隊から報告!

 南東よりランナーとエリートの群れが侵入、第1波を遥かに凌駕する規模……およそ1000、いえ、さらに膨れ上がっています!」

 

「南東だと……?嫌な方向から来たな」

 

 南東方向には、複雑に入り組んだ瓦礫の山と深い森が広がっている。

 視界は最悪で、ここから群れの様子を確認することは不可能。

 センサーの反応を頼りに群れの動きを推察するしかない。

 

「センサーの反応が広がっています。

 おそらく群れが二つに分かれています。

 一方はそのまま南の防衛線を直撃、もう一方は……北上して東の裏口に向かっていると思われます」

 

「……挟み撃ちか。

 高崎市攻略の時と同じ、地形が最悪の形で作用したな」

 

 戦慄が走る。

 南の防衛線は、まだ制圧の半ばでバリスタの配備が完了していない。

 対して東の裏口は、少数のワスプで封鎖しているとはいえ、千を越える群れの半分を受け止められるほどの余裕はない。

 

 もし東が突破されれば、司令部の背後を突かれてしまう。

 だが、南の戦力を東へ回せば、今度は拡張したばかりの生産拠点を守る戦力が不足することになる。

 

「レンジャー隊長、君はそのまま南部でバリスタを増設、防衛に当たってくれ」

 

「了解しました。

 ですが、東はどうしますか?」

 

 通信越しの声には、動揺の色はない。

 それだけ信頼されているということだ。

 

「東は私が指揮を取る。

 ワスプの追加配備と防壁を建設し、狭くなっている地形を利用すれば、増援がなくとも守りきれるはずだ」

 

「危険すぎます。

 司令官が死ねば、王国の未来が閉ざされてしまいます。

 こちらから少し兵士を……」

 

「必要ない。

 むしろ、戦力の不足はそちらの方が深刻なはずだ」

 

「……了解しました」

 

 兵士を使わず、ワスプと防壁だけでの対処に不安はあるようだが、南の方が困難な状況なのだ。

 そこから兵士を引き抜くわけにはいかない。

 群れが到達する前に防壁を完成させるべく、急ピッチで作業を進めていく。

 今、私に出来ることはこれしかないのだから。

 

 

 森の奥から、地鳴りのような咆哮が響き渡った。

 数百もの足音が乾いた空気を震わせている。

 東からランナーとエリートの混成部隊が牙を剥こうとしていた。

 向こうはレンジャー隊長に任せるしかない。

 

 

 

 24時間後

 

 

 司令部東の回廊に築いた防壁に感染者の群れが到達した。

 防衛のために増設されたワスプが射程に入ってきた感染者に向けて火を噴き始める。

 

 この圧力なら守り切れる。

 後は…運だな。

 

 私は、敵の戦力を見切り、イレギュラーがなければこのまま殲滅できると確信していた。

 狭い回廊の中では、感染者も数の利を活かせない。

 ワスプの時間辺りの殲滅力が感染者が押し寄せる速さを上回っているのだ。

 

 だが、それは危険な賭けでもあった。

 北東にいる鬼が増設されたワスプの出す戦闘音に反応してしまえば、この均衡は一瞬で瓦解する。

 距離があるとはいえ、これまでの経験から絶対はないと思い知らされてきた。

 

 鬼に対して優位を取れる鬼武者も、現段階では投入できない。

 鬼をも凌駕する戦闘力を誇る反面、その強化された生命力が発する気配は広範囲から感染者を集めてしまう。

 後方支援が乏しく、維持できる戦力が限られる作戦序盤では、逆に居住区の崩壊を招く結果になる。

 

 強力な戦力ではあるが、戦力が充実し、作戦エリアの制圧を目的とする終盤にしか使えない。

 鬼武者とは、そういう戦力だった。

 

 とは言え、鬼が反応する可能性は低い。

 南の方が苦しい戦いになるだろう。

 少し前に南の防壁に感染者が到達したと報告があった。

 レンジャー隊長の負担は大きい。

 だが、彼なら守り切ってくれる。

 そう信じて、目の前の戦闘に意識を集中させる。

 

 

 

 南部、防衛線

 

 防壁に迫る黒い津波のような感染者の群れ。

 その数は千に達しているかもしれない。

 

「2つに分かれて、この数か…」

 

 防衛の指揮を取るレンジャー隊長は、物量こそが感染者の最大の脅威であると改めて思い知らされた。

 南部の開けた土地に進出したことで防衛線が伸び切ってしまい、防御は薄くなっている。

 群れの進軍ルートを予測し、会敵予想地点の防壁は増築しているが、この群れの前では焼け石に水にしかならない。

 

「それでも…守り切らなければならない」

 

 この危機を乗り越えれば、作戦は次の段階に進める。

 ある程度の後方支援態勢が整い、サムライや鉄砲衆の集結が始まっているのだ。

 これから先、戦闘の主力は彼らに移行していく。

 だからこそ、ここで我々が流れを止めるわけにはいかない。

 

「囮役が群れの前に進出。

 誘導を開始します!」

 

 防壁の前には、可能な限り木の杭が敷き詰められている。

 囮役のレンジャーがそこに誘導し、群れの勢いが鈍ったところにバリスタを中心に攻撃を仕掛ける。

 これが、防衛部隊にできる最善の戦術。

 作戦序盤の襲撃ならこれで殲滅できていた。

 

 しかし…

 

「くっ、ダメです。

 圧力が強い。

 すでに防壁まで押し込まれています」

 

「このままでは、壁が保ちません」

 

 木の杭は、まだ機能している。

 バリスタやレンジャー部隊も全力で攻撃している。

 それでも抗しきれずに壁に到達されてしまった。

 そして、一度壁に取り付かれてしまえば囮のレンジャーに出来ることは少ない。

 

 壁の内側に戻るか…それとも…

 

 

「隊長、後は頼みます!」

 

 囮役だったレンジャーが群れの一部を引き連れて南に走っていく。

 生還する望みのない、最後の疾走だ。

 

「次は、私が行くわ!」

 

 彼が後続の一部を引っ張って行ったことで防壁前の圧力が一時的に緩んだ。

 その隙に取り付いた感染者を一掃し、再び誘導し、群れの拘束を試みる。

 

「それだけじゃ足りない。

 俺たちも行くぞ!」

 

 状況が変わってない以上、すぐに壁に取り付かれてしまう。

 それを避けるために数人のレンジャーが後方に回り込み、最初の囮役と同じように群れの一部を引き離しにかかる。

 その献身により、辛うじて群れの拘束は成功していた。

 

「隊長、木の杭はすでにほとんど壊れています。

 これ以上は…」

 

「…分かっている。

 やむを得ん、後方に第2防壁の準備を」

 

 せっかく築いた居住区の一部を撤去する決断だった。

 居住区の発展にブレーキを掛けてしまうことに忸怩たる思いがある。

 しかし、ここを抜かれて居住区を崩壊させては元も子もない。

 

 後は、ここで出来る限り時間を稼ぐ。

 

 そう、レンジャー隊長が決意した時…

 

 

「後退するな。

 我々が前に出る!」

 

 

 増築された防壁の一部が破壊され始めている。

 サムライたちが、その穴を塞ぐように立ち塞がっていた。

 

「な、何をしている!

 お前たちをここで消耗するわけには…」

 

 これから先、上位感染者が大挙して押し寄せることは確実だ。

 奴らに対抗できる戦力をここですり潰すことがどれ程マイナスになるか、ここまで戦ってきた者なら分かっているはずなのに…

 

「心配するな。

 次世代の芽は確実に育っている。

 なにより、これは俺たちにしかできない。

 この甲冑は伊達ではない。

 肉壁として前線を支え続けてみせる!」

 

 事実だった。

 軽装甲のレンジャーでは、全滅を覚悟してもサムライのように前線を維持できない。

 集結が始まったばかりで数が少ないサムライだが、かなり耐えてくれるだろう。

 

「無駄死にさせるつもりもないですよ」

 

 サムライと同じく集結が始まったばかりの鉄砲衆も前線に出てきた。

 彼らは、前線のサムライを的確に援護し始めた。

 大きな戦闘音が発生してしまうが、この状況では多少感染者が増えたところでメリットの方が上回る。

 

「レンジャー部隊、群れに全力で攻撃せよ!

 流れる血を少しでも減らすのだ」

 

 レンジャー部隊の攻撃が勢いを増す。

 この先、自分たちの役割はどんどん少なくなっていくのだ。

 バトンを託す相手のために死力を尽くすことなど最低限の義務だ。

 

 

 レンジャー、サムライ、鉄砲衆

 全ての兵種が全力で自分たちを滅ぼそうとする死の軍勢に抗った。

 重装甲のサムライと言えど犠牲を0には出来なかった。

 それでも、想定よりも遥かに少ない犠牲で襲撃を乗り切ることが出来た。

 

 

 程なく、東の防衛戦も幕を閉じた。

 幸いにも鬼が反応することはなかった。

 

 

 

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