「ハァッ!」
百合が気合を吐くと、その身体に変化が生じた。
全身が鈍色に染まり、ボリュームが増す。
膨張した表皮は硬質化して鎧となり、頭髪は顔を覆って硬質化する事で頭部全体をカバーする兜になる。
光沢を放つ表皮は、生体的な甲殻というよりはむしろ無機質な装甲を思わせる。
一瞬で、百合はアルマジロかセンザンコウを連想させる“装甲人間”になっていた。
「行きます!」
土を蹴り飛ばして、百合が突っ掛ける。
ヒルコウモリもそれに応じて突進。
そして激突。
競り勝ったのは……百合だ。
よろけるヒルコウモリに組み付き、手四つの形になる。
相手を圧倒するパワーを目の当たりにして、俺は百合に対する態度を改めるべきかと検討に入った。
劣勢のヒルコウモリの唇が尖る。
そこから生えたのは、牙から生成したのだろうか、小指程の太さの矢だった。
フッ!
恐らくは必殺の威力を持つであろう矢が、手四つのせいで両手が塞がり、身動きのとれない百合の目に迫る。
だがーーーー
甲高い金属音と共に、矢が宙を舞う。
さすがは要人警護用の改造人間。
百合の装甲には傷一つ無かった。
更に百合が押す。
二人の顔が密着しそうな程に接近し、ヒルコウモリの両腕は限界まで捻られる。
ヒルコウモリは咄嗟に百合の首筋に牙を立てるが、やはり装甲に阻まれる。
文字通り歯が立たない状態だ。
「大人しくお帰りいただければ、これ以上の危害は加えませんが、如何でしょうか?」
ヒルコウモリの手指がミシミシと異音を立てる中で、冷静かつ慇懃な百合の声が背筋を寒くさせる。
しかし、返答は意外な内容だった。
「パワーと装甲しか能の無い脳筋女が、調子に乗るんじゃねぇよ」
言うが早いか、ヒルコウモリは今度は唾を放った。
百合の頬に唾液が当たる。
挑発の為かと思ったそれは、立派な武器だった。
白煙を上げて、百合の装甲が溶け出す。
野郎、体内で溶解液を作る事が出来るのか!
表皮の装甲を溶かした唾液が、百合の本体に到達する。
「キャアアアァァァァァァ!」
静寂が支配していた山中に、百合の絶叫がこだました。
百合にヒルコウモリを押さえ続ける余裕は無かった。
両手を離し、頬を拭う。
腕の装甲の半分程も溶かして、溶解液は効果を失った。
が、その瞬間、今度は肩に唾液が掛かる。
再び上がる白煙。
のたうち回って地面に溶解液を擦り付ける百合に対して、ヒルコウモリは百合のもがきが一段落するのを待ってから追い打ちを掛ける。
形勢は完全に逆転していた。
百合は抵抗どころか変身状態を維持することも出来なくなり、あっさりヒルコウモリに組み伏された。