「ホンット〜に、あんたって人は……」
テーブルに積まれた課題の山を前に、恨みがましい目を向けてくる京子。
あの後、オレと京子は教授の部屋で散々に罵倒された挙句、大量の課題を押し付けられていた。
提出期限は明日。
物理的に不可能な量の課題を与えて、明日更にいたぶろうという魂胆がスケスケだ。
こんなもん、最初から手を付けるつもりは無い。
「文句ならあんな下痢止めみたいな講義をドヤ顔でぶつ教授に言ってくれ」
「下痢止め?」
「“くだらない”ってこと」
「教授の講義が下痢止めなら、あんたの冗談は下剤ね」
「?何だよそれ」
「"つまらない”ってこと」
ムムッ。
侮れない返しをしよる。
実際のところ、教授の講義は本気でつまらなかった。
“フィールドワークの達人”による新たな解釈、新たな発見を期待していたオレとしては、あの講義の内容は肩透かしという意外に表現のしようがないものだったのだ。
不満げなオレの表情を見て、京子が溜息を吐く。
「まだ追いかけてるの?お爺さんの話」
「あぁ、オレは確信してるからね。『仮面ライダー』の実在を」
オレの祖父、深海 総介(ふかみ そうすけ)は天才科学者だ。
ただし、「狂気の」という枕詞が付くが。
護身用武器と称して現役兵器も真っ青な代物を開発したり、医療用サイバネティクスを研究すると称して軍用サイボーグを組んでみたり……
しまいにはアニメみたいなビーム兵器を作ろうとしたついでに超高効率のエネルギー生産施設を作り出して、日本のエネルギー事情を劇的に改善したりしている。
そんな爺さんは子供の頃、既に天才ぶりを発揮していたそうで、その異常なまでの才能に目を付けた“悪の秘密結社”に誘拐された事があるらしい。
ショッカーと名乗るその組織は、『改造人間』と呼ばれる化物をパワーアップさせる為の研究に爺さんを利用しようとした。
まだ比較的マトモだった幼少期の爺さんは、ショッカーの魔の手から逃れようと、発明品を駆使して抵抗を試みた。
当初は撃退にも成功していたようだが、結局は多勢に無勢、爺さんは捕らわれの身となった。
協力するか、死か……
選択を迫られたその時、救いの手は差し伸べられた。
ショッカーを裏切った、二人の改造人間によって。
『仮面ライダー』を名乗った二人に対して、爺さんは彼等の専用バイクを開発したり、強化手術に手を貸すなどして協力し、遂にはショッカーを壊滅させることに成功したのだった。
この傍目にも怪しげな爺さんの“体験談”だが、オレはこのトンデモ話が現実にあったと思っている。
何を根拠にって?
そりゃ勿論爺さんの才能を知ってるから、さ。
爺さんはおよそ科学と呼ばれる分野にはほぼオールマイティーな才能を有していた。
が、そんな爺さんも文学的才能には恵まれなかった。
その壊滅的に悲劇的な文才もまた、子供の頃から変わっていない。
その“物語を創る能力”が毛ほども無い爺さんが、殊に『仮面ライダー』の事となると実に生き生きと、見て来たかの様にありありと話すのだ。
そりゃ実際に体験してると思うだろ?
かくして、純真無垢な少年だった幼き日のオレはじいさんの昔語りを聞いて以来「仮面ライダーに会いたい!」をスローガンに掲げて今まで生きてきたというワケだ。