俺は四肢を爪針で固定されたままの百合の元に戻った。
溶解液で受けたダメージは抜けたのか、目に力が戻っている。
「初陣勝利、おめでとうございます」
何と返していいか分からないので、敢えて返答はしない。
俺は爪針をなるべく動かさないように、地面から抜いた。
百合の脇と膝に手を入れ、いわゆる“お姫様抱っこ”で抱える。
全裸を晒しても動じなかった百合の顔が、一瞬で朱に染まった。
「いや、あの、私は大丈夫ですから!」
「一人で歩ける状態でもない奴が、大丈夫なもんかよ」
「いえ、この針を抜いて頂ければ、一人で歩けますから」
「どう見ても動脈を貫いてるだろうが。寝言は寝てから言え」
「大丈夫ですから!……抜いて、下さい」
神妙な顔で主張する以上、本当に大丈夫なんだろう。
俺は百合を信用してやる事にした。
百合を地面に降ろすと、四肢の爪針を引っこ抜く。
「くぅっ!」
苦鳴は漏れたが、血は流れなかった。
すぐに傷も塞がり、百合は傷もシミも無い真っ白な身体で立ち上がった。
「冗談みてぇな身体だな」
「そういうプレイを楽しまれる顧客の要望に応えて、らしいですよ」
どんなプレイかは聞かない事にする。
追っ手をやり過ごす為に身を隠すなどしながら山中を進み、俺達が国道のアスファルトに降り立った時には、辺りは蒼い闇に包まれていた。
と、数条の光が俺達を照らした。
異常なまでに煩いエンジン音が、俺達を取り囲む。
真上を向いたハンドルや突き出たカウル、誇張されたマフラー等を見るに“一般人”ではないようだ。
連中は俺達の格好ーーーーなんせ俺は百合に貫頭衣を渡して上半身裸、百合に至っては貫頭衣もヒルコウモリに剥ぎ取られたせいで全裸だーーーーを見るや、囃し立て始めた。
「よぉ兄ちゃん、アオカンに夢中で車でも盗まれたのか?」
「いい女連れてるじゃねぇか。俺等にもちょっと貸してくれや」
「女寄越すなら、近くのコンビニに送ってやらないでもないぜ」
「いや、男は要らねぇ。女だけ貰ってくぜ」
「男の方は……まぁ俺等のストレス解消にでもなってもらおうか」
だんだんと内容が物騒な方向に進んでいくのをガン無視して、俺と百合は相談を始める。
「えっと……反社会的な人達っぽいですけど……ヤっちゃいますか?」
「弱いものイジメは嫌いじゃないが、命まで取るこたぁねぇだろ」
「……どの程度までヤられます?」
「手足の3〜4本ならOK」
「かしこまりました」
どうやら向こうも方針が決まったようだ。
手に手に、金属バットや“バールのようなモノ”や鉄パイプなんぞを用意している。
一方的な暴行を夢想して殺到する馬鹿共が見たのは、俺達の笑顔だった。