本作に登場する人物や団体、製品名、国家や企業・宗教など全てのものに関して、実在の物とは一切関係ありません。
〜神子の戦士編〜1
走る。
走る。
走る。
真っ暗な森の中を、私は走る。
空は曇天。
星の明かりすらない闇。
最前までの小雨に濡れた落ち葉が、私の足を取ろうと罠を張る。
後ろで誰かの悲鳴。
あちらこちらで、「待って」「置いてかないで」「助けて」といった叫びが上がる。
助けたい。
けど、私にはその力が無い。
今は逃げるより他無い。
どれほど走ったか。
いつの間にか、落ち葉を踏む音は私の分だけになっていた。
他に聞こえるのは、自分の喘鳴のみ。
それでも私は走る。
音は聞こえない。
ただ、気配はあった。
私のすぐ後ろに。
振り返って確認する余裕も、勇気も無かった。
ただ走る。
今度は声がした。
吐息すら感じ取れそうな、背後から。
「ホ〜ラ、早ク逃ゲナイト、追イ付カレチャウヨ〜」
不気味に嗄れた、からかうような声。
「追イ付カレタラ……」
粘ついて腐臭を放つかの様な声に気を取られた瞬間、私は木の根に躓いて宙を泳いだ。
倒れ伏した私に、重みが掛かる。
何者かが、私に乗ったのだ。
「大変ナ事ニナッチャウヨォォォ」
私の顔の横からの声。
雲は晴れ、月明かりが辺りを照らしていた。
見てはいけない。
見てはいけない。
理性の警告を無視して、私は見た。
見てしまった。
腐った肉に、大量の木の枝やミミズやゴカイが絡み合った奇怪な顔。
窪んだ眼窩の一つは空っぽで、残った一つの目玉も腐汁に埋まっていた。
粘液塗れの目玉が、ギョロリと動いて私を映す。
何処かで悲鳴がした。
私が上げたものだった。
化物は楽しげに口を開き、虫や触手で構成された舌を私にーーーー
と、私の視界が赤に染まった。
それは、紅い手袋だった。
紅い手は、化物の顔面をホールドしていた。
そのまま、高々と持ち上げる。
化物が苦鳴を漏らした。
紅い手は、一人の人影に繋がっていた。
濃緑のライダースーツ。
白いベルト。
赤いマフラー。
そして、バッタを模した様な仮面。
バッタ仮面は化物を投げ飛ばすと、そいつ目掛けて突っ掛けた。
パンチが唸り、キックが炸裂する。
化物の繰り出す触手や粘液にも怯まず、圧倒的な武力で相手を翻弄。
弱った化物から距離を取ると、一跳びで距離を詰めて飛び蹴りを放った。
「ライダァァァァ、キィィィィィック!」
砕け散り、泡と消える化物。
バッタ仮面は私の傍にしゃがむと、化物の粘液に塗れた手袋をスーツで拭いて差し伸べた。
「よく頑張ったな、もう大丈夫だぜ」
表情は分からないのに、何故だか微笑んでいるのが感じられた。
大丈夫、この人は味方だ。
私は差し伸べられた手に手を伸ばしーーーー
ーーーー目を覚ました。