真面目に課題に取り組もうとしていた京子に激励の言葉を贈り、俺は愛車『クルーザー』に跨った。
クルーザーは爺さん謹製の超高性能大型バイクだ。
オレは16歳の誕生日を迎えた直後にバイクを買い、調子に乗ってカッ飛ばした挙句…………
……ものの見事に事故った。
生死の境を彷徨うほどの大怪我から回復したオレに爺さんが「絶対にコケないバイクをやる」とプレゼントしてくれたのがクルーザーだった。
クルーザーは車体中央下部から前後に伸びたアームの先端にタイヤが付いている。
アームには関節があり、それぞれ独立した動きが可能だ。
ホイールベースを縮めて車高を上げることすら可能で、オンロード/オフロードを問わず快適に走れる上に、バランスを崩しても自動で姿勢制御までしてくれる。
もう三年は乗ってるのに給油も必要としないのが唯一不安な、オレの相棒だ。
郊外の広大な敷地にポツンと建つ、一軒の建物。
一辺倒15メートルの白い立方体が、爺さんの研究所だ。
オレは爺さんからの「お前に素晴らしい誕生日プレゼントを用意したぞ。抜け出せるなら早退してでも研究所に来い」というメールを受けて、ここに来ていた。
そこはかとなく嫌な予感はするが、恩人の呼び出しをブッチするのも気が引ける。
敷地の端の駐車スペースにクルーザーを停め、研究所建屋まで1キロ程の遊歩道を歩く。
文明の利器に頼ってばかりいるなという教訓を含んだ設計だと爺さんは強弁しているが、半分は嫌がらせだろう事は想像に難くない。
建屋まで200メートルの位置まで来て、オレは異変に気付いた。
入り口のドアが、無い。
目を凝らすと、建物内でひしゃげたドアが紙屑みたいに転がってる様子が確認出来た。
ゾウかグリズリーにでも襲われたのか?
ここは郊外とはいえ、そんな秘境じゃねえぞ。
建物内に入ると、凄惨な光景が広がっていた。
竜巻でも発生したのかと見紛うほど、室内に散らかる機材。
その隙間に転がる、“白い血”に塗れた人体部品。
爺さんが造った、助手代わりの意思無きアンドロイドとはいえ、酷い事をしやがる。
オレは機材を乗り越え、建物中央のエレベーターを目指した。
この建物は「世間に向けて、当たり障りのない研究」を展開している、ダミーとも言うべき部分だ。
爺さんが本腰を入れて研究しているような「ヤバいブツ」は、地下500メートルの“本館”にある。
やはりと言うか、ボタンを押してもエレベーターが来る気配は無かった。
扉を力づくで開ける。
真っ暗なシャフトの中、ワイヤーが揺れている。
なんか、予想外の方向で嫌な予感が当たったなぁ。
オレは溜息を一つ吐くと、ワイヤーに飛びついた。