本作に登場する人物や団体、製品名、国家や企業・宗教など全てのものに関して、実在の物とは一切関係ありません。
〜邪神の戦士編〜1
僕の名前は神楽 衛児(かぐら えいじ)。
ごく普通の高校生だ。
成績は文武揃って中の中。
引っ込み思案で大人しい性格のせいで、一部の生徒から弄られている程度の、平凡な学生。
いや。
平凡な学生……だった。
あの日までは。
その日の放課後、“一部の生徒”に見咎められる事もなく家路についた僕は、ささやかな幸運を噛み締めていた。
(今日はいいことあるかも)
家に着けば外出もロクにしない僕にとっては意味の無い予感でも、我が家に向かう足取りは軽かった。
「神楽衛児くん?」
自宅近くの公園で声を掛けてきたのは、妖艶な色気を放つ妙齢の美女だった。
濃い目の化粧が似合う、彫りが深く整った顔形。
ウェーブの掛かった、長い黒髪。
肌は白かったが、古代エジプト人を彷彿とさせる美人だった。
風に乗って漂う甘い香りに、頭がクラクラする。
「はい」と答えたのかどうかも、ハッキリとは覚えてない。
僕は、美女の前で昏倒していた。
気が付くと、僕は真っ白な病室然とした部屋に寝かされていた。
身体は麻痺したかの様に動かない。
傍らには、さっきの美女。
ステンレス製の盆に何かを載せて、こちらを見下ろしている。
僕の身体を挟んで反対側には、一人の老人が立っていた。
何処かで見た顔だ。
確か、新興宗教か何かの教祖だ。
浮世離れした団体内での名前に驚いた記憶がある。
「これが、星辰の定めた日時に生まれた子供か」
「はい、デウス様」
そうだ、デウス。
ギリシャ神話の神の名を改変した名前を報道で聞いて、えも言われぬ気味悪さを感じたのだ。
デウスと呼ばれた老人は、身動きの取れない僕の身体を撫で回す。
その手つきに、全身が粟立つ。
「よろしい。では、始めようか」
言うが早いか、デウスは指を揃えた貫手を僕の胸に突き立てた。
手は何の抵抗もなく手首までめり込む。
痛みは無い。
抵抗することも、泣き叫ぶことも出来ない中で、デウスの手は僕の内部を弄り……信じられない物を取り出した。
それは、赤く脈打つ臓器ーーーー僕の心臓だった。
なんでまだ、僕は生きているのだろう?
それとも、もう死んでいるのか?
心臓を取られてなお、僕の意識は明確だった。
デウスは取り出した僕の心臓をゴミでも扱うかの様に投げ捨て、美女が盆に載せていたモノに手を伸ばす。
恭しく捧げ持ったモノは……
真っ黒な、闇の塊。
脈動しているところを見ると、心臓……なのか?
……まさか……
そのまさかだった。
デウスは一部始終を凝視する僕を一瞥すると、躊躇なく暗黒の器官を僕の胸に押し込んだ。
僕の血管を“血液とは違う何か”が流れだす異質な感覚。
ここまで来て、僕はようやく気を喪う事に成功した。