目が覚めると、眼前には満天の星空が広がっていた。
上体を起こす。
どうやら、公園のベンチで寝ていたようだ。
見回すと、あの美女に会った近所の公園と判った。
僕は先ず、服をはだけて胸を確認した。
あの悪夢の様な施術の跡は無い。
……夢……だったのだろうか?
時計を見る。
午後10時⁉︎
こんな遅くまで帰らなかったとなると、親からのカミナリは覚悟しなければ。
僕は大慌てで家へと走った。
ギリギリ都内の一軒家、父さんが悩みに悩んで買った我が家に、息を切らせて帰ると、廊下の奥のリビングから声が聞こえた。
仕切り戸のガラスに、ソファに座ってテレビを見る父さんの後ろ姿が見える。
ただいまの声に反応しなかったところを見ると、かなりご立腹の様子だ。
僕はリビングに入ると、もう一度声を掛けた。
「ただいま」
返事は無い。
微動だにしない。
あれ?
何かがおかしい。
「父さん?」
呼び掛けるも、反応無し。
「父さん!」
肩を揺すろうと掴んだ、その瞬間。
父さんは頷いた。
ーーーーいや、“頷いた”様に見えた。
父さんの頭は傾き、胸の前を通過し、膝の間を通り……
床に落ちた。
「う、うわあああぁぁぁぁぁぁ!」
首から溢れた血が僕の手を染める。
その生温かさに、僕は絶叫していた。
腰を抜かしてリビングから這い出ると、嘔吐感が込み上げて来た。
床に血の手形を押しながら、四つん這いでトイレを目指す。
トイレに辿り着いて、便器の蓋を開けると……
そこには、母さんの生首が嵌っていた。
血涙を流して目を剥く母さんの顔は、死の恐怖と苦痛を体現していた。
「ひいぃぃぃぃ!」
視線が合ったような気がして、咄嗟に便座の蓋を閉め、尻餅をついたままトイレから退き出る。
更なるショックで刺激されたからか、既に吐き気は去っていた。
なんでこんな事になったのか。
110番に連絡とか、とにかく脱出とか、理性的な思考はとっくの昔に吹き飛んで、僕は二階を目指した。
二階には妹の茉莉(まつり)が居る筈だ。
立ち上がれないままに階段を這い登りながら、僕は理由もなく「二階は一階とは隔絶されていて無事」と思い込んでいた。
甘かった。
茉莉の部屋の扉を開けて、真っ先に飛び込んで来たのは、赤だった。
部屋全体を染める赤。
鉄の臭気は、一歩遅れて届いた。
部屋中に撒き散らされた、血、血、血。
その中で、妹は生きていた。
全身を、五臓六腑を腑分けにされて。
最早悲鳴も絶叫も出なかった。
部屋を人体に見立てて、整然と並べられた臓器。
どう見ても生存は不可能な状況で、どの様な魔技によるものか、妹の心臓は確かに脈を打っていた。
扉の正面、勉強机に置かれた妹の首が、パクパクと口を開く。
声帯が無いので声を紡ぐことは出来ない。
出来ないが、妹の口は
「お兄ちゃん、殺して」
と動いていた。
怒りなのか、悲しみなのか、恐怖なのか。
感情のうねりが僕の身体を満たし……
ドクン!
途轍もなく大きな脈動を聞いた瞬間、僕の意識は再び闇に呑まれた。