目を開けると、真っ白な天井だった。
今度は何処に連れ去られたんだ?
「ここは病院だよ、神楽衛児くん」
突然、傍から疑問に答える声が上がった。
どうやら無意識の内に思考を口に出していたらしい。
僕の寝るベッドの脇には、二十代後半から三十代前半と思しき男性が立っていた。
紺色のジャケットに白いスラックス。
堀の深い顔と太い眉は「カッコいい」というよりは「漢前」という印象を与える。
緩くウェーブのかかった、若干収まりの悪い髪は顔の造形からくる硬さを和らげる効果を持っていた。
「あ、貴方は……」
「俺は本郷 猛(ほんごう たけし)。君が路上で倒れているのを発見してね。ここまで運んで来たんだ」
「どうして僕の名前を?」
本郷さんは自分の左胸、胸ポケットを親指で指した。
そうか、僕の制服の胸ポケットには生徒手帳があった。
「悪いが拝見させてもらった。検査の結果は『異常無し』らしいから、動けるならすぐにでも退院OKだそうだ。御家族に連絡がつくなら、迎えに来てもらうと良い」
“御家族”……
僕は先刻の悪夢を思い出した。
そう、あれは夢だ。
あんな荒唐無稽な事が、現実に起こる筈が無い。
僕は制服の内ポケットに入れていた筈のスマホを探した。
あった。
いつもの場所だ。
震える指で、自宅の番号をフリックする。
…………
『お客様のお掛けになった番号は…』
最後まで聞くまでもない。
電話を切ると、本郷さんが深刻な面持ちで話し掛けてきた。
「もしかして、君の自宅の住所というのはーーーー
本郷さんの言う住所は、正に僕の自宅の住所だった。
その事を伝えると、
「そうか。なら話して聞かせるより実際に見た方がいいだろう。俺が送ろう」
不穏当な事を言いつつ、本郷さんは僕にヘルメットを渡した。
本郷さんが運転するバイクに乗って自宅に着くと、そこは「かつて自宅だった場所」になっていた。
そこには、何も無かった。
両親の遺体も、腑分けされた妹も、それどころか自宅そのものが跡形もなく消えていた。
瓦礫一つ、雑草一本も無い完璧な更地。
僕は昨夜の悪夢で妹の部屋を確かめに行った時に似た心境で、周囲の家々に聞き込みに行った。
反応は予想通りだった。
「あそこはずっと前から空地ですよ」
へたり込む僕。
一部始終を見届けていた本郷さんは、僕に「行く当てが無いなら、とりあえずウチに来ないか」と言ってくれた。
家族もなく、家もなく、只の学生の身分では持ち合わせもある筈が無く。
僕は本郷さんの好意に甘える事にした。