「エェェェイジィィィィィ」
僕の記憶の中で、舐め回す様な陰湿な口調で僕を呼ぶ声が蘇る。
かつて僕をイジっていた一部の生徒のリーダー格だった男だ。
確か……豪、とか言ったか。
周りに三人ほど、いつもの取り巻きを従えている。
挨拶代わりにラリアットだのチョークスリーパーだの喧嘩キックだのを仕掛けてくる様な連中が、何故だか気持ち悪いくらい爽やかな笑顔で、僕に話し掛けて来ていた。
背筋を怖気が走る。
「や……やぁ」
「久しぶりだなぁ神楽くん。今まで何処に行ってたのさ」
「え……いや、あの……」
「積もる話もあることだし、ゆっくり話せる所に行こうぜ」
強引に引こうとする手を、僕は体を入れ替えて外した。
一文字さんから習った柔道の、ささやかな成果だ。
「何をするんだよ神楽くん」
「……お前達……何者だ?」
「な、何を言ってーーーー」
本物のアイツ等なら、こんなに親しげに話し掛けたりなんかしない!僕は……イジられ役だったんだから」
「…………」
数秒間の沈黙。
再び口を開いた豪……に見える何者かは、先刻とは打って変わって粗暴な口調で取り巻きに当たった。
「ったく、誰だよ?『フレンドリーに行けば絶対コロッと騙される』なんて言ったのはよぉ!サッッッムいの我慢して“爽やか君”演じたのが馬鹿みてぇじゃねぇかよ!」
「そ、それはシザース様が……」
取り巻きの一人が言い切る前に、シザースと呼ばれた豪もどきが振り向きざまに腕を振った。
シザースの手が、取り巻きの頭を払う。
手が通過した跡には、何も残ってなかった。
頸部の切り口から、朱色の間欠泉が吹き上がる。
遠くでゴトッ!と、重いモノが落ちる音。
確認する気にはならなかった。
「それは俺が求めてる答えじゃねえ」
シザースの腕は、いつの間にか肘から先が巨大な刃物と化していた。
もう片方の腕も変化した片刃の直刀は、肘を合わせればハサミを形成するようだ。
だから『シザース』か。
目の前で異様な光景が広がっているのに、僕は何故か冷静に分析していた。
いともあっさりと身内を殺したシザースは、殺人に対する感慨など微塵も感じさせない様子で僕に話し掛ける。
「さて、と。神楽衛児くん、俺達と一緒に来てもらおうか?」
「い……嫌だ……」
気力を振り絞って拒絶の言葉を紡ぐ。
今や顔形も大型猫科の肉食獣となったシザースは、僕の拒絶に冷徹な声で応じた。
「それは俺が求めてる答えじゃねえ」
振りかぶりでもなく、無造作に振られる腕。
銀光が僕の頸に走った。