「待て!」
呼び止める声は、僕の背後から聞こえた。
言うまでもない、本郷さんだ。
「その子に干渉してはいけない!」
……え?
本郷さんの警戒心はシザース達ではなく、僕に向けられている?
だが、興奮状態のシザース達は本郷さんの警告の意味を理解しなかった。
「我等が神の聖遺物を盗み取った小僧!返さねぇなら、切り刻んで探してやるぜ!」
神の聖遺物?
そんな物、盗んだ覚えは……
言いかけて、心当たりに気付いた。
僕の左胸……
思考がそちらに向いた、正にその瞬間だった。
ドクン!
身体が揺れる程の鼓動。
同時に、僕の頭の中に“僕ではない何か”の思考が浮かんだ。
(ソウ簡単ニ諦メラレテハ困ル)
(……何だよ、これ……)
(我ハ貴様ノ心臓、ソノ元ノ持チ主ヨ)
(心臓……)
ドクン!ドクン!
目の焦点も合わず、周囲に響くほどの鼓動と共に揺れる僕に圧倒され、シザース達も本郷さんも声も無く見守るのみだ。
(……何が望みだ?)
(貴様ニハ生キテモラウ、勝手ニ死ヌ事ハ認メヌ)
(僕の生き死にだ、僕が決める!)
(イイノカ?貴様ノ目ノ前ニ居ルノハ、貴様ノ家族ヲ皆殺シニシタ仇ダゾ)
(⁉︎……そうか、やっぱり皆は僕のせいで死んだのか……なら)
(チィッ!貴様、復讐心モ無イノカ!コノ軟弱者メ!)
ドクッ!ドクッ!ドクッ!ドクッ!
鼓動が速まる。
全身に、血液ではない“何か”が巡る。
……なんとなく解る。
これは、“闇”だ。
あのおぞましい術式の時に見た、醜悪な塊が吹き出していた、闇。
(ナラバ、コレデドウダ?貴様ガ戦ッテ彼奴等ヲ退ケネバ、後ロノ男ガ死ヌゾ)
僕の思考が一瞬、止まる。
本郷さん……仮面ライダー。
あの人を殺させては、いけない。
ドッドッドッドッドッ!
更に鼓動は加速する。
体内を巡る“闇”は毛細血管までも浸透し、血液は闇に置き換わる。
(彼等に従う条件に、本郷さんの身の安全を求めれば……)
(彼奴等ガ約束ヲ守ルト思ウカ?)
(……僕が戦う気になれば、この事態を切り抜けられるんだな?)
(ソノ為ノ能力ハ、我ガ与エテヤル)
(……いいだろう、やってやる!)
(ナラバ……『旧キ盟約ニ則リ、汝“神楽衛児”ニ我ガ神能ノ片鱗ヲ与エル!我ガ名ハ【ゴア】、全テヲ破壊シ滅スルモノ也!』)
ドドドドドドドドド!
もはや“痙攣”というより“振動”というべき状態になった僕に、本郷さんが叫ぶ。
「駄目だ!衛児くん!闇に呑まれてはいけない!」
その言葉に応える様に、僕の振動は鼓動と共に止まった。
僕は目を閉じる。
家族の死に様が、本郷さんや一文字さんと過ごした時間が、脳裏をよぎる。
「大丈夫ですよ、本郷さん。今、話はつきましたから」
腰回りから滲み出た“闇”が凝固して、ベルトを形成した。
バックルの中央に一つ、四隅に一つずつ『閉じた瞼』を意匠した、闇色のベルト。
大丈夫……ではないのかも知れない。
“闇”は恐らくもう既に、脳にさえ達しているだろう。
思考さえ闇に呑まれている可能性は、ある。
だとしても。
僕は、僕の意思で周りの人を、世の希望を守れるのなら、もう躊躇いはしない。
「変…………身!」