ベルト中央の目が開かれた。
同時に、僕の全身から“闇”が溢れ出す。
目から、鼻から、口から、耳から、毛穴という毛穴から。
闇は僕の身体にまとわりつき、固着し、鎧を形作る。
噴出する闇の気配は、シザースを総毛立たせ、取り巻き達を蟹男・蟷螂男・蜥蜴男といった怪人態に変化させた。
本郷さんは毒で弱っているところに闇の雰囲気に当てられ、身動きもままならない。
一方僕はというと、爽快感というか、高揚感に包まれていた。
アッパー系の薬物によるトリップというのは、こういう感覚に近いのだろうか?
「今の自分なら何でも出来る」という根拠のない自信が、僕の中の僅かな好戦性を無限に拡大していた。
シザース達に向かって、跳躍。
軽い!そして速い!
自分の身体がイメージを超えたスペックを叩き出している事実が、僕を更に興奮させる。
僕は一跳びで彼等の頭上を飛び越え、後方彼方で着地した。
彼等には、黒い風が走ったようにしか見えなかったろう。
闇は完全に固着した。
漆黒の鎧に重さは感じない。
腕も、脚も、体全体が一回り大きくなっていた。
彼等に対して背を向けている僕に、しかし彼等は仕掛けるタイミングを見出せない。
それほど、今の僕は先刻までと比べ、異形で、邪悪で、強大だった。
僕は右手を開いて天に掲げる。
「僕は……邪神の力を持つ男」
掲げた右手を握り降ろし、振り返る。
「仮面ライダー、ダーク!」
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「なぁにが『仮面ライダー!』だぁ!」
シザースの怒号は、自身の恐怖を振り払う為のものだったのかも知れない。
それは、本人よりむしろ取り巻き達に作用した。
尚も動かないシザースをよそに、蟹男・蟷螂男・蟷螂男が踊り掛かる。
僕は蟹男に狙いを定めた。
三人の中で一番強そうだったからだ。
真正面から突っ込み、両手の鋏を押さえる。
やっぱりだ。
僕の力は、僕より上背も腕の太さもある蟹男に負けていなかった。
それどころか、身体を震わせて全力で押し込んでくる蟹男のパワーを、苦もなく止めていた。
今の僕は、彼等より強い。
安心すると、今までの高揚が嘘のように去った。
好戦性が厭戦感にすり替わり、戦わずに済む方法を模索し始める。
彼我の戦力差を見れば、彼等を追い払う事も出来るかも知れない。
「大人しく帰ってくれ。そうすれば危害は加えない」
勧告は反抗で返された。
蜥蜴男が尻尾で僕の両脚を絡め取り、自切する。
尻尾は脚を締め付けたまま融解して硬直し、僕の動きを制した。
振り払うのは簡単な筈だった。
邪魔さえ入らなければ。
蟹男は蜥蜴男に呼応して、口から泡を僕の顔面に吹き掛けた。
視界が塞がれ、混乱した僕の背中を、蟷螂男の鎌が切り裂く。
「ぐああぁぁぁぁっ!」
激痛に、思わず叫んでいた。
あまりの痛みに、目が霞む。
(愚カ者メ!調子ニ乗ルカラダ)
邪神の叱責が耳に痛い。
僕はフルパワーで蟹男を投げ飛ばすと、脚に力を込めて蜥蜴男の拘束を引き千切った。
三人の怪人は決して僕の正面には陣取らず、左右と真後ろの位置を確保していた。
仕掛ける時も、退く時も同時。
見事なチームワークだった。
(純粋ナぱわーデ勝テネバ、戦術デ勝ツ……カ。シカシ、コノ程度ノ相手ニ翻弄サレルトハ、情ケナイ宿主ダナ)
(うるさい!)
情けないのは重々承知だ。
でも戦う方法なんて、今までの人生では碌に学んでこなかったんだ。
「逃げる」「耐える」しか選択肢を持ってなかった人間が、格闘技を習い始めて二ヶ月やそこらで強くなんてなれるもんか。