(仕方ナイ。我ノ真ナル能力ヲ使ウニハマダ早イガ、眷属ノ能力デアレバ使イコナス事モ出来ヨウ)
邪神の思考が脳裏に響くと、僕は自身の能力の一部を“思い出した”。
僕は脳を流れる“闇”から、この身体の使い方を、その能力の使い方を引き出していた。
ベルトの四隅の一角の目が開き、『影』を司る眷神マーヴの神能が発動する。
「シャドウ・ザンバァァァ!」
突如、僕の影が動き出した。
光源を無視し、三人の怪人達に向かって伸びーーーー浮き上がる!
二次元体である影。
厚みがゼロである、という事は……
この世に存在する、どんな刃物よりも鋭いという事だ。
一刀両断、いや一影両断か。
影刀は蟷螂男と蟹男には躱されたが、蜥蜴男の胴を斬り落とした。
腰からズレて地面に落ちる蜥蜴男の上半身を、影は更に斬りつける。
斬る!
斬る!
斬る!
斬る!
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る!
蜥蜴男の上半身は、地に着く前に細断され、塵になって風に消えた。
「さて、次にこうなるのは、誰かな?」
僕の口から、愉しげな声が漏れた。
愉しげ?
そう、僕は楽しんでいる。
いつから?
この眷神の力を解放してからだ。
僕の中にあるドス黒い感情が、増幅され、加速され、溢れ出していた。
楽しい!敵対する者を痛めつけ、排除する事が、こんなにも楽しいなんて!
違う!
こんなのは僕じゃない!
違わない。
これは僕の欲求だ。
僕の願望だ。
僕の中で理性と野性が、せめぎ合う。
「かあぁぁぁぁぁぁつ!」
混乱する僕の耳朶を叩いたのは、本郷さんの喝だった。
一気に僕の意識が覚醒する。
「仮にも仮面ライダーを名乗る者が、そんな体たらくでどうする!」
本郷さんは左拳を腰に溜め、右掌を左上方に掲げた。
その所作だけで、空気が緊張する。
「ライダー……」
掲げた右掌が、右上方へと弧を描く。
「変身」
腰に溜めた左拳が右掌を追って右上方に走り、右掌は拳を握って右腰に構えられる。
本郷さんのベルトに設えられた風車が突風を生み、居合わせた一堂の視界を一瞬奪う。
先刻逆のパターンを見せつけられたとはいえ、やはり衝撃は隠せない。
一瞬前まで本郷さんが立っていた場所には、バッタの仮面の戦士ーーーー仮面ライダーが立っていた。
「トオゥ!」
気合一発、ライダーは跳躍すると僕の傍に着地する。
「本郷さん、足の傷は?」
「君が応急処置をしてくれたんだな。ありがとう、もう大丈夫だ。それより……」
ライダーが僕の肩を掴む。
「自分の力に、自分の邪心に負けるな!君なら勝てる!」
「でも、僕は……」
「いいか、力そのものに正義も邪悪も無い。その力で何を成すかが正義と悪を分けるんだ。衝動に呑まれるな!りせいを研ぎ澄ませ!」
本郷さんの、ライダーの言葉は僕の心の深奥を打った。
さっきまで僕を翻弄していた破壊衝動は消え、高揚が去る事で思考がハッキリしてくる。
「本郷さん、ありがとうございます」
「やれるな?」
「ハイ!」
それ以上の会話は必要なかった。
僕等は互いに背中を預け、怪人達に対峙した。