左手は右上に掲げ、右拳は腰に溜める。
オレの脳裏には、ガキの時分に身振り手振りを交えてライダーの物語を話す爺さんの姿が蘇っていた。
「set up!」
コマンドワードに応えて、左手首のパーフェクターの本体が掌側に移動、腰にはゴツいベルトが転送される。
『ready』
電子音声が準備完了を伝えて来た。
行くぜ!
「変身!」
オレは左手首のパーフェクターを、ベルトの表面にスライドさせた。
ベルトには溝が掘られており、パーフェクターはベルトに合体して手首から離れる。
左手は拳を握って腰へ、右拳は開いて貫手の形で左上へ。
まぁ実際こんな手間踏まなくても、オレの意志一つで転送されるんだけどね。
様式美ってやつよ。
ベルトに合体したパーフェクターが眩い光を放つ。
一瞬のフラッシュ。
光が消えると、オレの姿は変わっていた。
蒼く輝く、全身の装甲。
駆動するモーター。
顔をスッポリ覆うヘルメットは元は軍用強化服だったためか、爺さんの語る仮面ライダーの様なバッタの意匠は無い。
見た目はむしろパワードスーツや軍用ロボットに近い。
だがしかし!
仮面ライダーは姿形じゃない!
魂の問題なのだよ!
変身を終えたオレは、傍らの対物ライフルを蜘蛛男に投げた。
無言で拾う蜘蛛男に、中指を立てて招く。
蜘蛛男は一瞬悩んだ後、オレに向けてライフルを撃った。
変身する前のオレが相手なら致命傷を免れ得ない巨弾は、しかしオレの掌で止まっていた。
「き……貴様……」
撃つ前の漠然とした不安が的中した蜘蛛男が、ライフルを取り落とす。
そう。
オレは今や、奴等改造人間と同様の存在になったのだ。
改造人間ーーーー
人間と動物を掛け合わせたかの様な外見のこの化物共は、この世の理から外れた能力を有している。
特に顕著なのが、防御力。
それは、奴等の存在の根幹が関係している。
改造人間は人間と動物の合いの子の様に見えるが、だからといって互いの遺伝子の掛け合わせといった安易な方法で生まれるのではない。
そんな事をしても、生まれるのは人間でも動物でもない“奇形の何か”だ。
改造人間とは、この世とは異なる世界ーーーーパラレルワールドから召喚した怪物と、被験者たる人間の融合体なのだ。
つまりあの蜘蛛男も、正確には“蜘蛛っぽい何か男”という事になる。
「怪物としての要素をより多く現世に顕現させる」事が奴等の“変身”なのだが、そうする事で奴等は自信の『存在の本質』の大半を異世界に移す事になる。
変身した改造人間は、この世に存在しながらも“限りなく存在しない状態に近い状態”となるのだ。
ヘタすりゃ核攻撃も効かないかもな。
ならば、どうするか。
答えは簡単。
奴等と同じになればいいんだ。