ーeSports World cup
通称[EWカップ]、ほかスポーツでは多くの実績を残してきた日本だったが、世界的な人口になったeスポーツにおいては他国に大きく後れを取っていた。
4年に1度の世界大会においても顕著で、すでに4回行われている世界大会でも出場すらままならない状況が続いている。人口と反比例し、「eスポーツ後進国」と揶揄されるほど差が開いてきており、世界的な評価においても年々下がる一方だった。
しかし、一方で体格や性別に拘らないイースポーツでスポットライトを浴びる機会が多くなった女性選手の伸びが大きく、男性選手には劣るものの、ここ数年でめきめきとバランスの良い選手が量産されるようになった背景がある。
ーあーっと! 日本!またしても王者韓国に敗れ、EWカップ出場を逃しました!悔しそうに崩れる選手の傍らでは、サポーターが...
「...また負けちゃったんだ。日本。これで3回目かぁ...」
4年に1度の祭典、世界的にも人気なコンテンツとなった今では、テレビやSNSでも大々的に放送され、その時期になるとどこもその話題で引っ張りだこだ。
「...でもかっこいいな。やっぱり」
ご飯をほおばりながら見る、EWカップの日本人選手たちは、負けを悔しがり涙を流している選手も多かったが、誰もがキラキラしている。そう感じた。
「...ううん、私には関係ない。...もう関係ないんだ」
言い聞かせるように携帯を閉じると、気を紛らわせるように別の動画を見始めるのだった。
ー都内某所
「いやぁ、やはり女性選手は映えるね。だんだん勝ち上がれるようになってるし、ワールドカップでの一喜一憂は金になる」
「やはり、育成学校にグラビアアイドルやタレントを入れ、ビジュアル強化とかもありですかね」
「おーいいね! その案! でもやっぱり多少勝ってくれないと回数稼げないし...」
バンッ
「...くだらない雑談はもう満足したでしょうか」
黒と白の髪をした若者がかなりいらだった様子で机をたたき、口を出す。
「...確かにおっしゃる通り、ここ数年で女性選手は飛躍的に成績を伸ばしています。予想でも今後5年以内にはEWカップに出場も現実的です...ですが」
現在の日本選手プロフィールをパラパラと眺めると、ため息をつきながらこう続けた。
「結論、出場どまりです。並みいる強豪が集うEWカップにおいて優勝するには決定的に実力が不足しています」
「...プッ」
「「「あっはははは!!」」」
「なんだお前! 何を言い出すかと思えば、優勝だぁ? 冗談を議論に持ち込むなよ!」
「坊主、ここではな、ビジネスの話をしてるんだよ、夢を語る学生の放課後と勘違いしてないか?」
「本気で言ってるとしたら、状況認識が甘すぎるぜ、兄ちゃん」
「だまれ、夢もみれねえ銭ゲバども...本気に決まってんだろ」
その若者はそう吐き捨て、静かな闘志を燃やし、オーナーの面々の前で深く息を吸うと、大声で叫んだ。
「4年後の5回目のEWカップ、必ず日本を優勝させます! そのための最強選手を育成します! 夢も負えない老害どもは黙ってみてろ、くそったれ!」
ー彼の名前はkamito
ここから彼の一大プロジェクトが幕を開けるのだった。
ー埼玉県 高校生FPS大会決勝
『さぁ! 大会も大詰め! この戦いのポイントを制した方が全国大会への切符を手にします! 防御側がマッチポイントを握った形ですが、ここを粘れるか攻撃チーム!』
(全国...いくんだ...ここは必ず守り切る!)
「...かげ! こかげ! こっちだ! お前は囮になれ! 数的優位を取って攻めるぞ!」
「えっ...う、うん、わかった!」
5VS5の攻防戦、攻めサイドだった私は2か所ある爆弾設置ポイントのあえていかない方の囮役として抜擢された。1人でサイトに入るふりをすることで時間を稼ぐ作戦となった。
start!
『さー! ついに始まりました! 勝つのはどちらだ!』
(...地味でもいい、少しでもみんなの役に...)
チームメイトの4人は私とは別のサイトに走り出す。私は一人、いろいろなスキルを使いながら、多人数に見せかけ、別のポイントへデコイとして向かった。
(...よし! 作戦通り! こっちに人数割いてる!)
チームの思惑通り、相手選手たちは私の方が本命だと勘違いしており、少なくとも3人以上は姿が見えた。
ゆっくりと死なないように進行していき、時間を稼ぐ。
(...よし、これで少なくともあっちサイドは多くて2VS4だ...これでここは...)
ーしかし、現実はそう甘くなかった
チームダウン! チームダウン! チームダウン!
「すまん! こかげ!こっちに1人で相手してるやべえ奴がいる! 」
「打ち合い強すぎて勝てる気が...」
『おーっと!! ここでも見せます! クイーン雑賀! ここにきてスーパーセーブだ!』
相手のチームエースの「雑賀知美」、圧倒的な実力でクラッチクイーンの異名を持つ彼女1人に私たちの作戦は完全に崩壊した。
「作戦変更だ! こかげ! そっちに行くから持ちこたえろ!」
「...わ、わかった」
(あっちのエースの実力は群を抜いてるはず...だったらこっちに...4人いない!?)
マップ上に映る、仲間の移動。しかし無情にもその前に私の前には複数の相手選手が。
ー無理だ、絶対に勝てない
うあきらめかけたとき、昔から憧れてきた選手のスーパープレイが脳裏に浮かんだ。
ーそうだ、きっと私の憧れのあの人なら...
チームダウン! チームダウン! チームダウン!
『あーっと! これはすごい!こちらでもこかげ選手! 負けじと1vs3クラッチだ! 攻撃サイドは絶望的な状況でしたが、たった一人の選手が大きく状況を動かしました!この勝負どうなるかわからないぞぉ!』
「す、すげえ! こかげも3人クラッチだ!!」
「いけるかも!!」
奇跡的なクラッチで2vs2。状況は五分へとリセットされた。
(今日は行ける! あとはあのエースを...)
「こかげ! お前は爆弾設置しろ! もう相手が来てる!」
「え、で、でも」
「いいから! 相手エースの動きは私が抑える!」
銃口を構え臨戦態勢を取ろうとした最中、仲間からのけん制が入った。
正直、ゾーンに入っている今なら私が打ち合いした方が...
(...いや、これはチームプレイだ。場を乱すのはよくないよね...)
喉から出かかった言葉を押し込み、私は設置をしようとした。その瞬間だった。
チームダウン!!
「すまん、こかげ! 雑賀が...間に合っちまった!」
逆サイドにいたチームエースが間に合ってしまい、設置前に私1人となってしまった。
(...最後まで...諦めない! さっきと同じようにクラッチを)
爆弾を素早く捨て、射撃に切り替える。確かに実績は相手の方が上だったが、明らかにゾーンに入っていた私の弾丸はあっという間に相手チームのエースをダウンさせた。
しかし...
チームダウン!チームダウン!
それと同時にもう一人の選手に打たれ、チーム全滅。
私たちの全国大会への切符は空に消えた。
先輩の3年生方はみな引退となり、監督は涙ながらに選手たちを鼓舞した。
練習量では負けてない、お前らが1番努力した、そういった激励の言葉に3年生は一同つられるように涙を流していた。そして締めくくるように「お前らは日本一強い。それだけは間違いない!」そう豪語していた。
だが、残念ながらそれは嘘だ。結論、我々の実力不足。
ー全国大会を逃した1チーム、ただそれだけなのだ
(あー、私も来年には引退か...)
帰りの道を一人で自転車を漕ぎながら、一人でぼーっと考え事をする。
ーあの時、私が打ち合いに方にいれば運命は変わったのかな
脳裏に浮かんだ別の選択。ゾーンに入った私がエースもろとも打ち抜いて全国大会へ駆け上がる。
しかし、カラスの鳴き声がそんな妄想をかき消し、一気に現実に引き戻させる
「チームの作戦だ。作戦に従って負けたならそれはしょうがない...しょうが...ない」
自分でもわからないほどの悔しさで、自然と涙がこぼれる。
嗚咽まみれになりながら、両手で拭おうとした拍子に、自転車が倒れ、周りからの目線が集まる。
「....がちたかったなぁ...私...勝ちたかったんだぁ...」
名前も知らない人に心配されるのも気にならないくらい、しばらく私はその場で泣きじゃくった。
ー自宅
「...ただいま」
「あら、お帰り。試合は...って何、泣いてたのぉ? 目、真っ赤よ」
「...泣いてない。ちょっと花粉症で」
「...そう。ま、今日はあんたの好きなもん作ってあるから、存分に食べなさい」
「...うん、ありがと」
「あなたー! こかげ帰ってきたから、食事にしましょ!」
食卓に並べられていた豪華な食事、私好みに作られている料理の数々を無数にほおばっていると、スッと母から、手紙が渡された。
「あー、そうそう、あんた宛にFPS協会?さんから手紙きてたわよ」
「ふぇがみ? なんだろ」
箸を加えながら、封筒をビリっと破くと大きく「招集」と記載があった。
「えっ...えー! 私が『強化指定選手!?』」
ここから、夢をあきらめかけていた紡木こかげの運命が大きく変わっていくのだった。
つづく
主人公は基本的には「紡木こかげ」さんになります。
作品の都合上、口が悪くなる、相手のことを蔑む描写が発生しますが、それでも大丈夫なかたはよかったらご覧ください。
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