秋田県へと向かう新幹線の中、俺は予約をしていた席へと向かった。
一泊二日を予定していたので、少しだけ大きめの旅行バッグを棚の上に置き、手にしていたスマホでこれから向かう場所へのルートを確認していく。
「駅からはタクシーを使った方が良さそうだな」
そう結論付けたあと、自分が担当しているアイドルの情報にもう一度目を通した。
『篠澤広』
14歳で大学を卒業した天才少女。
入学試験で座学は満点。実技は0点という極端な成績を叩き出している。
凡そアイドルには不向きな少女だが、やる気と根性だけはあるように思えた。
まあアイドルを「趣味」と言っていたあたりに、謎は残るが。
「あさり先生から言われたこともあったとはいえ、こうして彼女の生まれ故郷に向かっているのだから、不思議なものだよな」
『担当アイドルを深く理解しなさい』
尊敬するあさり先生に言われた言葉だ。
篠澤広の事が全くわからない状況で、彼女のプロデュースは出来ない。
それに『天才少女』と言っても差し支えのない彼女が、全くもって向いてない『アイドル』にその時間を費やしても構わないのか?
両親の許可は得ているのだろうか?
その辺の確認もしておきたいところだった。
まぁ、初星学園に入学している段階で、両親の許可は得ているとは思うが、彼女の性格を考えるなら、反対を押し切ってやっている。とも言い難い。
そう。つまり自分は『篠澤広のことを全くもって知らない』という事だ。
「ははは。確かにこんな状況じゃあ適切なプロデュースなんかできっこないな」
そうひとりごとを呟いたあと、スマホのアラームを到着時刻の五分前にセットをして胸のポケットにしまい込んだ。
「さて、最近寝れてなかったからな。少しだけでも仮眠を取ろう」
篠澤広のプロデュース計画を立てていたら、睡眠不足になってしまっていた。
とりあえず、彼女には『週間達成項目』と『月刊達成項目』を用意してある。
週間は『健康になること』
少なくとも彼女が『レッスン中に倒れて保健室に行く』ということを無くしたい。
心臓が何個あっても足りないからだ。
月刊は『片足で10秒の間。立てるようになること』
『踊る』ということは、彼女にはまだまだ当分の間、無理だからだ。
片足立ちが出来るようになれば、体感も鍛えられるし、バランス感覚も養える。
激しい運動では無いから保健室に行くこともない。
一石三鳥と言えるだろう。
「ははは。レベルが低すぎるかもしれないが、今の彼女にはこれが精一杯だからな」
そう呟いたあと、日頃からの疲れが溜まっていた俺は目を閉じて意識を手放して行った。