第十二話
篠澤さんとアミューズメントパークに足を踏み入れると、やはり少々騒音が鳴り響いていた。
こればかりは仕方がない。まぁ駅前のゲームセンターよりかはかなりマシだとは思うけど、篠澤さんには辛い騒音だろう。
「大丈夫だよ、プロデューサー。私には秘密兵器がある」
篠澤さんはそう言うと、ポケットからノイズキャンセラーを手に取った。
「家で少し手を加えてきた。任意の声だけは、聞き取れる設定に、してある」
「さらっととんでもないこと言ってますね」
「これで、プロデューサーの声は聞き取れるよ」
篠澤さんがノイズキャンセラーを耳に取り付けていたので、試しに話しかけてみた。
「篠澤さん。調子はどうですか?」
「悪くない。騒音だけが無くなって、プロデューサーの声が良く聞こえる」
「なるほど。それは良かったです」
「でも、周りの音が聞こえないのは不便。このまま手を繋いでて欲しい」
「……了解です」
まぁ、手を繋いでいれば転ぶこともないし、迷子になる心配もない。
俺の心臓に悪い。ってことに目を瞑れば良いだけだ。
「ねぇ、プロデューサー。私、あれが欲しい」
「……UFOキャッチャー。ぬいぐるみ……ですか」
俺と篠澤さんの前に現れたのは、手頃なサイズのぬいぐるみがターゲットのUFOキャッチャーだった。
中身はアイドルがデフォルメされたぬいぐるみ。
最近ではアイドルのぬいぐるみが自我を持って動いてる二次創作があるくらいには、有名だ。
「取れる?」
「うーん……アームの強さを確認してみないとですね」
二百円で一回。五百円で三回。
そんな料金設定だった。
この設定ならクソアームってことは無いだろう。
俺は試しに二百円を入れて、UFOキャッチャーのアーム確認をしてみた。
すると、UFOキャッチャーのアームはぬいぐるみの外をスルスルと通るだけだった。
「……え?ぬいぐるみの外側を、撫でるだけだったけど」
「あー……確率機ですね……」
「……なにそれ?」
俺は篠澤さんにUFOキャッチャーの現実を教えることにした。
「えーとですね。これは『確率機』と言って、いくらかお金を入れないと、まともにアームが力を発揮しない仕様なんです」
「……なるほど。いくら使わなきゃダメ。とかってのはわからないんだね」
「はい。次の二百円で取れるかも知れませんし、五千円か一万円くらい必要かも知れません」
だいたい基本そのくらい。という話を聞いたことがある。
「うーん……ならいいかな」
「そうですね。ただ、何事も経験です。取れるかはわかりませんが、やってみてはどうですか?」
「そうだね。やってみようかな」
篠澤さんはそう言うと、小さな可愛らしいお財布から、五百円玉を一枚出して、筐体に入れた。
「この方がお得。だからね」
「そうですね。賢いと思います」
「このぬいぐるみの重心はこの辺り……」
篠澤さんはそう呟きながら『完璧な位置』にアームを落として行った。
しかし、やはり確率機。アームはぬいぐるみを撫でるだけで終わってしまう。
それを二回ほど繰り返して、三回目。
アームはがっしりとぬいぐるみを掴んで、穴までぬいぐるみを運んできた。
「おー……今までのが嘘みたいなパワー……」
「運が良いですね。まさかワンコインで取れるとは」
取り出し口から取れたアイドルのぬいぐるみを抱え、篠澤さんは満足そうに笑ってた。
「やったね」
「上手くいくとテンションの下がる篠澤さんにしては珍しい。上機嫌ですね」
「成功が予想出来ることを、成功するとつまらない。でもこれは、成功するかわからない。だから嬉しい」
「なるほど」
そして、俺は店員さんからぬいぐるみを入れる袋を貰ってきた。
その中に篠澤さんの『戦利品』を入れて、俺が持つことにした。
「ありがとう、プロデューサー」
「いえ。この位はしますよ。後はなにか気になるものはありますか?」
「そうだね。あれをやってみたいかな?」
そう言って篠澤さんが指を差したのは『レーシングカーゲーム』だった。
「車の運転をしてみたい」
「悪くないですね。勝負も出来そうですし、篠澤さんの体力的にも問題ないですね」
エアホッケーとかバスケのシュートとか、そう言うのでは無く、運転するだけなら問題ないだろう。
「プロデューサーは、ゲーム得意なの?」
「そうですね。嗜むくらいは」
「ふふふ。じゃあいい勝負になりそうだね」
そして、俺と篠澤さんは何回かレーシングカーゲームをやっていった。
一進一退の攻防を続けていたけど、最後は篠澤さんかがコツを掴み、連勝で幕を閉じた。
「やったね。私の勝ち」
「悔しいですね。負けてしまいました」
「ふふふ。手っ取り早く私に勝つなら、ああ言うのでも良いよ?」
そう言って篠澤さんが指を差したのは、エアホッケーだった。
「あんなものをやって、篠澤さんがケガをしたら目も当てられません」
「そうなんだ。プロデューサーのそう言うところ、好き」
「…………」
全く持って心臓に悪い。
「ちょっとお化粧直してくる」
篠澤さんと体力を使わないゲームをして遊んでいると、彼女がそう俺に切り出した。
「了解です。では俺はちょっと飲み物を買ってきますね」
「うん。じゃあそこの出入口で待ち合わせね」
「はい。わかりました」
そう言って俺は篠澤さんと離れて、少し遠くの自販機へと歩いて向かった。
『ほんのわずかな時間くらい、目を離しても平気だろう』
そんなのは甘い考えだったと思い知るのは、この後の事だった。