篠澤広のプロデュースは、ままならない   作:味のないお茶

15 / 21
広 side ②

 広 side ②

 

 

 

 プロデューサーと一旦離れたあと、私はお手洗いでお化粧を、直していた。

 化粧品が入ったポーチは、千奈がプレゼントしてくれた。

 

『こちらのお化粧品一式は、篠澤さんにプレゼントいたしますわ!!』

『え……いいの?』

『はい!!時間と共に崩れてしまうのがお化粧です。途中でお手洗いとかで直すものです』

『どうやって直すの?』

『それを今から教えますわ』

 

 こうして私は、千奈からお化粧の直し方を教えてもらった。

 鏡で姿を確認してみると、確かに目元のファンデーションが少し落ちていた。

 

「なるほど。こういう所を直すんだね」

 

 私はポーチからファンデーションとスポンジを手に取って、目元の崩れたお化粧を直した。

 

 そして、お化粧を治 直した私は、お手洗いの外に出た。どうやらまだプロデューサーは戻って来ていないみたいだった。

 

「少し遠くに行ってるのかな?」

 

 なんて思いながら、外していたノイズキャンセラーを、耳につけようとしていた。その時だった。

 

「……あれ、篠澤さん?」

 

 私の名前を呼ぶ声がした。

 プロデューサーでは無い声。

『聞いたことの無い声』に私は不審に思いながらも、その声の方へとふり向く。

 

「やっぱり、篠澤さんだ」

 

『全く見覚えのない人物』が私の名前を呼んで、さらには私を私だと認識していた。

 得体の知れない恐ろしさ。が身体に走る。

 

「……誰?」

 

 私はその得体の知れない人物に、話しかけた。

 本当は無視をしようと思ったけど、襲われたら危険だから。

 普段は持ってるスタンガンは今日は持ってない。

 プロデューサーとのデートでは不要だと思ってたから。

 なんとかプロデューサーが戻ってくるまで、時間を稼がないと。

 

「え……僕のこと……覚えてないの?」

「知らない。覚えてもない。誰?なんで私の名前を知ってるの?」

「ぼ、僕は!!篠澤さんと同じ大学に通ってて!!同じ研究室にいたじゃないか!!」

「…………知らない。あの研究室に居たのは、私と教授だけだった」

 

 そう。私が大学にいた時に、研究室に居たのは私と、いつも私のことを気にかけてた、教授だけ。

 他の人なんて、記憶が無い。

 

「そ、そんな……」

「勝手に傷つかれても困る」

 

 私にとっては全く知らない人が、いきなり知人を名乗ってきて、私の名前を呼んでくる。

 恐怖でしかない。

 プロデューサー。早く戻って来て。

 

 私がそう思っていても、時間はなかなか過ぎてくれない。プロデューサーが戻ってくるまでの間、なんとかこの不審者の相手を、しなければならない。

 

「し、篠澤さんは……どうしてこんな場所にいるの……?」

「デート」

「………………え?」

 

 私の返事が予想外だったのかは、わからない。

 目の前の不審者は固まっていた。

 

「ぼ、僕の方が……先に……篠澤さんに……」

「デートの邪魔だから、どこかに行って欲しい」

「…………っ!!!!」

 

 私が本音をぶつけると、不審者は何だか良く分からない顔をしていた。

 そして、不審者は私の目を見ながら言ってきた。

 

「し、篠澤さんの彼氏を確認しないと、僕は認めない……っ!!!!」

 

 プロデューサーは私の彼氏では『まだ』無い。

 でも、そんなことをこの人に話す義理もない。

 

 すると、不審者の後ろから私が待ちわびてた人が、姿を現してくれた。

 

「はぁ……大変申し訳ございません、篠澤さん。ちょっと目を離した隙に、こんなことになってるとは……」

「もう、プロデューサー。遅すぎるよ」

 

 私はプロデューサーに、文句を言った。

 プロデューサーの手にはスポーツドリンクのボトルがあった。

 

「並んでいる人が多く、ドリンクを買うのに手間取ってしまいました。こんなことになるなら、最初から用意しておくべきでした」

「ふふふ。次のデートでは、改善してね」

「了解です」

 

 私が不審者の隣を通り過ぎて、プロデューサーの所へと歩いて行こうとした時だった。

 

「し、篠澤さ……」

 

 不審者が私に向かって手を伸ばしてきた。

 嫌だ。プロデューサー以外の人間に、触られたくない。

 

 そう私が思っていても、身体は固まってしまって、動かない。思い通りに動かない身体を恨んだのは初めてだった。

 

 でも、不審者の手は私に届くことは無かった。

 

「アイドルに許可なく触るのは許されませんよ」

「プロデューサー……」

 

 眉間に皺を寄せて、プロデューサーが不審者の手を握りしめていた。

 ここまでプロデューサーが、怒ってる姿を見るのは、始めて。

 

「あ、あんたはなんなんだよ!!」

 

 不審者がプロデューサーに向かって怒鳴りつけている。うるさい。私はプロデューサーの背中の後ろに、ひっそりと隠れた。

 

 さっきまであった不安な気持ちが一気に無くなってきた。

 

「篠澤さんのプロデューサーです。彼女は俺の担当アイドルです」

「プロデューサー……篠澤さんが……アイドル……」

「なので、勝手に篠澤さんに触られては困ります」

 

 プロデューサーがそう言うと、不審者は怪しげな笑いを浮かべて言ってきた。

 

「プロデューサーが担当アイドルとデートなんかしていいのか!!??スキャンダルになるぞ!!」

「…………そうですね」

 

 まぁ、あの不審者の言葉にも一理ある。

 でも私は『アイドル候補生』だから『アイドル』では無い。

 

 プロデューサーはどうやって、この不審者を追いやるのかな?

 と、思っていたら、プロデューサーは不審者の耳元で何かを囁いた。

 

 すると面白いことに、不審者の顔が真っ青になった。

 ふふふ。面白い。始めて目の前の不審者を、面白いと思えた。

 プロデューサーは一体何を、言ったんだろ?

 後で聞いてみよう。

 

「ぼ、僕を脅してるのか!?」

「違いますよ。俺はあなたの『個人情報を話しただけ』ですよ?」

「な、何でそんなことをお前が知ってるんだよ!?」

「篠澤さんをプロデュースするにあたって、彼女の身の回りは片っ端から調べてあります。潜在的にファンになるなら気にはしませんが、篠澤さんに仇なすなら容赦はしません」

「…………っ!!!!」

 

 わぁ。プロデューサーが、すごくかっこいい。

 この姿は誰にも見せられないね。

 私のためにすごく怒ってる。そういう所が、好き。

 

「立ち去ってください。これ以上は時間の無駄かと」

 

 プロデューサーがそう言うと、不審者は悔しそうに顔を歪めながら、その場を去っていった。

 

「…………お疲れ様。プロデュー…………え?」

「大変申し訳ございません。非常に怖い思いをさせてしまいました」

 

 私の身体が、プロデューサーの大きな腕の中に、ある。

 抱きしめられている。

 

「……いいよ。何も無かったし」

「反省してます。プロデューサー失格ですね」

「……ふふふ。アイドル失格な私だからね。プロデューサーが失格なら、お似合いだね」

「…………後悔くらいさせてください」

「じゃああと五分だけ。このままでいて。そうしたら許してあげる」

「……はい。お安い御用です」

「嬉しい。多分。今日一番」

 

 ぬいぐるみを取った時よりも、レーシングカーゲームでプロデューサーに買った時よりも、今こうしてプロデューサーに抱きしめてもらってることが、嬉しい。

 

「ふふふ……あの不審者も、少しは役にたったかな」

 

 そんなことを私は、プロデューサーの腕の中で呟いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。