第十三話
篠澤さんを危険な目に合わせてしまったことを、大きく反省し、もう二度とこんなことを起こさないと心に誓ったあと、俺は彼女と一緒にフードコートへとやって来ていた。
外で食べるよりは多少割高ではあるが、味はそんなに悪くないと聞いている。
わざわざ外に出るのも面倒だしな。
そんなことを考えながら、お昼は何を食べようか思案していると、隣に居た篠澤さんが首を傾げながら聞いてきた。
「プロデューサーは、料理は作れるの?」
「はい。一人暮らしですからね。一通りの家事は出来ますよ」
「じゃあ、私のためにお弁当を作ってきた。そう言うのは無いの?」
「無いです。素人の作る料理より、プロの料理の方が美味しいですし、栄養もしっかりしてます」
「私は、プロデューサーの手料理、食べたいな?」
「…………機会があれば」
「ふふふ。今度、プロデューサーの家に行くね」
「……担当アイドルがプロデューサーの家に来るのは、倫理的に宜しくないかと」
「大丈夫。プロデューサーは、甲斐性なしの意気地無しだから、何も出来ないよ」
「…………変な挑発は辞めてください」
そして、俺はラーメンとチャーハンのセットを。
篠澤さんはオムライスを頼むことにした。
流石にデートでにんにくの効いた餃子を食べる気にはならなかった。
「お水を持ってきます。先にそこの席に座って待っててください」
「うん。よろしくお願いします」
小さな紙コップを二つ。水を入れて篠澤さんの元へと戻る。少ししたらアラームが鳴って、食事を取りに行くことになるかな。
「篠澤さんの食事も俺が持ってくるので、安心してください」
「私が持って来たら、ひっくり返す自信がある」
「自信満々に言わないでください……」
「ふふふ。適材適所、だよ」
そして、少しすると料理が出来上がったとアラームが教えてくれた。
俺はそれを持ってカウンターへ向かい、料理を受け取って戻って来る。
二人分の料理がテーブルに並んだところで、俺と篠澤さんは食事を始めた。
「いただきます」
「いただきます」
まずは麺が伸びないうちにラーメンから食べていこう。そう決めた俺は醤油ラーメンに軽く胡椒を振ってから口に運ぶ。
ピリッとした辛味がアクセントになって、とても美味しい。
「プロデューサーが食べてるラーメン。美味しそうだね」
「……別に食べてもいいですけど、胡椒が効いてますが大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。辛いものは平気」
俺は篠澤さんの綺麗な服が汚れないように、持ってきていたハンカチを手渡した。
「嫌かもしれませんが、その服を汚したくありません。首からかけて貰えますか?」
「ふふふ。了解。気遣ってくれてありがとう」
篠澤さんは俺から少し大きめのハンカチを受け取り、首元に着ける。
そして、箸で少しだけ麺を掴んで口に運ぶ。
ちゅるっと跳ねたスープをハンカチがしっかり受け止めていた。
「うん。美味しいね。スープも一口貰っていい?」
「どうぞ」
レンゲでスープを一口分すくって、篠澤さんは軽く息を吹きかけてからくちにいれる。
「ピリッと辛味が効いてて、美味しいね。私ばかり、貰うのもあれだから、プロデューサー、オムライスも食べる?」
「いただきます」
ちょっと気になってたのもあったので、俺は二つ返事で言葉を返した。
すると、篠澤さんはスプーンでオムライスをすくって俺の方への差し出してきた。
……………………。
なるほど、そう来たか……
「はい、プロデューサー……あーん」
「…………自分ですくって食べる選択肢は無いんですね」
「無い。甘んじて、受け入れて」
「……はい」
観念した俺は、口を開けて篠澤さんのあーんを受け入れた。
「美味しい?」
「はい。美味しいです」
嘘だ。味なんかわかんない。
きちんと咀嚼してから飲み込む。
すると、俺の手元にはラーメンが戻って来ていた。
「俺もスープを飲むかな」
レンゲですくって、胡椒の効いたスープの味を楽しむと、篠澤さんは面白そうに言ってきた。
「間接キスだね、プロデューサー」
「…………やってくれましたね、篠澤さん」
今更ら間接キス如きであたふたするほど子供では無い。中学生じゃあるまいし。
そう思って、特に気にせずに食べ進めていくと、篠澤さんが楽しそうに話を始めた。
「今日のデートのことは、佑芽と千奈に話してる。それは言ってるよね?」
「はい」
「プロデューサーと何をしたか。それを報告することにもなってる」
「…………はい」
何だろう。すごく嫌な予感がする。
「プロデューサーとゲームセンターに行って、楽しく遊んだ」
「…………間違いないですね」
「プロデューサーに抱きしめてもらって、キスをした」
「………………語弊があるかと」
苦虫を噛み潰したような気持ちになりながら言うと、篠澤さんは楽しそうに言葉を返す。
「そう?嘘は言ってないよ」
「……その事があさり先生の耳に入ったら、俺のクビが飛びますね」
「…………デートの最中に、他の女の人の名前を出すのは、えぬじーだね」
「……すみません」
理不尽なことで怒られた。
「許して欲しいなら、そのチャーハンを一口、ちょうだい?」
「……わかりました」
俺はそう言ってチャーハンの入った器を篠澤さんの方へと移動させようとすると、彼女が呆れたようにため息をついた。
「はぁ……違うよ、プロデューサー。ほら、私がやったよね?」
「…………俺にそれをやれと」
「もちろん」
観念した俺は、レンゲにチャーハンを一口分すくう。
そして、それを篠澤さんの方へと差し出した。
「…………あーん」
目を閉じて口を開ける篠澤さん。
その可愛らしい口の中にチャーハンを入れる。
「……うん。美味しい」
篠澤さんは咀嚼しながらそう言う。
「……それは良かったです」
そんな、傍から見たらバカップルのようなやり取りをしながら、俺たちは昼の時間を過ごして行った。