第一話 後編
いきなり初対面の篠澤さんに言われたその言葉に、俺はかなりの驚きを感じた。
だが、答えは一つしかなかった。
「……お断りします」
「……なんで?」
首を傾げながら篠澤さんが問いかけてくる。
答えは決まってる。だから俺は彼女に『現実』を突きつけた。
「あなたはアイドルに向いていない」
才能がない。とまでは言わないでおいた。
すると篠澤さんは微笑みながら、上機嫌そうに、
「ふふ。そうなんだ」
と言葉を返した。
「わたしのこと、知ってるの?」
「調査済みです。あなたは有名人ですからね」
「そうなの?」
「14歳で大学を卒業した天才少女。日本有数の頭脳を持つ神童。そして初星学園始まって以来の点数を叩き出した者」
「……照れる」
「……実技が0点なのに良く入学出来ましたね」
「筆記が満点だったから?」
「それでも本来なら不合格になるはずです」
初星学園の試験は甘くない。
それに、逆だったのならともかく、アイドルとしての素質と言うならば、知識よりも体力面だと確信してるからだ。
そう思っていると、篠澤さんは不思議そうな表情で俺に言ってきた。
「面接の時に変なおじいちゃんが、見込みがある!この学園でトップアイドルを目指すが良い!って」
「……そ、そんなばかな」
学園長には俺には見えない何かが見えていたのか?
「つめたい目。私をすごく低評価してるのがわかるよ。おじいちゃんじゃなくて、あなたが正しいと思うよ。自信もって」
「……あ、ありがとうございます?」
「うん。どういたしまして」
ここまで話をしたところで、俺はどうしても疑問に思うことがあった。
だから篠澤さんに聞いてみることにした。
「将来を切望されていたあなたが、すべてを投げ打って初星学園に。なぜアイドルになりたいと?」
「……いちばんわたしに向いてなさそうだから、かな」
……ちっともわからない。
なぜそんなことをする必要がある?
普通の思考回路なら『自分に向いてること』をする。
『勉学』が向いているなら勉学を。
『運動』が向いているなら運動を。
どう見ても彼女は『勉学』に向いている。
「……プロデューサー。ちっともわからない、って顔してる」
「……ちっともわかりません」
そういった俺に、篠澤さんは少しだけ楽しそうに話を続けた。
「しばらく一緒にいれば、わかるかも?」
「篠澤さんの事情。気にはなりますが……プロデュースをしろと言う話なら、お受けすることは出来ません」
俺には夢がある。
それは『トップアイドルをプロデュースする』と言うものだ。
こんな『アイドルになれるかどうかすらわからない』なんて言う女の子に使っている時間なんて……
「おためし。いやになったら、契約解除すればいい」
俺の目を見てそう言う篠澤さん。
その目からは『諦めない』という意思が見て取れた。
「どうしてそこまで……」
「プロデューサーになってくれそうな人、他にいないから」
………………。
懐かれてしまった。
自分の迂闊さが嫌になる。
でも、あの状況で彼女を無視出来る様な人間では無い……
「わたしがアイドルになるためには、プロデューサーが必要だから。まだ、わかりにくい?」
「いえ……わかりました」
諦めよう。
こちらが『うん』と言うまで彼女は諦めない。
だからこちらから『条件』を出そう。
「プロデュースを引き受けましょう。……とりあえず、一ヶ月」
俺がそう言うと、篠澤さんはふわりと微笑みを浮かべる。
「うれしい」
その微笑みは『女神』のようにも思えた。
「わたし……アイドルに、ちっとも向いてないけど。本気で、全力で、がんばるよ」
「それはきっと、たのしいから」