第四話
ピピピ……ピピピ……ピピピ……
スマホのアラーム音が鳴っているのを聴いて、俺は目を覚ました。
窓から外を眺めると、全く知らない景色が広がっていた。
「これが篠澤さんが見ていた風景か……」
秋田県。のどかな街並みが広がる良い県だと思う。
『秋田美人』なんて言葉があるように、見目麗しい女性が多いとも言われているな。
食べ物ではきりたんぽが有名かな?
まぁ観光なんかしている暇は無い。
到着したらまずはタクシーを利用して、篠澤さんの通っていた大学へと向かおう。
もともと学内の見学と、在学中の彼女の話を聞かせてもらうアポイトメントはとってある。
それが終わったら篠澤さんのご実家に挨拶に向かう予定だ。
これも一応アポイントメントはとってある。
電話をした際、若い声の女性が出たので、お姉さんかと思ったが、家族構成的にはお母さんと予想出来た。
軽く話しをした感じでは、門前払いの雰囲気はなさそうなので良かった。
とりあえず、お父さんの仕事が終わったあと。夕方に向かうと話をしてある。
篠澤さんのアイドル活動についてどう考えているかを聞こうと思っているからな。
そうしていると、新幹線が目的の場所へと到着した。
旅行バッグを手にして駅の外に出ると、澄んだ空気がとてもおいしかった。
「さて、それじゃあまずは篠澤さんの通っていた大学へ向かおう」
駅前のロータリーに停っていたタクシーを捕まえて、俺は運転手さんに目的地を告げた。
そして、3メーター辺りを刻んだところで目的地へと到着した。
料金は後々経費で落とす予定なので、運転手さんからは領収書を貰っておいた。
「ここが、篠澤さんの通っていた大学か……」
県内でもトップレベルの難関大学。
入学することはもちろん。卒業することも難しい。
そんな大学を14歳で卒業したと言うのだからとんでもない。
『頭の出来』なら俺なんか足元にも及ばないだろう。
警備の人に話しをして、入館の手続きをしてから入館証をもらう。
そして中を進んでいくと、初老の男性が出迎えてくれた。
「おはようございます。お初にお目にかかります。初星学園、プロデューサー科、一年の者です」
俺がそう言って頭を下げると男性も頭を下げて挨拶を返してきた。
「おはよう。君の案内を担当させてもらう者だ。その時に篠澤の在学中の話もさせてもらう。役職は教授の立場にある」
教授……1番上の人物じゃないか……
失礼がないようにしないとな。
「大学教授に案内していただけるのは大変恐縮です。お時間も限られているかと思います。早速お願いをしても宜しいですか?」
「構わない。それでは着いてきなさい」
「はい」
こうして俺は教授の後ろを着いて歩いていると、篠澤さんの在学中の話をしてくれた。
「篠澤さんの在学中はどんな感じだったのでしょうか?」
「……そうだな。在学中の篠澤は常に『賞賛』と共にあった」
『賞賛』か。
今の篠澤さんとは無縁の言葉だな。
だが、神童と言われていたのならば不思議では無いな。
「だが、篠澤は賞賛を受ければ受けるほど、つまらなそうな表情をしていたのを覚えている」
「……なるほど」
きっとこの辺りに、彼女が『アイドル』を目指した理由があるんだろうな。
『一番自分に向いていないからアイドルを目指した』
『心配されてるばかりで、期待されてない今が、一番下から上って行こうとしてる今が』
『一番幸せ』
と彼女は言っていた。
きっと篠澤さんは生まれてきてから今に至るまで『賞賛』だけを浴び続けてきたんだろう。
それがもう嫌になってしまった。
期待されて、期待されて、期待されて……
それに応えるだけの才能を持って『しまっていた』
それと少しだけ気がかりだったことがある。
「教授。篠澤さんの在学中は一人で過ごしていたのでしょうか?」
「……そうだな。篠澤に友人と呼べるような人間はいなかった。常に一人だった」
「……少し歩くだけでフラフラする。運動なんかもっての外。食事すらまともに取れない。そんな彼女が一人でいたのですか?」
俺がそう問いかけると、教授は少しだけため息混じりに言葉を返した。
「……まぁ、在学中の篠澤は常に研究室の中にいたからな。最低限の宿泊設備があるから、そこで寝食をしていた。食事はゼリー飲料と栄養剤だけだったと記憶してるな」
「ば、ばか……なんでそんな生活を……」
「自分の健康に何の興味も持ってない様子だった。周りも研究結果だけあれば構わないという様子だったからな」
「……大変失礼な質問をします。貴方も同じだったのでしょうか?」
「……そうだな。私も同じだったよ。そして篠澤はこのまま私の助手になるものだと思っていた。その打診もしていた」
「十五歳にして、助教授……かなりの高待遇ですね」
「篠澤の頭脳にはその価値があったからな。だが、彼女は全く違う道に進んだ」
教授はそう言って俺の目を見つめてきた。
「篠澤は……元気にしてるのか?」
「……元気では無いですね。毎日毎日、保健室に担ぎ込まれてます」
「……そうか」
「ですが、食生活も改善されて、健康になりつつあります。それと……」
俺は1つ息をついてから言う。
「篠澤さんは、とても楽しそうですよ」
その言葉を聞いた教授は、少しだけ『安堵』の表情を浮かべていた。
そうか。この教授は『篠澤さんの身体を心配していた』んだ。
だから自分の助手にして生活環境や食事事情を変えようとしていた。
そして、教授はこちらを見て質問をしてきた。
「今度はこちらからの質問だ。篠澤にアイドルの才能はあるのか?」
「ありません。微塵も」
「ははは!!そうか!!篠澤にアイドルの才能は無かったのか!!」
俺が即答すると、教授はとても面白そうに笑っていた。
「すまない。篠澤のプロデューサーの前で不適切な態度だったかな?」
「いえ、構いません。当然の反応だと思いますから」
俺が軽く首を振りながらそう答えると、教授は少しだけ安堵の息を吐いていた。
そして、その後は施設の話をしながら学内見学をさせてもらった。その時に篠澤さんとの思い出話などをしながら。
そこでわかるのはやはり、篠澤さんの生活は不健康そのものだったという事だな。
あとはやはり学生時代の篠澤さんは神童そのものだった。
そして、その扱いをされることを彼女は望んでいなかった。
少しだけ、彼女のことがわかったと思える時間だった。