第五話
学内の施設の説明と、在学中の篠澤さんの話を聞き終えたところで、時刻は昼を回っていた。
「プロデューサーくん。昼ごはんはどうするつもりだ?」
「はい。近くの喫茶店で軽く食事を摂りながら、今聞いたお話をまとめようと思っています」
「そうか。良ければ一緒に食事でもと思ったのだが……」
教授からありがたい誘いかあったところで、教授のスマホが着信の知らせをしていた。
そして、その相手を見た教授は軽くため息をついていた。
「はぁ……すまない。年配者として食事を奢らせてもらおうかと思ったが呼び出しを受けてしまった」
「いえ、構いません。こちらこそお忙しいところ、時間を作っていただいてありがとうございました」
俺は教授に深く一礼をした。
「篠澤さんがライブを出来るようなアイドルになったら、ライブに招待させていただきます」
「ははは。ありがとう。期待して待っているよ」
俺のその言葉に笑顔を見せてくれて、教授とは別れた。
そして、大学を後にした俺は近くの喫茶店で簡単な食事を取りながら、先ほど聞いた話の内容をまとめていった。
「まぁ……ある程度予想していたような感じだったけど、篠澤さんの生活状況はとんでもないの一言だな」
本当に、よくそんな生活で生きていられたものだと思ってしまう。
長期休暇の時にしか家にも帰っていなかった。
と聞いた。
ご両親は心配ではなかったのだろうか?
とりあえず、その辺も含めて聞いてみるか。
そうしていると、篠澤さんのご自宅へと向かう時間が迫って来ていた。
「さて、そろそろ向かうかな」
パタリとノートパソコンを閉じて、バックにしまいこむ。そして、会計を済ませてから店外に出ると、外はうっすらと夕暮れに近づいていた。
篠澤さんのご実家はここから歩いてる10分ほどの距離にある。
大学からご自宅までも非常に近い。
「漫画とかアニメでよく見る、難関大学だろうと歩いて行ける距離だから選んだ。とか言う理由の可能性があるな……」
そして、少し歩いたところで篠澤さんのご実家に辿り着いた。
駐車場に車が停っているので、おそらくお父さんも仕事から帰宅していることだろう。
俺はひとつ深呼吸してから、インターホンを鳴らした。
ピンポーン。
という音と共に、少しすると電話越しで聞いたお母さんの声が聞こえてきた。
『はい。プロデューサーくんですね。お待ちしてましたよ』
「こんにちは、奥様。初星学園。プロデューサー科、一年の者です」
『ふふふ。今鍵を開けますからね。ちょっと待っててくださいね』
その言葉の後、少しすると玄関の鍵がガチャリと開いた。
扉を開いて中から出てきたのは、篠澤さんと同じ綺麗な亜麻色の髪の毛を腰まで伸ばした、見目麗しい奥様だった。
「こんにちはプロデューサーくん。わざわざ遠いところから来て疲れたでしょ?」
「いえ、こちらこそ貴重なお時間を頂戴してありがとうございます」
「ふふふ。そんなに緊張しなくて良いわよ。それじゃあ上がってらっしゃい。中でパパが待ってるわ」
「はい。では、お邪魔します」
お母さんはくるりと踵を返し、廊下を歩いていった。
俺も革靴を揃えて脱いだ後、その後ろをついていく。
そして、お母さんの後に続いて案内された居間の中へと足を踏み入れた。
「失礼します」
そう言って中に入ると、理知的な風貌をした篠澤さんのお父さんが、既に椅子に座ってこちらを向いていた。
「良く来たな。プロデューサー。とりあえずは歓迎しておこう」
「…………ありがとうございます」
「もう。パパ。そんなに威嚇しないの。プロデューサーくんはまだ大学生なんだからね」
「……座りなさい」
「はい。お言葉に甘えます」
俺はそう答えて、お父さんの対面に位置する場所に腰を下ろした。
「はい。プロデューサーくん」
お母さんが俺の目の前に麦茶を出してくれた。
「ありがとうございます」
「ふふ。さっきも言ったけど、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。私もパパも貴方には感謝してるんだから」
「……え?」
まだ篠澤さんには何もしていない。
感謝されるようなことなんて……
「初星学園では、プロデューサーすら付かずに卒業する生徒も少なくないと聞く。入学してまもない広にプロデューサーが付いた。それも実技では0点だった娘にだ。普通ならありえない話だろう」
「ふふふ。広の成績は聞いていたわ。筆記は満点。実技は0点だったってね」
「そうですか」
「広のプロデューサーとして、今後はどうやって娘をプロデュースしていくかをこちらとしては聞きたい」
「はい。その点についてもお話させていただきます。あと最初にいくつか聞いておきたいことがあります」
俺はそう前置きをして、言葉を続けた。
「篠澤さんがアイドルを目指すことに、お二方は賛成の立場なのでしょうか?アイドルではなく、このまま勉学の道に進めば、彼女は更に上に行けることは確実かと思いますが」
「……確かに、勉学の道に進むことも娘には話をした」
「でもね、広がアイドルになりたいって言ったの」
「……はい」
「娘がやりたいと言うなら、応援するのが親の役目だろう」
「ふふふ。だから私たちは、好きにやりなさいって送り出したわ」
「なるほど……では、彼女の大学生活についてはご存知だったのですか?」
「あぁ。研究室で寝泊まりをしていたのは知っている。だが、一度やると決めたらとことんやるのが娘だからな」
「だから、私たちは止めなかったわ。最低限の健康管理は教授さんがしてくれたし、連絡もしてくれていたわ」
やはり、そうだったのか。
あの教授さんには頭が上がらないな。
俺がそう考えをまとめていると、次はお二人がこちらに質問を投げかけてきた。
「さて、では次はこちらから質問をさせてもらおうかな」