私がこの世界に生まれて、初めて受けた感情は失望という負の感情だった。勝手に建造をして、艦娘に対して『戦艦がよかった』なんてことを言う相手なんかがいる世界を護らなければいけないというのが使命だとわかって腹が立った。
私はすぐに艦隊から外された。そうして司令部に送られた。私は事あるごとにソイツに反発した。間違っていることは間違っていると言わなければ気が済まなかったから。その結果がこれ。
問題を起こした艦娘などどこも引き取ってくれるはずがない。しかし、戦力を遊ばせておくのも惜しい。私は提督検査の護衛艦として任務に当たることとなった。
深海棲艦がその会場を襲った。きっと、海が近かったから。と言っても駆逐イ級程度。私は私に与えられた仕事を淡々とこなすだけ。敵は1隻ではなく2隻いたせいで被弾をしてしまった。
そうして被害の確認をするために海から陸に上がった。人間たちは私に対して深海棲艦へ向ける物とそう変わりない、恐怖に満ちた目でこちらを見ていた。こんなものね。バケモノとバケモノが戦い、私が勝利しただけだ。この程度の任務で被弾をするなんて、また怒られてしまうな、とそう思った。
一応高速修復材を持って来ていたはずだ。それで損傷を治して見た目だけでも人に近づける必要がある。そうして目的の場所に行こうとすると、そこで運命の人に出会った。
アナタだけは人間に向けるのと同じような、穏やかな目をして、そうして私へお礼をしてくれた。こんなこと初めてだった。私が見限っていた人間のなかにもこんな優しい人がいるのだとわかった。
私はこの出会いに感謝をして、そうして二度とこの人と関わることはないのだろうと思った。しかし、提督の資質を持つ人間が見つかり、それが他でもないこの人だと言うことがわかり、私は何としてでも近づかなければいけない。
幸いなことにここで知り合った仲であり、彼は私を受け入れてくれた。司令部としては私と言う不良債権を手放すことができて丁度よかったはず。
そしてこれから彼と私でこの海を取り返していくのだろうと、艦娘らしい欲も芽生え始めた。それが間違いということはすぐにわかった。彼は提督に向いているような性格ではなかった。
提督の資質を持つからと、周囲に持ち上げられてしまっただけの、小さな争いごとすらも罪悪感を覚えてしまう、そんな優しい人だった。
彼はそれでも決して自分から辞めようとはしないだろう。責任感は人一倍あるから。彼のことを後ろで支えながら、いつか提督という役割から解放をする。それが私の最終目標となった。
*
経過は順調だった。彼の積極的に出撃をしようとしない姿勢は上からいい目で見られていない。そして、盲目的に崇拝する艦娘に対しても彼は余り良い感情を持っていない。時間をかけながら少しずつ、私だけが貴方の味方と植え付けていた甲斐があった。
また、そんな彼をなるべく執務室から出させないようにした。他の艦娘と話していけば私の言うことが嘘だということがわかってしまう恐れがあった。そんなことを続けて行って、ここの基地はすっかり孤立していった。交流の機会は少なければ少ないほどいい。
提督としての能力もなるべく成長しないように努めた。私はダイレクトに正解を出した。過程については変にわかりづらくして、私をずっと頼るようにした。
遂にクビを切られるときが来た。私は勝った。そしてその後に私も着いていくと言って、2人で一生を過ごしていくのだ。未来の青写真はすぐそこまで迫っていた。はずだったのに。
私も司令部からやってくる対応に参加する予定だったのに、哨戒任務をする娘の艤装が突如故障して、やむを得ず私が出ることになった。ここまで露骨に嫌われていると笑えてくる。
何やらきな臭いことをしていたけど、所詮は艦娘。司令部相手にはどうこうできないと腹を括っていた。その結果、私の計画は修正を余儀なくされた。どうせ提督なら誰でも良い癖に、どうしてそこまで拘るのだろう。その言葉はそっくりそのまま自分に返されるが、私にとってはあの人しかいない。
その後に行われた懇親会にも欠席させるように勧めた。しかし、上手くいかなかった。数による暴力には誰しも抗うことが出来ない。私は部屋の隅でずっと彼を見ていた。あ、こっち向いた。カッコいい。
そんなものは結局その場しのぎに過ぎなかった。次にあいつらは提督の地位向上のために出撃をしたいなどと言い出した。ふざけるな。なにも彼のことを考えていないじゃない。ただ自分たちに作戦を成功させたという箔が付くからだろう。彼がそんなことを聞いて嬉しがるはずがない。私が関わる機会を奪ってたんだからわからないのは当然だけど。
彼から直接断ってもらうのもいいが、私から断る方がいいかもしれない。別にどうでもいいが、私はここの艦娘の皆からかなり嫌われている。彼を独占したことに対する嫉妬から来るものかしら。
ひたすら嫌われるように行動し続けて、皆から嫌がらせを受けているんだと彼に訴えるのもありかもしれない。そうして私はなるべく性格の悪い女を演じた。演じたというか、素を出しているだけだけど。
ケッコンカッコカリ用の指輪が届いた時、期待半分、不安半分だった。ここまでの私のやってきた積み重ねが本当に彼に伝わったのか、そんなことがわかるから。
欠片も心にもない他の艦娘の話を出しながらずっと私を選べ、私を選べと祈っていた。そして私を選んでくれた。困惑する演技もしっかり忘れない。嬉しかったのは間違いなく事実だから。100%演技というわけじゃないけど。彼の気持ちが形として残るから。私がなるべく可愛く見えるように。そういえばありがとうって言い忘れた。
離れて指輪を確認する。何の変哲もないシルバーリングだったけど、彼から貰ったという付加価値が付いている。これによって練度上限が、ねぇ。じっと見ていると妖精さんが集まってきた。初めて見る種類だけど、艦娘としてのカンが応急修理要員だと告げている。これは使えるかも。
*
目先のことに囚われて、彼と離れ離れになることを考慮できていなかった。これは明確に私のミスだけど、だからと言って他の女に譲るだなんてそんなのあり得ない。出撃をしながらも私は彼のことをずっと考えていた。
秘書艦という一番近くにいる存在でなくなったのは明確な痛手だ。艦娘と言うものは何故だかわからないが、見目麗しい者ばかりだ。彼にその気がなくても、もしかしてがある。何としてもそばに戻らなきゃ。
出撃任務を終わらせ、帰投して報告のために執務室に行くと、そこはもぬけの殻だった。嫌な予感がする。食堂にいるということはすぐにわかったが、すぐに突入せずに中を覗く。
どうやら険悪な雰囲気になっているらしい。ここで自分にとって一番得になることを考えろ、私。この場を正論で上手く収めることは容易にできる。それよりも彼に罪悪感を持たせる方がいいか。よし、強引に行こう。
ついでにその場にいた艦娘への牽制も忘れない。結局正しいことを言っていたとしても、言い方が悪ければ心情というものも悪くなる。私と彼の関係が歪なものである、と勝手に邪推してくれるとありがたい。
あぁ、その投げやりになったような表情の全てが愛おしい。笑っている顔を見たいのは当然だけど、やっぱり色々な感情を引き出してみたい。
彼も今日はかなり堪えたようだ。明らかに辛そうで、最近はあまり眠れていないのか目の下の隈が酷い。
こんな状況で仕事などさせてはいけない。本当は私が全てやってあげたいのに、臨時の秘書艦が足を引っ張っているのね。許せない。
こんなわかりやすい問題が降って湧いてきたことだし、やっぱり私が担当すると言ってみよう。艦娘の身体であればかなりの無理は効く。最近は成長が鈍化してきたことだし、出撃を辞める丁度いい機会だ。
こういう時はちょっときつく言った方が効くと私は知っている。早く寝てくれたら体調も回復するし、寝顔も堪能できて私のやる気も上がるし一石二鳥よね。
*
私はイライラしていた。他でもない。大本営から来た手紙がその理由。こんなのろくでもない内容に決まっている。燃やしてやりたかったけど仕方が無いから中身を確認した。なによこれ。
はいはい。無理なお願いをしに来るのね。大本営発表ではうまく隠しているようだけど、最近の人類側の状況は芳しいものではないことは容易に察せる。出撃でもしろって言うんでしょ。そんなこと大人しく聞けるわけがないでしょ。
前回出られなかったことを思い出して更に怒りがこみ上げてきた。ここの基地と私たちの今後を左右する話なことは間違いないんだから、今度こそ邪魔されるわけにはいかない。
同席する艦娘なんて私だけでいいじゃない、なんて言いたいのをぐっとこらえてちょっとだけ考える。この際誰でもいいんだけど、私にある程度ヘイトを溜めている艦娘だと尚いいかな。私の悪い噂を広めた翔鶴さんは丁度いいと思う。嫌がらせとかはまだされていないけど、順調にその機運は高まっている。
そんなわけで無事榛名さんと翔鶴さんで確定。早速約束を取り付けに行く。私じゃなくて彼が行った方が万倍嬉しがるだろうから、そんなことはさせてあげない。
2人共に本当は私だけでもいいけど、司令官から頼まれたから仕方なく来てあげたと言うことを強調する。怒った姿を彼の前で見せることで幻滅してくれればいいなって思いながら。残念ながらそんなに効いてなさそう。もっと煽ったほうが良かったかな。
さて、戻ってきたら何やら思いつめた顔をしている。こういうときはムチだけでなくアメも忘れてはいけない。皆の前では厳しく、彼の前では優しく。こういった二面性に心を動かされるものと聞いてから、意識してやるようにしている。私の本性はこんな風に穏やかなんですよーって。普段はそういう態度をするのも辛いんですよーって。
そんな風な甘い考えをしていたらいきなり手を振り払われた。え?なんで?は?そのままどこかに行ってしまった。どうして?心から沸々と湧いてくる困惑を一旦抑えて考える。
彼があんなことをするはずがない。そんなの絶対、有り得ない。じゃあ、なんで。もしかして嫌われた?そんなはずはない。この指にある物がそれは違うということを示している。
ということは接し方を変える必要があるってこと?ああいう上から目線な言い方が良くなかったのかな。それとも、ボディタッチ?女の子っていうことを意識してほしくてなるべく自然にするようにしてたけどそれもダメだった?もしかして、品がないとでも思われたのかな。それとも彼の寝顔を見ていたことがバレていたとか。私が色々なところで交流するのを妨害していたこととか。あー無理。何にもわからない。もうさっさと拉致して監禁したい。それは最終手段だけど、自殺に見せかけて誘拐するというのはありかもしれない。何か彼にとって辛い出来事があったらチャンスね。
とりあえず仕事だけは最低限しておいて、伝言だけ残しておこう。気遣いのできる女が好まれるのは間違っていないはず。それと有能さを見せておこう。
朝を迎えてしまった。色々考えたけど、顔を合わせるときにはいかにも傷つきましたっていうしょんぼりした態度でもしておけばいいかな。彼も男の人だから、引っ張っていきたいという気持ちがあるのかもしれない。何にせよ今までとは態度を変えなければいけないことだけはわかる。
寮の部屋から出ると、お迎えがいた。霧島と瑞鶴。今日対応する2人の姉妹艦だ。面倒くさいことになる予感しかしない。案の定『お話』を持ち掛けられる。どうせそれだけじゃ終わらせない癖に。
大体予想の通りだった。『提督から離れろ』ですって。はぁ?バッカじゃないの?私は彼から選ばれているの。アンタらみたいな有象無象とは違うの。おわかり?なんてことをオブラートに包んで言ってあげたら昨日拒否されたことをやり玉に挙げてきた。その話題を出してきたのもイライラするけど、そんなことなんで知ってるの?
ヒミツって。どっちにしろ後ろ暗い方法を使っているに違いない。あー、やっぱり私と同じでいい性格しているようね。ほんっと気に食わない。特別な絆で結ばれている私はそんなことすらする必要ないけど、相手にすらされていない艦娘は大変ね。
はぁ?提督が可哀想ですって?何をバカなことを言ってるのだろう。彼を幸せにできるのは私だけだし、私を幸せにできるのは世界で彼しかいない。そんなことを懇切丁寧に説明してやっているのに、変わらず勘に触ることばかり言ってくる。あー、もうこんな奴らと話していても時間の無駄。
提督のところに行かないと。ってマズい。すっかり約束の時間になってしまっている。そういう狙いだったのかと考えるまでもなく自分が悪い。ムキになっていたとはいえ、こんな時間管理すらできないなんてどうやら私は昨日のことでそれなりにダメージを受けているらしい。
急いで応接に入ると、どうやら話も終盤に差し掛かってるようね。内容は無理な出撃をしろというもの。そんなことをして彼が耐えられるわけがない。そんなことを言ったが多勢に無勢。あっさりとつまみ出された。せめてこの2人が妨害したことだけでも伝えようとしたが、あえなくそれは叶わない。
そのまま営倉に入れられた。出撃に介入できなくなるのはとっても困る。あの流れのまま行くなら確実に作戦は実行されるでしょうから。私がいない間に誰かに絆されないかも心配ね。嫌なことばかりだが、ポジティブに考えるなら無限の時間があるということ。有効活用しない手はない。
仮に出撃で轟沈艦でも出ようものなら彼の心が壊れてしまうことは目に見えている。そこを慰めることで上手く取り入ることも出来るかもしれないけど、その轟沈した艦にずっと思いを引き摺ってしまう可能性もあるし、リスクが多すぎる。
チラッと聞こえてきた南方海域での作戦だけど、うちの艦隊ならハッキリ言って余裕だとは思う。私が作戦を組んである程度私が戦闘に介入できる前提だけど。彼が1人で考えるなら色々と穴はあるだろうけど、それでも優秀な艦娘の皆さんがいれば犠牲を出しつつも勝利はできるはず。そうなると作戦の失敗による責任を取り辞職して、それに私が着いていくのはちょっと難しそう。最悪なのは作戦が失敗することかな。それを軸に考えていきたい。
作戦が始まってしまえば私が何もできないのが余りにも大きな枷すぎて、正解がわからない。脱走なんてしたらここに居られないことは確実だろうし、不確実なリスクは負いたくない。もうどうにでもなれ。私がここを出ることができてから行き当たりばったりで考えよう。彼はきっと私のことを完全に見限ることはない。それならいくらでもチャンスはあるはず。
あっ、司令官が来てくれた。嬉しい、好き。すごく嬉しいんだけど、どういう風な態度をしているのかが正解か何も考えていない。仕方が無いので無言を貫く。憔悴しきった顔も忘れない。私をもっと心配して。
そうしていると彼は膝をつこうとしていた。それは困る。そんなことをしなくても意味がないと言い、そうして応援だけはする。頑張って。貴方ならきっとできる。本当はこんな態度するの不本意なんだけど、司令官のために仕方なく。そんなことを察してくれると嬉しい。
帰ってしまってから今一度考えたが、話さないというのは案外正解かもしれない。彼に何を吹き込んでいるのかわからない以上、下手に嘘をつくと信頼を損ねてしまうかもしれないから。
そんな風に当面のざっくりとした予定だけを決め、あとは作戦終了後に考えられるケースについてを1つ1つ考えていた。それ以外は指輪を見ながら彼のことだけを考えていたら時間はすぐに過ぎて行った。1日に1回時間を見つけて来てくれる彼はどうやら私に何かを相談したいようだった。私も聞きたいのは山々だが、監視と言う出歯亀もいるしどうしようもない。そのまま数十分経って帰っていく姿を見て、家から亭主を送り出す妻になった気分だった。
この生活にも慣れてきて、1週間が経過した頃だろうか。彼から謹慎を解くと言われた。おかしい、絶対に何か裏がある。まずは情報収集と現状の把握をしなくっちゃ。それから自分の身の振り方を考えようと思ったが、作戦については業務として知らなければいけない。話を聞く。
まずい。彼の考えた作戦が思いの外よかった。それどころか、私が考えるものよりもいいかもしれない。頑張ったんだね、すごいねって褒めたい。でも、完璧に作戦が成功してしまうと、手の届かない存在になってしまうかもしれない。上から命令をされてしまえば、どんな配置転換をされようが私には抗えない。じっくり時間をかけて私なしじゃ生きられないくらいにしようとしていたけど、そんな時間はない。
咄嗟に指輪に目を向けた。これがあると心が落ち着く。そこにはやっぱり、応急修理要員がいて。そうして思いついた。私が沈めばいいって。厳しい作戦ではある以上、私が沈んでしまうことそのものに違和感はない。味方から砲撃を受けたとでも言えば、他の艦娘への彼からの信用は無くなる。彼は精神的に追い詰められるはず。そうしたら遺書でも偽装してしまえば、いなくなっても誰も疑う余地は無くなる。後は私の好きに出来る。いけない。口元が上がっているのが自分でもわかる。顔を見せてはいけない。今度こそ振り払われないことを信じて、彼に抱き着く。久しぶりに嗅いだ彼の匂いに強い興奮の感情が湧き出てくる。すごく、いい。
なるべく本心を語りつつ、不安の種を蒔いておくことだけは忘れてはいけない。精神状態を不安定にさせておけば、私がいない間自死を選んでも仕方が無いと周囲に思わせやすくなる。
当然失敗の可能性もある。ひょっとしたらその確率の方が高いかもしれない。そもそも南方海域での作戦が失敗するかもしれない。これが応急修理要員じゃないかもしれないし、本物だとしても蘇ったことが艦隊の皆にわかってしまうかもしれない。仮にそこまでが上手くいったとしても、帰投している途中に敵にやられてしまうかもしれない。
考え出せばキリがない。だとしても、やるしかない。このまま手をこまねていても、待っているのは破滅だけ。本当にどうしようもなくなる前に今が最後のチャンス。幸いなことに私は『運』がいい。覚悟は完了してる。大体な話、どっちに転んでも私には関係がない。
これが上手くいけば私にとって最高の毎日が待っている。彼とずっと一緒にこれからを生きていける。
仮に、失敗したとしても。
一生消えない思い出として、彼のなかでずっと生き続けられる。
ここまで見ていただき、本当にありがとうございました。
感想などはとても励みになりました。
余談ですが、艦これの日々の準備で詰められるところをしっかり詰めて行って、最後は運というゲーム性がとても大好きなんですよね。3択くらいのスナイプを成功させたときの脳汁とかすさまじいです。
ここまで読んでいただいた、貴方の来月あるらしいイベントの作戦成功を願います。それでは。