オーブ国内にあるバー。趣のあるクラシックが流れるオシャレな店内で緊張した顔付きで入っていく二人の女性達が居た。
「こんなとこ、初めて入るわ・・・てかまたオーブに来る事になるとも思わなかったけど・・・」
「私もだよ。確か奥の席に居ると」
「こっちよ二人共」
声をかけられた方を振り向く二人、軍を抜けたナタルとフレイは席に座っていたマリューとムウを見つけると二人の元に駆け寄った
「お久しぶりです。遅れてしまって申し訳ありません」
「良いのよフレイさん。私達も今来たところだし。ほんと久しぶりね」
「確かに久しぶりだな。こうしてお前らとも再会出来て良かったよ」
「その感じ・・・本当にフラガ少佐だったんだ。全然分からなかった」
「無理もないよな。ネオだった時は仮面でほぼ顔見えてないし、お互い仕事以外の関わり無かったもんな」
最初は緊張していたフレイだったがマリューとムウと会話をしている内に過去のわだかまりが解けた様に打ち解けていた。一方フレイの隣に座るナタルは未だ緊張がほぐれず表情が固まっていた。
「記憶喪失だったんですか⁉︎てかタンホイザー防いだら戻ったって・・・ナタルさん?」
「・・・ん、ああいや、気にしなくて良い。それよりも」
「別に緊張しなくても良いのよナタル。知らない仲じゃないんだし」
「そうですね・・・せっかく揃った事だし、何か頼みましょう」
フレイとナタルは大戦の渦中で連合を抜け軍人を辞めていた。その時にエクステンデッドやニュースピシースの子供達の訓練施設の情報を盗み出しており、軍に利用される前に子供達の保護をする活動をしていた。戦争が終わり再び平和となった後、ステラの縁でフレイとナタルはオーブに来る事となり、マリュー達と再会することとなった。
「そっちはどうなんだ?保護するのも育ててるのも二人だけだと大変だろ?」
「それは大丈夫ですよ。スカンジナビア王国と話しはついてまして、支援して貰っていますので」
「保護施設の提供と資金援助だけで人員が足りないだろ。まぁ無いよりはマシだろうけど」
「ボランティアは募集してくれていますよ。それに年長組が下の子達のお世話を手伝ってくれていますからなんとかは」
「ほんとに助かってますよ。お陰で多くの子供達を助けられますし、こうして二人っきりの時間も取れますからね」
「おいフレイ」
「ん?二人っきり?」
「えっ?貴女達、まさか」
「はい。色々あって私達付き合う事になりました」
「「ええっ⁉︎」」
「・・・・・・はい」
フレイからのカミングアウトに驚愕するムウとマリュー。ナタルも赤面しながらも肯定しているのを見て驚きながらもお祝いの言葉をかけた。
「そうだったのか・・・いつから?ドミニオンに居た時はそんな素ぶり無かっただろ?」
「軍を抜けた後にですね、その・・・私の方から。腕を失ってから献身的に支えてくれてるナタルさんの事を気づいたら好きになりまして」
「そうなのね・・・でも良かったわ。お互い元気そうで。以前はこうしてまた会えるとは思わなかったからね」
「あの時は・・・いえ、今もなんですが私が貴女に会う資格は無いと思っていましたから」
前大戦の時、ナタルは地球軍としてマリュー達と敵対していた。その時の戦いでムウの乗るストライクを撃墜し、マリューの心に深い傷を残しており、ナタルは今も罪悪感でいっぱいだった。実はムウが生きておりこうして戻ってきた事を知った今でもマリューやムウに対して申し訳ない気持ちは残っており、今日マリュー達と会う事に直前まで悩んでいた。
「そんな事気にするなよ。あのローエングリンを撃ったのはお前じゃなんだし、仇もセナが取ってくれた。しかも俺はこうして生きて帰ってきたんだしよ」
「それは結果論でしかありません。あの時アズラエル理事の凶行を私が食い止めていれば、少なくとも二人を引き離す事には」
「ナタル、貴女が後悔する気持ちは分からなくは無いわ」
俯いたままのナタルの肩にそっと手を置くマリュー。ナタルが顔を上げると正面からマリューと目が合う。そのままマリューはナタルと向き合う様に話しかける。
「もっと上手く出来たかもしれない、他に取れる選択肢があったかもしれない。なんて後悔は私もよく分かるわ。何が最善かなんて誰にも分からないんだもの。でも私も貴女も分からないなりに最善を取ろうとしたのは同じでしょ?」
「それは・・・分かりません。私にはどうすれば良かったのかなんて」
「そうね・・・だからこそ次は後悔しない様にしなくちゃいけないのよ。その為に軍を抜けたんじゃ無いのかしら?」
「・・・はい。罪のない子供達を、戦場に送る様な真似はしたくなくて、少しでも罪滅ぼしがしたくて・・・結局ただの自己満足なのかもしれませんが」
「自己満足でも救える命がある。なら十分立派な事よ。だから貴女も自分を責めるのは終わりにして欲しいわ。せっかくまた会えたもの。湿っぽいのはここまでにしましょう」
「・・・はい」
「良かったですねナタルさん」
「ああ、ありがとうフレイ」
フレイの方を愛おしそうに見つめた後、漸く緊張と罪悪感が抜けたナタルは持っていたグラスの中身を一気に飲み干す。その顔には今までに無い安心しきった表情であり、やっとわだかまりが消えた瞬間だった。その様子を見て安堵したマリュー達だったが入り口付近での店員の声に耳を傾ける。
「さっきから騒がしいけど何かしらね?」
「なんかトラブルでもあったのかな?」
「大変申し訳ありません。現在空きの席がございませんので・・・申し訳ありません」
「あ、いえ。大丈夫ですよ。この後予定も無いんで待ちますよ」
店員と話していた男の方を見るマリュー達。黒髪に赤い瞳をしたその顔にどこか見覚えを感じていた。
「あれ?あの子、どこかで・・・」
「・・・マジかよ」
「・・・・・ん?」
「あ、ステラが気になっていたインパルスのパイロットの奴⁉︎」
男の正体はシンだった。マリュー達と目が合い気づいたシンが固まっていると横から店員が声をかけてくる。
「あ、あちらのお客様とお知り合いでしたか?」
「えっと・・・知り合いと言いますかなんというか」
「でしたら相席してもらって大丈夫ですよ。どうぞ」
「えっ、いや流石に」
「私達は大丈夫です。ほら、貴方も」
「あ、それじゃあ」
マリューに誘われてシンは若干固い表情で座る。シンからすればほぼ初対面の席に座るのは若干気まずさを感じてしまっていた。それはナタル達も同じだった。恨みは無いとはいえ少し前まで殺し合っていた関係であるので緊張を感じていた。
「今日は一人なのは珍しいわね。いつも妹さん達と一緒だと聞いていたけど」
「セナにでも聞いたのですか?今マユ達は女子会をやっていますよ」
「ふーん、それで一人寂しくこんなとこにまで来たのね」
「別に寂しくは無いし。マユもルナもステラも楽しくやってるんなら十分だし」
「あ、そうだ!アンタステラとはどんな感じなのよ!どこまでいったのよ?」
「なんでアンタに言わないといけないんだよ!てかアンタ、それ」
シンはフレイの右腕が無い事について聞こうとしたが途中で言葉が詰まってしまう。ステラの関係者という事で相手が元敵だった事は分かるが、それでも面と向かってデリケートな話しをするほど無神経では無かった。フレイはそんなシンの様子を見て自分から話し出した。
「気になってるんでしょ、コレの事?」
「え、あ・・・そうだけどその・・・」
「コレはサンシャインに・・・セナにやられたのよ。だからアンタが気にしなくて良いわ」
「そうなのか?でも」
「確かに最初はショックだったし落ち込みもしたわよ。けど、もう戦えないからこそ他の道を選ぼうってきっかけになれたのよ。だから後悔は・・・今は無いわ」
「・・・そっか」
フレイの言葉を聞いて本人の中で整理できたのだと分かりシンの緊張は解けた。そして視線を変えた直後に先程から黙っているムウと視線が合ってしまう。
「えっと・・・貴方は?」
「・・・久しぶりだな」
「な⁉︎・・・・・アンタだったのか」
ムウの声を聞いたシンは声色を低くして警戒した様に目つきを鋭くする。シンはネオの事を思い出しており、ステラの事でのわだかまりが解けてない二人の間にピリついた空気が流れていた。急に黙り込んで睨み合う二人にマリュー達は困惑する中、ムウが口を開く。
「二人っきりで話しがしたい。場所を変えても良いか?この店に迷惑をかけたくは無い」
「オレは構わねーけど、そっちこそ良いのか?オレと二人になって。話し次第ではどうなるか分からないぞ」
「それも分かってるつもりだ。済まないなマリュー、ちょっとだけ席外す」
「え、ええ」
「失礼します」
マリュー達が心配そうに背中を見送る中でムウとシンが店の外に出る。そこからしばらく二人は無言で歩き出し、人気が無くなってから足を止めたシンが話しかける。
「ムウって名前だったんだなアンタ。ステラ達にはネオって名乗ってた癖に」
「話せば長くなるんだが・・・その頃はネオ・ロアノークって名乗ってたんだ。嘘をついてた訳じゃない」
「あっそ。それで今更何を話す気だよ」
ぶっきらぼうに答えるシンは威嚇をする様に警戒心をむき出しにしていた。シンは大戦の時にネオとステラを戦場に出さないという約束をしていた。だがそれを破られベルリンでデストロイに乗って暴れるステラをサンシャインに撃墜され、そこからシンとセナの因縁が出来てしまった。今は過去に一度会った事があるのとステラが生きていた事もあり、セナとは和解する事が出来たがシンはまだネオの事を許している訳では無かった。
「今更になるが・・・お前には謝りたくてな」
「オレよりもステラに謝れよ。それに今更謝罪なんか」
「ステラには謝ったさ。そして今度こそ守る・・・信じられないだろうが、今度こそ」
「・・・それがなんだよ。だからオレにもう許せとでも言うのか?もう過ぎた事を引きずるのは止めろとでも」
シンは戦争を終わらせる為にデスティニープランを受け入れてデュランダル側について戦っていた。それは過去に家族を戦争で失い更に多くのものを失い傷つく事になった戦争を憎んでいるからこその決断だったがオーブ軍に阻まれてしまった。今でこそオーブの考えにある程度は納得し折り合いをつけてはいるが全てを許せる訳では無かった。その一つがネオの事だった。
「そんな気は無い、過去は無くなりはしない。だからこそ俺は俺の罪に向き合うつもりだ。言いたい事はそれだけさ。お前さんのやった事は間違いじゃない。軍人として戦争を終わらせようとするのも、人として命を救おうとする事も」
「・・・その結果があのベルリンだとしてもか?」
「悪いのは命令したジブリールと止められなかった俺にある。お前が責任を感じる事は無いよ。それともステラを連合に返した事をお前は後悔しているのか?」
「そんな訳ないだろ!けどオレに出来ない事をセナはあっという間にやってみせた。ステラもセナの事を信頼している。結局オレは」
「自分の事を許せないのか?」
「っ⁉︎だからなんだよ!」
声を荒げるシンに対してムウは静かに、だが真っ直ぐ相手の目を見て向き合っていた。所属している軍も違えばこうして会う事もほぼ無い相手ではあるので、こうして向き合う事は必ずしも必要では無かった。だが関わらないという選択を取るほどムウは無責任な考えはせずシンと正面から向き合う事を選んだ。
「俺から言われるのもお前さんには嫌だろうがな・・・お前は若い。何度だって間違える事もあるだろうよ」
「何の話しを」
「けどそれはお前が未熟だからじゃない。間違えない人間なんていないんだよ。ナチュラルだろうがコーディネイターだろうが・・・お前だろうが俺だろうが、セナだってな。けどそこで終わってしまったら同じ事の繰り返しさ。大事なのはこの後どうするかだと思うぜ」
「この後、どうするか・・・」
「お前も俺も生きている。俺の事を許さないのはお前の勝手だし俺もそれは構わないが、それでも俺は俺に出来る事をやるだけさ」
「・・・・・あっそ」
シンは突き放す様にそっぽを向く。だがその背中から先程まであった敵意は消えていた。そのまま歩き出すシンを追いかける様にムウも歩き出す。そのまま並んで店に戻る途中でシンから声をかける。
「・・・・・・ステラは幸せなのか?」
「ああ。お前とまた会えて嬉しそうにしてるよステラは」
「・・・そっか」
「出来ればステラと付き合ってくれればもっと幸せだろうし俺も安心出来るんだかな・・・けどそう簡単にステラとの関係は認めないからな」
「んだよそれ。どの立場だよアンタは」
「一応保護者のつもりだぜ。だからどこの馬の骨か知らん奴よりはお前の方が良いと思ってる」
シンの顔を見ながら真剣に話すムウ。その顔を横目で見ながらシンも思っている事を正直に話しだす。
「そうかよ。生憎、オレはまだ誰かと付き合うとかそういうのは考えてないんだよ」
「あんなに可愛い子に囲まれてる癖にか?」
「ルナとステラとはそういう関係じゃねーよ!それにマユは妹だぞ!てかそれアンタが言うのかよ!」
「ナタルとフレイは元仲間ってだけだぞ。マリューは俺のフィアンセだけどな。狙うなよ」
「そんな事するかぁ!年齢差考えろよ」
「年齢差て・・・マリューも俺もまだ若いぞ。お前らと10くらいしか離れてねーし」
「ふ〜ん・・・てっきりアンタはもっとおっさんだと思ってた」
「誰がおっさんだ!まだ若いわ!」
くだらない事を言い合うシンとムウ。大戦の時のわだかまりに一つ区切りをつけた二人の心の距離は縮まっており、また一つ未来へと歩みだしていた。
マリューとナタル、ムウとシンが戦後に会った時のお話しでした。フレイとナタルの物語はある意味ここで完結しています。本編では死んでしまう二人を生存させた以上、何かしらの意味を持たせようとした結果、こうなりました。二人はこれから苦労しながらも自分達の人生を歩んでいくと思います。この二人をカップルにしたのはナタルが軍を辞めてまでフレイと共にいる理由がこれくらいしか無いと思ったからです。二人の関係は付き合う前から長いのでこうなるのも遅くは無いと思いこうしました。
シンとムウの話しは正直自分がやりたくて入れた話しです。個人的にシンとムウがFREEDOM編でいつの間にか仲良くなっているのが疑問というか突っ込みたいと思う部分でした。ですのでほぼオリジナルですが二人が本音で語り合う機会を作りました。これはまだ初めの一歩にしか過ぎません。ですがその一歩があるからこそ交流を深める事ができ、FREEDOM編の様になると思っています。ちなみにシンがセナを呼び捨てする理由は別のお話しでするつもりですが、セナ自身がシンに対して対等な関係を求めたのでそう呼ぶ事なったという話しがあります。いずれ何かの形で描くとは思いますが一応補足でここで出しました。