(気まずい・・・どうしてこうなったの)
後部座席に座り窓の外を見ながらセナは心の中でぼやいていた。昨晩のラクスの提案により本来キラとラクス二人で行くはずのピクニックについて行く事になり渋々承諾していた。
(まぁ言い出しっぺがラクスだし、二人の仲も案外良好そうだしそれが知れただけで十分かな)
横目でキラ達の方を見るセナ。キラが運転をしながら助手席に座るラクスと談笑している様子を見て昨日自分が心配していた事が杞憂だったと安堵していた。少なくともキラとラクスの関係は問題無かった。問題は自分の方にあると感じていた。
「セナ?どうしましたか?」
ラクスに声をかけられセナは振り向く。気づけば目的地には着いておりラクスもキラも全く動こうとしないセナを心配している様に見つめていた。
「あ、ごめん。もう着いてたんだ・・・今降りるよ」
慌てて車から降りるセナ。三人が来たのは公園だった。桜が咲いている木の下でシートをひいて座りラクスが用意したサンドイッチを三人で頬張る。ただ穏やかな時間が流れるそのひとときは、この三人にだけは重い沈黙が漂っていた。
「・・・まだ私には話してくれませんか?」
沈黙を破ってラクスがセナに問いかける。セナは言葉が詰まり誤魔化す様にサンドイッチを食べ進める。セナからすれば単にキラとの考えの違いが衝突しただけの話。人に聞かせる様なものでも無ければ意固地になる事も無い事も頭では分かっていた。どちらかが折れて謝るだけで済むそれは、半年近くまで拗らせ引き際を見失っているだけだった。
「・・・ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」
セナはラクスの問いに答えずにその場を離れる。ラクスは何も言ってくれないセナの背中を見送ることしかできなかった。
「やはり、そう簡単には話してくれませんよね・・・こういう時、相手の心を読めたらすぐに分かるのでしょうけれどね」
「それはどうなんだろうね。相手の嫌な部分とか隠したい事とか知れちゃうのは良くないんじゃないかな?」
「そうですわね。私もそうまでして話したくない事を無理に聞き出そうとする事が間違っていたのでしょうね」
「ラクスもセナも間違ってないよ。アレは僕のせいだから」
キラの言葉にラクスは振り返る。そこには眉を寄せ顔を顰めながらも胸中を伝える覚悟を決めたキラの姿があった。
「キラのせい、ですか」
「うん・・・半年前の任務で、ブルーコスモスの機体に爆弾が埋められていた。普通に撃墜すれば近くの防衛をしていたザフト兵やシン達も巻き込まれる危険があった。セナはそれをプロミネンスカノンで一撃で全て焼き払って被害を抑えたんだ。その判断は間違いじゃないと思うけど・・・あんな簡単に敵を吹っ飛ばす決断をしたセナの事を僕は拒絶したかったんだと思う」
「それは・・・セナも、キラも間違いではないと思いますよ」
セナは罪のない住民やザフト兵を、何より自分の仲間達の身を案じて撃つ判断をした。それは軍人として正しい事だった。そしてキラもたとえ敵だったとしてもその命を奪う事を忌み嫌い少しでも喪われる命を減らしたいと考え合理的な考えを否定したいと考えるのはおかしいものでも無かった。ただ二人の考えが正反対の方に向かっており、その結果溝が出来てしまった。それは二人の問題であるとどちらも分かっていた。
「・・・コクピットを避けて攻撃してパイロットを殺さない様にするのは僕が殺したくないだけだから、命を奪う事の重さに耐えられないからなるべく背負わない様にしてるだけなんだ。命を奪う責任を負いたくないだけってセナには言われたけど否定できなかった。最初の頃から全部セナに背負わせていた僕が今更セナを否定する資格なんて無かったくせに」
「キラ・・・」
「だから僕は・・・今度こそは争いのない世界にしたいんだ。ラクスもセナも何も背負わないで普通に生きていける様な、そんな世界に」
キラの心の内にあるのは平和な世界にするという思いだった。かつてセナに守られ背負わせていた結果心を壊れる程に傷つかせた負い目からくる後悔と二度と繰り返させないという決意から来ていた。心を壊したセナの事で悩み続けていたキラの事を見ていたラクスからすれば自分にそれを止める事は出来ないと悟ってしまった。
「・・・こんな時に聞くのもおかしいとは思いますが、キラに聞いておきたい事があるのです」
「ラクス?」
「ファウンデーション王国からの申し出なのですが・・・」
キラの内心を知ったラクスは昨日から悩んでいたファウンデーションからのメッセージについて話し出す。上手くいけば今の争いが続く現状を終わらせられるかもしれない、そうすればキラもセナももう傷付かずに済むとラクスは考えていた。そして今のキラがその話しにどう答えるかもラクスは分かってしまっていた。
「うーん・・・いつ戻れば良いのかな?」
セナはキラとラクスの会話を木の裏に隠れながら様子見している気まずさからラクスからの問いに一旦逃げ出したが、漸く覚悟を決めて戻ろうとしていたところで二人の会話を聞いて戻りづらくなっていた。
「キラったらあの時の事気にしてたなんて・・・いや、気づかなかった私も大概か。てかファウンデーションに行く事は確定なのかな?」
ミケールを捕まえる為にファウンデーション王国に行くかどうかラクスは悩んでいた。その判断をキラの意見を聞いてから判断しようとラクスは考えていた、というよりはキラがどう答えるかを分かったうえで問いかけている様にもセナは見えていた。そしてその予想通りにキラは早期解決の為にファウンデーション王国に向かおうとしていた。
「まぁ私もラクスの護衛って事でついて行っても問題無いわよね。仲直りするならその時にでも・・・ん?」
セナの携帯から着信音が鳴る。取り出して相手を確認すると公衆電話から電話が掛かってきていた。休みのタイミングで掛けてくる事に違和感を感じながらも重要な話しかもしれないのでセナはそのまま通話を始めた。
「もしもしセナ。今大丈夫?」
「ステラ⁉︎今大丈夫だけど急にどうしたの?」
ステラは前回の戦争の後、オーブ軍を抜けていた事はセナは知っていた。だがその後ステラが何をしているのかははっきりとは分かっておらずこうして会話をするのも本当に久しぶりなのだった。
「セナに話したい事があるの。最初ミレニアムに掛けたのにコンパスの部隊から抜けていたなんて知らなかった」
「抜けたわけでは無いんだけど・・・いや、話すのも面倒だし良いや。それよりどうしたの急に?」
「うん・・・セナは近い内にファウンデーションって所に行く予定ある?」
「・・・なんでそれを?多分行くとは思うけども」
「やっぱり・・・なら気をつけて。それと最近、なんか変わった事無い?体調とか・・・変な気配とか声とか」
「変わった事か・・・特には無いと思うけど・・・なんで?」
ステラの聞き方には自分の体調に異変が起きているかの様な聞き方をしているとセナは感じていた。まるで何か不調があってもおかしくない聞き方に違和感を感じたセナは質問し返す。
「特に無いなら大丈夫。とにかく体に気をつけて」
「うん・・・ちなみにステラが今どこで何してるかって聞いても良い奴かな?」
「悪いけど駄目と言われてる。守秘義務だから・・・あとでこれも確認してね。それじゃあ」
「あ切れた・・・多分ターミナル所属なんだろうなぁ・・・隠すのが下手すぎる」
ステラが通話を切る。セナはステラの質問の真意を知る事は出来ずもやもやしたまま二人の所へ戻っていった。結局キラとセナは仲直りすることが出来ないまま数日が過ぎ、ファウンデーション王国に向かっていった。
「ファウンデーションかぁ・・・どんなとこなんだろう」
「さぁな・・・よく分かんないけどなんとかなるだろ」
ファウンデーションに着くまではそれぞれ自由に過ごしていた。シンとマユも休憩室で能天気な事を言いながらソファで寛いでいた。
「アンタらねぇ・・・もうすぐ着くのよ」
「そう言われても・・・他に何もする事ないもん」
「どうせなんか打ち合わせしたら出撃するだけだろ。変な事しなければそんで十分だろ」
「それは当たり前の事だけどね・・・まぁそれ以上の外交の事はラクス達に任せれば良いと思うよ」
セナが話しかけると同時に休憩室に入ってくる。ラクスの護衛として久しぶりにミレニアムに乗ったセナは束の間の休息を堪能していた。
「お久しぶりですセナさん」
「うん久しぶり。そんな畏まらなくていいよ楽にしてな」
セナの姿を見るやいなや即立ち上がりソファを空けるシンとマユはルナマリアに続く様に敬礼していた。それをセナは下ろす様にジェスチャーしながらソファに座る。
「マユちゃん、また背伸びた?ほんと子供の成長って早く感じるわ」
「子供扱いしないでよ!」
「なんで親戚のおばちゃんみたいな言い方してるんですか」
「ふふふマユちゃん。大人にとって年下わねぇ、いつまでも可愛く見えるものなんだよ」
隣に座ってきたマユの頭を撫でるセナ。マユは口では不服そうにしながらもその手をどける事はなくされるがまま受け入れていた。セナは空いている手でルナマリアとシンを手招きするも二人は苦笑しながらやんわりと断っていた。二人ともプラントでは成人している歳であり子供扱いは流石に恥ずかしさが上回っていた。
「おや、なんか面白いことになってるじゃないか」
「あ、お久しぶりですヒルダさん」
休憩室に入ってきたハーケン隊にそのままの態勢で頭を下げるセナ。マーズとヘルベルトはセナに手を挙げて挨拶をする。その間にヒルダは横で立っていたルナマリアに抱きつく。
「ヒャ⁉︎あの・・・セクハラですよぉ」
「まあまあ良いじゃないか減るもんじゃないし。アンタ達ファウンデーションに招待されているんだろ?なら気をつけなよ。あそこには出るって噂があるからね」
「出るって何がですか?」
「待って。なんでそのまま続けてるの?」
ルナマリアの体を撫で回して堪能したヒルダがセナの頭部の匂いを嗅ぎながら話しを続ける。それを気にしないで話しを続けるセナにマユがつい横から口を挟んだ。
「なんでって、別に減るものじゃないし」
「いやだからって」
「それにこれくらいは慣れたから。もっと際どいところを触られたことだってあるし」
信じられないものを見たような目をしてヒルダの方を振り向くマユとルナマリア。ヒルダも流石に身に覚えのない事に手を振って否定していたが二人は疑ったままだった。
「あいや、違うよ。ヒルダさんにされたわけじゃないからね。ああ見えて超えちゃいけない一線は超えない人だから」
「「な〜んだ、びっくりした」」
「こっちまで驚かされたよ・・・アンタには敵わないねぇ」
「そんな事より何が出てくるんでしたっけ?」
「化け物だってさ」
セナの疑問にマーズが答える。曰く現地でケルピーと呼ばれる化け物がファウンデーションに出るという噂だった。そんな曖昧な情報しか出てないものに気をつけるも何も無いだろと半信半疑なシン達とは対照的にセナはうなづいていた。
「なるほど・・・なら水辺は寄らない様にしますね」
「そもそもそんなとこ行かないと思いますけども」
「それもそうだねぇ。ま、大人のお節介って事で」
休憩室で雑談をしていると突如艦内に大きな揺れが発生する。ミレニアムが着水した時の振動が伝わってきていた。
「お、ようやく着いたみたいね。じゃあ行ってきます」
セナがヒルダ達に軽く敬礼するとシン達もそれに合わせて敬礼する。そして休憩室を出てヘリに乗り込みファウンデーション王国の王宮に向かっていった。王宮にヘリが着陸するとラクスを先頭に順番に降りていく。ラクスの後ろにはキラとセナとマリューとムウが横一列に並んでおり、シンとマユとルナマリアとアグネスがその後ろを着いてきていた。
「ようこそおいでくださいました、姫」
ヘリから降りたラクス達の両脇に近衛兵達が囲んで出迎える。そして正面には七人の黒い服を着た若者が整列して並んでいた。その中心にいる金髪の青年がラクスの元に歩み寄ると歓迎の言葉をかけてきた。
「本日は我がファウンデーション王国にお越しくださりありがとうございます。私は宰相をしておりますオルフェ・ラム・タオと申します」
ラクスに向けて手を差し出すオルフェ。それをラクスは特に警戒せずにその手を取った。その瞬間、ラクスの脳内に不思議な感覚が起こり出す。まるで星空の様に広がる空間の中にラクスはオルフェと二人っきりになったかの様に感じていた。
『ようやくお会いできましたね、ラクス』
『貴方は?』
『私は貴女に会う為に産まれたのですよ、ラクス』
「ラクス?」
手を繋いだまま固まっていたラクスに声をかけるキラ。その瞬間元の状態に戻ったラクスは手を離して自分の手を見つめていた。今まで体験したことのない不思議な出来事に驚いているラクスをオルフェは満足そうに見つめた後、何事も無かったかの様に案内を始めラクス達も続いていった。
『邪魔なやつ』
突如キラの脳内に敵意のこもった声が響いてくる。足を止めて周りを見渡すキラだったが誰の仕業だったのかは分からなかった。
「どうしたのキラ?」
「あ・・・なんでもない」
立ち止まったキラに声をかけるセナ。キラは自分の身に起こった出来事を話そうとも考えたが、気のせいということにして黙ることにした。
「そう・・・なら速く行きましょう。逸れたりしたら大問題だから」
「分かったよ。けどこの距離で逸れることは無いと思うけどね」
キラは後ろから追いつける様に少し駆け出して行った。その後ろを歩いて行くセナは先程のキラの挙動不審な態度で何かあった事を察しておりそのことについて考えていた。
(どう考えても何かあったでしょあれ・・・周りを見渡していたってことは何かしらの音を聞いたってところかしら?けどキラ以外私も含めて誰も聞こえていないなんて、幽霊が出てきたわけでもあるまいし・・・これ以上は考えても分からないわね)
キラだけが気づいた何かについては気になるところではあったが、本来の目的とは関係のない事である。変に詮索しすぎて目的を履き違えることは避けたいセナはそれ以上の追求は止めることにした。
(それにしても大きい城・・・けど少し前の時代の建物の様に見えるわね。中世くらいかしら・・・ってそんな事は関係ないか。今大事なのはこの国の協力を得てミケールを・・・あれ?)
考え事をしながら歩いていたセナは周りから音が消えている事に気づいた。辺りを見
渡すも誰一人姿が見えず、セナ一人だけになっていた。
「あれ?なんで誰も居ない・・・って待って・・・ここ、どこ?」
セナが居るのはファウンデーションの王宮の外の庭だった。考え事をしながら無心で歩いている内に迷子になってしまったのだった。そして一番後ろにいたセナが逸れている事に誰も気づかないまま皆進んでしまったのだった。
「・・・・・・またやっちゃった・・・どうしよう」
交渉相手であるファウンデーション王国内での迷子。しかも謁見の場に無断欠勤というやらかしでは済まない問題にセナは焦っていた。とにかく合流しようと走り出すも集合場所も現在地も分からないまま駆け出したセナはどんどんと別の方向に行ってしまったのだった・・・
最後のとこでまたふざけてしまいました。セナを描こうとするとどうしてもシリアスだけで終わらせたくなくなるのが悪い癖です。多分セナの関係者達も皆、見た目は良いんだけど言動が残念というか愉快という印象だと思います。ただこの作品にはもう一人変なとこでシリアスとコメディを混ぜてしまうキャラがいるせいで戦闘以外のどこかしらでおふざけが入ってる気がします・・・