イングリットに案内された休憩室で休んだ後の夕方、宮殿内で立食パーティーが開かれた。その豪華さにコンパスの面々は驚きつつもそれぞれ楽しんでいた。
「すっごい・・・これ全部でいくらするんだろう?」
「繁栄しているとは聞いておりましたが、まさかここまでとは」
セナの独り言にラクスも賛同する。アウラからはささやかながらと言われていたがこの規模はそれどころでは無かった。そんなラクスはファウンデーションから用意された桃色のドレスに着替えていた。そのドレスも一目で高級品だと分かる程に質の高いものだった。そんなラクスとセナが年相応に興奮している姿をマリューは微笑ましく見ていた。
「本当に凄いですね。ここまで繁栄するなんて、なにか理由があるのでしょうか?」
「我が国では年齢、出身問わず能力が高い者を重宝しておる。コーディネイター、ナチュラル問わずな・・・これもオルフェの采配じゃ」
マリューの問いにアウラは自慢するかの様に答えながらセナの方を見つめるその目つきはどこかセナの事を品定めをしてるかの様だった。
「ふむ、其方がかの有名な太陽の少女じゃな。思ったよりも若いのぅ。しかしその活躍ぶりは聞いておる」
「いえいえ、私はそんなですよ。いつも誰かに助けられてる事がほとんどですから、私一人の力なんて大したものじゃありませんから」
アウラからの評価に謙遜しながら答えるセナ。アウラは満足したのか微笑みながらその場を後にした。それと同時にオルフェが立ち上がりラクスに手を差し伸ばした。
「一曲、よろしいでしょうか?」
オルフェはラクスにダンスの誘いをする。ラクスはその誘いを受けるかどうかを一瞬だけ迷った。キラの前で他の男の手を取って踊る事は出来ればしたくは無かった。だがファウンデーションとの外交を考えるとそういったことも必要なのはラクスも理解していた。そもそもキラとの関係は世間には公にはしておらずオルフェがそれを知ってる筈も無かった。故にオルフェがラクスを誘う行為におかしな部分は無くラクスが断る理由も無かった。
「・・・喜んで」
ラクスはオルフェの手を取り共にダンスフロアにエスコートしてもらっていた。そのまま二人は優雅に踊りだす。その様子をセナとマリューは遠くから眺めていた。
「あれも総裁の仕事ってことだよね?大変だねラクスは」
「そうね。ああいうのも仕事の一つなのよ。もちろん貴女の護衛も立派な仕事だと思うわ」
「私はただ突っ立ってるだけですよ。そんな大変だなん」グウゥゥゥ~
セナの言葉を遮る様にお腹の音が響く。幸いにもお腹の音が聞こえたのは側にいたマリュー以外にはいなかった。
「ふふふ、可愛らしい音ね」
「笑わないでくださいよ・・・恥ずかしい」
「あらごめんなさいね。今のうちに何か食べたら良いわよ」
「ううん・・・まぁ宰相さんなら変な事しないだろうし大丈夫かな。ちょっと食べてきます」
マリューに促されセナも料理を取りに行く。パーティーが始まってもずっとラクスの側で警戒を続けていたセナはろくに食べる事ができておらず、ずっと空腹だった。最初に何を食べようか並んでる料理を眺めているとキラとアグネスの話し声が聞こえてくる。
「隊長、私達も踊りませんか?」
「遊びに来たんじゃないよ、僕らは」
不機嫌そうにキラはその場を離れていく。ラクスがオルフェと踊ってるのが気に食わない様子に同情半分、呆れ半分でセナはキラの背中を見送ると残されたアグネスと目が合う。
「・・・ふん」
アグネスは機嫌の悪さを隠そうともせず顔を背ける。近寄ったルナマリアが声をかけるもののアグネスは不満を露わにしたままだった。セナはそれを特に気にもせず自分の皿に料理を取っていた。
「あ、セナさん。そっちはもう大丈夫なんですか?」
「マユちゃん、シンは一緒じゃないの?」
「お兄ちゃんは・・・アレですから」
いつも一緒な筈のマユとシンが別々に行動してる事に疑問をもつセナ。そんなセナの疑問にマユは苦笑いしながら指をさす。その先に皿の上に文字通り山の様に料理が積み重ねて頬張っているシンの姿があった。その様子にセナはつい二度見をしてしまった。
「な、何この量?」
「お兄ちゃん、相当ここの料理が気に入ったらしくて・・・お兄ちゃん、ミネルバにいた時は心配になるくらいに食べなかったんですけど今はあんなに食べる様になって、ちょっと安心です」
「そ、そうなんだ・・・まぁよく食べるのは良い事だと思うし、うん」
シンの食べる量に少し引きながらもセナはそれ以上言及はしなかった。セナはミネルバにいた頃のシンについては詳しく知らないがマユのちょっと安心という発言から以前よりは良化してるであろう事が分かっていた。それならば聞く必要は無いと判断した。
「私はアンタと違って妥協する気はないから!」
「はぁ、そんな事言ってすぐ振られてるじゃない。いい加減気づいたら」
「何よ!」
アグネスとルナマリアの声が聞こえてきたので二人は振り返ると二人は口論になっていた。アグネスは怒りを露わにして声を荒げておりルナマリアは落ち着いてる様に見えて目つきは冷たくかなりキレてる様子だった。
「二人が喧嘩してるなんて珍しいわね」
「私には喧嘩するななんて言って、ルナも人のこと言えないじゃん」
「そうだね。放っておきましょ」
「えっ?」
セナは心底興味なさそうにその場を離れようとする。そんなセナの様子にマユは唖然としていた。マユが知っているセナは明るく優しく仲間思いな性格だった。そんなセナの見た事ない態度に困惑していた。
「多分私あの子に嫌われてるから。そんな奴の世話してやるほど親切じゃないから・・・ちょっと外に出るわ」
「え、あっ・・・」
セナは食べ終わるとそのまま外に出ていってしまった。マユは呼び止めることも出来ずその背中を見送るしか出来なかった。
「はぁ、疲れた。やっぱこういうの合わないわね・・・ん?」
セナはパーティーの雰囲気が合わず会場から出て外の空気を吸いに行く。セナには格式の高い上品な催しよりも同年代とガヤガヤ騒ぐ方が好みだった。仕事としてやる分には我慢はするが個人的にはそういうのはもっと適任の人にやってもらった方が良いと考えてた。
そんな風に一人で考え込んでいるといつの間にか外に出ていたオルフェとラクスが話しているのを見かける。
「貴女のために咲いたのです」
「いい匂いですわ」
二人がいるのは薔薇の花が咲いている中庭だった。咲いてた花を一輪摘んでラクスに渡す様は童話に出てくる王子様みたいだった。ラクスも花の匂いを嗅ぐ姿はどこかのお姫様の様に上品で一見すると二人はお似合いだった。だがラクスとキラの関係を知ってるセナからすればそんな風には思えなかった。
(ラクスの事だしあの人に靡くとは思わないけど・・・止めた方が良いか?いや、トラブルも起こしてないのに護衛が介入するものでは無いよね。盗み見はこの辺で)
「ラクス・・・」
「あっ・・・」
その場を離れようとするセナが振り返ると偶々外に出ていたキラが二人が話しているところ見ている事に気がついた。その表情はとても暗くセナは放っておく事は出来なかった。
「キラ、ラクスは相手とより良い関係を築ける様にするのが今の仕事だからあの人と話してるだけよ。本当はキラの事が一番だから」
「・・・分かってるよ。でも」
「あの人がラクスの事どう思ってるかは知らないけど、今日会ったばっかの人に惚れちゃう程ラクスはちょろい筈は」
目に見えて傷ついてるキラを慰める為にセナは敢えて楽観的な態度を取る。そもそもセナから見てキラとラクスは相思相愛で今までその関係が悪化した事など一度も見た事が無かった。常に隣り合って歩き、時に二人だけの世界に浸って甘々な時間を過ごしてるのを知ってるセナからすれば二人が良好な関係のままゴールインするのも時間の問題だと思っていた。そんな甘い考えを崩すかの様にオルフェは更にラクスに言葉をかける。
「姫、貴女の懸念は分かります。なぜ人は争うのか・・・コーディネイター、ナチュラル。些細な違いが人々に武器を持たせる。しかし真に間違っているのは公正の無い社会なのだと・・・不平不満、そういうものは誰しもが持つものです。本来それは全く問題のないはずのものです。ですが戦乱の爪痕が、その些細な問題を醜く肥大化させ、次の戦乱へと繋げてしまう」
「・・・はい」
オルフェの言葉にラクスは深く共感した。キラとセナは今はコンパスでトップクラスの技量を持ったパイロットである。しかし元は戦争に巻き込まれたただの学生でしか無かった。初めは友人を守る為にモビルスーツに乗った。その戦いで苦楽を共にした仲間も守りたいと願い、その果てに争いの無い世界を求めて戦い続けなくてはいけなくなった。
そんな二人を知ってるラクスは争う事の虚しさを知りつつもどうしてもやめられない今の人類を否定する事は出来なかった。綺麗事を言っても救えない命もある、だからこそ武器を取り戦う道を選ぶしか無かった者を知ってるからこそ戦う全ての人を否定する事はラクスには出来なかった。
「私は貧困をこの世界からなくしたい。不公平をなくし、誰もが誰かに必要とされる世界。真に平等な世界を私は作りたい」
「・・・素晴らしい考えですわ」
オルフェは微笑みながらラクスの手に触れる。するとまた星空が広がった様な感覚に陥る。
{また⁉︎これは・・・}
{姫、私と貴女で・・・そんな世界を}
脳内に直接響くオルフェの声。二度も起こった未知の感覚に驚きつつも恐怖も嫌悪も感じない、寧ろ心地良いとさえ思ってしまう自分にラクスは自分がどうなっているか分からなくなっていた。
「嘘、でしょ・・・なんか、おかしくない?」
「ラクス・・・・・君は・・・」
離れたところから二人の様子を見ていたセナとキラはその光景に驚愕していた。ラクスとオルフェが手を触れた途端二人の会話が途切れていた。しかしお互いを見つめ合う姿は何かやり取りをしている様に見え、その距離は段々と近づいていた。少し虚ろなった目をしながら密着しそうになっている姿はどう見ても異常だった。
「僕は・・・僕では・・・」
「キラ、あれは絶対理由がある筈だから。ラクスはアンタ以外を好きになんて」
セナが言い終わるよりも先にキラはその場から離れていった。キラもラクスがオルフェの事をそういう目で見てない事は分かりきっているし、外交の為に相手と親交を深める事は大事なのは頭では分かってはいた。それを自分の感情だけで間に入ろうとするのは却ってラクスの邪魔をする事になる為キラには止める事は出来なかった。しかし心の中にある嫉妬は抑えられそうになくただ離れていく事しか出来なかった。
「あちゃあ・・・これどうしようか・・・」
「申し訳ありません。少し夜風に当たりすぎたようです。本日はこの辺で失礼いたします」
突然ラクスは正気を取り戻したかの様にオルフェから距離を取るとその場を立ち去る。その一瞬の内にセナとラクスは目が合う。ラクスは罪悪感を感じたかの様にセナから目を背け走りだす。その後オルフェもセナの方を一度だけ振り返り、城内に戻っていった。
「私には気づいてたのね・・・三角関係なんてどうしたら・・・」
頭を悩ませるセナは踵を返したところで物陰に隠れていたイングリットと目が合ってしまう。イングリットの表情は暗くてよく見えなかったがその瞳から涙が浮かんでいるのが見えた。
「あ、あの・・・どうされましたか、イングリットさん?」
「っ⁉︎すいません失礼します!」
セナは声をかけようとするがイングリットは足早に去っていってしまった。去っていく背中を見送ったセナは伸ばしかけた手を下ろすのも忘れてその場に固まってしまった。
(私、なんであの人の事・・・というかなんだろう、なんか心臓が運動したみたいに速く動いてる気がする・・・)
昼頃にイングリットに顔の汚れを拭いてもらっていた。その時からセナはなぜかイングリットの事が気になってしょうがなかった。自身の心情に起こる変化にセナは困惑するばかりだった。
パーティーが終わった後、コンパスの面々はそれぞれ艦に戻り休息についていた。そんな中でもキラは一人新兵器の調整を続けていた。もう日付も変わりそうになる時間に夜食を持ってきたアグネスがやってくる。
「ヤマト准将、夜食をお持ちしました。よろしければどうぞ」
「ん、ありがとう。そこに置いといて」
キラはアグネスの方を振り向かず作業する手を止めないで返事をする。端からアグネスの事は眼中に無さそうな態度にアグネスは納得いかずキラの視線に入ろうと回り込む。
「・・・何?まだ何かあるの?」
まだ帰ろうとしないアグネスにキラは訝しげな目つきでアグネスを見る。今のキラは深夜になっても終わりそうにない作業に加え今日のパーティーでラクスが別の男と仲良くしてるところを見た嫉妬でかなり不機嫌だった。そんなキラの様子に気付いてないアグネスは更にキラとの距離を縮めていく。
「私、隊長の事可哀想だと思うんです」
「可哀想?僕が?君は何を言って」
「隊長は戦場に出て戦って、夜遅くまで頑張っているのに・・・あの人みんなが見てる前で男と楽しく踊っているんですよ。私だったら隊長の事を放っておかないのに」
「は?」
アグネスは遠回しにラクスを下げて自分の方が良いとキラにアピールしていた。キラに媚びる為でもあるがそれ以前にアグネスはラクスの事が気に入らなかった。アグネスは気に入った男を落とす為に努力をしてきた。自身の見た目を磨き、パイロットとしての腕を上げていき、男を意のままに操るトーク力も独学で学んできた。それは優秀な男を自分のものにする事に優越感を感じるアグネスだからこそ必要な事でありその努力は惜しまなかった。
そんなアグネスからすればラクスは疎ましい存在だった。万人に好まれる容姿と声を持ち、大した力も持ってないのに言葉を投げかけるだけで味方を作っていくカリスマ力。アグネスが求めるものをラクスはなんの苦労もせず得ているのにいつも何か物足りない、満ち足りてない態度をしている事をアグネスは苛立っていた。だからこそラクスからキラを奪い取ることで自分の方がより良い女であると証明しようとしていた。
「私を見て。私だったら寂しい想いはさせませんわ。貴方の側に居て共に戦います。それにあの人と違って勝手な事をして貴方を否定したりも致しませんわ。だから」
「いい加減にしてくれ‼︎」
アグネスはラクスだけでなくセナのことも罵りだしていた。アグネスからすればろくな訓練もしていないで戦場で好き放題やって場を掻き乱してきたセナも邪魔な存在でしかなかった。こうしてキラの周りの女を下げつつ自分の存在をキラにアピールする事で受け入れてもらうのがアグネスの作戦だった。そのままキラに顔を近づけキスをしようと迫った途端、キラに肩を突き飛ばされアグネスは壁に背をぶつける。
「痛っ⁉︎隊長?」
「なんなんだ君は!ラクスの事もセナの事も何も知らないくせに・・・勝手な事ばかり言って!」
明らかに怒りを見せているキラの反応にアグネスは困惑していた。今まで自分がこうして近づけば喜ばない男などいなかった。だがそれだけならまだしもここまで怒りをあらわにするキラなど初めて見たアグネスは初めてキラに対し恐怖を感じていた。
「どうして、ですか・・・私はただ、隊長を思って」
「僕を思って?その結果がコレならかなりのろくでなしだよ。マユが突っかかる理由がなんとなく分かったよ」
「なんで今あのガキが・・・待ってください隊長!」
キラはアグネスの顔すら見ずに部屋を出ようと歩きだす。アグネスは慌ててキラの前に回り込み止めようとする。このままだと上官に手を出そうとした挙句拒否され無様な姿と信用を失う最悪の結果になってしまう。それだけは回避しようと弁明しようとアグネスは必死だった。そんなアグネスにキラは冷たい目で睨みながら言葉を投げかける。
「邪魔だよお前」
「なっ⁉︎」
吐き捨てる様な一言にアグネスはその場にへたり込む事しか出来なかった。そんなアグネスを気にも止めずキラはその横を通って行った。キラにとってラクスは何者にも変えられない大切な存在だった。そしてセナも今は喧嘩中で公的に仲直りは出来ていないとしても赤ん坊の時から共に育ってきた大切な姉だった。そんな二人を侮辱したアグネスにはもう味方として信用する事は出来なくなっていた。
「なんでよ・・・どうして、こんな」
アグネスは呆然としていた。単に自分が拒絶されただけではない、別の男に寄り添うラクスと意見が真正面からぶつかるセナに対し身内扱いするキラの思考が全く分からなかった。この二人だけではなくシンもマユもルナマリアも同じ隊の部下としてそれなりに信用されていた。だがアグネスだけは違った。アグネスだけ他の周りと比べて心の距離を感じていた。そんなキラを見返させてやろうと戦果を上げてもキラは振り向かず強引な手段を取った結果があのざまだった。それがアグネスのメンタルを粉々にするには十分だった。
「私は、ただ・・・私の事を見て欲しかっただけなのに・・・これじゃあ今までなんのために」
{そんな事が大事なの?・・・お姉さんって変わってるね}
「誰⁉︎」
突如聞こえた声にアグネスは周りを見渡す。先程までキラとアグネス以外には誰も居なかったはずの部屋に誰か居るのかと辺りを警戒するものの誰も見当たらなかった。
「居ない・・・どういう事?」
{まぁ人それぞれだよねそんなのって。そんなにチヤホヤされたいなら宮殿東側の格納庫に行ったら?}
「はっ?何言って・・・てか誰よアンタは」
{そこでシュラがなんか作業してるから。アイツお姉さんのこと気に入ってそうだから慰めてもらえるかもよ}
「シュラ・・・」
アグネスの中で昼間の出来事が思い出される。美しいと言ってくれたシュラの顔が鮮やかに浮かんでくる。今の精神的に参っているアグネスにとって自身の事を見てくれる存在は抗い難い誘惑だった。だからこそ突然脳内に響いた謎の声について一つも疑問に思わずアグネスはその言葉に従いふらふらと歩いて行ってしまった。そのままミレニアムを出ていくアグネスを影から見送る人物がいた。
「・・・こんなものかな?とりあえずもう帰って・・・あれ?」
「・・・誰?」
寝付けなかったセナがミレニアムの外に出て夜風に当たっているところにばったりと遭遇してしまった。セナの視点からだと暗すぎて顔はよく見えなかったが声の質とシルエット越しに見える身長からして10歳の少女に見えていた。
「こんな時間にミレニアムに何か用でも?てか子供がなんでこんな時間に起きてるのよ」
セナは少女を問い詰める様に近づいていく。少女視点ではセナが敵意が無い事は感じているが何をしてたのか問われると怪しまれる事は分かっていた。
(・・・逃げよう)
「もしかしてアンタ、あコラ!」
少女は反転して全力ダッシュして逃げる。セナもワンテンポ遅れるもダッシュして追いかけていく。その距離は突き放されはせずとも縮まらないくらいの距離だった。
(何なのコイツ、足速くない⁉︎ガキンチョが出せる速さじゃないでしょ)
{ガキンチョは酷くないかな?ちゃんとラグナって名前が}
「やっぱり!昼間の変な声はアンタね!」
{あ、やっちゃった}
「そこ!捕まえた!」
「あっ」
逃げていた少女、ラグナが油断して足を止めた瞬間にセナは飛びかかって捕まえる。勢いが止まらず少し転がりだして街灯の真下で止まると暗くて見えなかったラグナの姿が顕わになる。髪は紫でうなじが隠れるほどの長さで顔つきは年相応の子供という印象だった。だが目だけは右が赤で左が紫のオッドアイであり、右目は瞳孔が見えずどこか焦点が合ってないかの様な印象だった。
「あーあ捕まっちゃった。そのまま尋問されちゃうんだ〜」
「いやそんな事しないから。けどこれに懲りたら悪戯は程々にしなさい。悪戯電話とか頭に直接声を聞かせるやつとか」
「電話は違うよ。あれはシュラが偶々見かけたからってテンション上がって勝手に挑発しただけだから」
(見かけた?あの日あそこに来てた?何の為に?)
「今のうちに」
セナが思考に耽る隙をつきラグナは拘束を抜け出す。だがラグナの手首をセナはしっかりと掴んでおり逃がさない様にしていた。
「逃がさないわよ。ただでさえ考える事多いのに余計な手間増やさないでよ」
「うぅ・・・あっ⁉︎分かった、逃げないから。その代わり着いてきてほしいんだけど」
「着いてきてほしい?アンタ何うぉう⁉︎」
ラグナに引っ張られセナは転びそうになりながら連れてかれる。子供の腕力とは思えない程の力で引っ張られるセナは踏ん張る事が出来ずなんとか転ばないで歩くので精一杯だった。
(力強っ、なんなのコイツ・・・ブラックナイツの候補生とかそういう奴?)
「こっち曲がったら・・・やっぱり居た。ほらあそこ」
ラグナが指差した先にセナは顔を向ける。そこに居たのは倒れているイングリットだった。
「イングリットさん⁉︎大丈夫ですか!」
イングリットの姿を見かけた途端にセナは即座に駆け出した。冷静に考えればなぜこんな所に居るのかとかなぜラグナがイングリットが倒れてるのが分かったのかなどおかしい部分があるのだがセナはそんな事を微塵も気にせずイングリットの心配だけをしていた。
「うっ・・・」
「イングリットさん。良かった大丈夫そうで」
「ふわぁ・・・」
「へ?」
口元を抑えながらあくびをするイングリットに拍子抜けするセナ。よく見るとイングリットの周りには空になったワインのボトルが幾つも転がっており単に酔っ払って寝てただけなのが分かる絵面だった。
「寝てただけなのね・・・アンタ何勘違いさせてるのよ」
「ボクのせいじゃないよ。お姉さんが勘違いしただけでしょ。それじゃあね」
「あ、待て」
セナが止める間も無くラグナは走り去ってしまった。残されたセナは酔っ払ったイングリットと二人っきりにされどうすれば良いか困惑していた。
「えっと・・・イングリットさん、立てますか?」
「たてるぅ」
「絶対立てない奴だぁ・・・仕方ない」
一人では動けなさそうなイングリットをおんぶするセナ。肩を貸すだけにするとふらついたイングリットを支えなければならず余計な手間がかかると考えたセナは背負うことにしたのだった。
(うお軽っ、あと柔らか・・・って何考えてるのよ私!)
「えっと・・・イングリットさん、部屋どこですか?」
「う〜ん・・・つきあたりをみぎぃ」
「分かりました・・・大丈夫かぁ、私で」
方向音痴を自覚してるセナは酔っ払ってるイングリットの指示で辿り着けるか不安だった。せめて部屋に連れていくまではラグナに着いてきてほしかったのだが逃げられてしまった。
(絶対めんどくさいから私に丸投げしたなあの子・・・次会ったら覚えとけよ)
心の中で愚痴を言いながらもなんとかイングリットの部屋に辿り着く。部屋に入ったセナはイングリットをベッドに寝かしつけ部屋を出ようとする。しかし扉に向かおうとするセナの腕をイングリットに掴まれベッドに引き込まれてしまう。
「ぐえっ、なんで?」
「ねぇ、まだおはなししましょうよ〜」
「イ、イングリットさん⁉︎いやそろそろ寝た方が」
「まだワインあるんだからさ〜ほら」
「なんで部屋に置いてあるのよ!」
いつの間にか両手にワインボトルを持っているイングリットが一本をセナに手渡す。セナは受け取ったワインをどうしようか悩んでいるとイングリットは蓋を開け即座にラッパ飲みで一気に半分を飲み干した。
「一口でそんなに⁉︎そりゃああんなとこで飲み潰れるわけね・・・」
「ぷはぁ・・・あ〜おいしい!」
ご機嫌そうにワインを飲み進めるイングリット。セナもイングリットの真似をして直接ボトルから飲んていくが三分の一を飲んだ辺りで酔い始めていた。
(このワインかなり度が強い?これ以上はまずいかも)
「あの・・・私はそろそろ」
「ふぅ、おさけつきあってくれてありがとね〜ひるまのときもセナさんがいなかったらさいあくなことになってたからね〜」
「あ、いえいえそれ程でも」
「それにくらべてあいつらはもう〜あんなにそそうのないようにっていったのに!」
先程までご機嫌だったイングリットだったが今度はブラックナイツ達の愚痴が溢れだしていた。セナはそれを止める事は出来ずただうんうんと頷いて聞きに徹するだけだった。
(相当溜まってるわ・・・まぁ今日会った私でもアレはろくな連中じゃなさそうって思うもん。無理ないか)
「いっつもわたしがちゅういしてもだれもきかないし、だからこそわたしがしっかりしなきゃってやってきたのに・・・だれもみてくれない。オルフェもラクス様にゾッコンだし」
「えっ、あ、あぁ・・・」
イングリットの言葉にセナは上手く返す事が出来なかった。今まで恋愛に関わってこなかったセナにとって恋バナなど経験のないものであり、どう答えるのが正解なのか分からないでいた。ただ、それとは別でセナは精神的に自分がぐらついてる事にはまだ気づいていなかった。
「オルフェはずっとまじめだったから、そのすがたをしってるからわたしはささえたいとおもってたのに・・・わたしをみてくれないのよ・・・」
「そ、そうなんですね・・・でも、イングリットさんなら必ず振り向かせられますよ。イングリットさん綺麗だし気がきくし」
「でもきょうはなんかおかしいの。あなたにあってからずっと・・・あなたもそうでしょ?」
突如イングリットに手を触れられるセナ。セナは突然手を触られた事と自分の胸の内を当てられた事で動揺して固まっているとそのままイングリットに押し倒されてしまった。
「イングリットさん・・・その、こういうのは酔ってる時じゃなくてですね」
「ひるまにあなたにふれたときにね、すごくドキドキしたの。こんなのはじめて。あなたは?」
「ヒャッ⁉︎」
イングリットはセナの胸に手を乗せ心音を聞く。その心音はバクバクと鳴り響いており顔は真っ赤に染まっていた。その様子を見たイングリットは妖艶な笑みを浮かべながらセナに顔を近づける。
「やっぱり・・・あなたもわたしとのこととくべつにおもってるんでしょ?」
「あの、その・・・」
イングリットの問いにセナは答えられず恥ずかしさのあまり顔を背ける。しかしセナ自身も自分がイングリットに対してどう思っているのかが分かってしまった。
(私、イングリットさんに恋してるんだ・・・恋愛って、みんなこんな感じなのかな?)
セナはイングリットの顔を見る。するとすぐに心臓は高鳴り顔が熱くなるのを感じていた。それだけでなくイングリットに触れられていると彼女の気持ちが流れる様に伝わってきていた。酔った勢いだけではない、イングリットは何か確信めいたものを持った上で自分にアプローチをかけている事を理解し、自分も本能でイングリットの事を求めていると理解した。
「・・・うん、私もその・・・イングリットさんの事が、好きです・・・」
「ふふ、やった・・・じゃあいいよね?がまんしないよ」
「う、うん・・・」
セナが頷くと同時にイングリットは顔を下ろしてキスをしてきた。セナも目を閉じて柔らかい感触に集中していた。今までに感じた事のない甘美な味を堪能しているとイングリットの手がセナの服を脱がし始める。セナもイングリットに倣って彼女の服に手をかける。悩みも任務も思考すらも放棄して二人だけの世界に入っていくイングリットとセナ。情欲のままに互いを求める二人は止まる事は無かった。
FREEDOM編をやるにあたって最大の問題は今までと比べて恋愛色の強い話しなのにメインメンバーの中で唯一恋愛に絡まない主人公セナが一番存在感が薄くなってしまう危機に陥ってしまいました。今更オリキャラを出して恋愛させるには描写が足りない+個人的にイングリットが好きなキャラクターなのでもう少しメインメンバーと絡ませたいが混ざった結果シンとマユの兄妹恋愛にも負けない禁断の同性愛になってしまいました。ようやくガールズラブのタグが付いた意味を持たせる事が出来ました。それで良いのか?
本来ならセナにもSEED編の時点で相手を作るつもりだったのですがどうしてこうなった・・・ついでに今年中にFREEDOM編を終わらせる目標だったのですが半年経ったのにこの進行速度・・・今後はもう少し更新を早くしますので何卒よろしくお願いします。