穏やかな光が照らす朝、小鳥が囀る声にセナはゆっくりと目を開ける。視界に映るのはあまり見覚えのない天井だった。
「ん・・・あれ?ここ、どこ?」
上体を起こし周りを見渡すセナ。そこに広がるは見知った艦内ではなく昨日訪れたばかりのファウンデーションの宮殿の部屋だった事に気づいた。
「ミレニアムじゃない・・・あれ、なんで私、ここで寝て、てか腰が痛いんだけ」ムニュン
腰の痛みに疑問を持ちつつ自分がどこに居るのかを思い出そうと周りを見てたセナは手に柔らかい感触を感じて動きを止める。おそるおそる手が触れた方へ振り向くと気持ちよさそうに寝ているイングリットが居た。しかも一糸纏わぬ姿であった。
「へ⁉︎裸⁉︎いやなんで、って私もだ⁉︎て事は・・・」
思わず飛び退いたセナだったがここで自分も生まれたままの姿だった事に気づく。二人して全裸で同じベッドで寝ていた事、そして思い出してきた昨夜の記憶からセナは何があったのかを思い出しセナは頭を抱え込んだ。
(や、やっちゃったぁぁぁぁぁ‼︎酔った勢いでやらかしたぁぁぁぁぁ‼︎てか待って、イングリットさんの初めてを・・・どうしよう)
「ん、んん・・・」
セナは内心パニックになり落ち着く事ができず右往左往していた。そんなセナのバタバタとした動きで目が覚めたらイングリットが上体を起こし慌ててるセナと目が合う。
「あ・・・どうも」
「あれ、どうしてここにセナさんが・・・あっ」
昨夜の事を思い出したイングリットは顔を赤く染め恥辱に塗れる。酔った勢いで普段ならしない粗相をした事としでかした事に羞恥心を感じたイングリットはその場で身悶えていた。
「うぅ・・・私、なんて事を・・・ごめんなさい」
昨夜の行動を猛省してるイングリットは弱々しく頭を下げる。そんなイングリットに対しセナはただ気にして無い事を伝えようとイングリットの手を取りながら話しかける。
「えっと、気にしないでください。その、意外な一面を見たと言いますか、私もその、嫌じゃなかったと言いますか・・・」
「え?」
セナからの意外な一言でイングリットが顔を上げる。セナはイングリットの顔が目の前にある事に動揺し赤面しながらも目を逸らさず自身の本音を語りかける。
「その、昨日私の顔を拭いてくれた時からずっとイングリットさんの事気になってしょうがないですし・・・それに本当に嫌だったら私だって断りますよ。でもね」
セナはイングリットと指を絡めながら手を繋ぐ。すると共鳴するかの様な感覚が二人に起こる。この謎の現象をセナはまだ理解していないがこの繋がりあってる感覚は互いに心地良いと直感で感じていた。
「昨日もそうだったけど、こうして触れているとなんか心が繋がる感じがするの。なんか超能力みたいで不思議だけど私は好きだなこれ」
「セナさん・・・貴女も」
「セナで良いよ。私達あんな事までしたのにさん付けは他人行儀過ぎない?ね、イングリット」
「・・・うん、セナ」
二人で笑い合うセナとイングリット。そのまま穏やかな朝を過ごしていたがセナは時計を確認すると即座に立ち上がった。
「もうこんな時間か・・・そろそろ戻らないとね。また後でねイングリット。まずは服を着ないと」
「うん・・・あ、ちょっと待ってね。渡したいものがあるから」
セナは落ちている自分の服を集め着替えを始める。その間にイングリットは自身の机の引き出しを開け中に入ってた花の形をした小物をセナに投げ渡す。
「おっと。何これ?髪飾りか何か?」
「ファウンデーションの扉の一部は電子ロックがかけられているの。けどそれの中にあるチップがマスターキーになってるからいつでもこの部屋に入れるわ」
「えっ⁉︎これ私が持ってて良いの⁉︎」
「貴女なら悪用しないって分かるから。それに・・・こうすればいつでもきてくれるでしょ?」
「う、うん・・・また来るよ。じゃあね」
セナは照れながらもイングリットに笑顔を向けてその場を立ち去る。その足取りは軽くまるで世界が変わったかの様に幸福に満ち溢れていた。
「セナのやつ、今度はどこに行ったんだ?」
朝になってキラはセナを捜索していた。これからファウンデーションとコンパスとユーラシア連邦でミケール捕獲の為の作戦会議が行われようとしていた。その会議にセナも参加するはずだったがミレニアムのどこにもセナの姿は無く、また誰もセナがどこに居るのか把握していなかった。その為また道に迷ったのでは無いかと宮殿内を捜索していた。
「方向音痴のセナが一人で行動なんて、今まで自重してたのになんで今・・・あっ」
キラの視線の先には背の高い女性と話すオルフェが居た。女性の背はキラやオルフェよりも高く背中にまで届く黒髪は艶やかに伸びていた。薄い紫をした瞳がキラの方に向けて一瞥すると薄く微笑みながら声をかけてきた。
「おや君は・・・キラ・ヤマト准将だな」
「はい・・・貴女は?」
「おっと失礼、ボクはロキア。よろしく」
ロキアが手を差し出したのでキラはその手を取り握手する。ロキアは目を細めながらキラを全身舐め回す様に眺めていた。
「あの、何か?」
「おっと失礼。ボクは人を観察する癖があってね。気を悪くしたなら謝るよ。意外と華奢なんだな。その体であれだけの操縦・・・やはりスーパ」
「コホン、そろそろ本題に戻っても良いか?」
「ああ済まない、つい話しが逸れてしまった。その件は受けるよ。詳しくは後ほど」
ロキアはキラから手を離しオルフェの方に振り向く。よく分からないが何か取引めいたやり取りをしてると感じたキラはこれを機にこの場を離れセナを探しに行く事にした。
「それじゃあ失礼します。また後程」
「君にラクスは相応しく無い。彼女から手を引くんだな」
「はっ?」
突如オルフェに話しかけられ足を止めるキラ。キラにとってオルフェはラクスに言いよってくる相手であり個人的に好ましくない相手だった。それでも今度の作戦の為にファウンデーションの協力は必要不可欠なので自分の気持ちを抑え友好的に接しようとは心がけていた。そんな相手に挑発めいた言葉を投げかけられたキラは昨日のアグネスとのやり取りもあって不機嫌を隠すことが出来ずオルフェを睨みつけていた。
「何を言っているんですか貴方は。そんなの貴方に関係無い」
「君に彼女の手を取る資格が無いと言っているんだ。そんな中途半端な覚悟をした君ではな」
「何を!」
「確かに君は二度の戦争で連合とザフトを止めて平和的に解決してきた英雄なのかも知れない。それは認めよう。だがその後はどうだ?デュランダル議長のデスティニープランを否定してまで勝ち取った自由のせいで未だ争いは無くなっていない!」
「それは」
オルフェからの言葉に怒りを露わにしていたキラだったが言葉を詰まらせてしまう。デスティニープランを否定したのは自分達の独断で決めた選択だった。その結果争いは続いてしまい被害を受けているのは選択すらしていない世界中の人である事にキラは責任を感じていた。その弊害を受けているのはファウンデーションも例外では無かった。
「力無き者が淘汰されゆくこの世界で争いを無くす為の政策をデュランダル議長は考え実行した。だが君は争いを終わらせる方法を何も考えずただ無法者をのさぼらせて被害を増やしてるだけに過ぎない。そんな君に、争いが無くならず今も嘆いている彼女は相応しくない」
「・・・それでも、いやだからこそ僕は平和の為に戦い続けると」
「そうしてより多くの血が流れる。力しか取り柄の無い君では犠牲しか産まない。そんな血に塗れた手で彼女の手を取るのか?」
オルフェの指摘にキラは何も言い返す事ができなかった。それはキラ自身も自覚しているが故に否定する事ができなかった。その間に言いたい事だけ言って満足したオルフェはその場を後にしていった。
「あらら、彼もしっかりしてる様でまだお若い事で・・・まぁ君も似た様なものですが」
「貴女まで何を言うつもりですか」
「いえ私は何も非難はしませんよ。ですが一つだけ。彼の言葉なんか気にせず自分の思ったままにすれば良いと思っただけですよ。どうせ貴方のやる事に変わりは無いのですから」
ロキアは腰を曲げキラの顔を下から覗き込みながら話しかける。目を細めながら薄く微笑む姿はまるで新しい玩具を見つけたかの様に楽しげな様子だった。そんなロキアの表情はキラの神経を逆撫でしていた。
「貴女もなんなんですか?」
「余計な事は考えないのが上手く生きるコツだよキラ・ヤマト君。強いて言うなら目的があるならそれだけに集中すれば良いって事さ。君の戦う目的はミケールを討つ事だけかな?」
「それは・・・」
「おっと長話をし過ぎた様だ。そろそろボクは行くよ。お互い自分の目的が果たせる事を祈ってるよ」
ロキアは踵を返すとそのまま歩いて行ってしまう。キラからすればオルフェもロキアも言いたい事を言ってるだけに過ぎなかった。しかし明確な理由があって非難してくるオルフェと比べてもどこか掴みどころの無いロキアの方がキラには怖く感じていた。
それから数日が過ぎいよいよミケール捕獲作戦の当日となった。コンパスは前線に出るアークエンジェルと後方待機のミレニアムの二つに分かれて戦闘準備をしていた。
「いよいよか・・・これで本当に終わるよな?」
「どうしたんだい、珍しく弱気じゃないか?」
「お前らしく無いじゃないかシン」
待機しているシンにマーズとヘルベルトが話しかける。彼らはコンパスに入ってから任務を共にする事が多いヤマト隊とハーケン隊のメンバーの中でも男同士という事もあり気さくに話しかけられる関係だった。
「弱気にはなってないですよ。ただその前にいざこざがあり過ぎてその・・・なんも考えたくないって感じですよ」
「あぁそういう・・・確かに最近はお前の周りに嬢ちゃん達居ないもんな。寂しくなったか?」
「そういうんじゃないですって!」
マーズに揶揄われるシン。ファウンデーション王国にいる間にマユとルナマリアが喧嘩してしまいシンはそれに巻き込まれてしまった。その為作戦が始まるまでの間3人はそれぞれ別行動をとっていたのだった。
「はぁ・・・隊長は相変わらずだしセナはすぐどっか行っていないしアグネスもなんか様子おかしいってのにマユとルナまでギスギスしだすしで散々だよ」
「ははは、苦労してるな。ま、頑張れよ」
「総員、第一戦闘配備!」
シン達の会話を遮る様にマリューの号令がアークエンジェル内に響き渡る。これが作戦開始の合図だった。
「いよいよか。後ろは俺達に任せな」
「分かりました」
アークエンジェルからフラガ隊とヤマト隊が出撃する。ハーケン隊はアークエンジェルに待機しており、後方にいるミレニアムにはルナマリアが待機していた。セナはラクス達の護衛と避難民の誘導の為にブラックナイツ達と共に居た。ツインサンシャインの側に黒い体にアクセントで赤色の入ったブラックナイトスコードシヴァが、その後ろに黒色とそれぞれのカラーがアクセントに入ったブラックナイトスコードルドラ達が並んでいた。
「まさかお前がここに来るとはな。セナ・ヤマト」
「元々私はラクスの護衛のつもりで来たのよ。けどただ突っ立ってるよりはこっちの手伝いをした方が有意義だからね」
「何それ、アタシらだけじゃ不安だって言いたいわけ?」
「だからそんなつもりじゃないって」
セナの言葉に不満があるのかリデラードが突っかかってくる。セナとしては無駄な諍いは面倒なので軽く流してはいるのだが何故かブラックナイツの、特にリデラードに敵視されてしまい参っていた。
(なんかやけに喧嘩腰なのよねこの子。それに周りの奴らも同調して敵視してくるし・・・なんでこうなったのよ)
「なんでって、アンタがお姉ちゃんに」
「落ち着けリデラード。作戦が終わってからにしろ」
シュラの一言でリデラードは矛を収める。セナはそれに安堵しつつも気まずい空気に辟易していた。
(はぁ、コイツらめんどくさい。せめてマユちゃんかルナマリアちゃんのどっちかが居てくれたらマシなのに・・・あれ?てかあの子、何気に私の心の中読んでこなかった?そんなわけ)
「む、なんだ?」
セナがリデラードとの口論について気にしている時、シュラが集まっている避難民達の中で様子がおかしい者がいる事を見つける。同じ様なリュックを背負った人達がそれぞれバラけながら立っていた。それだけなら別におかしくは無いがリュックを持った者達全員が挙動不審だった。
{アレが合図を出すのか?にしては聞いてたのと違うが}
{そんな事気にしなくて大丈夫ですよシュラ}
{命じられた事以外は面倒だからやらなくていいでしょ}
{・・・それもそうか}
疑惑の目を向けたシュラだったがリューとダニエルの言葉を聞いて警戒を解く。その間シュラ達は言葉を発さずに脳内で会話をしていた。だがそれをセナは感じ取る事ができてしまった。
(何今の⁉︎頭に直接声が聞こえて・・・イングリットに触れてた時と似てる?まさかコイツら、テレパシーが使えるって事?てかそれよりも)
セナがブラックナイツ達に疑惑を向けたその瞬間、避難民達のリュックから煙が一斉に噴出される。瞬く間に辺り一面が煙に包まれ何も見えなくなってしまった。
「えっ、何⁉︎」
「なんだコレ⁉︎」
「急に何⁉︎」
「知らないよ⁉︎」
突如煙に包まれる事態にその場に居た全員が驚愕していた。
{どうするんだよシュラ}
{何がどうなって・・・っ⁉︎上だ!}
シュラの指示でブラックナイトスコード達は上空に飛び立つ。その直後に上から複数のビームが飛んできて避難民達を焼き尽くしてしまう。
「おいおい、マジかよ・・・」
「何なのよコレ、一体誰が」
ビームの飛んできた方向をブラックナイツ達が見上げる。するとそこには先程まで居なかったデストロイに似た形をした機体が滞空していた。サイズは通常のモビルスーツ程ではあるが背中にデストロイのシュトゥルムファウストに似たアームユニットが2個有線で繋がっていた。
「なんだアイツ、今まで居なかったぞ!」
「奴がやったのか、何者だ?」
シヴァが謎のモビルスーツに斬りかかる。その一撃を軽やかに躱わすが下からビームライフルの射撃に当たりそうになる。
「ち、外したか」
先程の不意打ちをビームシールドで防いでいたツインサンシャインが反撃に出たが謎のモビルスーツには当たらなかった。ビームライフルの一撃を躱した謎のモビルスーツはそのまま優雅に近くの高台に着地をするとツインサンシャインとブラックナイトスコード達を見下ろしていた。
「随分と舐めた真似をしやがるな」
「デストロイに似てるけど・・・連合の新型?ミケールにそんな物用意できる筈が」
「おっと、済まない。自己紹介を忘れてたよ」
「はっ?」
謎のモビルスーツからスピーカーで話しかける声が聞こえてくる。さっきまでの殺伐とした雰囲気から逸脱した間の抜け方にセナは思わず拍子抜けした声が出てしまう。
「この子はディザスターちゃん。ボクが作った可愛い我が子さ」
「そんなのどうでも良いのよ!それよりもアンタは何者よ!」
「おや失礼。ボクはロキア。君は確か、おっと」
ツインサンシャインがビームサーベルで斬りかかる。ディザスターは左手で赤いビームサーベルを取り出しツインサンシャインの斬り込みを受け止めた。
「は⁉︎なんでビームサーベルで受け止めてるのよ!」
「陽電子リフレクターやビームシールドがあるんだ。ビームサーベルも色々イジればビームを弾く事が出来ると思わないかい」
ディザスターが振り払いツインサンシャインを弾き飛ばし距離を取る。ツインサンシャインは態勢を崩しながらもビームライフルで狙うがディザスターは上に回避しアームユニットのビームを地面に向けて撃ち煙幕を張る。
「もう少しお話ししたいのは山々だけどね、ボクにはまだやらないといけない事があるからね。この辺にしておくよ」
「ふざけないで!あんな事しておいて逃すと思うな‼︎」
「待てセナ・ヤマト」
ディザスターを追いかけようとするツインサンシャインをシヴァがシールドに付いたクローを飛ばして足止めする。
「邪魔する気‼︎?」
「そうじゃない。だが貴様は姫の護衛が役目の筈だろう。ここは我らが行く」
「アンタ達が?」
「そうだ。エルドア地区の救助活動も兼ねて奴を追うとする。既にユーラシア連邦の許可は取ってある」
セナは真下の様子を確認する。ビームによって焼き払われ悲惨な状況になっていたがまだ微かに生き残ってる人がいるのを見つける。だが殆どの人が見た目で分かるほどに重症であり早急に手当する必要があった。
「確かにまだ生きてる人がいるなら誰かが守らないといけないわね」
「君一人にここを任せる事になるのは申し訳ない。だがあの訳の分からない奴の好きにはさせないさ」
「・・・分かった。ここは私に任せてちょうだい」
ツインサンシャインは地面に降り立ち救助活動を始める。シヴァはそれを見送ってからディザスターを追いかけに行く。その後ろをルドラ達も付いて行く。
(アイツらの反応、本気で驚いていた。アレは知らなかったって事・・・とりあえず今はここの人達の救助を優先しないと)
戦場を飛翔するブラックナイツ達。すると彼らの脳裏にオルフェの声が聞こえてくる。
{聞こえているか?}
{オルフェ。聞いてた話しと違うがアレはなんだ?}
{私もだ。ロキアの奴め、勝手な真似を・・・だがある意味好都合だ。これで太陽の少女と分断する事はできた。後は作戦通りにだ}
{了解した}
テレパシーで会話を終えたシュラは怪しい笑みを浮かべる。全てが想定通りでは無いとはいえ今までの出来事は全てファウンデーション達で仕組んだ事だった。彼らの企みに気づける者はいなかった。見えない悪意がすぐ側まで迫っていた。
事後の描写から始めましたがこれで合っているのか不安になります。二人で過ごした夜から作戦開始までに数日間の猶予がありますがセナとイングリットは空いた時間を見つけては会いに行っていましたが同じ様な展開にしかならないと思いカットしました。キラ達視点でどう映っていたのかは今後やる予定です。