ベルリンでの戦闘を終えた後、シンは一人自室でパソコンを開いていた。今までの戦闘のデータを見ながらひたすらサンシャインの動きを研究していた。
「・・・あんなに強いんだな、サンシャイン。けど」
(それだけの力がある癖にオーブも、父さんと母さんも、ステラも、守ってくれなかった。アイツはいつもオレから大事なものを奪っていく・・・次戦うなら、今度こそオレが)
「シン、入って大丈夫か?」
「入るわよシン」
一言声をかけてからアスランとエリスが入室してくる
「ねぇシン。あの時何があったの?良かったら教えてくれない?」
「・・・今手放せないんだ。悪いけど後にしてくれ」
「後にって・・・そんなに大事なのか?今やっているそれが?」
なるべく優しく聞いてくるエリスをぶっきらぼうに突き放すシンの態度にアスランは少し苛立ちを感じながら何をしているのか聞いてくる。その質問を受けシンは不機嫌そうに振り返る。
「大事だと思っているからやっているんですけど」
「隊長の質問を後にする程にか?」
「二人共、そんな事で喧嘩しないでよ」
「そういうつもりは無いんだがな」
「まだ喧嘩じゃないし。手は出てないし」
「・・・そう」
ここ最近シンとアスランは折り合いが悪いとエリスは感じていた。初めて会ったばかりの頃はそれなりに良好だった筈なのだが、アスランの几帳面な部分とシンの大雑把な部分が悪い方向に噛み合いギスギスした空気が続いてしまっていると感じていた。
「まぁ良いや。それで結局何をやっているの?サンシャインの研究?」
「ええ。今この世界で一番強い奴ですからね、いざという時に戦える様にしないといけないと思いますが?」
「何で今サンシャインなんだ?別に敵対している訳じゃあ」
「敵だよ。アイツらのせいで・・・アイツのせいでどれだけ人が死んだと思っているんだ・・・だから」
無理矢理話しを打ち切ったシンは再びモニターの方へ振り向く。明らかに私情でサンシャインを敵視しているシンにアスランは一言言いたいと思っていたが言葉を濁してしまう。
(・・・実際セナの行動でザフトにも少なく無い被害は出ている。別にザフトでサンシャインを敵視しているのはシンだけじゃないしそれを止めろとは言えないよな)
「・・・分かったわ。邪魔して悪かったわね。行くよアスラン」
「えっ、あぁ・・・」
エリスに連れられてアスランも退室する
「エリス・・・良いのか?今のシンは」
「訳までは分からないけどサンシャインを恨んでいる。私はそう見ているわ」
「そんな理由で戦ったら、アイツは戻れなくなる。それだけは」
「止めてどうする気なの?」
「えっ?」
アスランはかつての自分と同じ怒りに囚われながら戦いそうなシンを心配していた。だがエリスはそこを気にしていなかった。
「怒りのままに戦うな、それは正しい事だとは思うわ。だからって正しさだけが人間の全てでは無いでしょ?そんな事言い出したら殴るわよ」
「ぐっ・・・」
アスランも前大戦の時に軍を無断で抜けて敵対して、結果ザフト側の被害を拡大させた事を気にしていた。あの時は止めなければ取り返しが付かなくなると思っていたがこうして振り返れる様になった今では他に選べる道は無いのかと問い続けていた。
だからこそアスランは自分達のあの行動が100%正しいとは言えなかった。言えないからこそ正論だけでシンは止まらない事も分かってしまっていた。
「・・・別にアンタが嫌いで言ってるわけでもシンを甘やかして庇うわけでも無いけど、あんな事になる位だったらあそこで止まるべきじゃなかったのよ、お互いに」
「何⁉︎けどそれじゃあ」
「互いに怒りがピークに達したところで無理矢理上から抑えつけて、どうにかなると思ったの?本当に争いを終わらせたいのなら戦えなくなるまで相手を潰すしか無いのよ。
けどアンタ達は止めた。そして碌な対策もせず束の間の平和で満足して・・・だから準備の期間を作ってしまった。それがあのデストロイっていう巨大モビルスーツよ。あの被害の一因はそっちにもあるのよ」
「なっ⁉︎」
「全部とは言わないわよ。けど争いを続ける人間にどうしてとしか思えないうちはアンタには平和な世界は実現出来ないわよ」
何も言い返せないアスランを置いて歩き去っていくエリス。アスランは答えの出せない自分にモヤモヤしながらもどうしようもなく、ただ苦悩するばかりだった。
「失礼します」
「キラ君・・・」
アークエンジェルの医務室に入室するキラ。医務室にはマリューとカガリ、マードックが一つのベッドを囲んでいた。そのベッドには手当を受けて眠っているネオの姿が見えた。
「キラ、大丈夫か?」
「うん。僕は平気だよ。コクピットには何のダメージも無いから・・・マードックさん、修理の方は?」
「両腕だけだからな。そんなに時間は掛からねーよ。任しとけ」
「お願いします。それよりも」
キラはネオの方へと顔を向ける。髪も長めで顔の傷が目立ってはいるがその顔には見覚えがあった。
「手当ての時に一度目を開けて、自分は連合軍第81独立機動軍所属ネオ・ロアノーク大佐と名乗ったそうだけど」
「いえ、間違いありません。この人はムウさんです」
キラの口から出たのはかつて共に戦った仲間、ヤキン・ドゥーエの戦闘で戦死したと思われていたムウだった。キラの断定する様な言葉にもマリュー達は驚きを見せなかった。
「その様だな。検査で出たフィジカルデータを照合したら100%一致したからな・・・けど何で?」
「つまりどういう事なんだ?やっぱりこの人は少佐って事なんだよな?」
「はい・・・けどどうしてこんな事になったのかは」
肉体だけでなくその面影からもムウである事はキラ達には明白ではあった。だが生きていたムウが何故ネオを名乗っているのか、何故地球軍に戻ってベルリンの様な非道な作戦に参加していたのか、分からない事が多かった。
「ムウさんはあんな事、する様な人じゃなかった筈です。なのに」
「つまり、この人はフラガ少佐であってフラガ少佐じゃないって事か?ややこしいな」
「やれやれ、いつから少佐になったんだよ俺は」
キラ達が一斉に声のした方を振り向く。そこには目を覚ましたらネオが体を起こしながら話しかけていた。
「ちゃんとさっき大佐だと言っただろう。捕虜だからって勝手に降格させるなよ」
「ムウさん⁉︎」
「フラガ少佐!目を覚まされたので?」
「誰だそいつ?ネオ・ロアノークって名乗っただろうが・・・この艦にいる連中は名前覚えるのが苦手なのか?」
「・・・やっぱり違う」
少し話しただけで目の前にいる男がムウとは違うとキラ達は分かってしまった。体だけムウだったが中身がまるで入れ替わったかの様に別の人格となっていた。
「どこの誰と間違えているのかは知らんがな、そういう事はしっかりして貰いたいものだぜ・・・ん?」
「貴方・・・本当に・・・うぅ」
ネオとマリューが見つめ合う。マリューはムウが生きていた事への喜びとムウとしての記憶を失っている事の悲しみで涙が浮かんでいた。だがネオには目の前の女性が何故泣きそうになっているのか全く検討が付かなかった。
「なっ、急にどうしたんだよ?一目惚れでもしたのか、美人さん?」
「うぅ、うぅぅ」
堪らず医務室から飛び出していくマリュー。突然の出来事にネオは驚いていた。
「えっ⁉︎なんかしちゃったか俺?」
「ムウさん!いくら何でも今のは」
「だから!俺はネオだと言ってるだろ!悪いが人違いだ」
何度も名前を間違えられてネオも不機嫌になり始めていた。あまり刺激しない様にキラ達は少し離れてからネオについて話す事にした。
「こいつは・・・記憶が無いって事なのか?」
「というより違っているみたいですね。けど間違いなくムウさんなんです。だから」
「それは、キラの言う通りだろうがな・・・けど記憶が無いんだろ、フラガ少佐だった頃の?ならかえって酷かもしれないな、艦長には」
「大切な人が自分の事を覚えてないんだもんな。せっかくまた会えたのにこれではな・・・」
「それは・・・でも」
自分の行動でマリューを余計に悲しませた、その事実にキラは罪悪感を感じていた
「別にキラが間違いとは思わないさ。実際キラのお陰で少佐が生きてた事を知ることが出来たからな。だからあまり自分を責めるな」
「ありがとうございます・・・けど、これからどうすれば」
「ねぇ。さっきマリューさんが泣きながらここから出るの見たんですけど、誰か何があったか知りませんか?」
「あ、セナ。実は・・・えっ⁉︎」
セナが医務室に入ってくる気配を感じてキラ達が振り向く。そしてセナが気絶している金髪の少女を抱えて来た事に驚きの声を上げる。
「セナ⁉︎その子誰?」
「どこから連れて来たんだよ・・・というかボロボロじゃないか。一体何が」
「ステラ⁉︎生きているのか?」
セナが抱えている少女、ステラの姿を見つけてネオは驚きの声を上げる。セナが声のした方を向くとネオと目が合った。
「誰この人?この子と知り合い?」
「ステラは俺の部下だ!というかどうやって?」
「そ、そうだった。セナ、その子を何で連れて来たの?」
「ああこの子?あのデカイモビルスーツに乗ってたのをコクピットから引きづり出しただけだよ。よっと」
ネオの隣のベッドへステラを寝かしつけるセナ
「それにしてもこんな可愛い子があんなものをね・・・」
「お前、ステラをどうする気だ?答え次第じゃあ容赦しないぞ」
「ん?フラガ少佐?雰囲気変わりました?」
「だから俺はネオだと言ってるだろうが!いい加減にしろ!」
「うわ!急に大声出さないでよ、びっくりしちゃいますから。間違えたのならごめんなさい」
敵意を見せるネオを前にしてもセナは余裕の態度を崩さなかった
「けどなお嬢ちゃん。こんな子まで連れてどうするんだよ?この子がアレのパイロットなんだろ?危険なんじゃねーのか?」
「そうかもしれないけどね・・・でも」
(ステラを傷つけるな!これも全部オレのせいなんだ!だからオレが止める‼︎)
(オレが守るから!ステラはオレが死なせないから!)
ベルリンでの戦闘時に必死に説得して止めようとしていたインパルスのパイロットについて思い返すセナ
「なんか殺したくないと思っちゃって。この子の事何にも知らないのに勝手に加害者と決めつけて撃ったら、また取り返しのつかない事になりそうだったし」
「セナ・・・」
また、という言葉にカガリは引っ掛かりを感じていた。全部は把握出来ていないが、セナは以前の戦争の事を引きずっている。だから今戦っているのは罪滅ぼしの為なのでは?誰かに謝りたくてまた心を砕いてまで戦っているのでは?そうカガリは感じていた。
「けど結構乱暴に連れて来たからね・・・それに今この子が生きていると、あの機体のパイロットだと知られたらマズイ事になるわね。世間体的に」
(多分この子、普通の子じゃないよね?もしかしたらいつまで生きられるのか・・・というより本当に連れて来て良かったのかも分からないわね)
「それで、お前らはこれからどうする気なんだ?俺やステラを連れて一体何を」
「それは僕達もまだ分からないです。今までずっと成り行きで来ましたから」
「なんだそりゃ。はぁ・・・ほんとどうなる事やら」
文字通り先が全く見えない今の状況にネオはため息をつく事しか出来なかった。キラ達も今後の事を考えて頭を悩ませている中、セナはベッドで寝ているステラの頭を撫でながらステラをどうするか考えていた。
ベルリンでの戦闘の負傷から回復したマユは新しいシルエットの慣熟訓練に勤しんでいた
「・・・ふぅ。結構扱うの難しいね、これ」
「いや、マユはよくやっている方だよ。やっぱ凄いなマユは」
「ううん、まだダメだよ。シュミレーションの時点でこれじゃあ実戦では通用しないよ」
訓練の様子を見ていたヴィーノは絶賛していたがマユは今の結果に満足していなかった。もう一度訓練をしようとしたところにエリスとレイが近づいてくる。
「お疲れマユ。少しは休息を入れるのも大事なのよ」
「体は大丈夫なのかマユ?無理はするなよ」
「大丈夫だよエリスお姉ちゃん、レイ。でも一旦休憩しようかな」
シュミレーターから出たマユは体をほぐす様に背筋を伸ばす
「そういえばお兄ちゃんは?てっきりお兄ちゃんも訓練漬けだと思ってたんだけど」
「シンは自室でサンシャインの戦闘の研究をしているそうだ。ベルリン以降からずっとあの調子だが何かあったのか?」
「う〜ん・・・きっとサンシャインに美味しいところを持ってかれたのが悔しいんだよ、きっと」
マユはシンがステラの敵討ちの為に対サンシャインの研究をしている事は分かっていたが、わざと知らないフリをした。ステラがベルリンでデストロイに乗ってた事を知られればステラを連合に返したシンに責任が追及されると分かっていたからだった。
「そうか・・・」
「まぁ、確かにサンシャインにはみんなやられっぱなしだしね・・・あ、すいません」
「別に良いわよ。無様な負け方したのは事実だし」
ヴィーノの一言でエリスは僅かに機嫌を悪くするが、わざとではないのは分かっているのでそれ以上追及しなかった
「エリスお姉ちゃん、安心して。仇は必ず取るから」
「うん、まだ死んでないからね・・・でもありがとう。けど気をつけなさい。もしサンシャインと戦う事になったら絶対一対一で戦わないで」
「えっ?」
「どうやっても今の貴女達じゃあ経験の差は埋められないわ。だから二人で協力して戦いなさい。そうすれば勝機はあるはずだから」
マユにサンシャインと戦う時のアドバイスを送るエリス
「うん・・・なら私が突撃しながら前に出て」
「サンシャインが1番の脅威だが、フリーダムもかなり厄介だ。奴とサンシャインに組まれたらこちらの勝機はほぼ無いだろう」
「あ、そうか。フリーダムもいるんだった・・・ならどうしたら」
「奴は動きが速い上に射撃も正確だ。だが奴は絶対にコクピットは避けて撃つ。そこを突けば勝ち目はあるだろう」
マユとレイで対フリーダムについて作戦会議が続いていく。その様子を見たエリスはその場を去ろうとする。
「あ、エリス隊長。どちらへ?フリーダム対策のアドバイスとかしないんですか?」
「フリーダムとはあまり戦ってないからね。それにマユとレイで考えているのに邪魔したら悪いからね」
「そうなんですか。ならどうするんですか?」
「私は私に出来る事をするだけだよ。貴方も頑張ってねヴィーノ」
橋の上からマユ達の様子を見ていたアスランは顔を曇らせていた。サンシャインとフリーダムを敵視する。それはザフトやミネルバではおかしな事ではないが自分の幼なじみと今の仲間が殺し合う状況に嫌気が差していた。
だがそれを彼らに言っても困らせるだけだとアスランは一人で心に留める事にした。余計な事を言って拗らせても何の意味もないからこそ自分が我慢する事を選んでいた。
「どうしたんですかアスラン?」
「えっ?」
声のした方に振り向くとルナマリアが居た
「ルナマリアか・・・何でもないよ」
「そんな風には見えませんけど?シンとまた何か合ったんですか?」
「君は俺達を何だと思ってるんだよ・・・」
「いや、そういうんじゃないですけど・・・なんか損してる気がして」
「損?」
隣に来たルナマリアの言葉の意味が分からず聞き直すアスラン
「ええ、せっかく権限も力もあるんですから思った事、やりたい事をやれば良いと思うんですが。なんか妙に遠慮していませんか?」
「遠慮か・・・確かにエリスや君達にはともかくシンとマユにはあまり強く出れないところはあるな」
「マユもシンも貴方の事を慕っていますよ。だからありのままでいいと思いますよ」
「シンもか?」
「じゃなければ最後まで話しを聞いてくれませんよ、シンは」
ルナマリアに言われてシンとの今までの会話を思い返すアスラン。何度か口論になる事はあったが、確かにシンはアスランの言い分を聞いてから反論していた事にアスランは気づいた。
「あいつとも上手くやれるのか、俺は?」
「それはアスラン次第ですよ。困ったらフォローくらいはしてあげますよ」
「そうか。済まないな」
自室でサンシャインの動きを研究しているシンの元にエリスが一人で訪ねてくる
「おお、やってるわね。コーヒーでもいるかしら?」
「・・・悪いけどまた後に、はぁ⁉︎」
振り返ったシンはエリスが持ってきたものを見て驚愕していた。エリスは艦内にある自販機の缶コーヒーではなく本格的なコーヒーのセットを抱えていた。
「何よ。私だって淹れれるわよ。店で出せる程じゃないと思うけど」
「そっちじゃない!なんで部屋に持ってくるんだよ?」
「休憩も大事なのよ。アンタの一夜漬けはある意味見事だけど、何度もやる事じゃないわよ」
アカデミー時代のシンは分からない事、どうしても出来ない事がある時はエリスに頼み込んで夜通しで教え込まれた事が何度かあった。その甲斐もあってかギリギリで赤服になる事が出来たのだった。
「一夜だけで終わる気じゃねーし」
「なら尚更休みも入れなさい。ほら淹れるわよ。砂糖はいらなかったわよね?」
「ああ。どうせ分かんないし」
「分かったわ・・・はい。どうぞ」
エリスからカップを手渡されたシンは一口コーヒーを流し込む。エリスも自分の分のコーヒーを飲みだす。
「うん、まだまだね。結構試行錯誤したんだけどなぁ・・・難しいわね」
「オレには分かんないよ。些細な変化なんて。眠気覚ましにしか飲まねーから」
「勿体無いわね。この美味さが分かれば割と楽しいわよ人生」
「・・・あっそ」
エリスがコーヒを飲み切るとパソコン内の映像を確認する
「これジャッジメントの視点映像よね。こんなのいつの間に」
「あいつと一番戦えてたのはエリスだからな。なら」
「まぁ間違いじゃないけど。これだけじゃあまだ足りないわよ。ほらこれ」
エリスがポケットから取り出したディスクをシンに手渡す
「何だこれ?」
「前大戦の時の私の戦闘データよ。その中からあるパイロットとの戦闘をピックアップしてあげたから」
「あるパイロット?ていうかエリスがそんなに同じ相手をしてたのか?」
エリスの強さはザフト内でもトップクラスである。そう認識しているシンからすればエリスと何度も戦い生き延びてきた敵パイロットがいる事に疑問を感じていた。
「私だって昔はそこまでだったわよ」
「それは・・・ていうか誰なんだよそいつ?」
受け取ったディスクを読み込ませて映像を見るシン。そこには白黒のモビルスーツの姿が映っていた。映像の奥にはストライクとアークエンジェルの姿もところどころ映る事があった。
「アークエンジェル⁉︎それにこの機体、色は違うけど連合に居たあの機体か?」
「そう。この頃はまだ地球軍所属だったアークエンジェルを追いかけてたのよ私達は。そして私は何度もやってもプロトを倒す事はできなかったわ」
「プロト?ってああ!」
プロトは情報の少なさ故に前大戦を知らない者からは都市伝説扱いされているが、かつてナチュラルが初めて乗ったモビルスーツとして多くの同胞を撃った悪魔的な存在としてザフト軍に恐れられていた。その名前はシン達の世代にも伝わる程だった。
「まさか、本当に居たんだな・・・けどそいつが太陽の少女となんの」
「彼女の名前はセナ・ヤマト。元地球軍のパイロットで後にオーブ軍に入隊してサンシャインに乗って戦ったのよ」
「オーブ軍だと・・・ってちょっと待て⁉︎サンシャインに乗ってた⁉︎それって」
「太陽の少女はセナよ。そして今サンシャインに乗っているのもセナよ」
エリスの口からさらっと出された太陽の少女の正体にシンは驚きのあまり声が出なかった
「だから今のサンシャインの戦闘だけじゃなく前のプロト時代の時からの動きを見た方が分かると思ったんだけど・・・ってどうしたの?そんな鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して」
「お、おま、それ・・・なんで言わないんだよ?」
「そんなの、私の手で敵討ちしたいからに決まってるじゃない。私にとってラウは他に代えられない愛した人なんだから」
「あっ・・・」
エリスの憎しみの籠った表情にシンは何も言えなくなった。詳しくは知らないがエリスはかつて大事な人を前大戦で失った、そう言った話しを人伝に聞いていたシンはそれ以上は聞かなかった。
「けど今は私が戦えるわけじゃないからね。ならせめて部下を死なせない為に一肌脱いであげるわよ」
「エリス・・・何度か見た事あるけど」
「それは忘れなさい!このスケベ!」
「痛て!そっちじゃねーよ!」
エリスに横腹をボコボコ殴られるシン
「ったく、次変な事言ったら容赦しないからね」
「分かったよ・・・それとありがとう。さっきは悪かったな。素っ気なくして」
「良いわよ別に。それよりも」
「皆さん、私はプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです」
「「えっ⁉︎」」
突如デュランダルの演説が艦内放送で流れてシンもエリスも驚きの声を上げる。その放送はミネルバだけでなく全世界に放送されていた。
「えっ、なんでこんな急に?」
「とにかく部屋から出るわよシン」
「あ、ああ」
部屋から出るエリスとシン。通路には同じく突然の放送に驚きを隠せないミネルバクルー達の姿があった。
「我等プラントと地球の方々との戦争状態が解決しておらぬ状況の中、突然この様なメッセージをお送りする事をお許しください。私は今こそ皆さんに知ってもらいたいのです。こうして未だ戦火が収まらぬその訳を、またこの様な戦争を繰り返す事となった本当の訳を」
ブリーフィングルームにエリスとシンが駆け込むと既に多くのミネルバクルー達が集まって放送を見ていた。その後ろから遅れてやってきたマユとレイ、アスランとルナマリアも合流する。
「あ、お兄ちゃん。エリスお姉ちゃん。これなんなの?」
「いや、オレも来たばっかだし。それに何がなんやら」
「落ち着け。とにかく議長の話しを聞くんだ」
戸惑いを隠せないマユとシンをレイが落ち着いて聞く様に促す。その間に映像が切り替わりベルリンでの戦闘の映像が流れていた。
「これって・・・ベルリンの?」
「相変わらず酷い光景ね・・・」
「これは過日ユーラシア中央から西側地域の都市へ向け連合の新型巨大兵器が侵攻した時の様子です」
ベルリンの惨状が全世界に流される。それを見た人々はあまりの惨状に言葉を失っていた。
「この巨大破壊兵器はなんの勧告もなく突如攻撃を行い、逃げる間もない住民ごと3都市を焼き払い尚も侵攻しました。我々はすぐさまこれの阻止と防衛戦を行いましたが残念ながら多くの犠牲を出す結果となりました」
インパルスがデストロイの砲撃を避けながら接近する映像が流される。しかしそれはところどころ不自然なカットが入っており、何故かサンシャインやフリーダム、アークエンジェルの姿は映らない様にしておりザフト軍だけで止めた様な構成になっていた。
「な・・・どうして?」
(アークエンジェルが、フリーダムにサンシャインまで映さない様にしている?何のためにそんな事を?)
「ん、アスランさん?どうしたんだろう・・・」
アスランはその映像の不自然さに疑問を持つがそれを口にはせずただ拳を握りしめるだけだった。その様子に近くにいたメイリンは気づいていたがデュランダルの演説を聞くため心の内に留めていた。
「侵攻したのは地球軍。されたのは地球の都市です。連合の目的はザフトの支配からの地域の解放という事ですが、これが解放なのでしょうか?」
「クソ!一体何がどうなっているんだ!今すぐにあの放送を止めるんだ!」
デュランダルの放送を聞いていたジブリールは怒りのままに放送を中止させる様に呼びかけるが止める事はできなかった
「何が目的なんだ、奴の目的は?」
「確かに我々の軍は連合のやり方に異を唱えその同盟国であるユーラシアからの分離、独立を果たそうとする人々を支援してきました。ただ争う事ない平和だけを求めたユーラシアの人々を、ただザフトの支援を受けた。それだけの理由で連合はユーラシアを敵とみなして一方的に焼き払ったのです!」
デュランダルの放送を見ているシンの顔に怒りが満ちていた。これだけの非道を行う連合に対しても、それだけの被害を起こしてしまう戦争に対しても。何よりもまた目の前で多くの命を失わせてしまった自分の無力さにシンは怒りを感じて爪が食い込んでしまう程に拳を握りしめていた。
「何故ですか!何故我々は手を取り合えないのです!平和を許さないと、戦わねばならないと誰が!何のために言うのですか!」
少し熱くなり声が荒くなるデュランダルをミーアが宥める様に肩に手を置く。そしてデュランダルと変わる様にミーアが演説を始める。
「この度の戦争は私達コーディネイター、その一部の者達の起こした惨劇から始まりました。それを止め得なかった事、それによって生まれてしまった数多の悲劇を私共も忘れはしません。被災された方達の悲しみや苦しみは今もまだ続いているのでしょう。それがまた新たな戦いの引き金になってしまわれたのでしょう」
ミーアの演説をアークエンジェルにいるキラ達もエターナルにいるラクス達も戸惑いを感じながらも黙って聞いていた
「ですがこのままではいけません。こんな討ちあうばかりの世界に安らぎは無いのです。果てしなく続く憎しみの連鎖の苦しさを私達はもう十分に味わったでは無いですか。
どうかその涙を拭った後で、前を見て下さい。悲しみを叫んだら今度は相手の言葉を聞いてください。私達は今度こそ優しさと光のある世界へ帰ろうではありませんか」
ミーアの演説を聞いた一般人達は感銘を受けて拍手する
「なのにどうあってもそれを邪魔しようとする者が居るのです。それも古の昔から。自分達の利益の為に戦え、戦えと」
「なっ!」
「えっ⁉︎」
ミーアの後に続いたデュランダルの言葉に驚きの声を上げるシン達。以前ディオキアでデュランダルが言っていた真の敵となるものを示していたからだった。
「戦わないものは臆病だ。従わないものは裏切りだ。そう叫んで私達に武器を持たせ敵を作り上げて討てと指し示してきた者たち。平和な世界にだけはさせまいとする者達。このユーラシア西側の惨劇も彼らの仕業である事は明らかです」
「ジブリール!」
「止めさせろ!今すぐあの放送を止めろ!何故出来ない!」
デュランダルの言葉に焦りを感じたロゴスメンバー達は放送を止めようとする。混乱しているロゴスメンバー達の嫌な予感は的中してしまう。
「間違った存在としてコーディネイターを忌み嫌うあのブルーコスモスも彼らの作り上げたものに過ぎない事を皆さんはご存知でしょうか?その背後にいる彼ら。そうして常に敵を作り上げて常に世界に戦争をもたらせようとする軍需産業複合体、死の商人ロゴス。彼らこそが平和を望む私達全ての真の敵です」
デュランダルの言葉と共に全世界にロゴスのメンバーが公表された。突如出された世界の敵となる存在に人々は戸惑うばかりだった。
「私がこれから願うのはもう二度と戦争の起こる事ない平和な世界です。よってそれらを阻害せんとするもの。今も尚混迷とする世界を見て他人事の様に笑い利益を甘受する彼らロゴスこそを真の敵として戦う事を私はここに宣言します」
デュランダルの対ロゴスの宣言にプラントに住む市民も地球に住む者達ですら賛同の声を上げている。だがアークエンジェルに居るキラ達はこれによって起こるであろう世界の混乱を危惧していた。ミネルバにいるアスランもその可能性を考えており内心戸惑いを隠せなかった。
(こんなの・・・世界の敵を作って倒そうとするやり方なんて・・・これでは更に混乱するだろうに)
「まさかこんな形で出すとはね・・・」
「エリス、俺は」
エリスに声をかけられアスランは振り向いた。エリスの顔も戸惑いを隠せていなかった。
「いや、こればかりは私も同じよ。ここまで大々的に公表するなんてね・・・今まで密かに準備していたって事なのかしらね?」
「確かにあのロゴスがアレを指示したのかもしれないがそれは一部の者だけの筈だ。決してここにいる全員じゃあ」
「そんなの関係ないだろ!」
この場にいた大勢が突然の事で困惑している中でシンが声を上げる。その目には戦う気力に満ち溢れていた。
「ロゴスのせいでまた戦争が起こった。ベルリンの様に罪の無い人達があんな風に犠牲になってしまったんだ。それを止めるというのが議長の目的なら、オレは戦う。ザフトの兵士として、平和を求める人間としてオレも議長と共に戦うだけだ!」
その場にいた全員がシンに注目する。誰よりもロゴスに対して怒りを感じ議長と共に戦う決断をしたシンにやがて周りのクルー達も連られて熱くなる。
「その通りだシン。俺達は議長を信じて共に戦うだけだ。それは今も同じさ」
「確かにシンの言う通りだな。世界の為に戦う議長と共に俺達も戦うだけだな」
「よし、やろう!みんなで!」
ごく一部を除いて盛り上がるクルー達。アスランとエリスはこれから起こるであろう大きな戦いの前に今後の世界がどうなるか先が見えなくなっていた。
エリスは敵を撃つ事には戸惑いが無いのはSEED編から変わらずではありますが、それはそれとして身内の為に平和を望む様に変化はしています。アスランやカガリの言う平和を綺麗事とは思いながらも実現する為に奔走しているのを心では応援はしています。故に少々言葉は厳しいけどアスランにもう少し頑張れとエールを送る事があります。
アスランはそれに気づいていないので逆に自分の本心を人前で言いづらくなってしまっています。時間で人は変わる者ですがそれに気づけるかどうかも人次第だと思います。