アークエンジェルの通路でセナは佇んでいた。頭と左腕、左足に包帯を巻いたセナはミーアの遺品である昔のミーアの写真を見ながら彼女の死を憂いていた。
「こんなところに・・・大人しくしてないとまた悪化するよ」
「キラ・・・私よりもそっちの心配してあげた方が良いわよ」
セナは声をかけてきたキラの後ろを指差す。そこにはセナ以上に気分が沈んでいるアスランの姿が見えていた。
「俺の事なら気にするな。それよりもお前、怪我治ってないんだから大人しくしてろ」
「頭部の怪我以外はもう大丈夫よ。明日には包帯取っても良いって言われたし」
「だからってな・・・いや良い。どうせ言っても聞かないだろうしな」
アスランはヤケクソ気味に壁にもたれかかる。キラとセナも同じ様に壁にもたれながらアスランの言葉に耳を傾ける。
「・・・俺はミーアの事を知ろうとしなかった。余裕がないからって彼女の事を蔑ろにして・・・そんな奴に何を言われても聞くはずないよな」
「アスラン・・・」
「アイツらにも、きっと俺の言葉は届かないかもしれない。だとしたら俺は」
「でも止めたいんでしょ?同じ後悔をしない為に」
「・・・ああ。俺は知り合いと戦って傷つけ合うなんて事、繰り返したくないんだ」
「だったら無理矢理にでも立たないとでしょ?お互いに」
セナがアスランに手を差し出す。ステラの為に顔も知らない相手を止めたいセナと共に戦った後輩達と戦わずに済む道を選びたいアスランの思いは同じだった。
「そうだな・・・悪い、また見失いそうになってた」
「だったら何度でも照らしてあげるわよ。ウジウジ考えがちなアスランには直接光を当てた方が早いからね」
「人をめんどくさい奴みたいに言うなよ。お前よりはマシだ」
憎まれ口を言いながらアスランはセナの手を借りて立ち上がる。その顔にはもう迷いは無くセナと同じ様に真っ直ぐ前を見据えていた。
「全く、手のかかる幼馴染を持つと大変ね」
「どの口が言うんだ。お前ら姉弟の方が大変だと思うぞ」
「やめてよね。僕を巻き込まないでよ」
「「お前の(アンタの)めんどくさがりなところが一番大変だよ」」
「えぇ・・・」
「ってそんな事よりも、あの子の葬儀は終わったの?」
立ち直ったアスランとセナはブリッジに向かって歩き出しながら会話を続ける。その後をキラがついていく。
「それはさっき終わったところだよ。その後で議長の演説があるからセナも呼ぼうとしていたところだよ」
「そう。悪いわね。怪我を理由に参加しなかったのにこんなところでサボっちゃって」
「それは良いよ。じっとしていられなかったとかでしょ?」
「まぁそんな感じだけど・・・」
セナ達がブリッジに入るとそこにはほぼ全員が集まってデュランダルの演説を聞いているところだった。セナ達は途中からであったが演説を聞き始める。
「私達はまたも同じ悲しみ、苦しみを得る事となってしまいました。愚かとも言えるこの悲劇の繰り返しは・・・
一つは先にも申し上げたとおり間違いなくロゴスの存在所以です。敵を作り上げ恐怖を煽り戦わせてそれを食い物にしてきた者達。長い歴史の裏側に蔓延る彼ら死の商人達です。だが我々はようやくそれを滅ぼす事が出来ました」
(それが本当なら、オーブに居たラクスを襲う理由は一つもないけど。本題はここからかしら?)
デュランダルの演説を冷めた目をしながら聞くセナ。何か裏があると分かっているからこそデュランダルの言葉を疑いの目で見ていた。
「皆さんにも既にお分かりの事でしょう。有史以来、人類の歴史から戦いの無くならぬわけ、常に存在する最大の敵。それはいつの時代になっても克服出来ない我ら自身の無知と欲望だという事を。地を離れて宇宙を駆け、その肉体の能力の、様々な秘密までをも手に入れた今でも人は未だに人を分からず自分を知らず、明日が見えないその不安。飽くなき欲望に限りなく伸ばされる手、それが今の私達です。争いの種、問題は全てそこにある」
(・・・なるほど、それでアレに繋がると。よくもまぁここまで)
デュランダルがこの後何を言うか予想できたセナはつまらなさそうに壁際まで離れていく。その間にデュランダルの言葉が続いていた。
「我々はもはやその全てを克服する方法を得たのです。全ての答えは皆が自身の中に既に持っている。私は、人類存亡をかけた最後の防衛策としてデスティニープランの導入実行を今、ここに宣言いたします」
デュランダルの宣言後にデスティニープランについての説明が映像として流れていたがセナは興味なさげにその場を後にする。途中で抜け出すのはあまり褒められた態度では無いと自分でも思っていたが皆の結論は決まりきっていると思ったので一足早く休む事にした。他の全員もセナが怪我をしている事を理由に特に咎める事はしなかった。
(遺伝子で適性が分かるか、強制でないなら悪くは無いけどね・・・てかそんな事はどうでも良いのよ!やる事は決まってるんだから)
セナは考える事をやめてベッドに横になり眠りにつく。今自分に出来る事は一刻も早く怪我を治して備えることだけだからだった。
「こんな・・・議長・・・」
自室でデュランダルの演説を聞いていたシンはあまりに突然の事に言葉を失っていた。遺伝子で全てを決める。一見とても素晴らしい提案に思えるがそれは人から自由を奪う事になる可能性があるとシンは感じていた。そんな事を受け入れる人間がどれだけいるのか、どれだけよ反発が起こりまた争いの火種になる危険性を危惧していた。そんなシンに一緒に聞いていたレイが声をかける。
「お前が驚く事はないだろう。議長の目指されていた世界がどんなものかはお前も知っていたはずだ」
「なんでそれを・・・確かにそうだけど、でも急にこんな事言ったって世界は・・・大変だよ」
「分かっている。だがだからといって議長は諦める方ではない。それはお前も知っているだろう?」
ディオキア基地でデュランダルと会談した時の事を思い出すシン。あの時の時点でデュランダルはロゴスを倒したその先の事まで考えていた事に気づき内心驚いているとレイが話しを続けてくる。
「今は俺達も居る。議長が目指す誰もが幸福に生きられる世界。そしてもう二度と戦争など起きない世界。それを作り上げ守っていくのが俺達の仕事だ」
「えぇ⁉︎」
「その為のデスティニーだ。そして、そのパイロットに選ばれたのはお前なんだ」
「えっ⁉︎オレが?」
「議長がお前を選んだのはお前が誰よりも強く、誰よりもその世界を望んだ者だからだ」
「オレが・・・望んだ・・・」
シンはレイの言う様に両親を奪われ、マユを傷つけ、罪の無い人の命を次々と奪っていく戦争そのものを恨んでいた。ステラの仇と思っていた太陽の少女の事を一時的に恨んでいた時もあったが、アスランやメイリン、デストロイに乗せられた被害者達を撃ち落とし、太陽の少女の正体が自分が再開を望んだ相手だったと知った今ではその発端となる戦争を無くす事を目標に戦い続けていた。それを実現させる為のデスティニープランの要として自分が選ばれた事に驚きを感じていた。
「だが、お前の言うとおり本当に大変なのはこれからだ。いつの時代でも変化は必ず反発を生む。それによって不利益を被るもの、明確な理由がなくとも漠然と異を唱えるものが必ず現れる。議長の言う通り無知な我々には明日を知る術などないからな」
「・・・そうだよな。戦争に巻き込まれると分かっていたのなら、あの時オレは」
思い出すのはセナと会った時の事。あの日いつもの様にお気に入りの公園で読書をしようと出かけていた。その結果避難の知らせが自分に届くのが遅れ、戦闘の中を逃げる事になってしまった。シンには逃げるのが遅れなければ両親は死ななかったかもしれないという後悔が心にあった。そんな想いを繰り返さない為に、唯一残ったマユを守る為にも兵士になる事を選んだのだった。
「だが人は本当に変わらなければならないんだ。でなければ救われない」
「そりゃオレだって、それは分かるけど・・・」
「あのエクステンデッドの少女や・・・エリスの為にも、やり遂げなければならないんだ」
「エリス?なんでエリスの名前が出るんだよ?」
「そういえばシンは知らないんだったな。まぁエリスも言いたくないだろうからな。エリスもステラと同じ境遇だ。愚かな研究の被害者だ」
「エリスが⁉︎ステラと同じ⁉︎」
「境遇がな。それ以上は俺からは言えない。勝手に話して良い内容じゃないからな・・・うっ⁉︎」
「レイ⁉︎」
会話の途中で突如苦しみだすレイ。何が起きたか分からず困惑するシンを置いてレイは薬を取り出して飲み込む。
「なんだよ、それ?大丈夫なのかレイ?」
「気にするな、もう分かっている事だからな。持病の様なものだ」
「持病⁉︎レイ、お前それ」
「今すぐ終わるわけでもない。が永くはない。俺はクローンだからな、テロメアが短いのさ。だからこそ、お前に議長を支えて欲しいんだ」
「レイ・・・」
「誰よりも強く、誰よりも優しいお前なら、きっと戦争のない世界を守っていけるからな」
シンの肩に手を置きながら語りかけるレイの声は、シンが今まで聴いたこともない程穏やかな声色をしていた。レイから聞かされた衝撃的な話しと心からの想いを聞いたシンには黙って受け止める事しかできなかった。
「ここにも居ない・・・シンの奴どこに行ったのよ?」
デュランダルの演説を聞いた後、ルナマリアはシンを探していた。ルナマリアはモニタールームでエリスや同期達とその演説を聞いていたが、その場に居なかったシンに話しを聞きたくて探していたが見つからなかった。
「射撃訓練場にも居なかったし、シュミレーターにも居ないとなると・・・後は自室くらいしか無いと思うけどおぅ⁉︎」
シンの自室前まで着いたところで後ろから腕を引っ張られたルナマリアは素っ頓狂な声を出しながら曲がり角に引っ張られる。誰が引っ張ったのか振り向くとそこに居たのはマユだった。
「マユ?急に何するのよ、びっくりしたじゃない」
「ごめんごめん。隙だらけだったからつい」
「ったく、用が無いのならもう行くから」
不機嫌そうに踵を返し、離れようとするルナマリアだったが回り込んだマユがルナマリアの顔のすぐ横に手をつき壁際に押し込み動きを封じる。
「ちょっと!邪魔しないでよマユ」
「ごめんねルナ。でもちょっとルナに用事があってね。気になる事があってさ」
「気になる事?さっき議長が言ってた奴の事?それは私もシンに聞こうと」
「この間のさ・・・見た?」
「なっ⁉︎」
マユからの言葉にルナマリアは絶句する。具体的な事は言わずともそれはマユがシンに迫っていた時の事を指していると分かってしまいなんと答えるか分からず黙ってしまう。だがその沈黙でマユは全て察して話しを続ける。
「見たんだね。こっそりと・・・覗きの趣味でもあるの?」
「覗き?いやそんな事は」
「お兄ちゃんが私の胸で鼻血出したとこなんて見て楽しいの?」
「そうだっけ⁉︎そんなんじゃなかった気がするけど・・・あっ」
誤魔化そうとしたルナマリアだったが自分の失言に気づき頭を抱える。そんなルナマリアの顔前に迫りながら追求を続ける。
「なんで黙ってたのかな?後でこっそりエリスお姉ちゃんか艦長にでも告げ口をするつもりだったのかな?」
「違うのマユ。私そんなつもりじゃ・・・ただ驚いただけで」
「兄妹でこういう事はしないよね普通。でも私は本気だから」
「そう、なんだ・・・それは良いんだけど」
「まぁ別に見られたくらいで何かする気は無いから安心して。それに聞きたいのはそっちじゃないから」
「そっちじゃないって・・・なら何」
ルナマリアの言葉を遮る様にマユはルナマリアの首に手をかける。だが本気で絞めていないので少しだけ息苦しい程度であり、簡単に振り解ける程度だった。だがルナマリアはマユの気迫に慄き全く抵抗することが出来なかった。
「ねぇルナ。ルナってさ、お兄ちゃんの事どう思ってるの?」
「マ、マユ?急に何を」
「私はお兄ちゃんが好き。お兄ちゃんもある程度は受け入れてくれてる・・・けどもし、ルナがお兄ちゃんの事が好きで、お兄ちゃんにアピールしだしたら、私は絶対に勝てない。だって私にはこんな立派なものは無いんだから」
首を掴んでいる手とは反対の手でルナマリアの胸に触れるマユ。指先を沈ませながら堪能するとルナマリアの口から僅かに嬌声が漏れていた。
「ンッ⁉︎どこ触って」
「やっと少しは意識してもらえたのに・・・私は妹としてしか見てもらえない。けどルナだったら異性として意識してもらえるでしょ。だってルナは、私から見ても可愛くて魅力的だもん」
「わ、わたしは別に・・・それに今は」
「議長が言ってた奴の事?ぶっちゃけ私はそんな事はどうでも良いの」
「どうでも良いって・・・」
「私はお兄ちゃんが笑ってくれるならそれで十分なの。私にはそれ以外を望んじゃダメだから」
「うっ・・・かはっ」
マユの手につい力がこもってしまい完全に首が絞まりだしルナマリアは苦しそうに呻く。だがそれでもマユの本音を聞こうとするルナマリアはマユを引き剥がす事はせず耳を傾けていた。
「ナチュラルとコーディネイターとか、連合とザフトとか、世界とか平和とか知らない。そんなのは考えたい奴が考えれば良い。そんな事よりも私は・・・お兄ちゃんを守りたいのよ。誰にも手を出させない。取られたくない。それしか無いのよ私には」
「あぐっ・・・アンタそんな事を・・・」
「ルナはこんな私をどう思う?やっぱ失望した?」
「失望、しないわよ。けほっ、身近な人の幸せを、望む事が間違いなわけないもの」
マユは手を離しルナマリアを解放する。喉元を抑えながら咳き込むルナマリアを見下ろしているマユは名残惜しそうにその場を立ち去る。もう宣戦布告をしてしまった以上以前の関係に戻れないと覚悟していた。その道を選んだ事を僅かに後悔しながら進むことにしたのだった。
「ハァ、ハァ・・・どうして仲間同士でこんな事に・・・どこかで間違えたのかな私?」
「ルナ?そこで何してんだ?」
「シ、シン⁉︎アンタいつから?」
シンに声をかけられたルナマリアは驚きのあまり飛び退いてしまう。シンはその様子に疑問を感じながら言葉をかける。
「いつからって、歩いてたらルナがそこでしゃがんでいたからさ。何かあったのかって」
「そ、そう。何でも無いわ・・・ちょっと立ちくらみしただけだしもう平気よ」
「そっか・・・なんかあったらすぐ言えよ。ただでさえその、あんな事になったんだし」
「うん・・・あ、そうだ。シン、そのさっき議長の言ってた」
「シン!ルナマリア!そこに居たのね!」
「「えっ?」」
突如大きな声で呼びかけられシンとルナマリアは話しを打ち切る。声のした方向を見ると走ってきて息切れしているエリスが居た。
「エリス?どうしたんだよそんな慌てて」
「ハァ、ハァ、ハァ、あのバカが、やりやがったのよ!」
「エリス?一体何が」
「たった今アルザッヘル基地が撃たれたのよ!レクイエムで!」
「レクイエム‼︎?なんで⁉︎」
「だってアレは私達で⁉︎」
驚愕するシンとルナマリア。だがエリスの口から続いたのは更に驚くべき事だった。
「撃ったのはザフトよ。アルザッヘルで怪しい動きがあったからなんて理由でテストも兼ねて撃ちやがったのよ」
「ザフトが⁉︎」
「直したっていうの、アレを⁉︎」
苛立ちを隠さずに壁に拳を叩きつけながらエリスは吐き捨てる様に状況を説明する
「デスティニープランがすぐには受け入れられない事は私達にでも分かる。だから強硬策に出たのよあのバカは!逆らう奴は皆アレで焼き払うって脅してるのよ!」
「そんな・・・」
「だが本当に大変なのはここからだぞシン。それとバカはやめて欲しいなエリス」
シンの後ろからレイもやってきて話しに加わってくる。エリスはレイの方を睨みつけながら詰め寄り追求しだす。
「アンタ、もしかして知ってたの?アレを使うこと」
「いえ、そこまでは知らされてない。ですがそこは重要じゃない。これから来るであろう奴らの方です」
「奴らって・・・まさか」
「そのまさかだルナマリア。アークエンジェルの連中は絶対やってくる。ここが正真正銘最後の決戦になるだろう」
「アークエンジェル・・・」
シンは自分の拳を見つめる。多くの重圧と期待を背負わされたシンは動揺を隠す様に力強く拳を握りしめる。運命の衝突まであと僅かだった。
マユの本音を一部とはいえようやく明かす事ができました。今更ですがオリキャラが内心曇っているキャラしか出ていない気がしますね。SEED編のエリスよりかはマシだとは思いますが本音が暗く重い奴が多いですね・・・