世界は俺が嫌いらしい。   作:まあまああまあま

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ぼっちらしい。

 ──最悪だ。

 

 シンは口には出さないものの、顔を歪めそう思った。

 もとよりシリウス以外が助けてくれるとは思っていない。しかし、そのシリウスは申し訳無さそうにシンを見るだけで動こうとはしない。そのシリウスの傍らには、一人の女生徒が勝ち誇るような顔でシンを見下していた。

 周囲から嫌悪の視線が向けられる。普段なら気にならないはずのそれは、今のシンには深く深く突き刺さる。

 

 全ては仕組まれていた。

 初めからこの状況になるように、誰かが調整していた。しかし、一体誰が? 

 そう思い辺りを見渡すと、視界の端に少し離れた位置に立つ女の姿が見えた。アイツのせいで、今こうなっているのか、と気付く。しかし、今更原因を見つけたところでもう遅い。審判が、たった今下される。

 

「なんだ、シンは一人なのか。じゃあ先生とやるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 くそったれ。なんで偶数人クラスなのに一人余るのかと思ったら見学のやつがいるのかよ。

 魔術演習の時間。先生は「じゃあ今日は二人組をつくれ」なんて言うのがよくない。頼める相手がシリウスしかいないからシリウスに声を掛けると、もうすでにハーレムメンバーの一人に誘われているとのこと。どうやら他クラスから内容を聞いており昼休みのうちに誘っていたとのこと。

 

 そういうわけでめでたく余った俺は、先生と組むことになった。やることは盾魔術の練習。片方が軽めの魔法を放ち、もう片方がそれを防ぐ。それだけだ。

 しかし、それだけのことが難しい。一枚盾を張るだけであれば、この学園に入学出来たものなら容易に出来るだろう。二枚でも半分以上の人は出来るはずだ。では三枚、四枚と増えていったなら? サイズを必要最低限まで小さくするのなら? 

 盾魔術の精度はそのまま生存率に繋がってくる。だからこそ、この学園では盾魔術を重点的に教える。優秀な人材が簡単に死んでしまわないように。

 

 周囲を見るとやはりみんな複数枚の展開に梃子摺っているようだ。

 盾魔術には属性がない。だからこそ、本人のセンスや練度といったものがもろに反映される。また、複数枚展開するとなると、その難易度は指数関数的に上昇する。

 まあ一枚のサイズを大きくすれば大抵守れるから複数展開する必要がある場面は滅多に訪れないが、全く無いわけではない。そして、出来ない者はその時に死んでしまう。

 

 俺? 俺は天才だから四枚までは好きなサイズで展開できる。精度を気にしなくていいなら六枚まで。この学年どころか、この学園でも相当上澄みの自信がある。

 視界の隅で十枚以上展開してるバケモン(シリウス)が見えた気がしたが気にしないことにした。なんかサイズもバラバラだし、ハーレムメンバーに片手間でアドバイスするくらいの余裕あるし。意味わかんねえよ。

 先生はそんなシリウスを見て呆然としてるし他の生徒もざわついている。そりゃそうだ。

 その後も無難に熟し続け、授業終了が近づく。特に山も谷もない授業だったな。俺がぼっちになったこと以外。

 

 

「ってなことがあったんですよ」

「そうなんだ。……それで、なんでここにいるんだい?」

「そりゃ昼休みを寝た振りで終わらせるのもったいないじゃないですか」

「……キミ、寂しい人だな」

「やかましいわ」

 

 俺は先日迷い込んだ裏図書館に来ていた。別に寝た振りが精神的に辛いとかそんなことはない。時間の有効活用だ。ないったらない。

 というかシンプルにここの蔵書が良すぎる。表の図書館にあるものはもちろん、絶版になった本、禁書扱いで読めない本、そして謎の美女が書いたらしい本など様々取り揃えており非常に良い。まあこの人が書いたの内容理解できないから今のところはただの品揃えの良い図書館だけど。

 

「そういえば、あなたの名前ってなんですか?」

「私の名前、かい? ……そうか、名乗っていなかったか。人と会話するなんて久しぶりすぎて名乗りなんて忘れてたよ。

 ……まあ、態々名乗る必要もないだろう。長い名前だし先輩、とでも呼んでくれ。一応ここの卒業生だしね」

 

 何故かセンパイはとても不服そうな顔をしている。何かを睨みつけているようにも見える。表情から察するに、どうやらワケアリらしい。なら無理に聞き出すこともないだろう。

 それでもってどうやらセンパイだったらしい。まあ学園にいるし図書館をコピーしてるらしいしそりゃそうか。どうやら回復魔術が織り込まれた結界もこのセンパイが作ったもののようだ。なんでこんなところにいるんだよ然るべき研究機関に行けよ。

 

「それで結局、キミはなにをしにここへ来たんだい?」

「寝た振りが苦痛以上の理由は無いですけど。あとシリウスが女子とイチャイチャしてるのを見てイライラするので」

「キミは本当に矮小な人間だね。そんなんだからモテないんじゃないかい?」

「そんな火の玉ストレート投げなくたって良いでしょうが……!」

 

 とんでもない暴言を吐かれた。

 確かに自分でも言ってて無いな、とは思ったがそこまで言う必要があるのか? 泣くぞ? 

 そんな俺の心情を読み取ったのか、はたまた普通に興味が移ったのかセンパイは別の話題を口にする。

 

「それで、件のシリウス君は何者なんだい?」

「あれ、センパイもシリウスに興味があるんですか」

「いや別に。キミが悶えていたことへの私なりの気遣いだが」

 

 嘘だね。今はこう言ってるけどなんやかんやあってシリウスに助けられてハーレムメンバーの一員になるんだよどうせ。俺は詳しいんだ。

 

「キミ、くだらないことを考えているようなら盾の練習でもしようか」

「ちょ、なんで分かっ──ああっ! 急に火の玉を飛ばしてくるな!!!」

「顔に出やすいのが悪いんだろう。ほら、早く展開しないと黒焦げになるぞ」

 

 一瞬で視界を埋め尽くすほどに展開された火の玉は、様々な角度から俺に向かって飛んでくる。チラリと盗み見ると、センパイはとても楽しそうにニヤニヤしている。俺が今にも丸焦げになりそうなのに。ふざけやがあっちょっとカスったあっちぃ!!! 

 

「たった6枚がキミの限度かい? もう少し出来ると思ってたんだけどね」

「だああああああ!! もうキレた!! いくらセンパイが面の良い女だからって容赦しねえ!!!」

 

 盾魔術を四枚に、そして大きくする。大きさに反比例するように強度は落ちるが、センパイは本気で攻撃する気は無いらしく威力はそこまででもないからこれで十分だ。

 氷の礫を展開する。火の玉に対しての相性は悪いが、さっきも言った通りこの火の玉は出力はそこまででもない。加えて展開したもののいくつかをカモフラージュしている。

 俺の適性は疾風、水流、氷結、夢幻の4つ。中でも氷結と夢幻は使い慣れている。盾を四枚展開しながらだとこれ以外はまともに使えそうもない。

 

「吠え面見晒せやセンパァイ!!!」

 

 

「ふうん、氷結に夢幻も重ねられるんだ。中々やるね」

 

 特になんの動作も──火の玉で相殺するでもなく、盾を張るでもなく、センパイは指を降るだけでで俺の射出した氷の礫を掻き消した。

 

「は?」

 

 想像もしていなかった防がれ方にポカンとしていると、いつの間にか背後にいたセンパイが魔術を行使しようとしていた。

 

「ま、こういうこともできるわけさ。精進したまえ」

 

 直後、頭上から降ってきた岩によって俺の意識は刈り取られた。それは反則だろ、ボケが。

 

それは、改変された世界の話。センパイと呼ばれる少女の名前を聞いた瞬間、シンの脳内にノイズが走る。音が消える。世界が歪む。起こった事象が書き変えられる。微小時間に行われたそれは、記憶に残ることなく──あるいは、それすら書き変えられ──世界は正常に動き出す。ただ独り、フェ■■■だけがそれを覚えている。

 

 時は流れて放課後。俺は性懲りもなく裏図書館に向かう。俺を誘うシリウスを撒くのに少々時間を費やしたが問題はない。シリウスのハーレムメンバーが俺を殺しそうな目で見てきたが別に元から嫌われているから関係ない。あれ、おかしいな。目から汗が溢れて止まらない。

 

「なんでキミは入ってくるなり泣いているんだ?」

「気にしないでください。山より高く谷より深い事情があるだけなので」

「そんなにヴァイオレス家のご令嬢に嫌われているのが堪えたのかい?」

「センパイ見てたの!?」

「そりゃあね。キミみたいなオモシロイ存在、観測しないほうが勿体ないだろ」

「その"オモシロイ"はピエロ的な意味でのオモシロイですよね? おいこら」

 

 センパイは面白そうに俺を見つめている。俺としてはなんにも面白くないんだけど。本格的にどうにかしたいんだけど。どうにかしないと俺のめちゃモテハーレム生活から遠のくんだけど。

 

「ま、キミの人間関係はどうでもいい」

「どうでもよくないですが?」

「キミ、なんで盾を六枚しか展開しなかったんだい?」

「そりゃそれが限界だからですが」

 

 その言葉を聞いたセンパイは、その表情を驚愕に染めた。大学生なのにも関わらず、母親に注文してもらっていたから注文方法がわからないとファミレスで俺に言った後輩を見た前世の俺のようだ。

 

「キミ、本気で言っているのかい? 氷結と夢幻を重ねられるレベルにも関わらず、六枚しか展開できない、と?」

「そりゃ、盾魔術は他の魔術に比べて複雑ですから。六枚展開するだけでもかなりの腕前ですよ?」

「……キミ、盾を出せ。一枚でいい」

 

 センパイは馬鹿を見るような目でこちらを見てくる。腹立たしいがセンパイに比べれば馬鹿なのは間違いないため大人しく盾魔術を展開する。

 それを一瞥し、もういい、と言い放ち俺が解除するまでもなく指のひとふりで俺の盾を消し去った。だからなんなんだそれは。なんでなんの予兆もなく盾を消せるんだ。

 

「キミね、学園で習った盾をバカ正直に出してたらそりゃ複雑に決まってるじゃないか」

「え、なんか悪いんですか? 他のみんなも同じの出してるんですけど」

「はあ、私の知らない間にこの学園の質はそこまで下がったというのかい? キミ、盾魔術の仕組みは?」

「えっと、盾に込めた魔力でぶつかった魔術を打ち消す、って習いましたけど。教科書にもそう書いてますし」

「5点。もちろん百点満点でね」

 

 課外授業だ、と言うセンパイはどこからかホワイトボードを出した。本当にどこからだよ。目の前に急に現れたんだが。

 

「盾が打ち消す理屈をキミに教えてやる。そうすれば自分がどれだけ愚かな行為をしてたかわかるはずだ。

 そもそも、魔術ってのは波みたいなものなのさ。厳密には違うけどそこを説明すると一、二時間じゃ足りないから波と思ってくれていい。盾魔術はぶつかった瞬間に逆位相の魔力を当てて打ち消す。これが盾魔術が魔術を防ぐ仕組み。

 ただ、魔術ってのは属性ごとに波長のようなものが異なる。火炎と疾風じゃ波長が異なるから一つの逆位相の魔力じゃ打ち消せない。さあ、ここで問題だ。キミならどうやって全部の属性に対応させる?」

「うーん、と。……全部の属性の逆位相をぶつけるようにする、とかですかね。どうにかして何が触れたかを判断して」

 

思い出すはノイズキャンセリングの仕組み。あれはノイズの波形と逆位相の波形を作り出し、ノイズの波形にぶつけて相殺していたはずだ。

 

「正解だ。その力技をしているのがたった今キミが展開した盾魔術さ。そりゃ複雑にもなるさ。一つの属性を防ぐために九つの属性を防ぐような機構を組み込んでるんだから」

「……つまり、俺はずっと8属性分無駄にしてたってことですか」

 

 そうなるね。とセンパイは締めくくる。シリウスはこれを理解してて、一属性に対応してるものだけ展開してたからあれほどまでに大量に展開できていたのだろうか。

 けど、あいつのことだからセンパイに言わせたら非効率極まりないこの盾を展開できてもおかしくないんだよな。というか、そっちのほうがあり得そうなのはなんなんだ……? 

 

「優れた魔術師は魔術に対する造詣が深く、破綻しない範囲での引き算が上手いのさ。キミはそうなれる素質があるにもかかわらず、それを溝に捨てている。表面的に理解するのではなく深く思考したまえよ」

 

 言いすぎじゃないか? とは思うが確かに、最近は実技ばかりに力を入れていて前見たく書物を読み漁り、あれこれ考えることをやめていたかもしれない。ここらで一回気を引き締めないとな。果たしてそのレベルの理解ができるかはわからないが。

 

「さ、座学はこれで終わり。実技に移るよ」

「……あの、センパイ。俺、仕組みは教わってもやり方は教わってないんですが」

「ん? ああ、ほら。基本六属性の盾魔術だ。これに倣って展開したまえ」

 

 一瞬で六つの盾を展開するセンパイ。目に焼き付ける暇なく、様々な属性の魔法が展開される。火の玉やら氷の礫やら土塊やらが、数えるのも億劫なほど宙に浮かんでいる。そして、それらが一つずつ飛んでくる。

 

「ほら、今までの盾に頼らず属性に対応したものを出しなよ。」

「ひと目見ただけでできるわけねえだろ!!!」

 

 

 

 

 

 

「あれ、どうしたんだいシン。そこは軽く火傷してるみたいだし、そっちは軽く凍傷になってる。何をしたらそんなことになるんだい?」

「気にすんな、ちょっと魔術でミスっただけだ」

 

 あのアマ、いつか絶対に泣かす。……できるビジョンは見えないが。

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