世界は俺が嫌いらしい。   作:まあまああまあま

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実戦らしい。

 ──魔物とは。高密度魔力領域(アネクメーネ)に突如現れる不思議な生き物である。真っ当な生物とは言い難く、ダーヴィンが殴り掛かってきそうなイカれた特徴がある。そもそも魔術とかいう存在がある時点で前世とはかけ離れているんだが。

 生き物としてもっともイカれた特徴は死ぬときに体が消えるところだ。消える前に特殊な魔術を行使すれば消えずに残らせることも可能であるが、何もしなければ勝手に消える。どうやら魔力に還元されているらしいが生殖行為をする魔物も魔力に還元される。なんなんだマジで。お前らの子供はどこからできてるんだよ。

 なんで今になってこんなことを振り返っているかというと。

 

「実践演習、ねぇ……」

 

 魔物というのは割とどこにでもいる。少し深い森に入ればいるし、街道に出てくるときもある。高密度魔力領域は一般人が住むのに適さない場所ではあるが、魔力が豊富なため研究者などは高密度魔力領域付近、なんならその中に住むこともあるらしい。魔術に精通していない人に悪影響というだけで魔術師にとっては普段より魔術が行使しやすい場所なのだ。

 そんな場所に俺らは近いうちに赴き、魔物との戦闘を行うらしい。それも、ランダムに選ばれた4人グループで。

 

 ふざけるなよ。

 俺がいるグループが全員男ならいい。俺は女子人気がないだけで男から嫌われているということはない。好かれてもないけど。

 男女混合でも耐えている。全員女子でもまだ最悪ではない。いや最悪なんだけど、もっと下がある。

 それがシリウスのハーレムメンバーがいること。彼女たちは俺を蛇蝎のごとく嫌っている。シリウスより弱く、そのくせよく噛みつく、邪険に扱う。シリウスもシリウスで彼女たちより俺を優先することが──有難いことだが──多々あるから、俺が邪魔で邪魔で溜まらないだろう。

 このクラスにはシリウスのハーレムメンバーが三人いる。最悪なのは、シリウスグループに2人、俺グループに一人となる場合だが、そんなことが起こる確率がどれほどだと思ってやがる。クラス40人だぞ、起こるわけがないだろ。

 とりあえずハーレムメンバーと同じグループに配属されないこと。それだけを祈る。できれば男のみのグループがいい……その中にシリウスがいてくれればなおいい……!! 頼むぞ神様、普段から悪態しかついていない俺だが許してくれ……!! 

 

 

 

 

 

 神は死んだ。

 翌日、登校するとクラス内掲示板に人だかりができていた。人だかりをかき分けて見に行く……なんてことが俺にできるわけもないので昼休みにに何が掲示されていたのか確認する。

 

 5グループ

 シン・アラクシス

 ソフィア・ヴァイオレス

 リミア・ルーソ

 レイラ・ローレライ

 

 俺以外全員女子、しかもそのうちの一人ソフィア・ヴァイオレスはシリウスのハーレムメンバーだ。ソフィア以外のハーレムメンバーはシリウスと同じグループ。

 ……授業サボってやろうかな、マジで。朝ヴァイオレスさんが謎に慰められていたのはこれが原因かよクソッタレ。

 

 逆転の発想だ。

 男子俺だけということはハーレムということ。この授業を俺の目標(ハーレムを作る)への足掛かりとする。これしかない。もちろんヴァイオレスさん以外で。NTRは趣味じゃない。正直名前見ても顔が思い浮かばない程度に親交がないがそれはそれ。俺はまだ夢を諦めきれない。

 古来より足の速い男子、腕っぷしの強い男子はモテるらしい。恐らく生物としての本能だろう。そこをつつけばあるいは。

 よし。やることは決まった。

 

 実習当日、普段より1時間早く目覚め、きっちりと髪をセットし、髭を剃る。制服の皺もきちんと伸ばす。姿見で見るとそこには見たこともないくらいのイケメンが。いや嘘。シリウスとかいう例外を毎日のように見てたわクソが。

 まあ客観的に見て容姿がいいのは間違いない。期待に胸を膨らませ、実習に挑む。

 

 馬車に揺られて王都を出る。そして魔力の濃い森へと向かう。一つの班に一つの馬車、それもスプリングがあり揺れが少ないもの。やっぱこの学園かなり金もってんな、羨ましい。

 あまり揺れない馬車の車窓から外を眺める。城の前は高級店や貴族の家などが立ち並び豪華絢爛といった雰囲気だったが、離れてくるにつれ庶民的、大衆的な街並みになってくる。街道を走り回る子供たちの声、客引きのために声を張る商店街の店主、午前中だというのに騒ぎ声の聞こえてくる居酒屋。庶民の喧騒が、人々の営みの音が聞こえてくる。

 体面にいるヴァイオレスさんは喧騒に慣れていないのかわずかに顔を顰めているが、俺はこっちのほうが落ち着く。いくら寮が王城近くにあるとはいえ半年程度では馴染まないものだ。

 はぁ、とレイラさんが大きく溜息をついた。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 沈黙が苦しい。女三人寄れば姦しいとは言うが、どうやらその中に男が混じると一気に空気は冷たくなるようだ。男ではなく俺かもしれないが。

 目的地の森まではあと十分ほどだろうか。二十分近く窓の外を眺めてあれこれ考えていたがいい加減辛くなってきた。ヴァイオレスさんが顔を顰めているのもきっとこの空気に耐えられないからだろう。決して俺の真ん前に座ったからということではない。決して。

 

 いやまて、言いたいこともわかる。モテたいだなんだ言ってたのにも関わらずまともにコミュニケーションも取れないのか、といいたい気持ちもよくわかる。

 言い訳をさせてほしい。誰になんの言い訳をするのかよくわからないが言い訳をさせてほしい。

 俺だって最初はコミュニケーションを試みた。試みたんだが……

 

『あー、ヴァイオレスさん。今日やることって小鬼(ゴブリン)20匹の討伐、その証明に左耳を集める、であってる……あってますよね?』

『……一々確認しないとわからないの?』

『……………………』

 

『リミアさんの適正ってなんだっけ』

『……疾風。半年も同じクラスで過ごしてきたのに、わかんないんだね』

『言葉を返すようだが、俺の適正ってわかってたり?』

『知らない。興味もないし』

『……………………』

 

 これである。好感度が地の底を這っている場合、コミュニケーションの土台に立つことすら許されない。それから気まずい空気が漂っている。

 この澱んだ空気から解放されたのは目的地の森についてから。馬車から降りたときに全員が軽く伸びをしたのはきっと全員があの空気から早く解放されたいと思っていたからなのだろう。

 

「それじゃ、さっさと狩って終わらせましょう」

「……うん、早めに終わらす」

「そうね。15分で集めましょう」

 

 勿論俺に発言権はない。後ろから三人の後をついていくだけだ。

 

 

 焔が焼き尽くす。風の刃が首を飛ばす。(いかずち)が肉を焦がす。全身が凍りつく。

 見敵必殺という四字熟語がこれ以上なく適している。小鬼を見つけ次第殺し、左耳を刈り取る。

 そもそもこの学園に入学できている時点でエリート。小鬼などという弱めの魔物を相手にしたのは命を奪うことに慣れさせるためだろう。あとは環境か。

 

 高密度魔力領域は文字通り魔力が濃い。そのため、魔術師は魔力に"酔う"ような感覚になることがあるらしい。確かに普段より魔術の行使がしやすい。調整がうまくできない奴は暴発するなんてこともあり得るそうだ。少なくともこの班にはいないようだが。

 

 その後もサクサクと攻略を進めていき、現在の討伐数は17匹。あと3匹で演習も終わりだ。ここまで13分ほどしか経過していない。会話もない。

 後一分もしないうちに終わるだろう。恐らくクラス内でも相当早いはずだ。シリウス? あいつは何かしらの事件やら事故やらに巻き込まれるから実力のわりにこういったものの成績が良くなることはそこまでない。

 

 というか、班員がみんな優秀だ。ヴァイオレスさんが優秀なのは知っていた。入学早々シリウスに挑んで、だいぶいい試合をしていたから大体の実力は把握している。だが、他の二人がここまで優秀だと思っていなかった。

 

 リミアさんの適正は馬車の中で本人が言っていた通り疾風で出が早いのが特徴だ。見つけた瞬間には首が飛んだりしている。疾風の威力は高くなりにくいはずだが小鬼の首を飛ばすくらいは余裕らしい。

 レイラさんは迅雷で小鬼を発見次第バカスカ(いかづち)で焦がしていく。狙いが難しい大味なはずのそれは一度も外すことなく当てている。それも素早く狙ったうえで。ゆっくりならできるかもしれないが、素早く合わせろと言われたら俺にはそんな真似はできない。

 ヴァイオレスさんは正直語るまでもなく他二人より頭一つ抜けている。リミアさんよりも素早く、レイラさんよりも高火力で炎を巻き散らしている。たまに火の粉が俺にだけ飛んでくるのは制御が難しいからだろう。そうに決まってる。

 そんなこんなで優秀なメンバーに囲まれ、サクサクと課題をこなしていった。この調子なら15分以内も余裕だろう。

 

 

 

 鬱蒼とした森を探索する。誰かが溜息をついた。それは俺かもしれないし、俺じゃない誰かかもしれない。

 残り3匹となってから10分は経過した。今までわらわらと湧いていたはずの小鬼の姿が、まるで幻かのように見えなくなった。

 ピリピリとした空気が俺らの間に漂い始める。

 

 違和感。

 小鬼がここまで見つからない、というのは今までの経験、魔物の知識、その他諸々から考えて明らかに異常だ。狩りつくしたというのもこの地に魔力がある限り起こりえない。

 想定外のナニカが起こっている。

 

 このまま探索を進めるべきか、帰って先生の判断を仰ぐべきか逡巡する。明らかな異常事態だ、減点されるなんてことは無いだろう。

 しかし、あと3匹だというのにという思いもある。一度に3から5匹ほど同時に出てくるのだから、あと一回遭遇するだけで実習課題が終わるというのにここで帰っていいのか。ヴァイオレスさんたちは戻る気は無さそうだし、もう少し粘るべきだろうか。

 思考を巡らせる。きっと三人もそう考えている。誰かが方針を口にするべきだ。そして、誰も言わないというのなら俺が話すべきだろう。

 

 ──でもなぁ……。

 

 どうせ俺が口を開いたところでみんなに反発されるだろう未来が見える。なんなら口を開こうとした瞬間に「黙りなさい」と言われる未来まで見える。

 誰かにであえりゃ話は変わるんだがなぁ。もう二、三組はこの森にいるはずだしそのうち一組はシリウスだ。……それが原因じゃね? 

 

 シリウスは何かと問題を引き起こす。これもあいつが何かしら問題を引き起こしてるような気がするんだよなぁ。

 本来村の近くには出ないような魔物が出てきたり盗賊団を壊滅させたり……。そのたびに俺も付き合わされ、ボロボロになりながら戦った。大体いいところはシリウスが持って行った。クソがよ。

 今回もあいつが何かしらやらかした結果なんじゃねえかと確信に近い邪推をしている。

 そうなってれば俺にできることは嫌われること覚悟でシリウスのほうに向かうか、シリウスが勝手に解決してくれるのを待つだけだ。シリウスに合流すると俺はほぼ確実にボロボロになるから俺の取る選択肢は待ちだけだ。

 

 瞬間。

 森が、揺れた。

 轟音が響き渡る。世界が揺れたと錯覚するほどのそれは、俺らの後方──シリウスたちのほうから聞こえてきた。

 同時にシリウスが魔術を行使したのが感じられる。

 

「っ……! これは、シリウスの魔力!?」

 

 俺が感じ取れるということは当然ヴァイオレスさんも感じ取れるということ。彼女はシリウスに加勢すべく、来た道を戻っていった。

 ああ、最悪だ。最悪の選択肢だ。

 何がいるのかわからない場所に無策で突撃するなんで自殺行為でしかない。何か──仮に強大な魔物だとして、それがシリウスに立ちふさがるように対面していればヴァイオレスさんは孤立することになる。それはあまりにも危険すぎる。

 俺を嫌っているとはいえ死んでいいわけがない。

 

「追うぞ!!」

 

 突然走りだしたヴァイオレスさんに困惑している二人に声をかけ、俺もシリウスのもとへ走りだした。

 

 


 

 

 Tips:魔術元の特定について

 

 魔術には個人によって微妙に異なる()()()がある。特定個人の揺らぎ方を知っていれば、魔術が発動した瞬間に限り誰が魔術を使ったかを探知することができる。

 魔術の精密操作に長けたものほど、この揺らぎを感知しやすくなる。また、距離が遠ければ遠いほどこの揺らぎは感知しにくくなる。そのため、かなりの技量が求められるが揺らぎ具合で大まかな距離を知ることができる。

 作中ではシンとヴァイオレスだけがシリウスの魔術行使に気づいていたのは、その二人の練度がリミア、レイラに比べ高かったのと、シリウスの魔術の揺らぎを詳しく知っているからである。

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